【解決事例】 無銭飲食で逮捕されたが、嫌疑不十分で不起訴となった事例
【事件の内容】
Aさんは、ある日の深夜、飲み屋をはしごし、だいぶ酔いがまわった状態で、札幌市内にある居酒屋に行きました。
Aさんはこのお店に初めて来ましたが、お酒をだいぶ飲みすぎてしまい、正常な行動がとれないような状態になってしまいました。
そうすると、居酒屋の店員から、もう帰ってほしいと言われ、かっとなり、それなら金は払わないと怒鳴ってしまいました。
そこで、店員は無銭飲食だと思い、警察を呼びました。
現場を訪れた警察は、Aさんにお金を払うよう言いましたが、Aさんは、居酒屋の店員の態度に腹を立て、いきなり警察を呼ばれた動揺もあってか、こんなお店に払うお金はない、と言ってしまいました。
警察官は、Aさんがお金を持っていないのだと判断し、Aさんを無銭飲食(詐欺)の容疑で逮捕しました。Aさんは札幌市内の警察署に拘束されてしまいました。
逮捕の3日目に勾留(捜査のために10日程度、身柄拘束をすること)され、その時点で秋山弁護士が接見し、弁護人になりました。
【弁護活動】
まず、弁護士がAさんから詳しく事情を聴いたところ、実は、Aさんは当時、支払いをするのに十分なお金を持っていることがわかりました。
お金を持っていたのに、酔っぱらっていたためか、ついかっとなってお金を払わない、と強く言ってしまったとのことでした。
ところが、警察はAさんがお金を持っていたのを後から知って驚いたものの、Aさんに、「お金を持っていたことを本当は忘れていて、最初から踏み倒すつもりだったんだろう」という無茶な追及を続けていたのです。
警察の取調べは相当厳しいようでしたが、弁護人からはAさんに対応方法を丁寧に教え、警察署にも抗議を入れることとしました。
Aさんには取調べの際にどういったことを話したらよいかなどの対策を協議しました。
Aさんはお金を払うのを拒否してしまいましたが、これは単なる金銭トラブルです。刑事事件に問うようなものではありません。
無銭飲食になるには、最初からお金を踏み倒すつもりであったこと、つまり最初からだますつもりであったことが必要です。
Aさんは、売り言葉に買い言葉でこんな店にお金を払いたくない、と言ってしまっただけで、本当に払わないつもりはなかったのです。ところが、すぐに警察を呼ばれ、動揺しているうちに逮捕されてしまったのでした。
弁護人は、Aさんに取調べ対策を教えると同時に、迷惑をかけてしまった居酒屋へ謝罪と弁償に訪れました。
居酒屋のオーナーには、事件の真相や本人の反省の様子を伝えると、オーナーは飲食代金を払ってもらえればそれで良いと言ってくれましたので、本人から預かったお金で弁償し、示談が成立しました。
犯罪が成立するかどうかとは別に、払うべきものをしっかり払うのは当然のことですので、早い段階で示談を行ったのです。
その後、当初の勾留期限(逮捕から約10日ほどです)が来ました。Aさんは、代金を踏み倒すつもりなんてなかったとの言い分をがんばってつらぬいていました。
事件の内容は単純で、関係者も店員とAさんくらいしかいませんので、10日あれば処分が決まるだろうと予測していました。
ところが、検察官は、Aさんの処分を決めるにはまだ捜査が足りないと話し、さらに10日間、勾留を続ける許可を裁判所に求めました。
弁護人は、これ以上の捜査は不要であることを書面に記載して提出し、裁判官とも面談して理解を求めました。しかし、裁判官は検察官の請求通り、10日間の延長を認めてしまいました。
しかし、これほどシンプルな事件でこれ以上Aさんを身柄拘束する必要はないことに加え、Aさんが十分なお金を持っていたことや、この居酒屋の前に行ったお店ではどこもお金を払っていることなどから、Aさんが無銭飲食をするつもりはなかったことは明らかでした。
ところが、これ以上身柄拘束を続けられ、自白を求められ続ければ、Aさんは警察がいうような無茶な言い分を認めてしまいかねません。
そこで、勾留の延長を認めた裁判所の判断に対し、翌日、すぐに異議申し立て(「準抗告」といいます)を行いました。
お昼過ぎに出した準抗告は、夜の8時ごろに結論が出ました。
裁判所の判断は、準抗告を認め、Aさんをすぐに釈放するというものでした。事件が単純であること、すでに十分捜査をしていることなどを理由に、これ以上の勾留は必要ないとの判断でした。
Aさんは、夜9時ごろに無事に釈放されました。
その後、結局は一度も取調べに呼ばれることもなく、後日、Aさんの容疑は嫌疑不十分(犯罪したという確証がない)という理由で、不起訴になりました。
Aさんは、これからはお酒を控えることを弁護士と約束し、もとの生活に戻っていきました。
この事件では、Aさんが弁護士のアドバイスに従い、厳しい取調べにも負けなかったことと、早期の釈放を求めた弁護士の活動がうまくいったことが、良い結果につながったといえるでしょう。
刑事事件は、このように早い段階からの対応が良い結果につながることが多いといえます。犯罪の捜査を受けている方や、家族が逮捕されてしまった方は、すぐにご相談ください。当事務所では、札幌市だけでなく、近隣市町村の方からのご依頼も受け付けております。
※事件の特定を避けるため、複数の事案を組み合わせたり、細部を変更するなどしていますが、可能な限り実例をベースにしています。
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【刑事事件】 弁護士・弁護人は何をするの?
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第8回です。
前回(保釈の際に守らなければならない条件とは)まで保釈について説明をしてきました。
今回からは、刑事事件の際の弁護士の役割などについて取り上げていきます。
刑事事件では、弁護士のことを「弁護人」と呼びます。
国選弁護人や私選弁護人、という言葉は聞いたことがあると思います。
では、弁護人は実際、どういった役割を果たしているのでしょうか。今回は、4つに分けて簡単に見ていきます。
1 被疑者・被告人との打ち合わせや面会
弁護士は、事件の相談や依頼を受けた段階では、その事件のことを何も知りません。
また、事件について一番詳しいのは当事者となっている被疑者、被告人である依頼者です。
そのため、弁護人にとってもっとも重要な仕事は、被疑者・被告人との打ち合わせです。
特に、被疑者・被告人が身柄拘束をされている場合には、弁護人が面会に行くことが重要な意味を持ちます。
たとえば、警察の留置場に身柄拘束をされている場合、基本的には家族や友人もご本人と面会することができます。
しかし、一回の面会時間は15分程度に限定されており、時間帯も平日の日中のみとされています。
これでは、突然身柄拘束され、多くの不安を抱える被疑者や家族にとっては十分とはいえないでしょう。
これに対し、弁護人は、留置場では時間制限なく、いつでも本人を面会することが認められています。
私自身、警察の留置場に夜中前に面会に出かけ、2,3時間打ち合わせをし続けたこともありました。
拘束されている被疑者にとって、弁護人との面会は、警察の捜査や今後の処分に関する情報を得たり、今後の対策を打ち合わせるだけでなく、警察官以外の人と話をして気分転換をするという意味も持っています。
いずれにしても、弁護人にとって、被疑者・被告人との打ち合わせがもっとも重要な仕事です。
2 身柄拘束からの解放
身柄拘束をされた被疑者・被告人にとっては、一刻も早く釈放してもらいたいというのが切実な思いでしょう。
もちろん、身柄拘束を避けられない事件も少なくありませんが、弁護人の熱意と活動次第で、身柄拘束から解放してもらえる事件も確かにあります。
たとえば、逮捕された直後であれば、勾留をしないで釈放するよう求めることがあります。
また、勾留が認められてしまっても、それに対して異議申し立てを行い、直ちに釈放するよう要求することもあります。
起訴され、裁判にかけられることが決まった場合であっても、保釈の申請をして、自宅から裁判所に出席することを認めてもらえる場合もあります。
このような、不必要な身柄拘束から、少しでも早く解放されるよう尽力することも弁護士の重要な役割といえます。
3 裁判の準備、関係者との打ち合わせ、示談交渉
起訴されて裁判にかけられてしまった場合、裁判の準備を行うことは弁護人として基本的な職務の1つです。
その活動のなかで、関係者と打ち合わせを行うことがあります。
たとえば、重要な証人に事情を聴いたり、被告人を今後監督してくれる家族や職場の上司と打ち合わせをしたります。
また、他人を死傷させたり、損害を負わせた事件で非常に重要な活動として、被害者との示談交渉を行います。
もちろん、弁償するだけの資力がなければ難しいこともありますが、被害者へ事件の動機や反省の状況を説明したり、弁償の打診を行ったりします。
このような被害者との協議は、加害者本人や家族が行うと感情的になり、かえってこじれてしまうことも珍しくありません。
事件によって他人に与えた迷惑・損害を穴埋めすることは、事件の責任をとるために欠かせない行為ですし、もちろん、刑や処分の重さにも影響してきます。
ですので、被害者との協議・示談は弁護活動の中でも重要度の高い活動です。
4 公判活動
弁護人は、公判に向けて、1~3のような活動を行ってきます。
その集大成となるのが、公判期日での弁護活動です。
自白事件では、事件後、被告人がどのように反省を深め、どのように責任を取ろうとしてきたのか、被告人に本当にふさわしい刑はどういったものなのかを、必要な証拠や尋問などにより明らかにし、裁判所を説得します。
否認事件では、検察官の主張立証を打ち崩し、被告人の言い分が正しいことを明らかにしていきます。
どちらの場合も、十分な事前準備や打ち合わせが必要となりますし、公判の場での臨機応変な対応も要求されます。
そのような弁護活動を踏まえて、判決が言い渡されます。
弁護人が行う活動はこのほかにも多くありますが、弁護人としての基本的な活動はこのようなものです。
前にも見てきましたが、逮捕から起訴・不起訴の決定までは長くても二十数日、自白事件であれば起訴から公判が終わるまで1か月程度しかないことも多いでしょう。
そのような短期間で十分な弁護活動を行っていく必要がありますので、弁護人には、十分な経験と迅速さが要求されるといえます。
いかがでしたでしょうか。
刑事事件には、警察や検察官、裁判所といった専門的・組織的な知識を持った相手に、対等な立場で言い分を主張立証していく必要があります。
そのため、専門的な知識・経験のない被疑者や被告人のみではほとんど対抗できないおそれが高いでしょう。
適正な裁判を受けるには、今回取り上げたような活動を弁護人が行うことが不可欠ですので、少しでも早い段階で弁護士に依頼するべきです。
当事務所では、逮捕前から起訴後までのどの段階からでも相談・依頼を受け付けていますので、お悩みの方はすぐにご相談ください。
次回も弁護人に関するテーマを取り上げる予定です。
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【刑事事件】 保釈の際に守らなければならない条件とは
前回は、保釈金を立て替えてくれる制度を取り上げました。
保釈については、今回で一応終わりの予定ですが、最後に、保釈の際に守る条件について触れておきます。
保釈が認められる場合には、必ず、保釈の際に守らなければならない条件を裁判所から指示されます。
その条件は、事件によって多少変わることがありますが、だいたい、次のようなものです。
- 保釈請求の際に届け出た住所に住むこと。引っ越す場合には事前に許可を得ること。
- 海外旅行や、3日以上の旅行に行く際には事前に裁判所の許可を得ること。
- 裁判所から呼び出された日時に、必ず出席すること。
- 証拠隠滅や逃亡行為と疑われるような行動を行わないこと。
- 共犯者がいる事件では、共犯者と一切連絡をとらないこと。
これを見て、いかがでしょうか。
簡単な条件だと思ったのではないでしょうか。
実際、保釈の際の条件は、普通に生活していれば違反することはまずありません。
ただ、共犯者がいる事件では、共犯者と連絡をとらないという点に注意が必要です。
共犯者が親しい友人などの場合、事件に関することとは無関係でも、連絡をとりあうことが禁止されますので、注意しないとうっかり違反するおそれがあります。
そして、保釈中はこれらの条件に違反しなければ、まったく自由に生活してよいということです。
仕事をしたり、遊びにいったりというのも自由ですし、1泊2日の旅行は許可なくでき、長い旅行も裁判所の許可を受けておけば問題ありません。
裁判の準備のために弁護士事務所に来てもらったり、裁判に必ず出席することさえ守れば、生活はもとどおり行うことができます。
ですので、保釈が認められると認められないとでは、まったく負担が違ってしまうのです。
では、保釈の条件を破った場合はどうなるのでしょうか。
これには、重大なペナルティがあります。
1つは、保釈の取り消しです。条件違反により、保釈はなかったことになり、再び身柄拘束されてしまいます。
それから、保釈金の没収です。保釈の際に裁判所に納めた保釈金が、没収されてしまい、もう戻ってこなくなります。
前回紹介した保釈金立替業者を利用していた場合には、申込をしてくれた家族が全額の返済義務を負わされることになります。
そして、違反の直接のペナルティではありませんが、裁判所との約束を破ってしまった以上、裁判で言い渡される刑が重くなる危険があります。
このように、保釈の条件に違反したときには、重い制裁がありますので、絶対に条件を守るように心掛けなければなりません。
実際は、保釈の条件に違反して保釈金が取り消される人はごく一部にすぎませんから、大半の方は守っていますが、一部であっても違反する人もいますので、注意は必要です。
これまで、刑事事件の流れや保釈について詳しく取り上げてきました。
次回からは、刑事事件における弁護士の役割について説明したいと思います。
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【刑事事件】 保釈金を立て替えてくれる制度
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第7回です。
前回は、「保釈金はあとで返ってくるの? 金額の相場は?」ということで、保釈金の額などに触れました。
前回も説明したとおり、保釈金額は、最低でも150万円程度は覚悟する必要があります。
しかも、納めた時点で釈放となりますので、少しずつ積み立てたり、分割で納めるということもできません。
では、お金がない場合にはどうしたらいいのでしょうか。
そのためによく利用するのが、保釈金立替業者と呼ばれる機関です。
その名前のとおり、保釈金を立て替えてくれます。
立て替えるというのは、要するに、貸してくれるという理解でいいと思います。つまり、保釈金専門の金融業者だというのがわかりやすいでしょう。
これを利用すれば、必要な保釈金額をすぐに貸してくれます。
何社か同業者がいるようですが、私が利用したことがあるのは、「日本保釈支援協会」という機関です。
詳細はそちらのサイトを見ていただければと思いますが、要点を挙げると、次のとおりです。
- 立て替える金額は500万円まで
- 立替は2か月単位。2か月を超えた場合には、2か月更新
- 2か月ごとに、立替額50万円につき、1万2500円の手数料がかかる
たとえば、傷害事件で保釈の許可を得て、200万円の保釈金の支払いを命じられたとします。
その場合、保釈から2か月以内に判決が出るのであれば、2か月分の手数料として、5万円が必要となります。
300万円の保釈金であれば、7万5000円です。
仮に、判決まで2か月を超えてしまうと、2か月ごとに同額の手数料がかかる仕組みです。
(ただし、延長後、1か月以内に判決が出たときは、半額返還されるようです)
この日本保釈支援協会を利用することで、手元にすぐお金が用意できない場合にも、保釈金を納めることができます。
これを利用するメリットは、銀行などからの融資と比べて、審査が緩やかであり、高額の立て替えも比較的認められやすいことと、申込み後、数日で立替金を受け取れることです。
銀行で300万円の融資を受けるとなるとなかなか大変でしょうが、保釈金立替業者の場合には、事件の内容や逃亡の危険、つまり保釈金が没収される可能性も考慮しますので、そのような危険が少ない事件であれば、ゆるやかに審査が通りやすいといえるでしょう。
なお、この日本保釈支援協会は東京にありますが、やり取りは電話と書面のみです。
しかも、書面は、FAXで代用したり、速達でやり取りしますので、札幌から手続きをしてもほとんど支障ありません。
(札幌にも他の保釈金立替業者があるようですが、特に不都合もないので、私自身は利用したことはありません)
反対に、この制度にもデメリットがあります。
よく、保釈金立替業者を使って保釈金を用意したいと希望する被告人がいますが、制度のデメリットを知らないで希望している方がいます。
しかし、この制度を使うために条件をよく知っておく必要があります。
この制度のデメリット、使いづらい点は、
- 必ず本人以外の家族が申込みをしなければならないこと
- 保釈金が没収された場合には、その申込みをした家族が保釈金を返済する義務を負うこと
- 手数料がやや高く、2か月以上保釈が続き事件では負担が大きいこと
が挙げられます。
特に1つ目の点、つまり、この制度の申込みは、本人自身ではできないという点に注意する必要があります。
この制度は、本人のために、周りの人が保釈金を借りてあげる、というものなのです。
ですので、本人がいくら保釈を望んでこの機関の立替を受けようとしても、申し込んでくれる人がいなければどうしようもできません。
しかも、本人が逃亡したりして保釈金を没収された場合には、その申込人が全額の返済義務を負います。
また、申し込んだ以上、手数料の支払義務もあります。保釈に協力したら、思ったより裁判が長引き、2か月ごとに何万円も支払わなければならない、という危険もあります。しかも、この手数料は返ってきません。
ただ、それでも保釈に協力してくれるという人がいる場合には、この制度は非常に便利です。
これまで何度か利用したことがありますが、いずれも立替を受けることができ、事件終了後も問題なく返還しています。
最近、日本弁護士連合会が、保釈金の支払いできない人のために援助する制度を構築しようとしているようですが、現時点ではまだ形も見えません。
ですので、少なくとも現在は、保釈金が用意できない方は保釈金立替業者を利用することを検討することになりますね。
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【刑事事件】 保釈金はあとで返ってくるの? 金額の相場は?
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第6回です。
前回(保釈を認めてもらう方法・手続きは?)に引き続き、保釈を取り上げます。
今回は、保釈金というものについてです。
保釈金は、保釈手続きをするうえで一番関心の高いところだと思いますが、世間的にはよく誤解されるところでもあります。
その保釈金の意味と、金額の決め方の目安を見て行きたいと思います。
保釈金というのは、よくニュースなどで取り上げられますので、保釈の際に保釈金というお金がいることはみなさんご存知だと思います。
特に、一部の高額所得者の事件などでは、保釈金が何億円、などという報道がされることもあります。
そういう報道から、お金持ちだけ保釈されてずるい、なんていう批判を聞いたこともあります。
しかし、この批判は全く誤解です。むしろ、お金持ちの方が保釈の際には損とさえいえます。
そもそも保釈金とは、なんでしょうか。
これは、前回まででも見てきたとおり、保釈の際に裁判所に納めることが必要なお金です。
保釈の申請を裁判所に行い、裁判所が保釈を認めた場合、必ず保釈金の金額も決定します。
その金額を裁判所に納めた時点で初めて保釈されることになります。ですので、保釈の許可が下りても、お金を納められないと、いつまでも保釈はされません。
では、これは何のために納めるかといえば、それは、一言でいうと、保釈時の約束に違反させないための人質です。
保釈の許可を受ける際には、裁判所から必ず約束事、条件がつきます。たとえば、証拠隠滅をしないとか、逃げ出さないとか、裁判を欠席しないとかいう条件です。
この条件に違反した場合には保釈は取り消されてしまい、再び身柄拘束を受けてしまいますが、それだけではなく、納めた保釈金も没収され、返してもらえなくなってしまうのです。
つまり、違反した場合には保釈金を全部没収するから、没収されたくなければ条件を守るように、という人質のようなものなのです。
反対にいえば、保釈時の条件に違反さえしなければ、保釈金は全額戻ってきます。
これは、有罪判決の場合でも、実刑判決の場合でも同じです。
保釈は、あくまで裁判にきちんと出席させるための人質ですので、裁判が終わるまで約束を守れば、判決内容にかかわらず、全額返してもらえるのです。
つまり、約束を守れば人質を解放してくれる、というイメージでいいと思います。
保釈金は納めたら戻ってこないと誤解している方も少なくありませんが、条件に違反しなければ大丈夫です。
そこで重要となるのが、保釈金の金額です。
せっかく保釈が認められても、保釈金が用意できないばっかりに、保釈がされないまま判決を迎えることもめずらしくありません。
しかも、お金を納めるまでは保釈が認められませんから、のんびり保釈金を集めているうちに判決が来てしまうと、保釈は無効となってしまいます(保釈は判決時までのみ有効です)。
ただ、正確には裁判所が保釈を許可する際に初めて金額が決まりますので、事前に予想して金額を用意しておくしかありません。
では、実際に保釈金の額はどれくらいかといえば、通常の事件では、150万円から300万円の範囲が大半だと思います。
私が経験した事件は札幌地裁ばかりですが、ざっと振り返ってみたところ、ほとんどがこの範囲です。
平均すると200万円程度が目安だと思いますが、最近の経験では150万円程度と300万円程度の二極化になっている印象です。
もちろん、たまたま担当した事件がそういった傾向なだけかもしれませんが…
だいたいの相場、目安はこのとおりですが、どういった事情で上下するかは予想できますか?
基準は、大きくわけて2つあります。
1つは、事件が重大であるかどうかや、前科の有無、見込まれる刑の重さなど、保釈を認めるリスクの高さが影響しています。
たとえば、重大事件で長い実刑判決が確実である場合、保釈を認めると、証拠隠滅や逃亡を図って、刑罰を避ける可能性が一般的には高くなるといえます。
そのような場合は、保釈を認めるとしても保釈金を少し高めに設定し、条件違反をしづらいようにしているのでしょう。
反対に、執行猶予が確実であり、事件も軽微な場合には、保釈金は低めに設定されます。
そういった事件では、150万円を下回る金額で保釈が認められることもあり、私の経験上は、120万円の保釈金で許可を受けたこともあります。
2つ目の基準は、被告人の経済力です。
実際には、収入が低い場合にもあまり保釈金が安くなることはありませんが、収入が高い場合は、保釈金が非常に高額となります。
たとえば、少し前のライブドア事件では、堀江社長の保釈金は3億円と言われました。
最近では、大王製紙の井川会長も3億円という報道に接した記憶があります。
これらの事件では、被告人の資産・収入が高額であったことが大きく影響した結果でしょう。
高額所得者の場合に保釈金が高くなるのは、たとえば5億円の資産がある被告人に、300万円の保釈金を納めさせても、全く人質の効果がないからです。その被告人にとって、没収されると相当な痛みを感じる程度の金額を納めさせるという考慮だと思います。
ですので、同じような事件を起こしても、所得が大きい人の方が、保釈金の金額は高くなります。
覚せい剤事犯で起訴された芸能人の酒井法子氏の場合、保釈金は500万円だったそうですが、一般の覚せい剤事犯(初犯)の場合は、だいたい200万円前後になるでしょう。
もちろん、高額の保釈金を命ずる際には、被告人が納められると思って金額を決めているのでしょうが、同じような事件でもこれだけの差があると釈然としない気持ちもあります。
ちなみに、私が扱った事件での中では、一審での保釈金だけで1000万円を超える金額を納付したことがあります(覚せい剤事犯ではありませんが)。
なお、保釈の許可を受ける場合には、裁判官と金額の折衝をすることもあります。
せっかく保釈の許可をもらっても納付できなければ意味がありませんので、事前に裁判官に、「○○円までなら用意できるのでこの範囲でお願いしたい」という意見を申し入れることもあります。
相場から外れた金額では無理でしょうが、相場にあっており、説得力がある金額であれば、比較的柔軟に対応してもらえるように思います。
保釈金額についてみてきましたが、最後に、保釈金の返還時期について触れておきたいと思います。
保釈は、判決の時点で効力が終わりますので、保釈金も判決時点で返還されることになります。
とはいっても、実際には若干の会計手続きなどがあるので、裁判所ですぐ返してもらえるわけではありませんが、判決後、2,3日から長くて1週間程度で返還してもらえます。
なお、保釈金の納付時に返還時の送金先を届け出ておきますので、その送金口座に振り込まれることになります。細かいところですが、振込手数料がひかれることもなく、納めた金額がそっくり全額返還されます。
今回は、保釈金の意味や金額について少し細かく取り上げてみました。
保釈の際にはやはりお金の扱いが難しく、金額を用意する段取りがうまくいかないばかりに、必要以上に長期間拘束されてしまうという可能性もあります。
ですので、早い段階から弁護士と親族が協議をし、保釈を見据えた準備を整えておくことが不可欠です。
しかし、保釈の許可が確実であっても、100万円以上のお金を用意するあてが全くない、という方も大勢いらっしゃるはずです。
そのような場合でも、実は、保釈金を調達できる方法があるのです。
それについては、次回のテーマとしたいと思います。
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【刑事事件】 保釈を認めてもらう方法・手続きは?
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第5回です。
前回(保釈って何?)にひきつづいて、今回は保釈を認めてもらうための方法、保釈の手続きについてみていきます。
保釈の手続き自体は、非常にシンプルです。
ポイントを示すと、以下の3つだけです。
- 起訴されたあと、判決が出るまでの間に、
- 裁判所に保釈請求書を提出し、
- 保釈の許可が出たら保釈金を裁判所に納める
保釈を求める手続きとしては、この程度です。
ここで保釈のためのハードルは、2つです。
1つは、裁判所に保釈を許可してもらうこと。もう1つは、保釈金を用意することです。
保釈の許可を受けるためには細かい条件がいくつがありますが、前回もみたとおり、主に問題となるのは、保釈を認めた場合に「証拠隠滅」と「逃亡」の危険がないかという点です。
ですので、弁護士が保釈の請求をする場合、証拠隠滅の危険も逃亡のおそれもないことを可能な限り主張立証し、裁判官を説得するのです。
では、それをどうやって説得するかという点ですが、それは個々の事件ごとにポイントが異なりますので、一概にはいえません。
ただ、保釈を求める場合にはまず行うことが1つあります。
それは、身元引受人を立てるということです。
保釈の申請をする際に、家族などの身元引受人に協力してもらい、裁判所にあてて、「保釈された場合には、私が責任を持って監督します」というような書面を作成してもらうのです。
これを行うことで、被告人には一応心配して協力してくれる人がおり、被告人もそれを簡単には裏切らないだろうと考えるなど、裁判所が保釈を認める事情の1つになります。
そして、たいていは、保釈金を用意してもらう人に、そのまま身元引受人をお願いしています。保釈金を出すほど被告人と関係が深い方であれば、まさに身元引受人として適任といえるでしょう。
では、身元引受人になったものの、被告人が保釈後に問題を起こしてしまった場合、身元引受人も何か責任を負うのでしょうか。
実は、そのような心配はいらないのです。身元引受人は、裁判所との約束のようなものではありますが、これに違反をしても何かペナルティがある、ということはありません。
ですので、身元引受人になったからといって、何か責任を負ったり、損害の賠償を求められたりということもありません。
ただ、当然、裁判所との約束ではありますので、できるだけ守ることが求められるでしょう。
なお、身元引受人がいないと保釈がまったく認められないかというと、そういうわけでもありません。
いた方が望ましいとはいえますが、いなくても保釈が認められることはいくらでもあります。
ですので、身元引受人になる方がいなくとも、保釈をあきらめる必要はありません。
ともかく、保釈の際には、身元引受書などの資料があればそれも添付して、裁判所に保釈の申請書を提出します。
申請書の作成は、保釈の請求に慣れている弁護士であれば、正直、1~2時間もあれば十分です(もちろん、事件の内容を把握していればですが)。
申請書を作成したら、資料とともに裁判所に提出します。
裁判所は保釈の申請書を受け取ったあと、必ず、担当検察官に保釈についての意見を聞きます。
検察官は、保釈には強く反対するとか、保釈をしてもかまわないとか、事件ごとに意見を出します。
その検察官の意見が裁判所に出たあと、裁判官が保釈の判断を行います。
札幌地裁で保釈の申請を行う場合、検察官の意見が出てくるのがだいたい申請の翌日になります。
しかも、土日は基本的に手続きが動きませんので、たとえば金曜日に保釈の申請をすると、判断が出るのが月曜日になることが通常です。
地域によってはその日のうちに判断が出るところもあるようですが、私の経験上、札幌ではたいてい翌日ですね。
これまで何件も保釈請求をしていますが、当日中に判断が出た経験はなかったように思います。
そうして裁判所の判断が出ることになりますが、裁判所の判断は、「許可」か「却下」の2パターンです。
「許可」の場合は、同時に、保釈金の金額と、保釈時に守るべき条件が指定されます。
その条件を守らないと、保釈金が没収され、保釈が取り消しとなってしまうのですが、その条件については次回以降に取り上げたいと思います。
保釈が許可されればあとは保釈金を納めるだけですが、反対に、保釈が「却下」されてしまうこともあります。
却下の場合は、保釈が認められなかったことになりますので、これに対して異議申し立てを行うかを検討することになります。
異議申し立てをしても保釈が認められなかった場合や、異議申し立てを見送った場合、もう保釈が認められないかというと、そうとは限りません。
保釈請求は、判決が出るまではいつでも、何度でも、することができるのです。
一般に、裁判の審理が進み、証拠や証人が取り調べられていくにつれて、証拠隠滅の危険は減っていきます。一度裁判所に提出された証拠をあとから隠滅することは難しいからです。
ですので、起訴された直後に保釈が認められなかったとしても、裁判を何度か重ねた段階で改めて保釈請求をすれば、今度は認められることもあります。
私の経験上では、保釈請求が4回却下され、5回目でやっと認められたケースもありました。
とはいえ、保釈が却下されたあと、すぐにまた申請をしてもまったく意味はありません。
あらたに保釈請求をするには、新しい資料が入手できた場合や、裁判がある程度進展し、状況が多少なりとも変化したといえることが必要です。
そういった事情もないのに保釈請求を繰り返しても、裁判所はまともに取り合わないでしょう。
さきほど述べた5回目で保釈が認められた件は、最初の保釈申請から最後の保釈申請までは、1年以上が経過していました。
保釈が許可され、保釈金を納付すれば、その直後に釈放され、自宅に帰ることができます。
自宅に帰ったあとは、保釈時の条件さえ守れば、あとはどのように生活をしても問題ありません。
仕事をしても良いですし、条件を守れば、旅行などにも行けます。
ただ、裁判には必ず出席する必要があり、判決が出た時点で、保釈も終わりになります。
判決が無罪や執行猶予判決ならそのまま自宅に帰ることができますが、実刑判決であれば、その場で身柄拘束されてしまうことになります。
以上が、保釈の手続きの流れです。
保釈制度には複雑なところもあり、誤解も多い制度です。ただ、やはり身柄拘束された被告人にとっては、特に強い関心があるところだと思います。
次回以降も、引き続き、保釈をテーマとしていきたいと思います。
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【刑事事件】 保釈って何?
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第4回です。
前回(裁判・公判の流れや注意点を確認しよう)では、起訴された場合の裁判の具体的な流れを見てきました。
今回のテーマは、「保釈」という制度です。
ニュースなどで耳にする機会の多い言葉ですが、実際には、誤解されている方が非常に多いといえます。
「お金持ちはお金を出せば出してもらえる」「お金を払って保釈されるなんて、反省していない」と理解してはいないでしょうか。
保釈というのは、意外と奥が深い制度なのです。
逮捕され、身柄拘束されている人が起訴された場合、裁判を受けなければなりません。
起訴されてから判決が出るまでは、早くて1ケ月、通常で2,3カ月以内ですが、少し複雑な事件になると1年を超えることもあります。
前にも見てきましたが、身柄拘束された状態から起訴された場合、判決までの間、ずっと身柄拘束が続いてしまうことになります。
裁判が終わるまで、釈放されることはないのです。
しかし、よく考えてみれば不思議な制度です。
逮捕・起訴された人の中には、一部ではありますが、無罪となる人も含まれています。
そのような人であっても、起訴された場合、そのまま判決までの長期間、留置場・拘置所で身柄拘束されなければなりません。
また、比較的軽微な事件で、執行猶予判決が確実である場合なども、判決が出るまで釈放されないことになります。
しかも、このような判決までの間にかかる時間というのは、裁判官、検察官、弁護人が裁判の準備をするための時間です。
裁判所も検察官も弁護人も、たくさんの事件を抱えているため、裁判を早く進めようとしても、どうしても1ケ月に1回程度のペースでしか進みません。
検察官の準備が遅かったり、裁判所が多忙であったりして裁判が長引いたとしても、被告人はそのまま身柄拘束を受け続けたままになります(実は、お盆や年末年始などを挟むと、休暇などのため裁判が長引きます)。
そのうえ、判決でたとえば懲役3年の刑になった場合、刑期はその判決後から計算します。
その判決までの間に1年間身柄拘束をされていても、その1年分をそのままひいてもらえるわけではありません。
裁判所の判断で、一定の期間分を刑期から差し引いてもらうことは認められていますが、それでも差し引いてもらえない日数は相当なものとなります。
判決が決まるまでの被告人は、留置場や拘置所で、労働などが与えられるわけでもなく、ただ、朝から夜まで部屋に座って時間を過ごすだけです。
本当であれば、起訴された後は釈放して、自宅から裁判に出席させ、実刑判決が確定すれば服役させれば十分ではないでしょうか。
では、どうしてそのような制度でなく、身柄拘束が続けられるかといえば、「証拠隠滅」や「逃亡」を防止し、裁判を適正に行うためなのです。
裁判が始まる前の段階では、自分の刑を軽くしたり、ごまかすために、重要な証拠を隠したり、関係者に口裏合わせを行う者がいないとも限りません。
また、重い刑が予想される場合には、裁判に出席せず、行方をくらましてしまう危険があります。
このような事態を防止するために、裁判が終了するまで釈放しない扱いとされているのです。
これは、反対にいえば、そのような証拠隠滅や逃亡の危険がないのであれば、身柄拘束する必要性はないことになります。
実刑判決後の服役は、事件に対する制裁などの意味合いがありますが、判決確定前の身柄拘束は、無罪が推定された状態ですので、制裁としての意味は薄いでしょう。
そのように、証拠隠滅や逃亡のおそれがない者を釈放し、自宅から裁判に出席することを認める制度が、保釈なのです。
ですので、お金を持っているとか貧しいとかいう事情は関係なく、反省している、していないということとも関係がありません。
単に、裁判を正常に進めるためには身柄拘束を続けるべきか、釈放しても問題ないか、という観点が保釈においては重要なのです。
起訴され、裁判にかけられる人の中には、逮捕をされないまま起訴され、自宅から裁判に出席する人も多くいます。
それに対し、一度逮捕され、そのまま起訴された人は、判決まで釈放が認められないというのは釈然としません。
そのため、特に必要性がない場合には釈放を認め、自宅から裁判に出席させれば十分です。
それが、保釈という制度が認められる理由です。
そうすると、裁判所が保釈を許可したということは、裁判所が、「その人を拘束しておく必要はないし、釈放してもそれほど問題がないだろう」と認めたことになります。
報道などで被告人が保釈請求をしたことや、保釈されたことを非難するような意見を見聞きすることもありますが、これまで見てきたような保釈という制度を正しく理解されていないのだと思います。
保釈しても問題がない事件では、積極的に保釈を求めるのが本来だと考えていますので、私も本人の希望があったり、身柄拘束の必要がないと思った場合には、すぐに保釈請求を行っています。
これまで、保釈された被告人が何か問題を起こした経験もなく、すべてとどこおりなく裁判が終わっています。
保釈を受けた被告人は、一定の条件はつきますが、釈放されて自宅に戻り、もとどおり自由に生活をすることが認められます。
仕事をしたり、外出したりすることも問題なく認められています。
一定の条件を守ることと、裁判に必ず出席しさえすれば、普通どおりに生活して構いません。
その状態が、判決の日まで続くことになります。
ここまで保釈とはなにか、を見てきましたが、少しわかりづらかったかもしれません。
ただ、刑事裁判では、裁判所も弁護人も、保釈の請求をすることは正当な権利だと考えており、保釈請求をしたことで、裁判所が不快に思うとか、反省していないと判断するということは絶対にありません。
そのような理由で保釈をためらう必要はないのです。その点は特に理解していただければと思います。
少し長くなりましたので、どうすれば保釈が認められるのか、については次回にしたいと思います。
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【刑事事件】 裁判・公判の流れや注意点を確認しよう
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第3回です。
前回(刑事事件の流れ(後)~起訴から判決まで~)までで、刑事裁判のおおまなか流れを見てきました。
今回は、肝心の裁判(公判)でどのようなことを行うのかを実例をベースに見て行きたいと思います。
1 裁判所への出頭
刑事裁判の第一審は、地方裁判所の場合と簡易裁判所の場合があります。
札幌では、札幌地方裁判所と札幌簡易裁判所の建物が別々になっていますので、注意が必要です。
被告人には裁判所からの公判期日の通知書が届いているはずですので、その日時に指定された法廷に出頭します。
なお、身柄拘束中の被告人は、拘置所から送迎されますので時間や場所を間違う心配はありません。
2 公判の開廷
時間になると、公判が始まります。
法廷には必ず傍聴席があり、事件と関係ある方も関係ない方も、自由に傍聴できます。出入りも自由です。
最近は裁判員裁判などで刑事裁判が関心をひいているためか、札幌地裁でのだいたいの公判には傍聴人が3,4人程度は来ています。
ときどき、学生や職場ごとの集団傍聴が行われることがあり、傍聴席が満席になることもありますが、気にしないでもらうしかありません。
ちなみに、傍聴券が発行されるのはごく一部の著名事件だけで、普通の裁判ではそのようなことはありません。
法廷の中には、検察官と弁護人が、法廷の左右にわかれて、それぞれの席につきます。法廷のイメージは、だいたいテレビドラマやニュースで見かけるとおり、正面に高い壇がもうけられており、そこに裁判官が座ります。
被告人は、弁護人席の前にある長イスにかけるか、裁判官の正面に、傍聴席に背中を向ける形で座る場合の2通りがあります。
ちなみに、最近、裁判員裁判などでは弁護人の隣に着席できるケースも見られるようになってきました。
裁判官は、大半の事件では1人のみです。ただし、重大事件や複雑な事件では裁判官が3人になることもあります。
3 裁判官の入廷
法廷に被告人、弁護人、検察官が集まり、時間になると裁判官が法廷の奥から入廷し、裁判官席に着席します。
そこから公判が始まります。
裁判官が入廷すると傍聴人も含めて全員が起立し、裁判官が着席前に一礼するのにあわせて、全員で一礼します。
ちなみに、これは裁判官や特定の人に礼をしているというよりは、法廷やこれから始まる裁判に向けて、一礼しているという意識が強いと思います。
4 人定質問(本人確認)
法廷が始まると、まず、被告人が法廷中央の証言台前に立つよう指示されます。
そこに立つと、裁判官から、人定質問(じんていしつもん)という手続きが行われます。簡単にいえば、本人確認です。
聞かれるのは、氏名、本籍、住所、生年月日、職業で、聞かれたとおりに答えるだけです。
よく本籍がわからなくて戸惑う方がいますが、覚えてなければ裁判官が「○○でいいですか」と確認してくれます。
ただ、答えられないと緊張してしまう方も多いので、私は、事前に起訴状に記載してある本籍・住所等を確認してもらっています。
5 罪状認否
人定質問が終わると、いわゆる罪状認否が行われます。
まず、検察官が、起訴状に記載された事件の内容を読み上げます。起訴状の記載はシンプルなもので、「被告人は、○月○日、○○区○○のスーパーから、○○を盗んだものである」というような必要最小限の情報だけです。
検察官が起訴状を読み上げた後、裁判官から被告人に対して、黙秘権の説明が行われます。
そして、起訴状に記載された内容に間違っているところはないか、要するに被告人が本当にそれを行ったのかなどを裁判官から質問されます。
間違いがなければ、「間違いありません。そのとおりです」と答えますし、違っていれば、「私はそのようなことはしていません」というように答えます。
その時点で、この事件が犯行を認めている自白事件なのか、犯行を否定している否認事件なのかが確定します。
これが終わると、被告人は元の席に着席するよう指示され、しばらく座って裁判の様子を見ているだけになります。
6 冒頭陳述
罪状認否がおわると、検察官から「冒頭陳述」(ぼうとうちんじゅつ)が行われます。
これは、今回の事件がどういう流れで起きたのか、どういう被害があったのかを具体的に説明するものです。
起訴状朗読では必要最小限の情報しか記載されず、事件の動機や背景などはわかりませんので、この冒頭陳述で内容を明らかにしていきます。
なお、注意が必要なのは、この冒頭陳述は、検察官側から見た事件の説明でしかないということです。つまり、検察官の考えはこうだ、というものです。
ですので、被告人の言い分はこれと違う可能性はありますし、裁判所の考えも異なる可能性もあります。
検察官側の見立てを説明するのが冒頭陳述という手続きです。
これが終わった後、弁護人や被告人が反論をすると思われる方もいるかと思いますが、実は大半の事件では、弁護人や被告人が冒頭陳述を行うことはありません。
複雑な否認事件や裁判員裁判になっている事件では、弁護人も対抗して冒頭陳述を行うことがありますが(裁判員裁判では必ず行います)、それ以外の事件では冒頭陳述を行わないことが普通です。
これは、被告人の犯行を証明する義務は検察官にあり、弁護人や被告人が、積極的に意見を述べたり、無罪を証明する必要がないとされていることと関係しています。
ただ、実際は、通常の自白事件では冒頭陳述を行わなくても裁判官は理解できるだろう、という考えがあるから、あえて弁護人が冒頭陳述まで行っていないのでしょう(なお、検察官は、法律上、必ず冒頭陳述を行う義務があります)。
7 検察官の立証
冒頭陳述は検察官の言い分ですので、それだけでは何も証明されたことになりません。
ですので、冒頭陳述が終わった後、検察官は、事件の内容を立証・証明していきます。
証明といっても、ほとんどは、捜査資料の要約を読み上げるだけで、証人尋問などを行う事件は一部に限られています。
通常の自白事件であれば、その読み上げも5分から10分程度で行われています。
しかし、否認事件であれば、検察官も多数の証人尋問を実施することもあり、その尋問を行うために日を変えて何度も公判を実施することになります。
8 弁護側の立証
検察官の立証が終わると、今度は弁護人・被告人側からの立証が行われます。
自白事件であれば、被告人の刑の重さが問題となりますので、被告人が事件後に深く反省してきたことや、家族が監督していくこと、被害者に弁償し示談が成立していることなどを立証する必要があります。
そのために関係書類を提出するほか、家族や被告人自身の尋問を行うことになります。
家族と被告人が証言台に立つときは、通常、家族から証言を行い、被告人は最後になります。
事前に弁護人と打合せをしてから公判にのぞむことになりますので、証言の際も、何をいっていいか全くわからないということは少ないと思いますが、特に被告人質問は刑事裁判の山場ですので、よく準備し、言いたいことを明確に裁判官に伝える必要があります。
弁護側の証人尋問、被告人質問が終了すると、審理はほぼ終了です。
9 論告・弁論
お互いの立証が終了した後、検察官が、「論告」(ろんこく)を行います。
これは、検察官が審理の内容を踏まえて、どのような判決をすべきかを主張するものです。「○○という証拠があり、○○という事情があるから、被告人を有罪にして、懲役○年の刑を科すべきである」、という内容になります。
冒頭陳述と内容は似通ってくることもありますが、懲役○年にすべき、という「求刑」が行われる点が特徴です。
これに対し、弁護人からは、「弁論」(テレビなどでは「最終弁論」という言い方が多いですね)を行います。これは、検察官の論告に対抗して、弁護人として適切な判決はこうあるべきだという意見を主張する場です。「○○という証拠からすると、被告人の犯行は立証されておらず、無罪だ」「○○という事情があるから、被告人には執行猶予付きの判決で十分である」というのが弁論です。
10 被告人の意見陳述
審理の一番最後には、被告人が再び証言台に立ちます。
裁判官から、「これで審理を終えますが、最後に何か言いたいことはありますか」と質問されます。被告人に、言い残したことや、一番伝えたいことを話す最後のチャンスを与えるためのものです。
ただ、その直前に被告人質問で十分話したいことを話していることも多く、「特に付け加えることはありません」という内容で終わってしまう例もみかけますが、私は、事前に打ち合わせをして、必ず何か話してもらうことにしています。
傍聴席にいる家族への言葉だったり、被害者への謝罪だったり、今後に向けての決意など、内容はさまざまですが、裁判の終わりに際して何も言うことがないというのでは、どうしても物足りない感じがしてしまうからです。
なお、重大事件や否認事件では、意見陳述を何十分も、場合によっては1時間以上することもありますが、自白事件では本当に一言、二言で終えることが通常でしょう。
被告人の陳述が終わると、判決の言い渡し日時を裁判官が指定し、その日は終了します。
11 判決言い渡し
指定された判決公判で、裁判官から、判決の結論と理由が宣告され、第一審は終了となります。
内容に応じ、控訴するかどうかを検討することになりますが、控訴をしないのであれば、そこで刑事裁判は終わりです。
控訴する場合には、控訴の手続きを行い、高等裁判所で第二審が実施されることになります。
以上が、刑事裁判の実際の流れです。
これが通常の自白事件であれば、1時間以内、1回の裁判で実施されることがほとんどでしょう。
裁判員裁判などではもう少し時間をかけますが、流れはほとんど変わりません。
このような、裁判のそれぞれの場面でどのように対応していくかは、弁護士と被告人が十分に打合せをして、しっかりと決めておく必要があります。
次回は、裁判の途中で釈放をしてもらう保釈という手続きを詳しく見て行きたいと思います。
保釈は、非常に誤解されやすい制度ですので、正確な知識を確認していただければと思います。
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【刑事事件】 刑事事件の流れ(後) ~起訴から判決まで~
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第2回です。
前回(刑事事件の流れ(前) ~逮捕から起訴・不起訴まで~)の続きとなります。
前回は、逮捕されてからのタイムスケジュールや、不起訴や略式命令の場合にはそこで事件が終了となること、起訴された場合には正式裁判を受けることなどを見てきました。
今回は、起訴されてしまった場合の手続きについてです。
起訴され、正式な裁判にかけられる場合にも、身柄拘束されている場合と、されていない場合とがあります。
以下では、逮捕・勾留されている場合を主に扱っていきます。
逮捕・勾留されていない場合にも、流れはほとんど同じです。
1 起訴
起訴するか、不起訴にするかの判断は、検察官が行います。
検察官が起訴を決定した場合、「起訴状」という書類を裁判所に提出し、被疑者本人にも起訴状が届くことになります。
起訴された時点で、「被疑者」という呼び名は変わり、「被告人」という呼び方をすることになります。
ニュースなどでは「被告」という言い方をすることが多いですが、実際の刑事裁判では必ず「被告人」と呼びます。
起訴後は、裁判所が裁判の日時を決め、その連絡が来ますので、その日時に裁判所で刑事裁判を受けることになります。欠席は許されません。
2 保釈
起訴された時点で身柄拘束されていない場合は、通常はそのまま自宅で生活していくことができます。
しかし、反対に、起訴された時点で逮捕・勾留されていたときは、起訴後もそのまま勾留され続けることになります。
それがいつまで続くかといえば、実は判決までそのまま拘束されてしまうのです。
札幌の場合、起訴されるまでは警察署の留置場で寝泊まりすることになりますが、起訴後、一定の時間が経過した段階で、拘置所(札幌の場合は、男性は札幌拘置支所、女性は札幌刑務支所。どちらも東区の東苗穂にあります)に移動させられます。
そこで、判決の日まで寝泊まりしなければなりません。この時点では取調べも終わってますので、裁判までの間、ただそこで過ごすだけとなります。
それでは、判決の前に釈放してもらうことは絶対にできないのでしょうか。
実は、釈放を認めてもらう方法が用意されています。それが、保釈という制度です。
ニュース等でご存じの方も多いでしょうが、保釈というのは、起訴された後、保釈金(正確には、保釈保証金といいますが)というお金を裁判所に預けることで、判決までの間、釈放を認めてもらうという制度です。
この保釈が認められ、保釈金を納めれば、身柄拘束から解放されるのです。
しかし、保釈は必ず認められるわけではありません。保釈を認めるには一定の条件があります。
保釈制度については、また後日、詳しく説明する予定ですので、ここではこの程度にしておきます。
3 公判
刑事裁判では、裁判所で裁判を行うことを「公判」と呼びます。「初公判」という言葉を聞いたことがあると思いますが、弁護士や裁判所はあまり初公判という言い方はせず、第1回公判、ということが普通だと思います。
ちなみに、民事裁判では「第1回弁論」という言い方をしており、「公判」という言葉は使いません。
第1回公判、つまり1回目の裁判は、通常、起訴から約1か月後に行われます。
公判には、被告人が出席するのは当然ですが、そのほかに、裁判官、弁護人(ベンゴニン。刑事裁判では、弁護士を弁護人と呼びます)と検察官も出席します。
そこで、裁判となっている事件について、審理を進めることになります。
実際にどのようなことを行っていくかは、また別の機会に取り上げたいと思います。
ところで、刑事裁判は、だいたい何回くらい公判を行うと思いますか?
ニュースでは、よく第5回公判とか第10回公判という話を聞きますし、1年も2年も公判が続いているような印象もあると思います。
ところが、実際の刑事裁判は、ほとんどの事件が、なんと1回目でほぼ終了しています。
第1回公判で審理がすべて終了し、その次の公判で判決を言い渡して事件が終結、というのがむしろスタンダードといえます。
ちょっと手続きが長引いても、2,3回で終結という事件が大半でしょう。そうすると、起訴から2,3か月以内には、判決が決まっていることになります。
しかも、第1回公判は、だいたい1時間以内で終了します。判決の言い渡しは5分もかかりませんので、多くの事件は、裁判全体で1時間もしないで終わっています。
ですので、裁判というのは意外とあっさり終わってしまうのです。
しかし、逆にいえば、その1時間で言いたいことをすべて裁判所に伝えなければなりませんので、それだけ事前の準備や、公判の場での活動が重要になってくるのです。
4 判決
審理がすべて終了すると、判決を言い渡す公判を開きます。
そこで、裁判官が被告人にどういう刑罰を決めるかという「判決」を言い渡します。
判決の際には、結論とその理由を述べます。
結論というのは、要するに有罪か無罪か、有罪のときはどのような刑を与えるか、というものです。
たとえば、「被告人を懲役3年に処する」というようなものです。
そして、その判決の理由として、「前科がある。内容が悪質である。反省の態度が見られない。」などの事情を説明していきます。
有罪判決には、大きく、実刑判決と執行猶予判決があります。
執行猶予判決について説明すると長くなりますので、これも別の機会に取り上げます。
執行猶予判決になればその直後に釈放されますが、実刑判決では、そのまま身柄拘束が続き、釈放してもらえません。
5 控訴・上告
判決の結論に不満がある場合には、高等裁判所に控訴することができます。
通常、刑事裁判は簡易裁判所か地方裁判所で行います(大半は地方裁判所です)。
しかし、その判決が間違っているとか、重すぎるという場合には、高等裁判所でもう一度判断しなおしてもらうことができるのです。
本当は無実なのに有罪判決を受けたとか、執行猶予をつけるべきなのに実刑判決だった、などの理由で控訴を行うことがあります。
控訴を行い、高等裁判所での判決にも不満がある場合には、最高裁判所に上告をすることもできます。
しかし、実際には上告できる場合は非常に限定されており、上告が認められることはほとんどありません。
控訴や上告をしないか、上告がしりぞけられた場合には、その判決が確定し、争うことはできなくなります。
6 刑の執行
有罪判決が確定した場合には、裁判所が命じた刑の執行を受けなければなりません。
罰金刑であれば、罰金額を納付しなければなりませんし、懲役の実刑判決であれば刑務所に服役をします。
また、裁判に関する費用の支払いを命じられることもあります。
刑の執行を終えた段階で、刑事手続きは終了といえるでしょう。
前回・今回で見てきたように、捜査開始・逮捕時から、判決を受けた後の刑の執行まで、さまざまな手続きが行われます。
要点のみにしぼって簡単に述べてきましたが、それでもかなり複雑な手続きだと思われたのではないでしょうか。
しかし、裁判が1回目で終了する場合は、逮捕から判決までの期間は、2か月程度にすぎません。
実際には、この手続きに沿ったなかで、多くの弁護活動を行っていかなければならず、時間的にも労力的にも相当大変なものとなります。
ですので、逮捕前や逮捕直後から、弁護士と相談しながら迅速に対応をしていかなければ、どんどん取り返しがつかない状況になってしまうのです。
刑事事件、刑事裁判の全体像をざっと見てきましたので、次回は、裁判ではどのようなことが行われるか、実際のケースをもとに体験したいと思います。
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【刑事事件】 刑事事件の流れ(前) ~逮捕から起訴・不起訴まで~
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第1回です。
今回から、犯罪をおかしてしまったり、犯罪の疑いをかけられてしまった場合の捜査や裁判に関する手続き=刑事事件について、実際の経験などをもとにした情報を提供していきたいと思います。
なお、当事務所では刑事事件や少年事件は、主に秋山弁護士が担当しています(もちろん、赤渕弁護士と共同で行うこともあります)。
今回と次回は、刑事事件の基本的な流れについてみてきます。
刑事事件といっても、起訴されて裁判にかけられる前と、その後では、手続きの流れが全く違いますので、起訴前・起訴後の2つに分けて説明していきます。
1 任意捜査
事件が発生すると、警察は捜査を進めていき、容疑者(法律用語では被疑者といいます)を特定していきます。
被疑者が特定できたとしても、必ず逮捕するわけではなく、逮捕をしないまま事情聴取や取調べを行ったり、逮捕するための準備段階として取調べを行ったりしていきます。
このような段階では、警察も、まだ逮捕するだけの証拠がなかったり、逮捕するまでの必要性を感じていないということになります。
ですので、この段階で適切な対応を行えば、逮捕を避けられる事件もあります。
2 逮捕
ある程度の事件になると、被疑者を特定した後、一定の段階で逮捕し、身柄を拘束することになります(最後まで逮捕しない事件もあります)。
警察官が被疑者を逮捕する場合は、裁判所から逮捕状の交付を受けて逮捕を行う「通常逮捕」が主ですが、実務上は「現行犯逮捕」の例も相当多くあります。
現行犯逮捕は、事件の現場で証拠隠滅や逃亡をふせぐためにとりあえず逮捕した、という事件も実際上よく見られ、1,2日で釈放されるケースもあります。
しかし、逮捕状を取得してまで逮捕したような事件では、すぐに釈放されるというケースはあまり目にしません。そのまま身柄拘束を続けて、本格的な取調べを行っていくのが通常だと思います。
逮捕は、通常、警察官が行い、逮捕された被疑者は、警察署の留置場に入れられます。基本的にはその後の取調べも警察署内で警察官により行われますが、そうでない場合もあります。
法律上、逮捕後の身柄拘束は、実は48時間以内に限られています。それ以上の身柄拘束を行うときは、まず検察庁に事件を送致する手続きをとらなければなりません。
3 勾留
検察庁とは、検察官・検事がいる場所のことで、東京地方検察庁(東京地検)などの名前をよくニュースなどで見ると思います。札幌にも、札幌地方検察庁(札幌地検)があります。
警察から検察庁に事件が送致されると、被疑者も検察庁に連れて行かれ、検察官・検事の取り調べを受けることになります。
その取調べの結果、検察官が、身柄拘束を続ける必要があると判断した場合、裁判所に勾留の請求をします。
勾留というのは、要するに逮捕後も身柄拘束を継続するということで、逮捕後に勾留が認められると、起訴・不起訴が決定されるまでに、さらに10日間から20日間の身柄拘束ができることになります。
ですので、逮捕後の検察官の取調べなどの結果、検察官がまだ10日間の身柄拘束を続けるべきと判断したときは、勾留の請求を行います。
検察官が勾留の請求をすると、今度は被疑者は裁判所に連れて行かれ、裁判官と面談をします。
その面談を勾留質問といいますが、裁判官は、事件の内容を認めるか否認するかなどを被疑者に確認します。
そして、事件の資料などを検討し、裁判官が勾留が必要だと認めれば、勾留決定を行い、10日間の身柄拘束を決定します。
反対に、これ以上の身柄拘束は必要ないと判断すれば、勾留請求は却下され、すぐに釈放されることになります。
4 勾留期間の延長
勾留が認められてしまうと、原則として10日間、身柄拘束が続きます。
検察官は、その期間内に被疑者を起訴するかどうかを決定する必要がありますが、関係者が多い場合などは、10日間では時間が足りないという事態も生じます
そのようなとき、さらに10日以内の期間、勾留期間を延長することが認められています。
その場合、最初の勾留の際と同様に、検察官が裁判所に勾留期間の延長を申請し、裁判所が認めるかどうかを判断することになります。
なお、延長は10日以内に限り認められていますので、結局、全部で20日以内に限定されることになります。
5 処分の決定
勾留を行っている場合、勾留期間の最終日までに被疑者の処分を決定します。
処分の種類にはいくつかあり、主なものは以下のとおりです。
・起訴 被疑者を正式裁判にかけ、裁判所に有罪無罪や刑の重さを判断してもらう。
・不起訴 その事件で被疑者に処分・刑罰をくだす必要はないとして、事件を終了させる(おとがめなし)。
・略式命令 罰金刑で済む場合に、簡易な手続きで罰金額を決定して、支払いを命じて釈放させる。罰金さえ納めれば事件は終了。
・処分保留 勾留期間内に処分が決められないため、いったん釈放して捜査を継続し、後日正式に処分を決める。
このうち、不起訴はおとがめなしの判断であり、それで事件が終了となります。処分保留として釈放される場合は、すぐに別件で再逮捕されることもありますが、そうでない場合にはほとんどが不起訴で終わっています。
略式命令は、比較的軽微な事件だけど、不起訴とはできない場合に、勾留期間終了時に罰金の支払いを命じて釈放させるものです。事件自体はそこで終了し、あとは罰金を納付する手続きが残るだけになります。
これらの処分は、どれも勾留期間が終了すると同時に事件もほぼ終了となりますので(処分保留は例外もありますが)、その後に裁判が続くということはありません。
ところが、起訴という処分が下されてしまうと、正式裁判にかけられることになります。
この場合、基本的には判決が出るまで身柄拘束が継続されることになってしまい、釈放されないままとなってしまいます。
また、裁判を受けることになりますので、裁判のための準備も必要となってきます。
そのため、起訴されるか、それ以外の処分になるかによって被疑者が受ける負担は全く違うものになってしまいます。ですので、早期に釈放され、社会復帰をするためには、可能な限り起訴を避けることが必要になってくるのです。
6 スケジュールの参考例
起訴、不起訴までの流れはだいたい把握できたでしょうか。
参考として、逮捕され、20日勾留された後、不起訴で釈放となるような事件のタイムスケジュールは、次のとおりです。
7/1 逮捕
7/3 検察庁で取調べ、勾留請求される
7/4 裁判所で勾留質問、勾留が決定(7/12まで)
7/12 勾留を10日間延長することが決定(7/22まで)
7/22 不起訴の処分を得て、釈放。事件終了。
この間の期間は、取調べを受けたり、現場検証に立ち会ったりしながら進んでいきます。
なお、最初の10日間の勾留の日数があわないと感じるかもしれません。
勾留日数の数え方には特殊なルールがあり、実際には、検察官が勾留請求をした日から、その日を含めて10日以内のみ認められる、という決まりになっています。
ですので、7/3に勾留請求をすれば、その日を含めて10日間、つまり7/12までの勾留が可能となるのです。
実際には上の参考例よりも短い日数ですむ場合もありますが、この参考例のように最大限の日数身柄拘束が続くケースも少なくありません。
これだけの期間を、弁護士の手助けのないまま乗り切ることは、相当厳しいのではないでしょうか。
さて、次回は、起訴されてしまった場合のその後の流れを見て行きたいと思います。
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