【債権回収】 強制執行・差し押さえをするには ~その効果と必要なもの
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第11回です。
前回(裁判・訴訟による債権回収のメリット・デメリット)は、債権回収の場面で裁判を利用することのメリットとデメリットを取り上げました。
今回から、弁護士による債権回収のもっとも強力な手段である「強制執行/差し押さえ」について説明したいと思います。
強制執行や差し押さえという言葉は聞いたことがあると思います。
この強制執行、差し押さえは、債権回収の場面で非常に強力な制度です。債権回収にかかわらず、訴訟・裁判というものに重みが置かれているのは、この強制執行の制度があるからです。
今回は、その強制執行・差し押さえの概要と、それを実施するために必要なものについて説明します。
差し押さえにはいろいろな種類がありますが、それについては次回以降に取り上げます。
なお、強制執行と差し押さえは、基本的に同じ意味と考えてかまいません。このコラムでは、以後は差し押さえという言葉を使っていきます。
【差し押さえってなに?】
差し押さえとはどういう手続きをいうのでしょうか。
簡単にいえば、相手から強制的に財産を取り上げ、債権回収を行ってしまう手続き、ということになります。
具体例を見てみましょう。
あなたの会社が、100万円の売掛金を支払わない取引先に対して裁判を起こし、請求がすべて認められました。
しかし、相手は判決を無視し、支払いを行おうとしません。
あなたは、その取引先が、売れば200万円程度にはなる自動車をいつも事務所の駐車場に停めていることを知っています。
なんとかこの自動車から100万円を回収したいと考えました。どのような対応をしたらいいでしょうか。
裁判所が権利を認めたのだから、相手の事務所に押し掛け、この自動車を勝手に持っていけばいいだろう、という方もいるかもしれません。
しかし、これでは泥棒と同じです。実行すれば、窃盗犯として逮捕されてしまうでしょう。
裁判所が債権の存在を認めたとしても、このようなむりやりに金品を奪い取るような行為は違法です。債権を回収するどころか、相手から損害賠償請求をされてしまうだけです。
それではどうするかというと、自分で勝手に相手の財産を奪うのではなく、裁判所に取り上げてもらえばいいのです。
つまり、裁判所の許可を得て、裁判所の主導のもとに相手の財産を取り上げ、そこから債権を回収する。これが差し押さえという手続きです。
さきほどの例の場合は、裁判所に自動車を競売手続きにかけてもらい、他者に買い取ってもらいます。その代金の中から、100万円を優先的に受け取ればいいのです。
このように、差し押さえは、自分で勝手に行うのではなく、裁判所の許可を受けて、裁判所に手続きを進めてもらう必要があるのです。
【差し押さえに必要なものは?】
差し押さえを行えば、支払いを拒む相手からも、強制的に財産を取り上げ、支払いを受けることができます。
このように非常に強力な制度ですが、いつでも効果を発揮するわけではありません。使える場面、使うための条件があるのです。
差し押さえに必要なものは、大きく次の3つに分けられます。
- 権利を証明する公的文書(判決、和解調書、公正証書など)
- 差し押さえの対象となる財産の情報
- 裁判所の許可
順番に見ていきます。
1 権利を証明する公的文書(判決、和解調書、公正証書など)
差し押さえは非常に強力な制度です。そのため、これを利用するためには、差し押さえを行おうとする者が、間違いなくその権利を持っていることを証明する必要があります。
差し押さえをしてから、あれは間違いだった、ではすまないからですね。
ではどうやってそれを証明するかといえば、法律で、その証明書の種類が決められていますので、それを用意することになります。
代表的なものは、裁判所による判決書です。裁判の結果、裁判所が判決という形で、請求権があることを証明してくれます。その請求が認められた判決書があればよいのです。
また、同じように、裁判所で作成した和解調書・調停調書も利用できます。裁判や調停の中で、裁判所の仲介により、当事者が和解をして裁判を終わりにすることがあります。
その際に、裁判所が、和解の内容を取りまとめた和解調書・調停調書を作成します。これも判決書と同じ効力があります。
もう1つよく利用されるのが、公正証書という書類です。
これだけは裁判所を利用せずに作成できます。そのかわり、公証役場というところで、公証人という専門家の前で、当事者が合意して作成しなければなりません。
公正証書については別の機会に説明したいと思います。
これらの公的文書を利用して権利を証明することが、差し押さえの第1条件となります。
2 差し押さえの対象となる財産の情報
差し押さえは裁判所の許可を得て、裁判所の主導により行うと説明しました。
しかし、相手がどこにどのような財産を持っているかについては、裁判所は一切調査してくれません。すべて自分たちで調べるしかありません。
さきほどの例では、相手の事務所に高価な自動車があることが判明しましたので、これを差し押さえることにしました。
差し押さえを行う場合には、このように、「どこにある」「どの財産を」差し押さえてほしいのかを裁判所に説明しなければならないのです。
なんでもいいから差し押さえてほしい、では通用しません。
ですので、判決などを得て相手への債権があることが認められていたとしても、相手の財産が何も見つけられなければ、差し押さえを行うことはできないのです。
倒産しかかっている会社などを相手にする際には、そもそも財産が存在していなかったり、どこに財産があるかわからないため、差し押さえが不可能となるケースも少なくありません。
このような財産の情報は日ごろの取引の中で収集しておくことが必須といえます。
取引先がもし代金を支払わない場合、何を差し押さえたらいいかを把握していますか?見当もつかないのであれば、いざというときに一切回収できないかもしれませんよ。
どういった財産が差し押さえの対象となり、どのような情報が必要であるかは、次回から具体的に見ていきます。
3 裁判所の許可
いま見てきたような2つの条件をクリアした場合、それをもとに裁判所に差し押さえの申請を行います。
その際には、「このような判決書に基づいて」「相手の持っているこの財産をこのように差し押さえたい」という申し立てを行います。
差し押さえの申し立てには、必要な情報や添付すべき資料、手数料などを踏まえた細かい手続きが必要ですが、差し押さえの種類によって手続きや必要資料も異なりますので、専門知識のない方が自分で行うのは難しいでしょう。
また、どのような差し押さえの手続きを利用するかなどについては専門的な判断も必要になります。
【まとめ】
以上が、差し押さえという手続きと、差し押さえに必要なものの説明です。
差し押さえは債権回収の最後の手段ではありますが、そもそも債権回収を行う際には、常に差し押さえのことを念頭において手続きを進める必要があります。
たとえば、交渉の段階から、差し押さえのために必要な資料を集めておいたり、差し押さえに必要な情報を引き出しておくなどです。
そういった工夫により、最終的に差し押さえを行った場合の成功率が大きく左右されることになります。
当事務所ではさまざまな種類の差し押さえを数多く手掛けてきました。差し押さえを検討されている方は、遠慮なくご相談ください。
次回は、差し押さえの種類ごとの手続きについてみていきます。
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【債権回収】 裁判・訴訟による債権回収のメリット・デメリット
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第10回です。
前回(少額訴訟制度が効果的な場合・無駄な場合)や前々回(支払督促制度 ~デメリットに要注意!)では、簡単で素早い裁判制度についてみてきました。
これらの制度はうまく使えば便利である反面、弱点やデメリットが多く、効果的な場面が限定的であるという点を詳しく取り上げました。
今回は、本来の裁判・訴訟を使っての債権回収について解説していきます。
裁判や訴訟という言葉を知らない方はいないでしょう。裁判の経験がない方でも、おそらく、だいたいのイメージは理解されていると思います。
債権回収に限らず、法的トラブルは最終的に、裁判へと発展することが少なくありません。
ここでは、債権回収の場面において裁判を利用する場合の、メリットとデメリットを簡単に整理していきます。
【メリット】
まずはメリットからです。
Ⅰ 相手に裁判に応じることをほぼ強制でき、トラブルを解決することができる
裁判は、法的トラブルにおいて、もっとも強力で、最終的な手段です。
裁判を提起すれば、相手には裁判所から裁判日時の連絡と呼び出し状が送られます。裁判所からの呼び出し文書というのはかなりのインパクトがあるもので、これを無視できる人は多くありません。
しかも、裁判所からの文書には、裁判を無視して何もアクションを起こさなければ一方的に敗訴してしまう、と注意書きがなされます。裁判には応じなければペナルティが与えられることがあるのです。
そのため、これまで無視したり、誠実な協議に応じてこない相手に対しても、裁判を起こすことで態度を変化させることが強く期待できます。
なお、相手が裁判に応じてこないこともときおりありますが、裁判に応じないような相手・会社は、すでにそれだけの余裕すらないということで、事実上倒産状態と考えてよいでしょう。
そういった相手からの債権回収はほぼ不可能といえ、その場合には思い当たる強制執行を試した時点で、損金処理して終了という形にせざるを得ないでしょうが、それにより一つの区切りとすることができます。
このように、らちがあかない事態を解決する最終的な手段が裁判なのです。
Ⅱ 裁判所が相手に対して支払いを命じることで、回収が強く期待できる
債権回収トラブルのなかには、相手がそれなりの理由をつけて支払いを拒むケースもあります。もちろん相手の言い分にも一理ある場合もありますが、こちらから見れば通らない理屈を盾に支払いを拒んでいるにすぎないことも少なくありません。
そのような場合には相手を説得したところで、支払いに応じることは期待できません。
この場合、訴訟を提起し、裁判所に双方の言い分を聞いたうえで、公正な判断を示してもらうことが効果的です。
裁判所は、裁判の中で、お互いにとって良い解決案を提示してくれたり、相手を説得して支払いに応じさせることもしてくれます。
また、裁判所の仲介による話し合いもまとまらないときには、裁判所が判断を示し、請求側の言い分が正当と認めた場合には、相手に判決という形で支払いを命じてくれることになります。
このように、請求側の言い分が法律的に正当である限り、裁判所が相手に対して支払いを説得したり、命じたりしてくれます。
裁判所の命令には一定の拘束力がありますので、相手が支払いに応じる可能性は高く、非常に効果的といえます。
Ⅲ 判決を取得すれば相手の財産を差し押えることができる
相手が支払いを滞納していても、相手の財産を勝手に奪ったりするわけにはいきません。それでは犯罪になってしまいます。
このような場合、裁判所の協力を得て、裁判所に相手の財産を差し押さえてもらうしかありません。
そのような差し押さえ、強制執行を行うためには、通常、裁判所の判決書が必要となります。
そのため、相手にめぼしい財産があるときには、裁判を起こして判決を得ることで、その財産を差し押さえることができます。
相手方としても、差し押さえは避けたいと考えますので、自分から支払いに応じてくる可能性が高いといえるのです。
差押えの危険があるということが相手に対する強制力として働きますので、裁判を無視することはできないのです。
【デメリット】
次に、デメリットを見ていきます。
Ⅰ 裁判は時間と労力がかかる
裁判には、どうしても時間がかかってしまいます。裁判を起こしてから第1回目の裁判日まで約1ケ月はかかりますし、その後も、毎月1回程度のペースでゆっくり進んでいきます。
そのため、裁判を4,5回も行えば、すぐに半年が経過してしまいます。そんなにのんびり解決を待てない、という方も少なくないでしょう。
また、裁判には書類を作ったり、裁判所に出席したりという労力が必要です。慣れない方には、相当な負担が大きいといえます。
もっとも、相手が責任を認めているような場合には、裁判は1,2回で解決することも少なくありませんし、裁判を起こしただけで相手が支払いに応じてくる、というケースもあります。
また、弁護士に裁判の依頼をすれば、書類作成の大半は弁護士が行いますし、裁判への出席も基本的に必要ありません。
そのため、弁護士に依頼することも含め、事案ごとにどの程度のデメリットがあるかを検討する必要があるでしょう。
Ⅱ 裁判には費用がかかる
裁判を起こすには莫大な費用がかかる、ということがよく言われます。確かに、一定の費用がかかるのは事実であり、裁判を行っても回収がまったくできなければ、その費用がさらに無駄となってしまいます。
そのため、この点も裁判のデメリットといえます。
しかし、誤解が非常に多いところですが、裁判を起こすことに対する費用はそれほどでもありません。裁判を起こすときには、収入印紙を手数料として納める必要がありますが、その金額は相当低額となっており、100万円を請求する裁判で1万円の手数料、500万円の請求で3万円、1000万円の請求でも5万円の手数料がかかるだけです。
そのほか、切手代も必要ですが、普通は1万円もかかりません。
ですので、裁判を起こすための費用は、実はそれほどでもないのです。
では、なぜ裁判にはお金がかかると思われているかといえば、弁護士に依頼する費用がかかるため、そう言われるのだと思います。
確かに弁護士の報酬は決して安くはなく、仮に裁判で勝訴し、債権を回収できたとしても、弁護士費用は相手から回収することは認められていませんので、ある程度の費用が生じてしまいます。
もっとも、仮に債権の回収がまったくできなければ着手金程度しかかかりませんし、うまく回収できれば成功報酬を差し引いても十分な利益が得られることになります。
事案によっては、弁護士に依頼せずに裁判を起こすことも可能で、その場合にはほとんど費用がかからないといえますが、費用をかけてでも弁護士に依頼すべきケースもありますので、慎重にご検討いただく必要があります。
弁護士に依頼すべきかどうかは、「債権回収を弁護士に依頼するメリット・デメリット」もご覧いただければと思います。
債権回収で裁判を利用することの主なメリット、デメリットをご理解いただけたでしょうか。
このような点を検討していただき、裁判を選択するかどうかを決定することになります。
ただ、相手との協議がととのわない場合には、最終的には、請求をあきらめるか、裁判を起こすかしかなく、どうしてもその決断を迫られる時期が来ます。
裁判を起こすべきかお悩みの方や、裁判を起こすと決めたが手続きが不安であるという方は、ご相談のみでも結構ですので、お気軽にご相談ください。
ご相談は、お問い合わせのページをご覧のうえ、ご予約をお願いいたします。
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【債権回収】 少額訴訟制度が効果的な場合・無駄な場合
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第9回です。
前回(支払督促制度 ~デメリットに要注意!)は、支払督促制度について取り上げ、その中で、支払督促はデメリットが多く、普通の事業者や会社にとっては、あまり役に立たないことを見てきました。
今回は、支払督促と同様、早く簡単な裁判制度である少額訴訟制度を解説します。
前回も触れましたが、債権回収に関する本やサイトでは、支払督促と少額訴訟は、普通の裁判よりも簡単で素早く解決でき、大変有効であるように説明されていることが多いですね。
しかし、支払督促は前回述べたとおり、あまり役立つ制度ではありません。
では、少額訴訟はどうかというと、支払督促よりは有効な場面もあり、効果的に利用できる可能性はありますが、それでも利用できる場面は限られており、本やサイトで言われるほど便利なものではありません。
では、どういった場合に効果的で、どういった場合に無駄となるのでしょうか。
まず、少額訴訟制度とはどういった制度でしょうか。
普通の裁判と異なる特徴を挙げると理解しやすいと思います。主な特徴は、以下の3点です。
Ⅰ 60万円以下の金銭を請求する場合にしか利用できない
簡単な制度であるかわりに、利用できる金額に制限があります。1度に60万円までしか請求できませんが、たとえば50万円の契約が2つある場合などに、2つに分けて少額訴訟を利用することは可能です。事業者や企業で、裁判を起こすほどの問題であれば、請求額が60万円を超えていることも多く、この制限にひっかかる場合は相当多いでしょう。
Ⅱ 基本的に1度の裁判で解決でき、素早い解決ができる
少額訴訟制度のもっとも重要な特徴です。基本的に、1回の裁判で審理を終え、和解や判決により事件を解決することが予定されています。そのため、第1回目の裁判が終わるまでに必要な資料や証人などをすべて用意する必要があります。
Ⅲ 相手が少額訴訟制度の利用に反対した場合は利用できない
少額訴訟制度によって裁判を起こしても、相手が普通の裁判を希望すれば、必ず普通の裁判になってしまいます。ですので、相手が反対すれば少額訴訟は利用できません。これがこの制度の一番の問題点です。
このように、少額訴訟制度は、60万円以内の金銭請求に限り、相手が反対しなければ、原則1回の裁判でスピーディに解決を図る、という制度になります。
この制度は、特徴やデメリットを押さえたうえで利用すれば、非常に便利な制度といえるでしょう。
では、この制度はどういった場合に効果的に利用できるでしょうか。
それは、お互いが、弁護士を利用せずに裁判を行う場合にもっとも有効といえます。
利用できる金額が60万円以下ですので、基本的には、弁護士に依頼すると費用倒れになる事件が多いでしょう。ですので、利用する側は、弁護士に依頼せず、本人で裁判を起こすことが多いといえます。
また、ある程度資料がそろっており、必要な証人も簡単に集められる事件でなければなりません。
少額訴訟は第1回の裁判でほぼ終了しますので、複雑な事件や、関係者が多すぎる事件では利用できません。
また、第1回目の裁判までに証拠はすべて提出し、必要な証人を裁判のときに連れてくることも必要ですので、そういった準備が難しい事件では利用はしづらいといえます。
お互いが弁護士を利用しない場合、おそらく1回の裁判で早く決着をつけたいと考えるでしょうから、少額訴訟制度に反対する可能性も低いといえます。
ですので、こういったケースでは、少額訴訟が利用でき、それによって早期に解決できるでしょう。
それでは、反対に、少額訴訟制度が利用できない場合、利用しても無駄な場合はどういった場合でしょうか。
先ほどの裏返しで、相手が弁護士を立てるような事案では、まず少額訴訟の利用に異議が述べられるといっていいと思います。
実は、弁護士は一般的に少額訴訟による裁判を望みません。
少額訴訟は、簡易・迅速に解決するかわりに、正確性や慎重さを犠牲にしているといえます。一度の裁判で利用できる証拠のみで判断をしますし、普通の裁判では認められる判決に対する控訴も禁止されています。そのため、適正な解決を求める弁護士は抵抗を感じることもあります。
また、少額訴訟では第1回目の裁判までにすべての準備を行う必要がありますが、弁護士は事件の依頼を受けてから証拠を集めたり、事情を聴いて事件の内容を知りますので、第1回目までにすべての準備を行うのは困難といえます。
事件を直接体験した本人であれば、事前に準備はほとんどいらないかもしれませんが、事件を体験していない弁護士の方が準備に時間がかかるといえるでしょう(そのかわり、効果的な準備を行うのですが)。
ですので、相手が弁護士に依頼することが予想されるような場合は、少額訴訟制度を利用すると無駄に終わる可能性が高いといえます。
少額訴訟は、通常、1回の裁判で審理を行うために、当日までにすべての準備をするよう指示されるほか、裁判も2時間ほどの時間を確保しておく必要があります。
しかし、少額訴訟に異議が出て通常の裁判に移ると、第1回目の裁判は、5分や10分程度で終わります。
せっかくその日に証人などを連れてきても、通常の裁判では最初の裁判で尋問をやることはまずありませんので、その日に尋問は実施されません。
結局、その日のための準備が無駄になってしまうのです。
そういった事情を知らず、少額訴訟に異議が出たことに対し、準備が無駄になったと不満を言う方もいますが、そもそもそういう制度になっていますので、制度に対する理解が足りなかったということだと思います。
ちなみに、60万円以下でも弁護士がつく事件の代表は、交通事故です。
交通事故の場合、相手が任意保険に入っているのであれば、少額訴訟の利用はまったく無駄に終わるでしょう。
訴訟を起こすと、保険会社が弁護士を立てて対応しますので、少額訴訟に対してはすぐに異議が出てきます。
また、交通事故の場合は、お互いに損害が出ていることが普通ですので、相手からも相手の損害について裁判が起こされるケースが多いといえます。
少額訴訟制度では、相手から裁判を起こし返すことが認められていませんので、異議を出して通常の裁判にしてから裁判を起こし返してきます。
弁護士を依頼せず、交通事故賠償の裁判を起こす方はそれなりにおり、少額訴訟制度を利用する方も少なくありませんが、いま述べたような理由で、ほとんどの事件で少額訴訟に異議が出されていると思います。
ですので、交通事故の賠償問題では少額訴訟はあまり役に立たないということになります。
結局、少額訴訟は、60万円以下の請求で、弁護士を依頼せずにとにかく早く解決したい、という場合には便利といえます。
ただし、相手が弁護士を立ててくるような場合や交通事故事件では、あまり意味はないでしょう。
ちなみに、少額訴訟は、1人の人や1つの会社が起こせる回数に制限があり、1年間に10回までしか利用できません。
普通はこの回数を超えることはないでしょうが、一応注意が必要です。
このような制度の特徴やデメリットを押さえたうえで、利用を検討する必要がありますね。
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【債権回収】 支払督促制度 ~デメリットに要注意!
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第8回です。
前回(仮差押えのメリットとデメリット)まで、仮差押えなどの民事保全制度を見てきました。
今回からは、債権回収の正攻法である裁判による債権回収について解説します。
さて、皆さんは支払督促という制度をご存じでしょうか。
債権回収の本やサイトには、この支払督促という制度や少額訴訟という制度がよく取り上げられています。
普通の裁判よりもずっと簡単で素早く解決できる制度であり、非常に便利である、という形で好意的に取り上げられていることが多いと思います。
そのため、そのような情報をもとに支払督促や少額訴訟を利用して裁判を起こす、という方も多いようです。確かに簡単な手続きですので、弁護士に依頼せずにこれらを利用する方もめずらしくありません。
しかし、支払督促も、少額訴訟も、それが有効である場面は非常に限られています。特に、支払督促にはデメリットが多く、率直にいって、普通の事業者や会社にとってはほとんど役に立ちません。
事実、弁護士が債権回収を行う際に、支払督促や少額訴訟を使うことはほとんどありません。
なぜなら、支払督促も少額訴訟も効果が薄く、時間や労力を無駄にすることが多いからです。最初から普通の裁判を行った方が、ずっと効率が良いのです。
そこで、今回は支払督促について、次回は少額訴訟について、その実態を説明します。
支払督促というのは、非常に簡単で便利な制度であると言われます。
この制度は、裁判所に支払督促の申し立てを行うと、裁判所が簡単な書類審査だけで、相手に対して支払いの命令を出してくれるのです。
普通の裁判と違い、証拠を提出する必要もありませんし、裁判を開いたり、裁判に出席する必要もありません。
郵送で提出することもできるため、裁判所に行く必要すらなく、書式に沿って申立書を作成するだけで裁判所の命令が得られるのです。
しかも、裁判所に納付する収入印紙も、普通の裁判の約半分で良いことになっています。
簡単な手続きで、早く、安く支払い命令が得られる。それを使えば強制執行を行うこともできる。これが支払督促のメリットです。
しかし、実際にはこの制度はあまり役に立ちません。それどころか、かえって無駄が大きくなることが通常です。
なぜなら、以下のような大きなデメリットがあるからです。
Ⅰ 相手から異議を出されると支払督促は無効となってしまう
支払督促は、簡単な手続きで支払い命令を出してくれます。しかし、あまりに簡単な手続きすぎて、証拠も確認せず、相手の意見も聞きません。
そのため、支払督促を受けた相手方は、支払督促を受けてから2週間以内に、裁判所に「異議」を出すだけで、支払督促を無効とすることができます。
この「異議」には理由も何もいらず、ただ、「異議がある」と回答するだけで支払督促は無効になってしまいます。
しかも、裁判所は、支払督促を送付する際に、異議の出し方や書式などを説明する文書を同封します。支払督促を受け取った相手は、特に何も反論することがなくても、ただ異議を出すだけで支払督促を無効にして、時間を稼ぐことができます。
そのため、支払督促には異議を出すのがむしろ通常といってもいいかもしれません。
Ⅱ 異議が出されると普通の裁判に移行してしまう
支払督促に異議が出されると支払督促がただ無効となるだけではありません。そのまま、自動的に普通の裁判に移ってしまいます。
そうすると、せっかく簡単な手続きであると思って支払督促をしたのに、普通の裁判と同じように、証拠をしっかりと整理して提出し、足りない収入印紙を追加で支払い、裁判を開く日時に出席して、判決が出るまで裁判を続けていかなければなりません。
これを行わなければ、裁判が却下されたり、請求が認められなくなります。しかも、裁判は嫌だからと取りやめたとしても、すでに納付した収入印紙や使った切手代は戻ってきません。
さきほど、支払督促には異議が出されるのが通常ともいえる、と指摘しましたが、異議が出るとこのように普通の裁判となってしまいますので、それなら最初から普通の裁判を起こした方が書類の提出や印紙の納付が一度で済んで効率的ではないでしょうか。
Ⅲ 支払督促では、かえって時間や費用を無駄にしてしまう
さきほどの点とも関連しますが、支払督促に異議が出ると普通の裁判に移行してしまいますが、実は、最初から普通の裁判を起こすよりもかえって不利になってしまう点があるのです。
支払督促を起こした場合、相手は2週間以内に異議を出せばよいですが、異議が出た時点で普通の裁判に移行します。それから裁判を始めることになりますので、実は、最初から普通の裁判を起こした場合よりも、裁判が開かれるまでの時間が長くなってしまいます。つまり、素早く解決しようと支払督促を利用したのに、最初から普通に裁判を起こした方が解決が早かったということになってしまうのです。
そして、もっと重大な問題があります。それは、支払督促後の裁判は、必ず相手の住所近くの裁判所で開かれるという点です。
実は、普通の裁判を起こす際には、通常、裁判を起こす原告の住所に近い裁判所で裁判を起こすことが認められています。しかし、支払督促に異議が出された場合の裁判では、相手の住所近くの裁判所で裁判を行うことになってしまうのです。
たとえば、こちらが札幌市、相手が釧路市に会社があるとします。こちらから普通の裁判を起こす場合、札幌簡易裁判所に起こすことができます。しかし、支払督促を申し立て、異議が出された場合には、相手の住所である釧路簡易裁判所で裁判が開かれますので、裁判のたびに、釧路まで出向く必要があるのです。
これでは、時間、労力、交通費などの負担がどれほど大きくなるかわかりません。
支払督促には、このような大きなデメリットがありますので、弁護士がこれを利用することはほとんどありません。
確かに、相手が異議を出さなければ簡単に支払命令が得られます。ですので、相手が異議を出さない見込みがあるのであれば、支払督促を利用すれば便利といえます。
しかし、事前に相手との交渉が難航している場合には、異議を出してくるのが当然です。また、相手に何も文句がなくても、時間を稼ぐためだけに異議を出す場合もあります。異議を出すには、ただ「異議がある」という書面を提出すればよく、手数料も何もいりませんから、普通は異議を出さない理由がないでしょう。
ですので、支払督促を起こす場合には、異議が出された場合を常に念頭においておき、前述したⅠⅡⅢのデメリットを考慮して、本当に支払督促を起こすべきか、普通の裁判を起こすべきでないか、を慎重に考える必要があるのです。
ちなみに、それではなぜ支払督促という制度が存在し、実際に利用されているのでしょうか。
実は、支払督促の多くは、信販会社や消費者金融、電話会社など、非常に多くの顧客に対して滞納金を請求する業者によって利用されています。
これらの会社は、毎月膨大な数の訴訟手続きを起こします。数も多いため、中には、支払督促に異議も出さない人も一定数含まれます。ですので、支払督促を利用すれば、そういった裁判を無視する人に対しては低いコストで支払い命令を得ることができるのです。
もし異議が出されても、これらの業者ではどの顧客に対する裁判もほぼ定型的なものですし、手続きにも慣れていますので、たいした労力もかかりません。
こうした日常的に定型的な裁判を起こす会社にとっては支払督促は便利といえるでしょう。
しかし、普通の会社や個人にとっては、前述したようなデメリットの方が大きいのではないでしょうか。
以上が支払督促の説明です。
冒頭にも取り上げましたが、債権回収の本やサイトでは、支払督促が便利な制度であると紹介されていることが多いようですが、それは実態を知らない意見だと思います。
実際には、支払督促にはデメリットが多く、あまり役に立つことはありません。
利用される場合には、必ず、相手が異議を出した場合にどう対応するのか、ということまで考えて行う必要があります。異議が出されても構わない、という場合に限って、便利に利用できる制度ということです。
次回は、少額訴訟制度について詳しく見ていきます。
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【債権回収】 仮差押えのメリットとデメリット
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第7回です。
前々回(仮差押え・仮処分 ~緊急に相手の財産を凍結する方法)では仮差押え・仮処分の概要とメリットを、
前回(仮差押えの手続きの流れ/仮差押えに必要なもの)では、債権回収時の強力な手段である仮差押えの流れや手続きを、説明してきました。
ただ、仮差押えは少し難しく、理解しづらい面もありますので、今回はそれらのまとめとして、仮差押えのメリットとデメリットを簡単に整理しておきます。
【メリット】
Ⅰ 素早く実行することができ、緊急時に効果を発揮できる
これが仮差押えの本来の効果です。裁判を起こして判決を得るまでには、数カ月程度はかかってしまいます。
しかし、その間に相手の財産がほかの支払いにあてられてしまったり、隠されてしまう危険があります。
それを防ぐために、緊急に相手の財産を凍結し、あとから回収できるように確保しておくことができるのです。
スムーズに進めば1週間程度で実行できますので、緊急事態に絶大な効果を発揮します。
Ⅱ 相手への大きなインパクトを与えることができる
仮差押えは、裁判所の命令によって、相手の財産を強制的に凍結する手続きです。
これまで請求を無視したり、あれこれ理由をつけて支払いを拒んでいた相手は、裁判所の仮差押えを受けたことにより大きな危機感を覚えます。
しかも、相手の財産が実際に凍結されるわけですから、資金繰りなどに対する打撃も大きいものとなります。
そのため、通常の請求や内容証明郵便などに比べても、圧倒的なインパクトを与えることができます。
Ⅲ 相手と有利に交渉でき、回収率を高めることができる
さきほどのⅡとも関連しますが、仮差押えによって、相手への大きなインパクトを与えることができます。
これを受けた相手は、仮差押えによる凍結を解いてもらうために、請求者と必死に交渉しなければならなくなるでしょう。
そのため、相手は仮差押えを取り下げてもらうために、これまでよりもこちらに有利な条件を提示してくることになります。
仮差押えを行った事例では、それを実施した直後に、相手からすぐにまとまった金額を支払うとか、担保を提供するという申し出がなされることも少なくありません。
それに応じて代金の大半を支払ってもらったり、確実な担保を受けることで、早期に債権を回収できる可能性が高まるのです。
【デメリット】
Ⅰ 専門的な知識と経験が必要であり、手続きが難しい
仮差押えは、通常の裁判と比べて手続きが複雑です。書類審査により迅速に判断がなされる、という特性があり、口頭での説明や証人による証明ということは基本的にできません。
必要な資料を素早く用意し、申立書を作成して、請求の法的根拠やそれを証明する証拠を過不足なく説明する必要があります。
必要資料や裁判所が求める情報を把握するには豊富な経験が必要となり、この分野を得意とする弁護士に依頼しなければ、スムーズな仮差押えは難しいといえます。
Ⅱ 保証金を用意する必要がある
仮差押えは、臨時の手続きであるため、あとからその手続きが間違いであったと判明したときに備えて、保証金を法務局に預ける(供託する)必要があります。
保証金の金額は、請求額の2,3割となる事例が多いですが、それを現金で用意し、手続きが終わるまで預けておかなければなりません。
ですので、資金繰りが逼迫しており、保証金が用意できないという場合には利用できないこともあります。
Ⅲ 回収前に相手が倒産してしまうと効果が失われる
仮差押えの最大の問題点が、実際に債権回収する前に相手が破産してしまうと、仮差押えが無効となってしまう点です。
仮差押えは、相手の財産を一時的に凍結するのみで、その時点ではこちらが現金を回収できるわけではありません。
仮差押え後に、相手と交渉して実際に支払いを受けるか、正式裁判を起こして判決を得て、判決に基づいて強制執行を改めて行わなければ現実に回収することはできません。
しかし、仮差押え実施後、実際に支払いを受ける前に、相手が破産や民事再生などの法的整理をしてしまうと、仮差押えが無効となる結果、回収ができなくなってしまうのです。
ですので、仮差押えを行う場合には、相手が破産や民事再生に陥る前に、現実に支払いを受けることを最優先に考える必要があり、それを常に念頭において相手との交渉を行う必要があります。
以上が仮差押えのメリット、デメリットの整理です。
デメリットで指摘したような問題点もありますが、それを差し引いても、仮差押えによって得られる効果は絶大です。
仮差押えを適切に利用することで、これまで回収できなかった債権をうまく回収できたケースを何度も経験してきました。
債権の回収率アップには欠かすことのできない制度といえるでしょう。
当事務所では仮差押えを利用した債権回収を得意としていますので、債権回収でお悩みの方は、ぜひご相談ください。
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【債権回収】 仮差押えの手続きの流れ/仮差押えに必要なもの
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第6回です。
前回(仮差押え・仮処分 ~緊急に相手の財産を凍結する方法)は、仮差押えや仮処分といった民事保全制度について概要を説明しました。
裁判を起こしている余裕のない場合に、臨時に相手の財産を一時凍結し、その間に裁判や強制執行を行っていくというのが仮差押えという制度の意義でした。
今回は、その仮差押え制度を行う具体的な流を取り上げます。
前回と同様、簡単な具体例を挙げます。
依頼者がX社、取引先の相手がY社とします。X社は、Y社に500万円の売掛金を請求していますが、Y社は支払いにまったく応じてくれません。そこで、X社はY社に裁判を起こし、裁判所の判決をもらって、Y社の財産を差し押さえようとしています。
Y社は、Z社から2週間後に商品の販売代金として700万円の支払いを受けることになっています。X社は、これを差し押さえたいと考えていますが、裁判をやっていては、2週間後の支払日にはとても間に合いません。
そこで、このZ社からY社への支払いを凍結させ、Y社の手元に入らないようにして時間を稼ぎ、その間に判決を得て正式な差し押さえを行うことにしました。
この、Z社からの支払いを凍結するのが、前回説明した仮差押えという制度です。
では、実際に仮差押えを行う流れを見ていきます。
仮差押えを行うために最終的に必要になるのは、①裁判所の許可と、②保証金の2つです。
仮差押えを行うには、裁判所に許可をもらい、仮差押えの決定書を受け取る必要があります。
そして、裁判所の許可を得て、仮差押えを実際に行うためには、裁判所が命じる保証金を法務局に預ける(供託する)必要があります。
さきに②保証金の供託を説明します。
通常、正式な裁判を起こし、判決を得たあとに強制執行をする際には、このような保証金は不要です。これは、裁判所の判断が正式に出されており、判決には強い効力があるからです。
しかし、仮差押えの決定書にはそこまでの効力はありません。あくまで臨時に、緊急に審査を行って判断した結果であり、「仮」の差し押さえでしかないからです。そのため、あとから正式な裁判を行った結果、仮差押えを認めた判断は間違いであった、という事態も起こるのです。
そのように、仮差押えがあとから間違いと判断された場合には、債務者であるY社は間違った仮差押えのせいで大きな損害を受けてしまうことになります。そういった場合に備えて、Y社への賠償を確実に行わせるために裁判所は保証金の供託を命じているのです。
ですので、仮差押えがあとから無効とされた場合には、その保証金から相手への賠償を行わなければならないこともあるのです(保証金で足りない場合には、それ以上の賠償も必要です)。
もっとも、実際には仮差し押さえの審査も厳密に行われており、あとからそれが間違いであったと判断されるケースは多くありませんし、経験上、実際に相手へ賠償するケースはほとんど見かけません。
この保証金の金額は、仮差押えの種類や証拠の充実度によって違いますが、仮差押えで凍結する財産額の2,3割程度になることが多いでしょう。
さきほどの500万円を請求する場合の例では、100万円から150万円程度が一応の目安です。
この保証金は、あくまで預けるだけですので、あとから仮差し押さえが無効とならない限り、手続き終了後に全額返還されます。ただし、返還までには数カ月程度かかることもありますので注意が必要です(複雑な事案などでは1年以上かかることもありますが、例外的です)。
このように、仮差押えを行う際には保証金の準備が必要となります。
次に、①裁判所の許可を得る方法です。
仮差し押さえは緊急に相手の財産を一時凍結する制度ですので、本来の裁判に比べると、圧倒的に素早く判断がされます。早ければ、申し立てをした翌日に裁判所の許可が出ることもあるほどです。
そのかわり、そのような素早い判断でも裁判所を説得できるだけの資料が必要になってきます。
仮差押えの判断は、基本的には書面審査のみです。必要な証拠書類がそろっていればスムーズに許可を得ることもできますが、基本的な資料が存在しない場合には、仮差押えは非常に困難です。
たとえば、商品を販売し、その代金を回収したいという場合には、①売買契約書、②納品書(受領書)、③請求書といったものが基本的な資料になります。
このような資料が一切なく、いつ商品を納めたか、いくら支払う約束になっていたのか、などを証明する書類がまったく存在しない場合には、そのままでは裁判所を説得するのはほぼ不可能です。
このような場合、たとえば、相手先に出向いて、確認書や支払確約書などを作成してもらい、代金支払義務を認める書類を作成するなどの工夫が必要になってきます。
そういった工夫でなんとか解決できる場合も多く、早めに相談していただければ、準備を行う時間も確保できることもあります。
しかし、ギリギリの時期に相談にいらっしゃった場合や、そもそも相手と代金額をはっきり取り決めていないような場合などには、仮差押えの実施が不可能となってしまう場合もあります。
仮差押えを行う際には、そういった基本的資料の確認がもっとも重要といえるでしょう。
もっとも、資料さえあればいいというわけではありません。
裁判所を説得し、仮差押えを認めてもらうためには、「申立書」を作成する必要があります。
その申立書では、①どのような法律的根拠に基づいて相手への請求権を持っているのか、②どの証拠からその請求権があることを証明できるのか、③相手方との交渉経過や仮差押えを認めるだけの必要性はどのようなものか、といった点を過不足なく整理しなければなりません。
通常の裁判であれば、口頭で説明を補足したり、あとから資料を提出したりもできますが、仮差押えの場合には、口頭での補足ではなく書面ですべてを説明する必要がありますし、資料の追加などをやっていては間に合わないケースもあります。
そのため、仮差押えや仮処分の申し立ては、弁護士に依頼せずに行うのは極めて困難といえます。
その申立書と証拠となる資料を裁判所に提出し、書類審査の結果、裁判所が申立書の言い分を認めてくれると、仮差押えの許可を得ることができます。あとは前述した保証金を法務局に供託すれば、仮差押えが実行され、財産凍結が行われるのです。
そして、その仮差押えが成功したのを確認したのちに、相手方と改めて交渉を行うか、正式な裁判を起こして相手の財産を実際に回収してくのです。
以上が仮差押えの流れです。
当事務所では、数多くの仮差押え・仮処分を行い、認められてきた経験がありますので、どういった資料が必要か、どういった説明があれば裁判所が認めてくれるのかを熟知しています。
そのため、ご相談を受けた時点で、仮差押えが可能であるかどうか、どういった資料が必要かなどをすぐに判断することができます。
実際の申立書の作成も、必要資料さえそろっていれば数日で行うことも少なくありません。
こういった素早く正確な対応をできる弁護士事務所は決して多くないでしょう。この分野を数多く手掛けてきた当事務所ならではといえるかもしれません。
債権回収、特に仮差押えは時間との戦いです。
お悩みの方は、すぐにご相談ください。相談のご予約は、こちらのお問い合わせのページをご覧のうえ、お願いいたします。
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【債権回収】 仮差押え・仮処分 ~緊急に相手の財産を凍結する方法
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第5回です。
前回(内容証明郵便の送り方・具体例)まで、もっとも基本的な債権回収の手段である内容証明郵便について取り上げました。
今回は、債権回収法の中でもきわめて強力な威力を発揮する仮差押え・仮処分について解説します。
X社に、まったく代金を払ってくれない取引先Y社があるとします。いつもお金に余裕がない、というだけで、支払われるめどが立っていません。
そんな中、相手方が大手取引先Z社から、月末にまとまった金額の入金を受けることが判明しました。
相手の財産として確実なものはこれしかありません。相手は、その中から支払いを行うといっていますが、これまでの対応からは信用できません。
そのため、相手がこのお金を手にしてしまうと、もう回収がほぼ絶望的になってしまいます。この緊急事態、どう解決したらいいでしょうか。
支払いに応じない相手から強制的にでも債権を回収するには、相手に訴訟を起こし、裁判所からの支払い命令である判決を得ます。
その判決にもとづいて、相手の財産に差し押さえなどの強制執行を行い、そこから債権を回収します。
これが正攻法となりますが、裁判を起こしてから判決を得て、強制執行を実施するまでには、どんなに早くても数カ月がかかります。
相手がそれなりの反論を行って来れば、半年以上かかってしまうかもしれません。
さきほどの事例のような場合、相手が月末の入金を受け取ってしまえば、その後、回収の見込みはありません。しかし、裁判をやっていては月末に間に合うはずもありません。
かといって、相手がもらうはずのお金を実力行使で奪い取っていくこともできません。それをすれば犯罪になりかねないでしょう。
このような緊急事態、つまりのんびり裁判をやっていては手遅れになってしまう、という場合のための制度が用意されているのです。
それが、民事保全という制度です。一般的には、仮差押えや仮処分、という言い方をすることが多いでしょう。
この民事保全が、さきほどのような事例ではきわめて効果的なのです。
では、民事保全、ここでは仮差押えを取り上げますが、この仮差押えを利用すれば、どのような効果が得られるのでしょうか。
さきほどの事例では、相手方Y社が大手取引先Z社から受け取る予定の売掛金を、仮差押えしてしまいます。
売掛金を仮差押えするとどうなるかというと、Z社は、Y社に対して、売掛金を支払うことが禁止されてしまいます。
Z者は、その売掛金を支払わずに手元にお金を残したままにしておくか、法務局に供託するという対応をするしかないのです。
このような、「当面の間、相手に対して売掛金を支払うのを禁止します」という命令を裁判所から出してもらう制度が、仮差押えというものです。
そして、仮差押えによって支払いを止めさせている間に、X社はY社に対して訴訟を提起し、判決を取得すればいいのです。何か月かかっても、場合によっては1年以上かかっても、その間、売掛金の支払いは止まったままとなります。
ですので、ゆっくり判決を取得して、正式な強制執行を行うことができるのです。
仮差押えの手続きは、裁判所の許可を得て行います。裁判所が仮差押えを認めた場合、その大手取引先Z社(法律的には「第三債務者」と呼びます。自社と相手方とは違う、第三者という意味です)に対して、裁判所から次のような命令書が届きます。
債権者の債務者に対する上記請求債権の執行を保全するため,債務者の第三債務者に対する別紙仮差押債権目録記載の債権は,仮に差し押さえる。
第三債務者は,債務者に対し,仮差押えに係る債務の支払をしてはならない。
これだけでは意味がわからないと思いますが、ポイントは、一番最後にある、「仮差押えに係る債務の支払いをしてはならない」という部分です。
このような命令が第三債務者(Z社)に送られ、Z社はこれに強制されます。
もし、この裁判所の命令を無視して代金を支払った場合、なんとその支払いは無効と判断されます。つまり、支払ってないことにされてしまうのです。
この場合、Z社がY社に代金を払ってしまっても、それはなかったことにして、X社に対してもう一度払うように請求できてしまうのです。結局、Z社は、X社とY社に二重払いしなければならないのです。
そのため、仮差押えを受けた第三債務者は絶対にこの命令に従わなければなりません。
このように、裁判を起こしていては、相手の財産がなくなってしまう、後から判決を取得しても意味がなくなってしまう、という場合に、緊急手段としてその財産を凍結し、そのまま残しておくというのが仮差押えという制度なのです。
そして、本来、仮差押えをして凍結した財産を回収するには、その後に裁判を起こして判決を得る必要があります。
しかし、実際には、もっと簡単に解決してしまうことも多いのです。
なぜかといえば、仮差押えは、相手方にとって致命的な打撃を与えるからです。相手は、あてにしている売掛金が、突然、凍結されてしまいます。もともと支払いを滞納し、資金繰りに困っている相手方ですから、それが突然入ってこないことになれば、仕入れ代金や従業員の給料などの運転資金も不足してしまう危険が大きいでしょう。
そうすると、相手方としては売掛金が凍結されたまま放置しておくことはできません。一刻も早く、凍結を解いてもらいたいと思うでしょう。
そのため、ここで相手方との間で、きわめて有利な交渉を行うことができるのです。
具体的には、凍結を解く代わりに、そこから滞納代金の大半を支払ってもらう、という交渉を行うことができます。
本来、仮差押えを行う側(X社)としても、凍結した財産を回収するには裁判を起こし、判決をとる手間と時間がかかってきます。
しかし、相手が話し合いに応じて支払ってくれるのであれば、そのような手間は不要になります。
ですので、凍結した財産をお互い分配することにして、仮差押えを解除する、という協議が成立しやすいのです。
この方法がスムーズにいくと、仮差押えを行ったあと、数日で代金の大半を回収することも不可能ではありません。
依頼を受けてから最速で対応すれば、準備が整えば、仮差押えを数日で行うこともできます。
そうすると、依頼を受けてから1,2週間で代金の回収ができる、ということすらあるのです。
これが仮差押え、民事保全という制度です。
民事保全が非常に強力な制度であることをご理解いただけたのではないでしょうか。
もっとも、この民事保全は簡単に利用できるものではありません。裁判所の許可をスムーズに得るには相当の知識と経験が必要ですし、民事保全には利用の障害になるデメリットもあるのです。
そのあたりについては、次回以降に説明したいと思います。
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【離婚】 住宅ローンが残っている場合の財産分与はどうしたらいい?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第21回です。
前回(離婚したら夫の債務の保証人から抜けられる?)までは、離婚の際の借金問題や保証人問題を見てきました。
今回は、それらと重なる部分もありますが、大きな問題となりやすい住宅問題・住宅ローン問題を取り上げます。
結婚し、住宅ローンを組んで自宅を持つ、というのは多くの夫婦が経験していることでしょう。
しかし、離婚時には、この住宅の処理をめぐって協議が難航する場面をよく目にします。
なぜこの問題が難しいかといえば、住宅の場合には、夫婦ともに所有名義を持っていたり、夫婦ともに債務を負っていることが多いからです。
住宅を購入する場合、夫が自分名義でローンを組み、自分名義で所有権登記を行う、というケースもあるでしょう。
これに対し、所有権を夫婦で2分の1ずつ共有名義にしている場合もあります。
ローンについても、夫婦ともにローン契約を締結している場合や、夫の住宅ローンを妻が連帯保証している場合もあります。
こういった場合、離婚しても所有名義や債務、保証人が自動的に解消されることはありませんので、その点をはっきりと処理する必要があるのです。
では、法律上、このような場合の財産分与はどのように扱われているのでしょうか。
実は、ローン付き住宅に関する処理の方法は、住宅の現在の価値と、現在のローン残額との関係によって、大きく2つに分けて考えなければなりません。
1つ目は、住宅の価値(今、売却したらいくらの値がつくか)が、ローン残額を上回っている場合です。
2つ目は、反対に、ローン残額が住宅の価値を超えており、いわゆるオーバーローン(住宅を売却してもローンが残ってしまう状態)の場合です。
それぞれ、処理の方法が大きく異なりますので、順番に解説していきます。
Ⅰ 住宅の価値 > ローン残額 の場合
たとえば、今、自宅を売却すれば2000万円で売れるのに対し、ローン残額が1200万円であるとします。
この場合、住宅の価値がローン残額を上回っていますから、もし自宅を売却してローンを返済すれば、手元に800万円の現金が残ります。
そうすると、この住宅には、現在800万円分の価値があると考えることができます。
あとは、この住宅が800万円分価値があるとして、原則として2分の1ずつ分配すればいいのです。
分配方法する具体的な方法は、たとえば、住宅を売ってしまうという方法があります。
離婚するとどちらかが自宅を出て行くことになりますので、お互いが自宅を離れ、売却してしまうことは珍しくありません。
この場合、売却してローンを完済し、現金800万円を2人で400万円ずつ受け取れることになります。
では、自宅を手放さず、維持してどちらかが住み続ける場合にはどうなるのでしょうか。
たとえば夫が住み続ける場合を考えると、夫は、800万円の価値がある自宅を1人で利用できることになります。そうすると、普通は所有権の名義も夫1人のものにするでしょう。
しかし、本来はこの自宅の価値は半分ずつ夫婦が取得できますので、夫は、妻に対し、400万円分を支払わなければなりません。
さきほどの自宅を売却する場合と異なるのは、自宅を売却した場合には実際に手元に入る現金を分ければいいのに対し、自宅を維持する場合は、ほかからお金を用意しなければならないという点です。
夫に全くほかにお金がない、という場合にはその金額を受け取ることが難しくなりますので、分割払いをして公正証書を作成するなど、お金を確保する方法を考えなければなりません。
またこの場合、住宅ローンも残り続けることになりますが、もし夫がローンを滞納して自宅が競売にかけられたとしても、結局、売り値の方がローンより高くなりますので、妻に支払いの請求が来る可能性は低いといえます。
これが自宅の価値がローン残額よりも高い場合の処理方法です。
Ⅱ 住宅の価値 < ローン残額 の場合
たとえば、自宅をいま売却すると1000万円で売れるけれども、ローン残額が1500万円あるという場合です。これがオーバーローンという状態です。
この場合、財産分与の判断では、この自宅に経済的価値がないと判断されます。なぜなら、いま売却してもすべて銀行にローンとして代金を持って行かれてしまい、手元には全くお金が残らないからです。つまり、まだ自宅は自分たちの財産になっていない、ということです。
この状態で、自宅を手放す場合を考えてみます。
自宅を売却した場合、売値は1000万円になりますが、ローンが1500万円ありますので、その代金はすべてローン返済にあてられるのが通常です。そうすると、自宅を売ってもまだ500万円のローンが残ります。
このローンをどうするか、という問題は財産分与の問題ではありません。
これは、「負債がある場合の財産分与はどうすればいいの?」で既に取り上げましたが、借金については、財産分与の対象とならず、各自がそのまま責任を負うということになります。
ですので、ローンを組んだ名義人や、保証人は、そのまま責任を負うということです。
この場合、離婚したから半分にしてほしいとか、保証人から外してほしいとかいうことも基本的にはできません。
離婚後はどちらが支払っていくかを協議したり、あるいは、支払えないため破産などの方法で解決するかを検討することになります。
反対に、自宅を維持する場合を考えてみましょう。
夫が自宅に残り、妻が出て行く場合を考えます。この場合も、住宅には価値がないことになりますので、財産分与の対象とはなりません。
そのため、さきほどの場合と同様、夫婦間でお金のやり取りはなく、ローンや保証人もそのまま、ということになります。
ただ、この場合、夫は自分が住む住宅のローンを払うのに対し、妻にはメリットがないまま、ローンの支払義務が残るというのは不公平な感じがします。
そこで、このような場合、前回の「離婚したら夫の債務の保証人から抜けられる?」で取り上げたような、保証人から抜ける方法をとるのが通常でしょう。
もちろん、結果的に保証人から抜けられないケースもありますが、できる限り、この点について協議を行っていくことになります。
以上が、ローンつき住宅がある場合の解決法です。
なお、どちらのケースでも、もともと夫婦が2分の1ずつ共有名義であった自宅を、離婚後もそのままにしておくケースも見かけます。特にオーバーローンとなっている場合に、そのままにしておくことがあるようです。
しかし、共有名義のままにしておくと、いずれこの自宅を売却する際に両方の同意が必要になってしまい、トラブルが生じるおそれがあります。
離婚後もお互いの連絡がついている場合はいいですが、離婚後、一切相手との関わりがなくなってしまったような場合、この共有名義の住宅を売ろうとしても手続きができない、ということが起こりえます。
そのため、いまは困らないからといってそのままにしておくのではなく、不動産の名義はどちらか1人のものにしておくことをお勧めしています。
住宅問題は財産分与の中でも非常に複雑で難しい問題です。
今回取り上げたのは典型的なケースですが、実際には、たとえば夫と妻の父が共有名義になっているとか、土地と建物で名義が違うなど、より複雑な処理が必要な場合もあります。
ローンや登記の仕組みなども理解しないと適切な処理が難しい分野ですので、離婚時の住宅問題でお悩みの方は、弁護士に一度相談された方が頭の整理ができると思いますよ。
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【債権回収】 内容証明郵便の送り方・具体例
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第4回です。
前回(内容証明郵便の特徴・使い方)では、内容証明郵便の特徴や使い道について解説しました。
今回は、具体的にどういった内容の文面を作成するかを具体例・見本も挙げて説明したいと思います。
内容証明郵便は、1行の文字数や1ページあたりの行数、使える文字・使えない文字がすべて定められており、その書式に従う必要があります。
書式に従っていないと、訂正を求められたり、差出ができないことがあります。
書店などに内容証明用の原稿用紙も販売されていますので、そういったものを使う方が確実かもしれません。
また、内容証明郵便は、郵便局に持参して発送する必要があり、ポストでは差出ができません。パソコンから送れる電子内容証明もありますが、事前の登録が必要であり、定期的に利用する方以外には向いていないでしょう。
そのため、慣れていないと意外に手間がかかってしまうかもしれません。
そういった書式上の注意点などは、郵便局のサイトをご覧ください。
では、本題に入ります。まず、1つ具体例を挙げましょう。
滞納している家賃を払ってもらう場合の文例です。
札幌市中央区○○○○
借主 太郎 殿
平成24年11月1日
札幌市豊平区○○○○
貸主 花子 印
通知書
私は、貴殿に対し、平成23年9月1日以来、毎月の賃料を月6万円と定めて、札幌市中央区○○○○の建物を賃貸しております。しかしながら、貴殿は、平成24年7月以降、一切の賃料を支払っておらず、同月から平成24年10月までの賃料合計24万円の支払いを滞納しております。
つきましては、上記24万円の支払いを請求しますので、本書面到達後、7日以内に全額をお支払下さい。
万一、上記期間内に支払いがないときは、本書面をもって賃貸借契約を解除し、直ちに、札幌地方裁判所へ建物の明け渡し及び賃料の支払いを求める訴訟を提起いたしますので、ご了承ください。
実際には建物の特定や契約内容をもう少し詳細に書くこともありますが、この程度でも十分でしょう。
このような文例で必ず盛り込むのは、
- 支払いを求める金額を明確に記載すること(合計24万円)
- 支払いを求める根拠を明確にすること(いつからいつまでの滞納賃料)
- 支払い期限の明示(到達後7日以内)
- 解除の予告(支払いがないときは、契約を解除する)
- 訴訟の予告
といった点です。
当然のことですが、相手に何を求めているのかをはっきりさせなければなりません。そのため、どういった契約に基づいて、いくらの金額を支払うよう要求しているのかを明確にする必要があります。
さらに、返答や支払いの期限を決めなければ、相手はどうしていいかわからないまま先延ばしにし、いつまでの連絡が来ないことがあります。
そのため、支払期限を区切ることが不可欠です。この期限は、1~2週間程度を設定するのが通常です。
また、賃貸借契約や売買契約を解除する場合には、必ず、解除の予告と解除時期を盛り込む必要があります。これを入れておかなければ、契約解除は認められませんので注意が必要です。
そして、最後に、この請求に応じなければ法的措置をとる、という強い意志を示すのです。これを入れることで、相手が文書を無視する可能性は相当低くなりますし、支払いに応じる可能性を上げることができるのです。
なお、訴訟提起の予告が口だけではなく本気である、と相手に信じさせるために、この文例では「札幌地方裁判所」といった具体的な裁判所名を入れています。単に法的措置をとる、というよりも具体性があり、説得力があるからです。
もう1つ、売掛金の請求書例を取り上げます。なお、差出人・受取人はさきほどと同じですので、省略します。
請求書
当社は、貴社に対し、平成24年6月1日付売買契約に基づき、支払日を同年8月末日と定めて、資材一式を金300万円で売り渡しました。
しかしながら、貴社は、そのうち100万円を支払ったのみで、残金200万円の支払いを怠っております。当社も再三、請求を行って参りましたが、貴社からは誠意ある対応をいただけておりません。
つきましては、上記200万円の支払いを改めてご請求いたしますので、本書面到達後、10日以内に下記預金口座に全額をお支払ください(口座省略)。
もし上記期間内に全額のお支払いがなく、何らの誠意ある対応もいただけないときは、誠に遺憾ではございますが、札幌地方裁判所に対し、売掛金請求訴訟を提起せざるを得ません。その際には、上記200万円のみならず、支払期日以降に発生した遅延損害金及び訴訟費用についても貴社にご負担いただくことになりますので、ご承知おき下さい。
基本は、さきほどの賃料の際と同様です。
売買契約による残金を請求していますので、その内容を明らかにしています。
今回の文例では契約解除を求めても意味がないため、解除の予告は盛り込んでいません。
前の文例と違う点としては、最後の訴訟予告の部分で、裁判になった際には遅延損害金や訴訟費用も支払ってもらうと警告しているところです。
契約で定めた支払日を過ぎた場合には、契約書で遅延利率を決めていればその利率で、そうでなければ、会社間の取引では年6%の遅延金が生じることになっています。
また、裁判を提起し、全面的に勝訴した場合などには、裁判を起こす際に裁判所に収める印紙代などの訴訟費用の支払いを相手に求めることができます(なお、弁護士費用の請求は原則としてできません)。
こういった、支払いがない場合に負担が増えることを警告することで、相手がそれを避けるために早期に支払う可能性が上がるといえます。
2つほど例を挙げて説明しましたが、いかがでしょうか。
内容証明にはおおよその書式例があり、今回の文例などを踏まえて、弁護士に依頼せずにすませることも可能です。
ただし、2つの文例にも異なる点があるように、事案によって、または相手によって、どういった文面が適切かは異なってきます。
また、金額のミスや解除予告の不備などがあると、せっかくの内容証明が無駄になったり、かえって不利な結果をもたらすこともあります。
ですので、効果のある内容証明を作成するのはそれほど簡単ではないのです。
当事務所の弁護士が内容証明を送付する場合、これまでの経験を踏まえて、もっとも効果の高いと考えられる文面を選択しています。
しかも、当事者の名前ではなく、弁護士の名前で督促を行うことで、相手に与えるインパクトはまったく違うものになるでしょう。
また、内容証明郵便を出す際には、その後の対応についても検討しておく必要があります。たとえば、「支払いがないときは訴訟を起こします」と通知をしても、相手がそれを無視してきたとき、どうしたらいいでしょうか。
たとえば当事務所では、内容証明を出す時点で、無視されたら訴訟を起こすべきであるとか、民事保全を行うべきであるとか、あるいはそのまま諦めて損失を抑えるべき事案であるとか、あらかじめ戦略を考えておきます。
実際、内容証明をただ出すだけで解決する事案は多くなく、その後に交渉をしたり、担保の提供を受けたり、訴訟を起こしたりなど、さまざまな対応が必要になってきます。
ですので、結果として、最初から弁護士に依頼した方が効率がよく、債権の回収率も高くなるのです。
そのため、内容証明による督促を行う際には、自社で行うべきか、弁護士に依頼すべきかも検討することをお勧めします。
なお、お悩みの際には、弁護士の法律相談だけを利用することもできます。
ご相談された場合には依頼せず、そのまま相談のみで終了していただいても構いませんし、相談のみでお悩みが解決することも少なくありません。
その場合、5250円の相談料のみで、それ以上の費用がかかることはありません。
相談を利用されたい方は、お問い合わせのページをご覧のうえ、相談のご予約をお願いいたします。
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【離婚】 離婚したら夫の債務の保証人から抜けられる?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第20回です。
前回(負債がある場合の財産分与はどうすればいいの?)では、夫婦の一方が負債を抱える場合、それが財産分与に大きく影響することを見てきました。
これに関連して、今回は、夫婦の債務に、もう一方の夫婦が保証人となっている場合、離婚したら保証人から抜けられるのかを考えます。
以下のような具体例を考えましょう。
結婚後、夫の名義で住宅ローンを組みました。そのローンについて、妻が連帯保証人となりました。
その後、5年間ローンを返したところで、離婚し、妻が自宅を出てほかに移り住むことになりました。
まだローンが25年も残っていますが、このとき、妻は保証人から外れて責任を負わない、ということになるのでしょうか。
妻の立場からすれば、もう離婚したのだから、夫の負債について責任を負い続けるのは納得いかないでしょう。しかも、住宅には自分は住まないのですから、なおさら負債とは無関係になると考えるのが常識的だと思います。
ところが、この妻の考えは、間違っているのです。離婚し、自宅を出たからといって、保証人の責任は無くならないのです。離婚して何年も経ったとしても、そのままでは妻は保証人となったままなのです。
意外に思われた方もいるでしょうが、なぜ保証人のままになってしまうのでしょうか。
それは、債務の保証は、夫との間で約束をしたわけではなく、銀行などの債権者と妻が契約をしているからです。
夫と妻が離婚したとしても、銀行からすれば、銀行と妻が保証人の契約をしているのですから、離婚したからといって保証人から外れるのはおかしい、ということになります。
保証人となった際に、離婚した際には保証人から外れる、という取り決めでもあれば別ですが、現実にはそのような取り決めがなされることはまずありません。
ですので、離婚しても、別のところに住んでも、銀行との間の保証契約は生き続けていますので、夫がローンを完済するまで、いつまでも責任は残り続けてしまうのです。
では、妻が保証人から抜けることはまったくできないのでしょうか。
実は、保証人から抜ける方法が1つだけあります。それは、銀行から承諾をもらうことです。保証人の契約は銀行と結んでいますから、銀行の承諾が得られれば、契約を変更することができます。そのため、銀行からOKが出れば、保証人から外れることができるのです。
しかし、銀行は、離婚したという理由だけでは、保証人から外れることを認めません。
銀行としては、きちんとローンを全額返済してもらうために保証人をわざわざ立てています。
そのため、銀行から承諾をもらうためには、別の保証人を立てたり、保証人から外れるかわりにローンを一定額返済したりする必要があります。通常は、別の保証人を立てるという形で対応しています。
ただ、そうはいっても、自分とは関係ない夫のローンの保証人となってくれる人は、簡単に見つかるわけではありません。また、夫が新しい保証人探しに乗り気でない場合もあります。そうなってしまうと、なかなか保証人から抜けられないこともあり得ます。
特に、すでにローンを滞納しているような場合には、銀行も保証人の交代を認めないでしょうし、そのような状態で保証人になろうという人がいるはずもありません。
このような場合には、保証人から抜けられないままとなってしまうこともあるのです。
しかし、これはいったん保証人となってしまった以上、避けられない結果なのです。保証人というのは、それほど重大な責任を負う立場であるということです。
ですので、最終的に破産手続きを行って債務を免除してもらう、という事案も何度か経験しています。
保証人と離婚の際の処理については、このようになります。
債務や保証人の処理は、財産分与と関連して問題となることが非常に多いといえます。
特に、夫が事業者である場合には、事業に関する負債が多かったり、妻や妻の親族が保証人になっているというケースもあります。
このような場合には、その処理をめぐって深い対立が生じることがあります。
そのため、離婚協議や調停の中で、それらの点についても納得のいく解決を目指していく必要があるのです。
次回は、今回も少し触れましたが、住宅や住宅ローンに関する問題を取り上げます。
住宅に関する問題は複雑となりやすく、財産分与ではもっとも難しい点ですが、当事者の関心も強いところですので、興味がありましたらぜひご覧ください。
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