【債務整理】 個人再生手続きとは ~債務は払えないけど破産を避けるには
札幌の弁護士による債務整理解説コラム第11回です。
前回(借金問題を弁護士に頼むタイミングと報酬は?)は、弁護士に債務整理を依頼する場合について見てきました。
その中で、債務整理には3種類の方法があることにも触れています。
これまでは、主に破産手続きについて取り上げてきましたが、今回からは個人再生、民事再生手続きについて見て行きたいと思います。
民事再生という言葉は、ニュースなどでもよく取り上げられています。特に、札幌では、老舗百貨店である丸井今井が2009年に民事再生手続きを行ったことが大きな話題となりました。
民事再生というのは、一般にはこのようなある程度の規模の会社などについて行う事業再生の手法で、倒産はするものの、会社は存続していくという会社再建手続きです。
そのような手続きは自分には関係ない、と思われるかもしれません。
しかし、この民事再生を個人向けにアレンジした制度が認められているのです。その制度として、「小規模個人再生」という手続きが用意されてます。一般的には、個人再生と呼ぶことが多いですね。
個人再生制度は、破産と任意整理(話し合いにょる債務や毎月返済額の減額)との間をとったような制度です。
破産手続きは、ほとんどの財産を債権者への配当にあてるかわりに、債務がすべて免除になります。
しかし、個人再生では、相当の財産を残すことができる代わりに、債務が全部免除されるわけではなく、債務の一部を返済し続けていくことになります。
具体的に見ていきましょう。
札幌市の会社員であるAさんには、およそ300万円の負債がありました。毎月返済額は13万円程度で、とても返済できる金額ではありません。
Aさんは、時価70万円の車を所有しており、この車のローンは完済していました。
この場合、破産と個人再生とでどのような違いがあるでしょうか。
破産手続きの場合、借金300万円はすべて免除となり、全く返済しなくてよいことになります。そのかわり、時価70万円の車を取り上げられ、これを売却して債権者への配当に回さなければならない可能性が高いといえます。
これに対し、個人再生の場合、借金300万円のうち、200万円が免除されますが、100万円の債務を3年間で返済する必要があります。毎月約3万円の返済を36回行うと100万円を完済できます。その時点で、債務はすべてゼロになります。そして、時価70万円の車は、手元に残すことができ、処分する必要はありません。
同じようなケースでも、どちらの手続きをとるかで大きく結果が異なります。
このような比較をすると、たとえば、毎月3万円の返済を3年間続ける余裕のない場合には、個人再生でなく破産を選ぶことになるとわかるでしょう。
また、どうしても今の車を残したい場合には、破産よりも個人再生を選ぶべきといえます。
破産しか選べない事件、個人再生しか選べない事件もありますが、どちらも一応可能だけども、どちらを選択するかという事案もあります。
そのような際には、それぞれの手続きのメリットとデメリットをよく考える必要があるのです。
さて、ここで個人再生を行う際の返済条件を確認しておきます。
重要なのは、①返済総額と、②返済期間です。
①返済総額については、さきほどの事例では、300万円のうち、100万円を返済すれば残りは払わなくてよいことになっていました。
この返済すべき金額はどのように決まるかというと、以下のような基準で計算しています。
- 総負債額が100万円以下のとき → 全額返済
- 総負債額が100~500万円のとき → 100万円返済すれば残りは免除
- 総債務額が500~1500万円のとき → 総債務額の5分の1を返済すれば残りは免除
- 総債務額が1500~3000万円のとき → 300万円を返済すれば残りは免除
- 総債務額が3000~5000万円のとき → 総債務額の10分の1を返済すれば残りは免除
少しややこしいですが、債務の合計額によって、返済総額が変化します。
なお、総債務額が5000万円を超えてしまうと、個人再生は利用できません。
②返済期間についても見てみます。
①で見た返済総額をどのくらいの期間で返済するかですが、これは、3年から5年以内で毎月支払う、というルールがあります。
3年でも4年でも5年でもかまいませんが、基本的に後から変更することはできず、個人再生を申し立てる際にあらかじめ決めておきます。
なお、①の返済総額に対して、個人再生では利息はつきません。利息もすべて免除になります。
たとえば、債務額が400万円、返済期間3年の場合は、総債務額が500万円以下なので、①返済総額100万円です。②返済期間3年(36ヶ月)なので、毎月返済額は2万7777円程度です。
また、総債務額が800万円、返済期間5年の場合は、総債務額が500~1500万円ですので、①返済総額は5分の1にして160万円です。②返済期間5年(60回)なので、毎月返済額は2万6666円です。
毎月返済額は、2つ目の例の方が安くなっていますが、その分期間は長いので、返済総額は高くなっています。
どちらの場合も、毎月3万円程度を3~5年間返済する余裕があるのでしたら、破産ではなく個人再生を行うことが可能といえます。
ここまで見たことを踏まえて、個人再生利用のもっとも基本的なポイントを整理すると、次のとおりです。
・現在の債務額から返済総額を算定すること。
・返済期間を決めて、毎月返済額を計算すること。
・その毎月返済額を、返済期間の間、ずっと返していけるかの確認をすること。
この3ステップを検討し、個人再生が利用可能かの判断を行い、適切な債務整理方法を選択することになります。
個人再生には、これ以外にも複雑なルールやポイントがたくさんありますが、とりあえずはここを押さえておきましょう。
細かいルールについては、次回以降、順番に解説していきたいと思います。
では、今回はここまでにします。
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