財産や借金を相続をしないことはできる? -相続放棄
札幌の弁護士による遺産相続コラム第5回です。
前回(生命保険や借金は遺産に含まれるか? -相続される財産の種類)は、相続の対象となる財産・債務について取り上げました。
今回は、相続をしたくない場合にどうしたらいいのかを説明します。
1.相続を拒否することはできる?
前回解説していますが、家族が亡くなったとき、その人が死亡時に抱えていた借金などの負債も、相続の対象となります。ですので、相続人である親族が代わりに返済をしなければなりません。
しかし、たとえば、亡くなった本人には財産はなく、借金だけが残されていた場合、相続人がこれを必ず引き継がなくてはならないとすると、自分が借りたわけでもない借金を強制的に支払わされることになります。これでは家族にとっては重い負担となります。
こういった場合、相続なんてしたくない!と考える方もいると思いますが、相続を断ることはできるでしょうか?
実は、一定の条件を満たせば、相続を拒否することができることになっています。相続をしないことを、「相続放棄」と呼びます。相続放棄をすれば、亡くなった家族の借金を引き継ぐことはなく、支払いに応じる必要はありません。
2.相続放棄をする方法
この相続放棄を行うには、いくつかの条件があります。簡単に整理すると、次の3つの条件を満たす必要があります。
① 相続開始を知った日から3か月以内に手続きをとること
② 手続きは、必要書類を添えて所定の家庭裁判所で行うこと
③ 相続放棄前に、亡くなった本人の財産を取得したり処分したりしていないこと
①の相続開始を知った日から3か月以内というのは、なかなか大変です。本人が死亡し、葬儀等を行い、遺品の整理をしているとすぐに3か月が経過していまいます。この短い期間で、財産や負債を調査し、相続放棄をするかを判断し、実際に裁判所で手続きをとる必要があります。
期間内に手続きをとらないと、基本的にあとから相続放棄はできないことになっていますので、相続放棄を考えている方は、できるだけ早くに裁判所や弁護士に相談をする必要があります。
なお、3か月を過ぎてしまった場合にも、例外的に相続放棄が認められるケースもあります。しかし、簡単に認められるものではありませんので、経験のある弁護士に相談して判断をしてもらう必要があるでしょう。
②については、実際には相続関係を証明する戸籍などを揃えて、亡くなった本人が最後に住んでいた地域の裁判所に手続きをとる必要があります。家族間で話し合っただけではダメで、裁判所を通さずに相続放棄をすることはできません。
これについては書式が裁判所などに備え置いてあり、難しい手続きではありませんので、弁護士に依頼せずに手続きをとる方もいます。
ただ、戸籍を揃えることや裁判所で手続きを行うことは、なかなか苦労も多く、悩みも多いところでしょう。そのため、弁護士に依頼して手続きを代わりに行ってもらう方も少なくありません。
当事務所でも相続放棄の手続きの依頼をお受けすることがあります。
③について、相続放棄前に、亡くなった本人の預金を受け取って使ってしまったとか、不動産を売却しようとしたとか、そういった行為がある場合、相続放棄が認められなくなってしまうことがあります。
相続放棄は、財産も放棄するかわりに借金も引き継がないというものですので、財産だけ取得しておいて、借金について相続放棄するということは認められていません。そのため、相続放棄をする場合には、その財産について取得したり処分したりせずに、最低限の保管行為だけを行っておくことが求められます。
ただ、どのような行為であれば問題がなく、どのような行為をしたら相続放棄ができないのかは判断が難しい場面も多いといえます。
3.相続放棄をするとだれが遺産を引き継ぐか
相続放棄をすると財産も借金も引き継がないことになりますが、この相続放棄は、相続人それぞれが判断をして行います。そのため、3人の相続人のうち、2人だけが相続放棄をする、ということも可能です。
このように、一部の相続人だけが放棄をした場合、その放棄した部分は、放棄をしなかった相続人が代わりに相続することになります。
たとえば、夫が死亡し、妻と長男・次男が相続人となった場合を考えます。このとき、妻と次男だけが相続放棄をすれば、残った長男がすべての財産を相続することとなります。
このように、だれか一人に遺産を集中させるために、ほかの相続人が放棄をする、という活用方法もあります。
さらに、上記の例で、長男も含めて、相続人全員が相続放棄をしたらどうなるでしょうか。
そのときは、最初から長男も次男も相続人ではなかったということと扱われ、子どもがいない場合の相続人である両親が相続人に繰り上がります。そのため、長男・次男が相続放棄をした後、今度は両親が相続放棄をするかどうかを判断することになります。両親も相続放棄をした場合は、今度は兄弟姉妹が相続人として繰り上がってしまうのです。
誰にも借金を引き継がせたくないという場合には、繰り上がる相続人を含め、段階を踏んで親族が次々と相続放棄をしなければならないこともあります。
以上のように、相続放棄をして、財産も借金も一切引き継がないという方法があります。短い期間内に手続きをとる必要がありますし、期限を過ぎてしまうと認められない可能性がありますので、相続放棄を検討する方は早めに裁判所や弁護士に相談することをお勧めします。