【離婚】 退職金も財産分与の対象になるの?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第22回です。
前回は、住宅ローンが残っている場合の財産分与について取り上げました。
離婚時には住宅ローンの処理が大きな問題となりますが、それだけに、解決には困難が少なくありません。
今回は、住宅ローンと同様、解決が難しい問題として、退職金の財産分与について解説します。
1.退職金は財産分与されるか
離婚時には、夫婦の共同生活で築き上げてきた財産を分与し合うことについては、これまでも説明してきました(詳細は「離婚時の財産分与について知りたい!」をご覧ください)。
それでは、たとえば、夫婦生活を30年続けてきて、あと2年で夫が高額の退職金を受給できるという段階で離婚が成立した場合、妻は、この退職金について分配を請求できるでしょうか?
また、夫は、妻に退職金を分配しなければならないのでしょうか?
離婚時に退職金も分与されるかどうかについて、結論からいえば、退職金も財産分与の対象となる場合がある、ということになります。
もっとも、退職金の分与には難しい問題があり、実際の事案においては、簡単に処理が決まるわけでもありません。
2.退職金を財産分与する場合の計算方法
まず、退職金がなぜ財産分与の対象となるかという点を見てみます。
退職金は、一般的に、退職時までの勤務実績に応じて支払われるものですので、勤務の対価としてとらえることができます。
そうすると、夫婦で共同生活をしている場合には、夫が仕事で得る収入についても、妻の協力に支えられたものと考えることとなりますので、退職金として受け取る金額の中にも、妻の協力により蓄えられた部分があると考えることになるのです。
ただし、あくまで妻の協力部分が認められるのは、結婚生活中に対応する部分だけです。
たとえば、夫が20歳から60歳まで勤務して退職したときに、退職金が2000万円であったという事例を考えます。
結婚したのが50歳のときであれば、妻の協力部分が認められるのは、勤務期間40年間のうち、結婚後の10年間のみとなります。その結果、退職金2000万円の4分の1である500万円のみが夫婦共同生活に関する部分とされ、そのうち、基本的に2分の1である250万円について妻が分与を得ることになります。
同様に、50歳で結婚したものの、55歳で離婚した場合には、財産分与の対象となるのは、5年分のみと考えることになりますので、退職金の8分の1である250万円が夫婦共同財産部分となり、その2分の1である125万円の分与があり得るのです。
これらの計算は、単純な事案に関するものです。実際には、退職金の具体的な制度や結婚生活の状況によって変わることがありますので、注意してください。
3.退職金を財産分与できない場合
退職金について注意が必要となるのは、退職金について、財産分与を請求できない場合も少なくないことです。
なぜかというと、退職金は、必ず得られるとは限らず、金額もはっきりしないことがあるからです。
たとえば、いま現在、夫が40歳であるとします。この場合、夫が退職金を得られるのはいつになるでしょうか?
通常は、定年まで勤めるとすれば、20年以上先のこととなってしまいます。
しかし、それまでの間に会社が倒産したり、夫が何らかの事情で退職をしたり、あるいは解雇されて退職金が得られないという可能性もゼロとはいえません。
また、今の時点で退職金の見込み金額がわかったとしても、実際に夫がそれを受領できるのは何十年も先かもしれませんので、妻がそれを受け取ろうとしても、いつ得られるかもわからないのです。
一般的な傾向としては、夫の定年までの期間が短く(5~10年以内など)、退職金が支払われることが安心して期待できるような勤務先(大企業や公務員)の場合には、退職金の分与が認められることが多いでしょう。
定年までの期間が長くなったり、勤務先の規模が小さくなるほど、退職金の支給は不確実と判断され、財産分与を請求できないこともあります。
また、仮に、財産分与が認められる場合であっても、将来、退職金が支給された時点で初めて分与を受けられるという場合もあります。
ですので、退職金については、簡単に結論を出すことは難しく、具体的なケースごとに判断していくしかありません。
離婚時の退職金の扱いについては、このように難しい問題が多くありますので、経験豊富な弁護士に相談していただくのが一番です。
当事務所では、これまで退職金に関する離婚紛争も多く扱ってきております。
お悩みの際は、ぜひ一度、ご相談されることをお勧めします。
財産や借金を相続をしないことはできる? -相続放棄
札幌の弁護士による遺産相続コラム第5回です。
前回(生命保険や借金は遺産に含まれるか? -相続される財産の種類)は、相続の対象となる財産・債務について取り上げました。
今回は、相続をしたくない場合にどうしたらいいのかを説明します。
1.相続を拒否することはできる?
前回解説していますが、家族が亡くなったとき、その人が死亡時に抱えていた借金などの負債も、相続の対象となります。ですので、相続人である親族が代わりに返済をしなければなりません。
しかし、たとえば、亡くなった本人には財産はなく、借金だけが残されていた場合、相続人がこれを必ず引き継がなくてはならないとすると、自分が借りたわけでもない借金を強制的に支払わされることになります。これでは家族にとっては重い負担となります。
こういった場合、相続なんてしたくない!と考える方もいると思いますが、相続を断ることはできるでしょうか?
実は、一定の条件を満たせば、相続を拒否することができることになっています。相続をしないことを、「相続放棄」と呼びます。相続放棄をすれば、亡くなった家族の借金を引き継ぐことはなく、支払いに応じる必要はありません。
2.相続放棄をする方法
この相続放棄を行うには、いくつかの条件があります。簡単に整理すると、次の3つの条件を満たす必要があります。
① 相続開始を知った日から3か月以内に手続きをとること
② 手続きは、必要書類を添えて所定の家庭裁判所で行うこと
③ 相続放棄前に、亡くなった本人の財産を取得したり処分したりしていないこと
①の相続開始を知った日から3か月以内というのは、なかなか大変です。本人が死亡し、葬儀等を行い、遺品の整理をしているとすぐに3か月が経過していまいます。この短い期間で、財産や負債を調査し、相続放棄をするかを判断し、実際に裁判所で手続きをとる必要があります。
期間内に手続きをとらないと、基本的にあとから相続放棄はできないことになっていますので、相続放棄を考えている方は、できるだけ早くに裁判所や弁護士に相談をする必要があります。
なお、3か月を過ぎてしまった場合にも、例外的に相続放棄が認められるケースもあります。しかし、簡単に認められるものではありませんので、経験のある弁護士に相談して判断をしてもらう必要があるでしょう。
②については、実際には相続関係を証明する戸籍などを揃えて、亡くなった本人が最後に住んでいた地域の裁判所に手続きをとる必要があります。家族間で話し合っただけではダメで、裁判所を通さずに相続放棄をすることはできません。
これについては書式が裁判所などに備え置いてあり、難しい手続きではありませんので、弁護士に依頼せずに手続きをとる方もいます。
ただ、戸籍を揃えることや裁判所で手続きを行うことは、なかなか苦労も多く、悩みも多いところでしょう。そのため、弁護士に依頼して手続きを代わりに行ってもらう方も少なくありません。
当事務所でも相続放棄の手続きの依頼をお受けすることがあります。
③について、相続放棄前に、亡くなった本人の預金を受け取って使ってしまったとか、不動産を売却しようとしたとか、そういった行為がある場合、相続放棄が認められなくなってしまうことがあります。
相続放棄は、財産も放棄するかわりに借金も引き継がないというものですので、財産だけ取得しておいて、借金について相続放棄するということは認められていません。そのため、相続放棄をする場合には、その財産について取得したり処分したりせずに、最低限の保管行為だけを行っておくことが求められます。
ただ、どのような行為であれば問題がなく、どのような行為をしたら相続放棄ができないのかは判断が難しい場面も多いといえます。
3.相続放棄をするとだれが遺産を引き継ぐか
相続放棄をすると財産も借金も引き継がないことになりますが、この相続放棄は、相続人それぞれが判断をして行います。そのため、3人の相続人のうち、2人だけが相続放棄をする、ということも可能です。
このように、一部の相続人だけが放棄をした場合、その放棄した部分は、放棄をしなかった相続人が代わりに相続することになります。
たとえば、夫が死亡し、妻と長男・次男が相続人となった場合を考えます。このとき、妻と次男だけが相続放棄をすれば、残った長男がすべての財産を相続することとなります。
このように、だれか一人に遺産を集中させるために、ほかの相続人が放棄をする、という活用方法もあります。
さらに、上記の例で、長男も含めて、相続人全員が相続放棄をしたらどうなるでしょうか。
そのときは、最初から長男も次男も相続人ではなかったということと扱われ、子どもがいない場合の相続人である両親が相続人に繰り上がります。そのため、長男・次男が相続放棄をした後、今度は両親が相続放棄をするかどうかを判断することになります。両親も相続放棄をした場合は、今度は兄弟姉妹が相続人として繰り上がってしまうのです。
誰にも借金を引き継がせたくないという場合には、繰り上がる相続人を含め、段階を踏んで親族が次々と相続放棄をしなければならないこともあります。
以上のように、相続放棄をして、財産も借金も一切引き継がないという方法があります。短い期間内に手続きをとる必要がありますし、期限を過ぎてしまうと認められない可能性がありますので、相続放棄を検討する方は早めに裁判所や弁護士に相談することをお勧めします。
生命保険や借金は遺産に含まれるか? -相続される財産の種類
札幌の弁護士による遺産相続コラム第4回です。
前回(相続できる財産の割合はどう決まっている? -法定相続分)は、民法ではだれが遺産のどれだけを相続することとされているかについて見てきました。
今回は、どのような財産が相続の対象となるのかを説明します。
1.相続の対象となる財産
本人が亡くなった際、どの財産が相続人に引き継がれるのかは、ひとことでいえば、死亡時に本人が保有していたほぼすべての財産が相続されることになります。
財産には、たとえば、現金、預貯金、不動産、株式、家財道具などが含まれます。さらに、不動産を人に貸して家賃を受け取っていた場合などには、その家賃を請求する権利も相続の対象となります。
これらの財産は、相続財産であるため、基本的に、法定相続分を基準として相続人が分割して引き継ぐことになります。
2.生命保険の取扱い
ここで注意が必要なのは、本人の死亡時に支払われる生命保険金の取扱いです。
生命保険については、契約時に受取人が決められていますし、もともと「本人の財産」とは言いづらいため、通常、遺産相続とは無関係に、保険契約で指定された受取人が受け取ることができます。そのため、多額の生命保険をもらっているからといって、ほかの遺産がもらえなくなることはなく、通常は生命保険のことは考慮しないで、ほかの遺産を分割していくことになります。
たとえば、妻と長男・次男の3人が相続人となり、遺産が3000万円あり、生命保険5000万円は次男が受取人となっていたとします。この場合、妻が2分の1、長男・次男は4分の1ずつ相続すると定められています。
そうすると、この場合、次男は生命保険金5000万円を全部受け取りますが、それ以外に、遺産の4分の1である750万円をそのまま受け取ることができます。生命保険をもらっているからといって、相続割合が変更されるわけではないのです(一定の例外はあります)。
長男などからすると不公平に思わえるかもしれませんが、生命保険と遺産相続は別物とされているため、このような結論となります。
3.借金・債務は相続されるか
これまで相続される財産について見てきましたが、ご本人が銀行から1000万円の借金をしたまま亡くなってしまった場合の借金(債務)はどうなるでしょうか。
結論としては、この借金・債務についても相続人が相続割合に応じて引き継ぐことになります。
相続人が長男と長女の2名であれば、500万円ずつの借金を相続してしまいます。財産だけを受け取って、債務については知らない、という対応はとれないということです。
財産が1000万円あり、借金が500万円というように、財産の金額の方が高ければ、相続人が相続財産から借金を返し、残りを分配するという方法で無理なく解決することができます。
しかし、財産はほとんどないのに、借金だけが残っていたという場合には、相続人は自分とは本来関係のない借金だけを引き継がされることになってしまい、理不尽な結果となります。
そのため、相続人は、一定の期間内に家庭裁判所で「相続放棄」の手続きを行えば、財産も借金もすべて相続しないでよい、という方法が認められています。この相続放棄については、こちら(財産や借金を相続をしないことはできる? -相続放棄)で説明していますが、残された債務が大きい場合には、速やかにこの手続きをとっていくことになります。
以上のように、本人が死亡時に持っていた財産・権利や、死亡時に負っていた債務がほぼすべて相続人に引き継がれます。
そうすると、場合によっては、家族も知らなかった財産や借金が存在している可能性があり、しばらく経ってから突然発見され、相続人が困惑することもあります。
財産や借金を完全に調べることは簡単ではありませんが、それでも、ある程度の方法やコツが存在するのも事実です。
そのような相続財産・相続債務の調査や処理についてお悩みでしたら、当事務所にてアドバイスいたしますので、お早めにご相談ください。
ご相談の予約は、(法律相談のご予約・お問い合わせのページ)をご覧ください。
次回は、「財産や借金を相続をしないことはできる? -相続放棄」について取り上げます。
相続できる財産の割合はどう決まっている? -法定相続分
札幌の弁護士による遺産・相続コラム第3回です。
前回(誰が遺産を相続するの? -法定相続人の範囲)は、相続が発生した際、だれが相続人となるかを説明しました。
今回は、遺産を相続する相続人が、どれだけの遺産を相続できるかを解説していきます。
1.法定相続分
遺産相続をする場合、各相続人が遺産のうちどれだけの割合を相続するかという基準があらかじめ民法で定められています。その法律で定められた相続割合を、法定相続分と呼びます。
これは別の機会に触れますが、遺言書が残されている場合には、民法とは違う割合での相続も可能となりますが、遺言書がない場合には、この法定相続分を基準として遺産相続を行います。
では、民法で定められている法定相続分とはどのようなものでしょうか。
亡くなった本人に配偶者(夫/妻)がいる場合と、いない場合とで分けて整理します。
2.配偶者がいない場合
亡くなった方に夫・妻がいない場合、相続人は、
① 本人の子(子が亡くなっているときは、さらにその子ども)
② 両親(両親とも亡くなっているときは祖父母) ※ただし、①が存在しない場合
③ 兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっているときは、その子ども) ※ただし、①②が存在しない場合
となります。3パターンの親族のうち、番号の小さい立場の方だけが相続します。
このとき、たとえば本人に子どもが3人いた場合は、3人ともが相続人となります。その際の相続割合(法定相続分)は、3人とも平等とされています。そのため、相続分は各3分の1ずつとなります。
同様に、本人に子どもも孫もいない場合には、両親が健在であれば相続人となりますが、父親と母親とは平等に2分の1ずつ相続します。兄弟姉妹が相続人となる場合も同様です。
このように、同じ立場で相続する親族の間では、民法は平等に分けることとしています。男女で差をつけたり、長男と次男、長女とで相続割合が異なるという定めはありません。
3.配偶者がいる場合
亡くなった方に夫・妻がいる場合、上で触れた一定の親族と配偶者とが両方とも相続人となります。
この場合は、さきほどの場面と違い、全員が平等とはなりません。配偶者と、その他の親族とでは相続割合が区別されており、基本的には配偶者の相続分が大きくなります。
具体的には、配偶者と一緒に相続する親族がだれであるかによって割合が異なりますが、おおむね次のような割合を基準とします。
配偶者+子が相続 : 配偶者が2分の1を取得し、子らで残り2分の1を分ける
配偶者+親が相続 : 配偶者が3分の2を取得し、両親で残り3分の1を分ける
配偶者+兄弟が相続: 配偶者が4分の3を取得し、兄弟で残り4分の1を分ける
以上が、民法で決められた相続割合です。
4.具体例
参考のため、簡単な具体例を挙げておきますので、ご参考にしてください。
あくまで基準となる相続割合ですので、必ずこのとおりに解決されるわけではありませんのでご注意ください。
1)相続人が、妻・長男・次男・長女の4名の場合。遺産が3000万円。
配偶者である妻が2分の1(1500万円)を相続
長男・次男・長女で残り2分の1を分けるので、各自6分の1(500万円)ずつ相続
2)相続人が、夫と両親の3名の場合。遺産が6000万円。
配偶者である夫が3分の2(4000万円)を相続
父親・母親で残り3分の1を分けるので、各自6分の1(1000万円)ずつ相続
3)相続人が、兄と妹の2名のみの場合。遺産が1500万円。
兄・妹で平等に分けるため、各2分の1(750万円)ずつ相続
今回の解説は以上です。
相続人と相続割合についての民法の規定はこのようになっており、非常にシンプルです。ところが、このとおりに簡単に遺産分割が済むケースばかりではなく、トラブルになることも少なくありませんし、相続割合が決まっても、実際にどの財産を相続するかは定まらないこともあります。
そのため、今回の解説内容を理解していても、それだけで解決できるとは限りません。トラブル解決のためには、遺産相続に詳しい弁護士に相談することが近道です。
当事務所では、遺産相続のご相談を数多く取り扱っていますので、お悩みの際はお早めにご相談ください。
その際は、法律相談のご予約・お問い合わせのページからのご予約をお願いいたします。
次回は、「生命保険や借金は遺産に含まれるか? -相続される財産の種類」についてご説明します。