【離婚】 退職金も財産分与の対象になるの?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第22回です。
前回は、住宅ローンが残っている場合の財産分与について取り上げました。
離婚時には住宅ローンの処理が大きな問題となりますが、それだけに、解決には困難が少なくありません。
今回は、住宅ローンと同様、解決が難しい問題として、退職金の財産分与について解説します。
1.退職金は財産分与されるか
離婚時には、夫婦の共同生活で築き上げてきた財産を分与し合うことについては、これまでも説明してきました(詳細は「離婚時の財産分与について知りたい!」をご覧ください)。
それでは、たとえば、夫婦生活を30年続けてきて、あと2年で夫が高額の退職金を受給できるという段階で離婚が成立した場合、妻は、この退職金について分配を請求できるでしょうか?
また、夫は、妻に退職金を分配しなければならないのでしょうか?
離婚時に退職金も分与されるかどうかについて、結論からいえば、退職金も財産分与の対象となる場合がある、ということになります。
もっとも、退職金の分与には難しい問題があり、実際の事案においては、簡単に処理が決まるわけでもありません。
2.退職金を財産分与する場合の計算方法
まず、退職金がなぜ財産分与の対象となるかという点を見てみます。
退職金は、一般的に、退職時までの勤務実績に応じて支払われるものですので、勤務の対価としてとらえることができます。
そうすると、夫婦で共同生活をしている場合には、夫が仕事で得る収入についても、妻の協力に支えられたものと考えることとなりますので、退職金として受け取る金額の中にも、妻の協力により蓄えられた部分があると考えることになるのです。
ただし、あくまで妻の協力部分が認められるのは、結婚生活中に対応する部分だけです。
たとえば、夫が20歳から60歳まで勤務して退職したときに、退職金が2000万円であったという事例を考えます。
結婚したのが50歳のときであれば、妻の協力部分が認められるのは、勤務期間40年間のうち、結婚後の10年間のみとなります。その結果、退職金2000万円の4分の1である500万円のみが夫婦共同生活に関する部分とされ、そのうち、基本的に2分の1である250万円について妻が分与を得ることになります。
同様に、50歳で結婚したものの、55歳で離婚した場合には、財産分与の対象となるのは、5年分のみと考えることになりますので、退職金の8分の1である250万円が夫婦共同財産部分となり、その2分の1である125万円の分与があり得るのです。
これらの計算は、単純な事案に関するものです。実際には、退職金の具体的な制度や結婚生活の状況によって変わることがありますので、注意してください。
3.退職金を財産分与できない場合
退職金について注意が必要となるのは、退職金について、財産分与を請求できない場合も少なくないことです。
なぜかというと、退職金は、必ず得られるとは限らず、金額もはっきりしないことがあるからです。
たとえば、いま現在、夫が40歳であるとします。この場合、夫が退職金を得られるのはいつになるでしょうか?
通常は、定年まで勤めるとすれば、20年以上先のこととなってしまいます。
しかし、それまでの間に会社が倒産したり、夫が何らかの事情で退職をしたり、あるいは解雇されて退職金が得られないという可能性もゼロとはいえません。
また、今の時点で退職金の見込み金額がわかったとしても、実際に夫がそれを受領できるのは何十年も先かもしれませんので、妻がそれを受け取ろうとしても、いつ得られるかもわからないのです。
一般的な傾向としては、夫の定年までの期間が短く(5~10年以内など)、退職金が支払われることが安心して期待できるような勤務先(大企業や公務員)の場合には、退職金の分与が認められることが多いでしょう。
定年までの期間が長くなったり、勤務先の規模が小さくなるほど、退職金の支給は不確実と判断され、財産分与を請求できないこともあります。
また、仮に、財産分与が認められる場合であっても、将来、退職金が支給された時点で初めて分与を受けられるという場合もあります。
ですので、退職金については、簡単に結論を出すことは難しく、具体的なケースごとに判断していくしかありません。
離婚時の退職金の扱いについては、このように難しい問題が多くありますので、経験豊富な弁護士に相談していただくのが一番です。
当事務所では、これまで退職金に関する離婚紛争も多く扱ってきております。
お悩みの際は、ぜひ一度、ご相談されることをお勧めします。
【解決事例】 妻からの高額な慰謝料の請求に対し、円満に解決した事例
【相談内容】
Aさんは札幌市内の企業に勤める30代の男性です。妻のBさんとは結婚して5年ほどたちますが、子どもはおらず、2人暮らしをしていました。
ふたりの生活は結婚後しばらくは円満でしたが、次第にささいなことで口げんかをすることが多くなり、関係は悪化していきました。
そうしたなかで、Aさんはあまり家にいづらくなり、遅くまで残業をしてから帰宅することが多くなりましたが、あるとき、妻から、浮気をしているという疑いをかけられました。
Aさんはもちろん否定しましたが、妻にはなかなか納得してもらえず、まともな会話もほとんどできなくなりました。
そこで、Aさんが離婚を決意し、妻に離婚を切り出したところ、妻は離婚には応じるけれども、浮気の慰謝料を払うよう求めてきました。
Aさんは、浮気したことは全くなかったため、妻の言い分を否定し、慰謝料も支払いも拒みました。
しかし、Bさんは納得せず、ついには札幌家庭裁判所に離婚調停を申し立ててきました。その調停では、浮気を理由とする高額な慰謝料の支払いも求められました。
Aさんは、このような場合でも自分が慰謝料を支払わなければならないのかと不安になり、弁護士に相談することにしました。
【解決内容】
事情を確認すると、Aさんには浮気の事実はなく、Bさんが浮気を主張するはっきりした根拠はないようでした。帰宅が遅くなったAさんへの不信感などから漠然と疑っていた程度のように思われました。
今回、離婚自体はAさんから切り出しましたが、一般的に、離婚時に慰謝料の支払い義務が生じる場合は限定されています(詳しくは「慰謝料が発生する離婚、発生しない離婚」をご覧ください)。
仮にAさんが浮気を本当にしていれば慰謝料支払いは当然必要になりますが、そうではなく、お互いの性格の不一致や感情の行き違いから離婚になった場合、どちらが一方的に悪いというわけではありませんので、慰謝料を支払う必要はありません。これは、離婚をどちらが切り出したとしても変わりません。
ですので、Aさんとしては、浮気の事実はまったくないことをBさんと裁判所にわかってもらうことが重要となります。
この件では、Bさん側に浮気を疑うはっきりした根拠はありませんでしたので、もともと慰謝料が認められる見込みは低いといえました。
ただ、帰りが遅くなったことが不信感の理由のひとつと思われましたので、会社での残業代の明細や退勤時間などの資料を提出して、実際に会社に遅くまでいたために帰宅が遅くなったことを説明したりしました。
その結果、裁判所にも理解を得て、Bさんを説得してくれたためか、次第にBさんも納得してくれたようでした。
その後、最終的には、慰謝料の支払いは行わず、Bさんの今後の生活にも配慮して財産分与を多少Bさんに有利にする形で、円満に離婚が成立しました。
AさんもBさんも、お互いが納得する内容で解決ができ、すっきりした様子でした。
【コメント】
夫婦がお互いに離婚することには同意していても、離婚の条件をめぐって対立が深刻化することは少なくありません。
お子さんがいる場合には親権や養育費が問題になりやすいですが、そうでなくても、慰謝料や財産分与も大きな問題になります。
特に、離婚の場合には慰謝料を請求できるというイメージが広まってしまい、慰謝料が認められないようなケースでも慰謝料にこだわる方も見られます。
一方が浮気したかどうかで争う離婚事件は、感情的な対立も大きく、証拠の有無や内容をめぐって解決が長引くことも多いといえます。
この事例では、浮気を疑うはっきりした根拠や証拠がなかったことや、Aさんが資料の提出も含めてはっきりした対応を行ったため、裁判所や相手の理解を得られたことがスムーズな解決につながったのだと思われます。
当事務所では離婚事件の取扱いも多く、男性からの依頼も多く扱っています。
相手に離婚や金銭を請求する場合はもちろん、反対にそれらを請求されてしまい、対応に悩んでいる方のご相談も多く取り扱っていますので、お悩みの方は早い段階でご相談ください。
特に調停を起こされた場合や、相手に弁護士がついている場合には、素早い対応が重要となります。
なお、当事務所では、札幌市内だけでなく、北海道内各地からのご相談・ご依頼を受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
※事件の特定を避けるため、複数の事案を組み合わせたり、細部を変更するなどしていますが、可能な限り実例をベースにしています。
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【離婚】 住宅ローンが残っている場合の財産分与はどうしたらいい?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第21回です。
前回(離婚したら夫の債務の保証人から抜けられる?)までは、離婚の際の借金問題や保証人問題を見てきました。
今回は、それらと重なる部分もありますが、大きな問題となりやすい住宅問題・住宅ローン問題を取り上げます。
結婚し、住宅ローンを組んで自宅を持つ、というのは多くの夫婦が経験していることでしょう。
しかし、離婚時には、この住宅の処理をめぐって協議が難航する場面をよく目にします。
なぜこの問題が難しいかといえば、住宅の場合には、夫婦ともに所有名義を持っていたり、夫婦ともに債務を負っていることが多いからです。
住宅を購入する場合、夫が自分名義でローンを組み、自分名義で所有権登記を行う、というケースもあるでしょう。
これに対し、所有権を夫婦で2分の1ずつ共有名義にしている場合もあります。
ローンについても、夫婦ともにローン契約を締結している場合や、夫の住宅ローンを妻が連帯保証している場合もあります。
こういった場合、離婚しても所有名義や債務、保証人が自動的に解消されることはありませんので、その点をはっきりと処理する必要があるのです。
では、法律上、このような場合の財産分与はどのように扱われているのでしょうか。
実は、ローン付き住宅に関する処理の方法は、住宅の現在の価値と、現在のローン残額との関係によって、大きく2つに分けて考えなければなりません。
1つ目は、住宅の価値(今、売却したらいくらの値がつくか)が、ローン残額を上回っている場合です。
2つ目は、反対に、ローン残額が住宅の価値を超えており、いわゆるオーバーローン(住宅を売却してもローンが残ってしまう状態)の場合です。
それぞれ、処理の方法が大きく異なりますので、順番に解説していきます。
Ⅰ 住宅の価値 > ローン残額 の場合
たとえば、今、自宅を売却すれば2000万円で売れるのに対し、ローン残額が1200万円であるとします。
この場合、住宅の価値がローン残額を上回っていますから、もし自宅を売却してローンを返済すれば、手元に800万円の現金が残ります。
そうすると、この住宅には、現在800万円分の価値があると考えることができます。
あとは、この住宅が800万円分価値があるとして、原則として2分の1ずつ分配すればいいのです。
分配方法する具体的な方法は、たとえば、住宅を売ってしまうという方法があります。
離婚するとどちらかが自宅を出て行くことになりますので、お互いが自宅を離れ、売却してしまうことは珍しくありません。
この場合、売却してローンを完済し、現金800万円を2人で400万円ずつ受け取れることになります。
では、自宅を手放さず、維持してどちらかが住み続ける場合にはどうなるのでしょうか。
たとえば夫が住み続ける場合を考えると、夫は、800万円の価値がある自宅を1人で利用できることになります。そうすると、普通は所有権の名義も夫1人のものにするでしょう。
しかし、本来はこの自宅の価値は半分ずつ夫婦が取得できますので、夫は、妻に対し、400万円分を支払わなければなりません。
さきほどの自宅を売却する場合と異なるのは、自宅を売却した場合には実際に手元に入る現金を分ければいいのに対し、自宅を維持する場合は、ほかからお金を用意しなければならないという点です。
夫に全くほかにお金がない、という場合にはその金額を受け取ることが難しくなりますので、分割払いをして公正証書を作成するなど、お金を確保する方法を考えなければなりません。
またこの場合、住宅ローンも残り続けることになりますが、もし夫がローンを滞納して自宅が競売にかけられたとしても、結局、売り値の方がローンより高くなりますので、妻に支払いの請求が来る可能性は低いといえます。
これが自宅の価値がローン残額よりも高い場合の処理方法です。
Ⅱ 住宅の価値 < ローン残額 の場合
たとえば、自宅をいま売却すると1000万円で売れるけれども、ローン残額が1500万円あるという場合です。これがオーバーローンという状態です。
この場合、財産分与の判断では、この自宅に経済的価値がないと判断されます。なぜなら、いま売却してもすべて銀行にローンとして代金を持って行かれてしまい、手元には全くお金が残らないからです。つまり、まだ自宅は自分たちの財産になっていない、ということです。
この状態で、自宅を手放す場合を考えてみます。
自宅を売却した場合、売値は1000万円になりますが、ローンが1500万円ありますので、その代金はすべてローン返済にあてられるのが通常です。そうすると、自宅を売ってもまだ500万円のローンが残ります。
このローンをどうするか、という問題は財産分与の問題ではありません。
これは、「負債がある場合の財産分与はどうすればいいの?」で既に取り上げましたが、借金については、財産分与の対象とならず、各自がそのまま責任を負うということになります。
ですので、ローンを組んだ名義人や、保証人は、そのまま責任を負うということです。
この場合、離婚したから半分にしてほしいとか、保証人から外してほしいとかいうことも基本的にはできません。
離婚後はどちらが支払っていくかを協議したり、あるいは、支払えないため破産などの方法で解決するかを検討することになります。
反対に、自宅を維持する場合を考えてみましょう。
夫が自宅に残り、妻が出て行く場合を考えます。この場合も、住宅には価値がないことになりますので、財産分与の対象とはなりません。
そのため、さきほどの場合と同様、夫婦間でお金のやり取りはなく、ローンや保証人もそのまま、ということになります。
ただ、この場合、夫は自分が住む住宅のローンを払うのに対し、妻にはメリットがないまま、ローンの支払義務が残るというのは不公平な感じがします。
そこで、このような場合、前回の「離婚したら夫の債務の保証人から抜けられる?」で取り上げたような、保証人から抜ける方法をとるのが通常でしょう。
もちろん、結果的に保証人から抜けられないケースもありますが、できる限り、この点について協議を行っていくことになります。
以上が、ローンつき住宅がある場合の解決法です。
なお、どちらのケースでも、もともと夫婦が2分の1ずつ共有名義であった自宅を、離婚後もそのままにしておくケースも見かけます。特にオーバーローンとなっている場合に、そのままにしておくことがあるようです。
しかし、共有名義のままにしておくと、いずれこの自宅を売却する際に両方の同意が必要になってしまい、トラブルが生じるおそれがあります。
離婚後もお互いの連絡がついている場合はいいですが、離婚後、一切相手との関わりがなくなってしまったような場合、この共有名義の住宅を売ろうとしても手続きができない、ということが起こりえます。
そのため、いまは困らないからといってそのままにしておくのではなく、不動産の名義はどちらか1人のものにしておくことをお勧めしています。
住宅問題は財産分与の中でも非常に複雑で難しい問題です。
今回取り上げたのは典型的なケースですが、実際には、たとえば夫と妻の父が共有名義になっているとか、土地と建物で名義が違うなど、より複雑な処理が必要な場合もあります。
ローンや登記の仕組みなども理解しないと適切な処理が難しい分野ですので、離婚時の住宅問題でお悩みの方は、弁護士に一度相談された方が頭の整理ができると思いますよ。
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【離婚】 離婚したら夫の債務の保証人から抜けられる?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第20回です。
前回(負債がある場合の財産分与はどうすればいいの?)では、夫婦の一方が負債を抱える場合、それが財産分与に大きく影響することを見てきました。
これに関連して、今回は、夫婦の債務に、もう一方の夫婦が保証人となっている場合、離婚したら保証人から抜けられるのかを考えます。
以下のような具体例を考えましょう。
結婚後、夫の名義で住宅ローンを組みました。そのローンについて、妻が連帯保証人となりました。
その後、5年間ローンを返したところで、離婚し、妻が自宅を出てほかに移り住むことになりました。
まだローンが25年も残っていますが、このとき、妻は保証人から外れて責任を負わない、ということになるのでしょうか。
妻の立場からすれば、もう離婚したのだから、夫の負債について責任を負い続けるのは納得いかないでしょう。しかも、住宅には自分は住まないのですから、なおさら負債とは無関係になると考えるのが常識的だと思います。
ところが、この妻の考えは、間違っているのです。離婚し、自宅を出たからといって、保証人の責任は無くならないのです。離婚して何年も経ったとしても、そのままでは妻は保証人となったままなのです。
意外に思われた方もいるでしょうが、なぜ保証人のままになってしまうのでしょうか。
それは、債務の保証は、夫との間で約束をしたわけではなく、銀行などの債権者と妻が契約をしているからです。
夫と妻が離婚したとしても、銀行からすれば、銀行と妻が保証人の契約をしているのですから、離婚したからといって保証人から外れるのはおかしい、ということになります。
保証人となった際に、離婚した際には保証人から外れる、という取り決めでもあれば別ですが、現実にはそのような取り決めがなされることはまずありません。
ですので、離婚しても、別のところに住んでも、銀行との間の保証契約は生き続けていますので、夫がローンを完済するまで、いつまでも責任は残り続けてしまうのです。
では、妻が保証人から抜けることはまったくできないのでしょうか。
実は、保証人から抜ける方法が1つだけあります。それは、銀行から承諾をもらうことです。保証人の契約は銀行と結んでいますから、銀行の承諾が得られれば、契約を変更することができます。そのため、銀行からOKが出れば、保証人から外れることができるのです。
しかし、銀行は、離婚したという理由だけでは、保証人から外れることを認めません。
銀行としては、きちんとローンを全額返済してもらうために保証人をわざわざ立てています。
そのため、銀行から承諾をもらうためには、別の保証人を立てたり、保証人から外れるかわりにローンを一定額返済したりする必要があります。通常は、別の保証人を立てるという形で対応しています。
ただ、そうはいっても、自分とは関係ない夫のローンの保証人となってくれる人は、簡単に見つかるわけではありません。また、夫が新しい保証人探しに乗り気でない場合もあります。そうなってしまうと、なかなか保証人から抜けられないこともあり得ます。
特に、すでにローンを滞納しているような場合には、銀行も保証人の交代を認めないでしょうし、そのような状態で保証人になろうという人がいるはずもありません。
このような場合には、保証人から抜けられないままとなってしまうこともあるのです。
しかし、これはいったん保証人となってしまった以上、避けられない結果なのです。保証人というのは、それほど重大な責任を負う立場であるということです。
ですので、最終的に破産手続きを行って債務を免除してもらう、という事案も何度か経験しています。
保証人と離婚の際の処理については、このようになります。
債務や保証人の処理は、財産分与と関連して問題となることが非常に多いといえます。
特に、夫が事業者である場合には、事業に関する負債が多かったり、妻や妻の親族が保証人になっているというケースもあります。
このような場合には、その処理をめぐって深い対立が生じることがあります。
そのため、離婚協議や調停の中で、それらの点についても納得のいく解決を目指していく必要があるのです。
次回は、今回も少し触れましたが、住宅や住宅ローンに関する問題を取り上げます。
住宅に関する問題は複雑となりやすく、財産分与ではもっとも難しい点ですが、当事者の関心も強いところですので、興味がありましたらぜひご覧ください。
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【離婚】 負債がある場合の財産分与はどうすればいいの?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第19回です。
前回(財産分与を請求する方法・手続きは?)は、財産分与の請求方法について取り上げました。
今回からは財産分与の際に問題となる点を見ていきます。
今回のテーマは、負債がある場合、財産分与にどのような影響があるのか、という点です。
これには、2つの問題が含まれています。
1つ目は、”債務がある場合、財産分与の金額に影響が出るのか”という点です。
2つ目は、”財産分与をする場合、債務も引き継がなければならないのか”という点です。
ここでいう債務には住宅ローンなども含まれますので、これらの2点は、財産分与の相談の際には非常によく質問される点ですので、当事者の関心が強い部分です。
それでは、順番に解説していきます。
1点目として、”債務がある場合、財産分与の金額に影響が出るのか”という点ですが、これは、「影響が出る」というのが答えです。
ただし、その債務が、結婚生活に関連して負った債務、というのが前提ですが。
たとえば、夫が1000万円の預金があるけれども、夫婦生活のためにローンとして600万円の債務も負っていたとします。妻には財産も借金もないとします。
この場合、債務を無視して考えると、1000万円を500万円ずつ分配することになるでしょう。
そうすると、分配後は、夫は500万円の預金と600万円の債務が残り、妻は500万円の財産を受け取れるようにみえます。
しかし、夫の債務が結婚生活のために必要なものであった場合には、このような結果はあまりに夫に不利になってしまうでしょう。夫が夫婦生活と関係なく、個人的な趣味などで借金を増やした場合は別ですが、収入を得るためや、妻との生活のために借金をした場合には、分与時に債務のことも清算するのが公平だといえます。
そのため、この事例の場合には、1000万円の財産から600万円の債務をひいた400万円の部分だけが、財産分与の対象になると考えます。
したがって、400万円を200万円ずつ分けますので、妻は200万円を取得できることになります。夫は、現金が800万円残りますが、負債も600万円残りますので、負債を全部返済すれば妻と同じ200万円が手元に残る結果となります。
要するに、現在夫婦が持つ財産から、債務を差し引いた部分だけを財産分与の対象にするわけです。
これが財産分与の際の一般的な取扱いです。もちろん、債務の理由や財産状況によって多少変化することはありますが、このような処理が基本となります。
では、2つ目の問題として、”財産分与をする場合、債務も引き継がなければならないのか”という点を見てみます。
さきほどの1つ目の問題点で見たように、「財産が債務よりも多い場合」は、財産から債務をひいた残額を二人で分配することになりました。
それでは、「債務の方が財産よりも多い場合」にはどうしたらよいのでしょうか。
具体的には、たとえば夫の財産が600万円あるが、債務が1000万円ある場合を考えます。この場合、夫が手持ちの財産をすべて使って債務を返済しても、400万円の借金が残ってしまうことになります。そうすると、この400万円の借金を妻も半分負担しなければならないのでしょうか。
答えは、債務を引き継ぐ必要はない、ということになります。
今の場合、結局、夫の財産状態は赤字であり、分与するだけの財産がない、ということになってしまうため、妻は財産分与を受け取れないことになります。そのため、妻側としては納得がいかないかもしれません。
そのかわり、夫が抱えていた1000万円の債務をまったく負担する必要もないのです。
その結果、当初のまま、夫には600万円の現金と1000万円の負債がそのまま残り、妻は財産を得られないかわりに負債も負わないのです。
これが公平かどうかは悩ましいところもありますが、裁判所の考え方としてはこのような結論になります。
もっとも、実際に協議や調停を行う際には、ある程度の分配を求めることが多く、夫も多少であれば応じることが多いでしょう。しかし、審判や判決までいくと、分与が認められない可能性が高い、ということです。
今回は少し複雑なテーマでしたが、いかがでしょうか。
財産分与の際には、実際に夫婦で持っている財産だけでなく、抱えている負債も大きく影響するということを理解いただけたと思います。
財産分与時には負債が大きな意味を持ちますので、その点にも注意が必要です。
なお、今回のテーマに関連して、夫婦の一方が保証人となっている場合の処理も大きな問題となります。
それは、次回に取り上げていきたいと思います。
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【離婚】 財産分与を請求する方法・手続きは?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第18回です。
前回(離婚時の財産分与について知りたい!)は財産分与とは何か、ついて簡単に見てきました。
今回は、その財産分与を請求する方法や、請求するための手続きを見ていきたいと思います。
前回説明したとおり、財産分与は、夫婦が結婚生活中に得た財産を離婚の際に分配する、というものです。
そのため、離婚時までに蓄えた財産の少ない側が、多い側へ請求するという形になります。一般的には、妻側から夫側へ請求することがほとんどですね。
では、どうやって財産分与を請求したらいいでしょうか。
基本的には、財産分与は、離婚の際の条件の1つとして、離婚協議の際に決定することになります。
離婚する際に、親権者や養育費の問題と一緒に、お互いの財産や住宅をどうするかを話し合い、話がまとまればそれにしたがって財産分与を行います。
協議ではなく、離婚調停を行う際にも、調停の中で財産分与について協議を行うことが通常です。
話し合いや調停で決める場合には、お互いが納得できる形であればどのような解決をしても構いません。
普通は、厳密にお互いの財産を半分に分ける、というやり方ではなく、ある程度ざっくりした形で、合計500万円を支払うとか、住宅は夫が取得し、預貯金は妻がもらうとか、分配しやすい方法で分ける例が多いといえます。
そのような話し合いや調停でまとまらない場合には、離婚訴訟や財産分与の審判の中で、裁判所が適切な財産分与方法について判断を下すことになります。
その判断には強制力がありますので、当事者はそれにしたがわなければならない、ということになります。
では、一度離婚してしまったあとは、財産分与の請求はもうできなくなってしまうのでしょうか。
結論からいえば、離婚が成立したあとでも、財産分与の請求をすることは問題ありません。ただし、期間が制限されており、離婚成立後、2年以内に解決するか、2年以内に調停を起こさなければなりません。
離婚後、3年たってしまった場合や、話し合いを続けて解決しないうちに2年を超えてしまったときは、もうその後の請求は認められません。
ただ、2年以内は請求できるとはいえ、一度離婚して時間が経ってしまうと、相手の生活状況や財産状況も大きく変化していってしまいます。そうすると、当初はあったはずの財産がなくなってしまったり、どこにあるかわからないという事態が生じやすくなりますので、時間が経過するにつれて財産分与の請求も難しくなります。
ですので、可能な限り、離婚時に決めておくか、離婚成立後の早い段階で解決することが必要です。
このように、財産分与は離婚時か、離婚後2年以内に請求を行う必要があります。また、基本的には協議で決定しますが、解決しない場合には調停や訴訟・審判で決定することになります。
もっとも、一度合意が済んでも、その後にいろいろな手続きが出てくることがあります。
たとえば、不動産について取り決めた後は、不動産の登記名義を変更しておかなければなりません。そうしないと、将来権利関係でトラブルが起きたり、固定資産税の責任を負う可能性があります。自動車についても同様です。
また、生命保険の受取人・解約金などについても変更が出ることが多いでしょう。
財産分与時の金銭の支払いを、分割払いなどで取り決めた場合には、その後にしっかりとお金が払われるのかを確認し、払われない場合には財産差し押さえなどの方法をとる必要も出てきます。
財産分与の場合には、合意が成立したあとの諸手続きも確実に行っておく必要がありますので、その手続きについても事前に取り決めておくべきでしょう。
以上が財産分与の請求の流れになります。
なお、財産分与は、離婚時に問題となる事柄の中でも、もっとも複雑といえます。相手の財産を把握することが難しいことや、財産の種類ごとに金額の評価や分配の方法が異なること、実際に合意したあとに約束通り分配されないケースも少なくないこと、分配に関する諸手続きが複雑な場合もあることなど、多くの関連する問題点があるからです。
そのため、ある程度まとまった金額の分与を請求する場合には、当人同士の話し合いではこじれてしまうことが多く、調停を行おうにも、手続きや流れがよくわからないまま進んでしまうことが少なくありません。
これまでのご相談者の中には、財産分与の調停を起こしたがよくわからないまま終わってしまい後悔している、という方もいらっしゃいました。
離婚には、これまでのコラムでも見てきたような多くの問題がありますが、特に財産分与は本人のみで解決するのは難しいといえます。
当弁護士事務所では、財産分与が生じる離婚事件も数多く経験しており、財産が多かったり、相手が事業者であるなどの複雑な事案にも対応することができます。もちろん、財産分与を請求されている方からのご依頼も対応しています。
財産分与問題でお悩みの方は、まずはご相談ください。お問い合わせは、こちらの法律相談の ご予約・お問い合わせのページからお願いいたします。
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【離婚】 離婚時の財産分与について知りたい!
札幌の弁護士による離婚解説コラム第17回です。
前回(面会交流の取り決めに違反した場合の対処法は?)までしばらく面会交流について詳しく見てきました。
今回からは、離婚の際の財産分与について、何度かに分けて取り上げていきます。
離婚をする際に問題となる事柄はいろいろとありますが、財産の分配に関する問題は特に争われることの多い点です。
夫婦が結婚してから離婚までの期間、お互いが得てきた財産をどのように清算するかという問題を、財産分与といいます。
今回はこの財産分与の基礎をまず説明したいと思います。
そもそも、この財産分与というのはどうして問題となるのでしょうか。
一番わかりやすいのは、ふたりで住宅ローンを組んで自宅を購入した場合です。
結婚生活のために買った不動産で、ローンも払ってきましたが、離婚する際にはこの自宅はどちらが受け取るのか、ローンはどちらが支払うのかなどが問題になります。
これが財産分与の典型的な問題の1つです(住宅問題の解決は次回以降に取り上げます)。
しかし、実際の財産分与は、このような不動産問題に限定されるわけではなく、もっと広い範囲で問題となります。
たとえば、夫婦で結婚し、その後、夫が仕事をして貯金をたくわえ、妻が主婦として子育てや家事を行っていたとします。
妻には収入がありませんので、離婚時にもたくわえがないことがほとんどでしょう。
これに対し、夫は、結婚中に1000万円の貯金をためていたとします。
このような場合に、この1000万円は夫にしか権利がなく、妻には何の権利も認められないのでしょうか。
夫婦で生活する場合、互いの協力によって家庭を維持するものと考えられています。
さきほどの例では、妻が家事や子育てを行うことで、夫が仕事の専念でき、財産をたくわえることができたと考えることができます。
また、夫婦間では、一般的に、どの財産がどちらのもの、といったことを区別せず、ふたりで共同の家計管理・財産管理をしていると意識している例が多いでしょう。
そうすると、さきほどの夫が貯めた1000万円は、夫婦で一緒に形成してきた財産と考えるのが実態に合うのではないでしょうか。
こういった考え方を民法は取り入れており、民法768条では、「離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる」ということが規定されています。
これが財産分与という制度なのです。
つまり、住宅に限られず、「結婚期間中に夫婦が蓄えた財産は、お互いの共通の財産であり、離婚時にはその分配を求めることができる」ということです。
この財産分与は、さきほどの例のように、あまり結婚中にたくわえのなかった妻側から、仕事をして財産を形成した夫に対してなされることが多いといえます(もちろん反対になることもあります)。
ただし、注意が必要なのは、このような財産分与の対象となるのは、①夫婦で結婚生活を行っている期間中に、②夫婦生活に関係して得た財産に限られるということです。
①はどういうことかというと、結婚生活前から持っていた財産は分与の対象とならないという意味です。結婚前から持っていた不動産や預貯金などは、夫婦が協力して得たものではないため、そのような財産の分配を請求することはできません。
②は、夫婦の片方が、夫婦生活とは全く関係ない個人的な事情で取得した財産のことで、典型的なものは親からの相続財産です。たとえば夫の父親が亡くなり、1000万円の預貯金を夫が取得して貯金していた場合、これは夫が父から相続したために取得できたものですから、夫婦生活や結婚生活とは無関係に取得したことになります。
このような財産は、財産分与の対象外なのです。
ですので、離婚時に相手が持っている財産すべてが分与の対象となるのではない、という点をしっかり意識する必要があります。
なお、その条件をクリアしていれば、財産の種類には特に制限がありません。
不動産や現金、預貯金のほか、生命保険の解約金や株式、投資信託などの投資資産も分配の対象です。複雑になりがちなものとしては、退職金も一応は財産分与の対象となることがあります。この点はまた別の機会に取り上げたいと思います。
最後に、このような財産を分配する場合の割合はどうやって決めると思いますか?
本来は、個々の夫婦ごとに、財産形成にどの程度関与したのかを判断していくことになりますが、特別な事情がない場合には、基本的に50対50、つまり半分ずつ持ち分があると計算することになります。
たとえば、夫が1000万円、妻が100万円の財産があれば、合計で1100万円の夫婦財産がありますので、550万円ずつ取得することになります(これは、要するに妻は夫から450万円を受け取れる、ということですね)。
以上が財産分与の基礎的な説明になります。
今後、よく問題になる点などを中心に財産分与問題を取り上げていきたいと思います。
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【解決事例】 夫の暴言を理由として離婚調停を申し立て、離婚が成立した事例
【相談内容】
Aさんは、40代女性です。夫は、札幌市内で個人事業を営んでおり、Aさんもその手伝いをしていました。
2人の間には子どもが一人いますが、既に成人していました。
最近まで夫婦の関係は良好でしたが、夫の事業の業績が年々悪くなるにつれ、夫との仲もぎくしゃくし始めました。
夫は、家で愚痴や暴言を吐くことが多くなり、Aさんにも毎日のように怒鳴ったり、悪口を繰り返すようになりました。
そして、あるとき、我慢できなくなったAさんが文句を言い返すと、夫はかっとなり、手元にあったコップを投げつけ、それがAさんの顔にあたってはれ上がってしまいました。
夫は、すぐに謝ってきましたが、Aさんはもうこのような生活には耐えられないと思い、離婚を決意し、自宅を出て、札幌市内に住む姉の家に移り住みました。
Aさんからの離婚の申し入れに、夫は最初は離婚を拒否していましたが、財産分与や慰謝料の話が出ると、お金を払うつもりはない、反対に慰謝料を払うなら離婚に応じる、と言われてしまい、話し合いは進みませんでした。
そこで、弁護士に依頼して離婚調停を申し立てることにしました。
【解決方法】
Aさんは、仕事を持っておらず、蓄えも少ししかなく、今後の生活に不安がありました。他方、夫は、仕事の業績が落ちてきたとはいえ、これまでに蓄えた財産はそれなりにあり、生活に困っているというわけでもありませんでした。
これまでのAさんと夫の話し合いの内容から、弁護士が相手と交渉しても解決は見込めないと判断し、すぐに調停を起こすことにしました。
離婚調停がスムーズに進むかわからなかったことと、Aさんが当面の生活費にも不安を抱えていたため、離婚調停と同時に、離婚成立までの生活費(婚姻費用)の支払いを求める調停も起こすことにしました。
その後、札幌家庭裁判所で調停が進みましたが、婚姻費用の調停は早い段階で決着し、生活費を受け取ることができました。しかし、離婚調停は、Aさんの離婚の意思が固いことから、夫も離婚自体は納得してきましたが、金銭面の条件がなかなか折り合いがつきませんでした。
しかし、夫が事業により蓄えた財産は、Aさんが仕事を手伝ってきたおかげでもあることや、別居前の夫のAさんに対する態度がひどいものであったこと、Aさんにはほとんど今後の蓄えがないことなどを調停委員によく理解してもらい、調停委員から夫を説得してもらうことができました。
最終的に、慰謝料や財産分与を含めた解決金として600万円を夫から受け取り、6回目の調停で、離婚成立となりました。
離婚調停の途中からAさんは仕事を見つけて新しい生活を始めており、無事に離婚が成立したことに安心されたようでした。
【コメント】
離婚が問題となる事案では、一方が離婚を望むのに、他方が離婚を拒み続けるというケースもあります。
その中には、本当に離婚自体を避けたいと思い、なんとか円満な夫婦関係を取り戻したいと考えている場合のほか、離婚に伴う慰謝料や財産分与の支払いを避けるために離婚を拒み続けているという場合もあります。
実際には離婚調停にまで発展した時点で、正常な夫婦関係を取り戻すのは難しい場合が多く、お互いが離婚を前向きに考える場合が多いといえますが、やはり金銭などの条件に関して話し合いが紛糾することは少なくありません。
この事案では、夫の暴言や一度の暴力が離婚のきっかけになっていますが、暴力自体は夫も衝動的にやってしまったもので、すぐに謝るなどしていたため、これだけで離婚や慰謝料が認められるものではありませんでした。ただ、暴言などは執拗に続いていたようで、Aさんの受けた苦痛は相当なものであったようです。
また、夫は事業で蓄えた財産がそれなりにあり、その事業はAさんも手伝って発展してきたものでしたから、財産分与の精算を強く主張しやすい事案であったといえます。
調停の場ということもあり、最終的には、慰謝料がいくら、財産分与がいくら、という細かい決め方はせず、解決金ということで600万円を受け取り、離婚調停成立となりました。
厳密に計算していけば、もう少し受け取る権利はあったようにも思いますが、Aさんも早い段階で解決したいと思っていたことと、夫の事業が好調とはいえないことから、お互いが納得できる条件として調停が成立し、円満に解決したといえるでしょう。
この事案のように、離婚や離婚時の慰謝料、財産分与などにお悩みの方や調停手続きを考えている方は、当弁護士事務所にご相談ください。札幌市内だけでなく、北海道内各地からのご相談・ご依頼を受け付けております。ご相談は、お問い合わせのページをご確認のうえ、ご予約をお願い致します。
※事件の特定を避けるため、複数の事案を組み合わせたり、細部を変更するなどしていますが、可能な限り実例をベースにしています。
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【離婚】 面会交流の取り決めに違反した場合の対処法は?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第16回です。
前回は、「面会交流が認められる場合/認められない場合」について見てきました。
今回は、面会交流の約束をしたのに、その約束が守られなかった場合についてです。
母が親権者、父が別居しているというケースを考えます。
離婚時に面会交流について、たとえば、「母は、父に対し、子どもと毎月第1日曜日に3時間面会させる」ということを調停で決めたとします。
しかし、母親がこれを違反し、父親に子どもと会せなかったとしたら、父親はどのような対応ができるでしょうか。
これについては、養育費の不払いとほとんど同じで、「養育費が支払われない場合の対処法」でも詳しく取り上げています。ただ、面会交流では少し違うところもありますので、簡単に説明していきます。
1つ目の対応として、履行勧告という制度があります。
これは、家庭裁判所の調停や審判で決めた約束については、約束違反があったとき、家庭裁判所から約束を守るよう相手に指導してくれるというものです。
裁判所からの指導ですから、当事者が要求するよりも相手が応じる可能性は高くなります。また、この手続きは非常に簡単ですので、便利な制度といえます。
ただし、裁判所の指導に強制力はないため、相手が裁判所の指導を無視してしまえば、効果はないことになります。
2つ目の対応として、面会交流の調停を改めて行うことです。
相手が面会交流を拒否している理由が、たとえば生活状況の変化により、頻度や時間があわない、というものであれば、新たに調停で、現在の生活にあった面会交流の取り決めを行うことが考えられます。
しかし、相手が調停に応じなかったり、そもそも面会交流を全面的に拒否している場合には、調停を行っても無意味でしょう。
3つ目の対応として、強制執行の申し立てができます。
強制執行というのは、裁判所での調停や審判に違反した場合、強制執行を裁判所に申し立てることで、一方的に財産の差し押さえなどを行うものです。
ただ、ここで重要なのは、子どもの面会というのを強制執行でむりやり行うことはできないのです。
たとえば、裁判所に申し立てをして、子どもをむりやり連れてきてもらい、面会を実施する、ということは認められません。このような方法で面会を実現すると、あまりにも子どもにとって負担や精神的はショックが大きく、子どもを物として扱うようなものだからです。
では、強制執行の申し立てはまったくできないかというと、実は間接的な方法で、相手に面会を強制する方法が認められています。
どういう方法かというと、面会を拒むごとに一定額の罰金を払わせ続ける、ということが認められています。これを間接強制といいます。
たとえば、面会を一回拒むごとに5万円を相手に払わせる、という命令が出るのです。
この場合、最初の方であげた例では、今月の第1日曜日に面会させないと、母親は父親に5万円を支払う義務を負います。
翌月も面会を拒否したら、さらに5万円を支払う義務があります。
これを1年続けると、12か月分で60万円を支払わなければならないということです。
そして、この金額については通常の差し押さえができますので、たとえば母親が受け取っている給料や預貯金を一方的に押さえることもできるようになります。
母親としては、この罰金を止めるためには、父親と子どもの面会を認めるしかないということになります。
こうやって、間接的に強制し、面会交流を実現できるのです。
ちなみに、間接強制の金額は、1回あたりだいたい3~5万円程度になることが多いといえます。
ただし、相手がいくらお金を払っても面会させたくないと思っていたり、そもそもお金がないから支払いを命じられても構わない、という場合には、この方法でも面会交流は実現できないこともあります。
そのような場合は、最終的には相手が親として不適切なことを主張立証し、親権者の変更を求めるなどしなければならない場合もあるでしょう。
面会交流の約束を守らなかった場合の対処法には以上のようなものがあります。
ここで1つ注意してほしいのは、これは、あくまで面会交流の方法を家庭裁判所の調停や審判で決めた場合に行える、ということです。
調停をしないで、協議で面会交流の方法を決めただけのときは、これらの方法をとることはできませんので、その場合にはまず面会交流の調停を起こさなければなりません。
これまで4回にわたって面会交流を詳しく解説してきました。
面会交流は、子どもにとっては非常に重要なものであり、子どもと両親とがきちんと親子として触れ合えるようにすることを忘れないでほしいと思います。
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【離婚】 面会交流が認められる場合/認められない場合
札幌の弁護士による離婚解説コラム第15回です。
前回(面会交流の具体的な方法は?)は、面会交流が認められる場合、具体的にどのように面会を行うのかを見てきました。
今回は、そのような面会交流がどういった場合に認められ、どういった場合に認められないのかを取り上げます。
面会交流という制度の意味については、「親権のない親が子どもに会う権利はある? ~面会交流とは~」でも解説しましたが、養育していない親と子どもとの面会交流というのは必ず認められるわけではありません。
面会交流は、親に権利があるわけではなく、子どものために認められる子どもの権利という側面が強いことも説明してきました。
そして、面会交流の決め方については、法律上は、民法766条で「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」とだけ規定されています。
「子の利益」、つまり、子どものためには面会交流をどうしたらいいのか、という観点から決めるというわけです。
しかし、「子の利益」というだけでは判断のしようがありません。そこで、これまで多くの裁判などで判断された際に問題とされた基準を整理してみたいと思います。
多くの裁判例がよく検討している判断基準というのはある程度決まっていますので、調停や審判の際にも同様の基準が使われる可能性が高いでしょう。
1 子どもの年齢・意思
子どもが養育していない親との面会を望んでいるか避けたいと思っているかは、やはりある程度考慮されています。ただし、子どもの年齢が低い場合には、子どもは実際に一緒に住んでいる親に意見を影響されやすいことや、適切な判断が難しいこともあって、それほど重視されない場合もあります。
また、子どもの年齢は、重要な判断基準になります。子どもの年齢が大きく、子どもが心身ともに成長している場合には、面会交流を実施しても不測の事態は生じにくく、子どもが面会を終わらせたいと思ったときも自ら判断できますので、年齢が大きいほど面会交流は認められやすい傾向にあります。
反対に、子どもが乳幼児である場合は、普段接していない別居の親との面会によって不安を覚えるおそれもありますし、そのような幼い子どもの場合には子どもが一人で面会に行くことはできませんので、養育している親が立ち会って短時間にとどめる、など、面会が認められなかったり、制限されやすい傾向にあるといえます。
2 養育している親に与える影響
子どもが他方の親と面会交流を行うことが、現在、養育している親にどのような影響を与えるかという点も判断材料の1つとなります。
たとえば、父母の対立が激しかったり、強く恐れている場合などには、子どもと他方の親との面会を認めると、養育している親の心身に重大な影響を及ぼす危険があります。
特に、子どもが幼く、一人で面会にいけない場合などには、父母の関係がどういったものかは重要な問題になります。
ただし、そのような場合には、手紙や電話など、面会以外の方法での交流を認めて、しばらく様子を見るという結論をとることもあります。
3 養育していない親と子どもの関係
父母の別居前に、子どもと、現在養育していない方の親の関係がどのようなものであったかも問題となります。
特段問題がなく、子どももなついていた、という状況であれば面会交流を認めても問題はなく、子どもも面会を望むことが多いでしょう。
反対に、同居中には、親が子どもに暴力をふるっていたとか、子どもとの仲が険悪であった場合などには、面会交流を認めると子どもに強いストレスが加わるおそれもあり、面会交流は否定的に判断されるでしょう。
ただし、そのような場合でも手紙のやり取りなど、負担の少ない方法での面会を認める例もあります。
ほかにも判断基準はいろいろとありますが、主なものはここに取り上げたようなものです。
これまで見てきたように、面会交流には、子どもにとって良い部分も悪い部分もあり得ます。
ただ、基本的には、子どもにとって実の父母は一人ずつしかいないため、円満に面会交流ができるような事案については、面会交流を認める方向で調整していくことが多いでしょう。
一般的には、面会交流が認められないケースの方が少ないといえます。
むしろ、面会交流にもいろいろな方法がありますので、認める認めないという点よりも、どの程度、どのような方法で認めるのか、といった点の方が難しい問題といえるかもしれません。
今回はここまでにしたいと思います。
次回は、せっかく決めた面会交流の取り決めを守られなかった場合の対策についてをテーマとする予定です。
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