【債権回収】 不動産競売手続き② ~抵当権、担保の効果とは
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第14回です。
前回は、「不動産競売手続き① ~土地・建物を差し押さえるには」と題し、抵当権・担保がない場合の不動産の差し押さえについて説明しました。
不動産を差し押さえた場合、その不動産を競売という手続きで売却し、その売却代金から債権を回収することができる、という内容でした。
ただ、その場合に、その不動産に抵当権がついているかどうか、ついている場合にその残額はいくらか、が非常に重要であるとも説明しました。
今回は、その「抵当権」にはどのような効果があるのか、抵当権がある場合の差し押さえの方法、について解説します。
【抵当権とは何か】
「抵当権」をつけるというのは、借り入れをする場合に、土地・建物といった不動産を担保に差し出すという意味です。
一番なじみがあるのは、住宅を購入する場合の住宅ローンです。
住宅ローンを組んで家を購入する場合、そのローンを組んだ銀行や住宅金融支援機構が、その不動産を担保にとります。これを正式には、不動産に「抵当権を設定する」といいます。
この場合、その住宅ローンが返済できなくなると、担保に入った不動産は取り上げられて売却され、自宅からは追い出されてしまいます。
住宅ローン以外の借入金や債務についても、同じように抵当権を設定することができます。
物の仕入れ代金やお金の貸し借りの際に、会社の代表者などを保証人にすることがあるかと思いますが、抵当権は、人ではなくその不動産を保証人にする、というようなものです。
本人が債務を支払わない場合に、その不動産に代わりに支払ってもらう、ということです。
保証人をつける場合には保証人と保証の契約書を作成します。
抵当権をつける場合には、その不動産の所有者との間で、抵当権設定契約書を作成し、法務局に届け出て、抵当権設定の登記を行う必要があります。
【抵当権の効果】
このような抵当権には、絶大な効果があります。
そのメリットは大きく2つあります。
1つ目は、抵当権を実行して不動産を取り上げる際には、事前に裁判を起こしたり、判決を取得する必要はなく、直接、不動産の差し押さえを行うことができる点です。
通常の差し押さえ、強制執行の際には、判決書や裁判所での和解書、あるいは公正証書といった公的文書が必要でした。
しかし、抵当権の場合にはそれらの書類は必要なく、抵当権の登記がされていることだけで十分なのです。
ですので、裁判を起こす手間が不要となり、必要が生じたときにすぐに差し押さえを行うことができるのです。
2つ目は、抵当権を持っている債権者は、その不動産の売却代金から優先的に支払いを受けられるということです。
通常の不動産差し押さえの場合には、不動産を競売手続きで売却し、そのなかから、抵当権や税金などの優先権のある債権者が先に代金を受け取り、残りを他の債権者で平等に分配する必要があります。
しかし、抵当権を持っている債権者はそのように優先権がありますので、他に多くの債権者がいても関係なく、売却代金を優先的に受け取ることができるのです。
以上のような2つのメリットがありますので、財産的価値のある不動産に抵当権を設定することで、債権回収の可能性は飛躍的に高まるといえます。
【抵当権の注意点】
抵当権には非常に強い効力があることを見てきましたが、実際には、これを用いて債権回収を行うことは簡単ではありません。
その理由は、①相手に資産価値のある不動産があるとは限らないことと、②通常、先に抵当権を設定している債権者がいることです。
①は、抵当権は不動産にしか設定できませんので、相手が不動産を持っていない場合には利用できません。また、仮に不動産を持っていても、田舎の山林や原野のように、売却ができないようなものであれば、抵当権を設定してもあまり意味がありません。
そして、不動産に価値があるような場合には、先に②のように別の抵当権が設定されていることが多いといえます。
抵当権は、それを先に設定した者から、優先的に支払いを受ける権利があります。
たとえば、その不動産が1000万円で売却できたとします。そのとき、1番最初の抵当権者が800万円の債権を、2番目が500万円の債権を持っていたとします。
その場合、1000万円のうち1番目の抵当権者がまず800万円受け取りますので、2番目の抵当権者は200万円しか受け取れません。仮に、そのあとに3番目、4番目の抵当権者がいたとしても、1円も受け取ることはできません。
このように、抵当権は早いもの勝ちですので、めぼしい不動産には、銀行などの金融機関が先に抵当権を設定していることが多いといえます。
とはいえ、相手がそれなりの不動産を持っていて、抵当権もほとんど設定されていないというケースもときおり見かけますので、そのような場合には、情況に応じて抵当権の設定を交渉することが有用といえます。
【抵当権実行の流れ】
実際に抵当権を持っている場合には、その不動産の差し押さえを裁判所に申請します。
必要書類は多少異なりますが、裁判所が不動産を調査し、競売手続きを実施して、売却代金を配当するという流れは、通常の不動産差し押さえの場合とほぼ同様です。
詳しくは、「不動産競売手続き① ~土地・建物を差し押さえるには」をご覧ください。
このように、抵当権は利用場面がある程度限定されますが、大きな効果を発揮しますので、利用可能な場合には抵当権の設定を検討すべきでしょう。
抵当権の設定やその実行には、いろいろな手続きが生じますので、抵当権についてお悩みの方は当弁護士事務所までご相談ください。
当弁護士事務所では、抵当権に関する事案を数多く取り扱っていますので、お力になれると思います。
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【解決事例】 妻からの高額な慰謝料の請求に対し、円満に解決した事例
【相談内容】
Aさんは札幌市内の企業に勤める30代の男性です。妻のBさんとは結婚して5年ほどたちますが、子どもはおらず、2人暮らしをしていました。
ふたりの生活は結婚後しばらくは円満でしたが、次第にささいなことで口げんかをすることが多くなり、関係は悪化していきました。
そうしたなかで、Aさんはあまり家にいづらくなり、遅くまで残業をしてから帰宅することが多くなりましたが、あるとき、妻から、浮気をしているという疑いをかけられました。
Aさんはもちろん否定しましたが、妻にはなかなか納得してもらえず、まともな会話もほとんどできなくなりました。
そこで、Aさんが離婚を決意し、妻に離婚を切り出したところ、妻は離婚には応じるけれども、浮気の慰謝料を払うよう求めてきました。
Aさんは、浮気したことは全くなかったため、妻の言い分を否定し、慰謝料も支払いも拒みました。
しかし、Bさんは納得せず、ついには札幌家庭裁判所に離婚調停を申し立ててきました。その調停では、浮気を理由とする高額な慰謝料の支払いも求められました。
Aさんは、このような場合でも自分が慰謝料を支払わなければならないのかと不安になり、弁護士に相談することにしました。
【解決内容】
事情を確認すると、Aさんには浮気の事実はなく、Bさんが浮気を主張するはっきりした根拠はないようでした。帰宅が遅くなったAさんへの不信感などから漠然と疑っていた程度のように思われました。
今回、離婚自体はAさんから切り出しましたが、一般的に、離婚時に慰謝料の支払い義務が生じる場合は限定されています(詳しくは「慰謝料が発生する離婚、発生しない離婚」をご覧ください)。
仮にAさんが浮気を本当にしていれば慰謝料支払いは当然必要になりますが、そうではなく、お互いの性格の不一致や感情の行き違いから離婚になった場合、どちらが一方的に悪いというわけではありませんので、慰謝料を支払う必要はありません。これは、離婚をどちらが切り出したとしても変わりません。
ですので、Aさんとしては、浮気の事実はまったくないことをBさんと裁判所にわかってもらうことが重要となります。
この件では、Bさん側に浮気を疑うはっきりした根拠はありませんでしたので、もともと慰謝料が認められる見込みは低いといえました。
ただ、帰りが遅くなったことが不信感の理由のひとつと思われましたので、会社での残業代の明細や退勤時間などの資料を提出して、実際に会社に遅くまでいたために帰宅が遅くなったことを説明したりしました。
その結果、裁判所にも理解を得て、Bさんを説得してくれたためか、次第にBさんも納得してくれたようでした。
その後、最終的には、慰謝料の支払いは行わず、Bさんの今後の生活にも配慮して財産分与を多少Bさんに有利にする形で、円満に離婚が成立しました。
AさんもBさんも、お互いが納得する内容で解決ができ、すっきりした様子でした。
【コメント】
夫婦がお互いに離婚することには同意していても、離婚の条件をめぐって対立が深刻化することは少なくありません。
お子さんがいる場合には親権や養育費が問題になりやすいですが、そうでなくても、慰謝料や財産分与も大きな問題になります。
特に、離婚の場合には慰謝料を請求できるというイメージが広まってしまい、慰謝料が認められないようなケースでも慰謝料にこだわる方も見られます。
一方が浮気したかどうかで争う離婚事件は、感情的な対立も大きく、証拠の有無や内容をめぐって解決が長引くことも多いといえます。
この事例では、浮気を疑うはっきりした根拠や証拠がなかったことや、Aさんが資料の提出も含めてはっきりした対応を行ったため、裁判所や相手の理解を得られたことがスムーズな解決につながったのだと思われます。
当事務所では離婚事件の取扱いも多く、男性からの依頼も多く扱っています。
相手に離婚や金銭を請求する場合はもちろん、反対にそれらを請求されてしまい、対応に悩んでいる方のご相談も多く取り扱っていますので、お悩みの方は早い段階でご相談ください。
特に調停を起こされた場合や、相手に弁護士がついている場合には、素早い対応が重要となります。
なお、当事務所では、札幌市内だけでなく、北海道内各地からのご相談・ご依頼を受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
※事件の特定を避けるため、複数の事案を組み合わせたり、細部を変更するなどしていますが、可能な限り実例をベースにしています。
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【債権回収】 不動産競売手続き① ~土地・建物を差し押さえるには
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第13回です。
前回(債権差し押さえ ~売掛金や預金を押さえるには)は、差し押さえの種類の1つである債権差し押さえについて説明しました。
今回は、差し押さえの中でもよく知られている不動産の差し押さえがテーマです。
【不動産の差し押さえとは】
不動産というのは、土地や建物のことを指しますが、このような土地、家屋、マンションなどを取り上げて、債権回収を行うのが不動産の差し押さえです。
不動産の差し押さえは、その不動産に抵当権(担保)がついているかどうかで手続きが大きく異なります。
今回は、抵当権がない場合の手続きについてみていきます。
ところで、不動産差し押さえによってどのように債権回収するのでしょうか。
その土地や建物を債権者が自分のものにしてしまう、というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、そうではありません。
基本的には、相手の土地・建物を強制的に売却してしまい、その売却代金から債権を回収することになります。
その売却のために行うのが、「不動産競売」という手続きになります。
「競売」という言葉のイメージはご存じだと思いますが、要するに、購入希望者たちが自分が希望する購入金額を申し出て、その中で一番高い金額を申し出た方が実際に購入できる、という制度です。
事前にほかの購入希望者が申し出た金額は秘匿されていますので、結果が発表されるまでは誰が購入できるのか、購入金額はいくらであるのかは誰にもわからないことになります。
不動産競売は、相手の土地・建物をそのような競売にかけてしまい、購入者が支払った代金から債権の回収を行うのです。
【不動産競売の流れ】
そのような不動産競売手続きの流れを簡単に見ていきます。次の図をご覧ください。
主な流れとしてはこのとおりです。簡単に各項目を説明します。
①債権者が競売申し立て
まず、不動産から自分の債権を回収した債権者が、裁判所に不動産競売の申し立てを行います。
この際、判決書や裁判所で作成した和解所などの公的書類が必要になるのは他の差し押さえと同様です(「強制執行・差し押さえをするには ~その効果と必要なもの」をご参照ください)。
そのほか、その不動産に関する登録事項証明書や固定資産税評価証明書、地図などが必要となります。
また、一定の手数料がかかります。
②裁判所の競売開始決定
債権者の申立書や添付書類を確認し、裁判所が問題がないと認めれば、不動産競売を開始するとの決定を行います。
この時点で、その不動産の登記には差し押さえの登記がなされ、勝手な処分・売却等が禁止されます。
③現況調査・価格評価
競売開始決定のあと、裁判所の指示で、執行官がその不動産の現在の状態や権利関係を調査したり、不動産鑑定士が不動産の評価を行ったりします。
そのようにして行われた調査の結果は、書類にまとめられ、誰でも自由に閲覧することができます。
④入札・売却手続き
裁判所の調査が終わると、その不動産の最低売却価格などが決定され、競売手続きに移ります。
競売手続きでは、入札期間(購入希望者が購入希望額を申し出る期間)などを裁判所が決定し、公告します。
購入希望者は、裁判所に期間内に金額を届け出ます。
その後、各自の届け出金額を確認する日(開札期日)に各自の申出額が確認され、もっとも高い金額を申し出た方が購入者に決定します。
⑤購入者が代金納付
購入者に決定された方は、指定の期限内に代金を納付します。なお、代金は現金一括払いとなります。
代金納付により、その不動産は購入者の所有となります。
⑥配当手続き・配当金受領
代金が納付されると、その代金の分配手続きに移ります。
配当手続きでは、その債務者に債権を有する債権者が指定の期間内に、自己の有する債権額を届け出ます。
まず、競売にかかった費用や抵当権付債権、税金などが優先的に代金を受け取ります。
そこから残った部分を、他の債権者で、債権額に応じて分配します。
そこまで手続きが進んで、債権が無事に回収できたことになります。
以上が不動産差し押さえによる債権回収の流れになります。
この手続きの要所要所で状況を確認したり、書類を提出するなどの手続きが出てきますので、慣れてない方がご自分で行うには煩雑な部分も多いかと思います。
なお、ケースによってまちまちですが、競売の申し立てから配当金を受領するまでは、1年前後は見込んでおいた方がいいでしょう。
不動産競売は、時間もかかりますし、手続きもやや複雑になっています。
それでも、不動産は比較的発見が簡単であることや、まとまった金額で売却できることもあるため、不動産競売は事案によっては非常に効果を発揮します。
ですので、取引相手の所有している不動産情報を日ごろから確認しておき、いざというときには、それに対する仮差押えや競売手続きを直ちに実行することが効果的です。
なお、不動産の差し押さえには大きな留意点があります。それは、その不動産に売却価格以上の抵当権が設定されていた場合、差し押さえは無意味になってしまうということです。
差し押さえた不動産の売却後、抵当権者などが優先的に代金を受領しますが、その時点で余りがでなければ、抵当権を持っていない他の債権者には1円の配当もありません。
ですので、不動産の差し押さえを行う際には、その不動産に抵当権が設定されているかどうか、されている場合にはどの程度の金額であるのかが非常に重要となります。
それらの情報は、その不動産の登記からおおむね把握することはできますが、やはり普段から情報収集をしておくことが重要といえるでしょう。
次回は、その抵当権がある場合の不動産差し押さえについて説明します。
札幌の弁護士が債権回収を解説 【債権回収に関する実践的情報一覧はこちら】