【離婚】 負債がある場合の財産分与はどうすればいいの?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第19回です。
前回(財産分与を請求する方法・手続きは?)は、財産分与の請求方法について取り上げました。
今回からは財産分与の際に問題となる点を見ていきます。
今回のテーマは、負債がある場合、財産分与にどのような影響があるのか、という点です。
これには、2つの問題が含まれています。
1つ目は、”債務がある場合、財産分与の金額に影響が出るのか”という点です。
2つ目は、”財産分与をする場合、債務も引き継がなければならないのか”という点です。
ここでいう債務には住宅ローンなども含まれますので、これらの2点は、財産分与の相談の際には非常によく質問される点ですので、当事者の関心が強い部分です。
それでは、順番に解説していきます。
1点目として、”債務がある場合、財産分与の金額に影響が出るのか”という点ですが、これは、「影響が出る」というのが答えです。
ただし、その債務が、結婚生活に関連して負った債務、というのが前提ですが。
たとえば、夫が1000万円の預金があるけれども、夫婦生活のためにローンとして600万円の債務も負っていたとします。妻には財産も借金もないとします。
この場合、債務を無視して考えると、1000万円を500万円ずつ分配することになるでしょう。
そうすると、分配後は、夫は500万円の預金と600万円の債務が残り、妻は500万円の財産を受け取れるようにみえます。
しかし、夫の債務が結婚生活のために必要なものであった場合には、このような結果はあまりに夫に不利になってしまうでしょう。夫が夫婦生活と関係なく、個人的な趣味などで借金を増やした場合は別ですが、収入を得るためや、妻との生活のために借金をした場合には、分与時に債務のことも清算するのが公平だといえます。
そのため、この事例の場合には、1000万円の財産から600万円の債務をひいた400万円の部分だけが、財産分与の対象になると考えます。
したがって、400万円を200万円ずつ分けますので、妻は200万円を取得できることになります。夫は、現金が800万円残りますが、負債も600万円残りますので、負債を全部返済すれば妻と同じ200万円が手元に残る結果となります。
要するに、現在夫婦が持つ財産から、債務を差し引いた部分だけを財産分与の対象にするわけです。
これが財産分与の際の一般的な取扱いです。もちろん、債務の理由や財産状況によって多少変化することはありますが、このような処理が基本となります。
では、2つ目の問題として、”財産分与をする場合、債務も引き継がなければならないのか”という点を見てみます。
さきほどの1つ目の問題点で見たように、「財産が債務よりも多い場合」は、財産から債務をひいた残額を二人で分配することになりました。
それでは、「債務の方が財産よりも多い場合」にはどうしたらよいのでしょうか。
具体的には、たとえば夫の財産が600万円あるが、債務が1000万円ある場合を考えます。この場合、夫が手持ちの財産をすべて使って債務を返済しても、400万円の借金が残ってしまうことになります。そうすると、この400万円の借金を妻も半分負担しなければならないのでしょうか。
答えは、債務を引き継ぐ必要はない、ということになります。
今の場合、結局、夫の財産状態は赤字であり、分与するだけの財産がない、ということになってしまうため、妻は財産分与を受け取れないことになります。そのため、妻側としては納得がいかないかもしれません。
そのかわり、夫が抱えていた1000万円の債務をまったく負担する必要もないのです。
その結果、当初のまま、夫には600万円の現金と1000万円の負債がそのまま残り、妻は財産を得られないかわりに負債も負わないのです。
これが公平かどうかは悩ましいところもありますが、裁判所の考え方としてはこのような結論になります。
もっとも、実際に協議や調停を行う際には、ある程度の分配を求めることが多く、夫も多少であれば応じることが多いでしょう。しかし、審判や判決までいくと、分与が認められない可能性が高い、ということです。
今回は少し複雑なテーマでしたが、いかがでしょうか。
財産分与の際には、実際に夫婦で持っている財産だけでなく、抱えている負債も大きく影響するということを理解いただけたと思います。
財産分与時には負債が大きな意味を持ちますので、その点にも注意が必要です。
なお、今回のテーマに関連して、夫婦の一方が保証人となっている場合の処理も大きな問題となります。
それは、次回に取り上げていきたいと思います。
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