【離婚】 住宅ローンが残っている場合の財産分与はどうしたらいい?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第21回です。
前回(離婚したら夫の債務の保証人から抜けられる?)までは、離婚の際の借金問題や保証人問題を見てきました。
今回は、それらと重なる部分もありますが、大きな問題となりやすい住宅問題・住宅ローン問題を取り上げます。
結婚し、住宅ローンを組んで自宅を持つ、というのは多くの夫婦が経験していることでしょう。
しかし、離婚時には、この住宅の処理をめぐって協議が難航する場面をよく目にします。
なぜこの問題が難しいかといえば、住宅の場合には、夫婦ともに所有名義を持っていたり、夫婦ともに債務を負っていることが多いからです。
住宅を購入する場合、夫が自分名義でローンを組み、自分名義で所有権登記を行う、というケースもあるでしょう。
これに対し、所有権を夫婦で2分の1ずつ共有名義にしている場合もあります。
ローンについても、夫婦ともにローン契約を締結している場合や、夫の住宅ローンを妻が連帯保証している場合もあります。
こういった場合、離婚しても所有名義や債務、保証人が自動的に解消されることはありませんので、その点をはっきりと処理する必要があるのです。
では、法律上、このような場合の財産分与はどのように扱われているのでしょうか。
実は、ローン付き住宅に関する処理の方法は、住宅の現在の価値と、現在のローン残額との関係によって、大きく2つに分けて考えなければなりません。
1つ目は、住宅の価値(今、売却したらいくらの値がつくか)が、ローン残額を上回っている場合です。
2つ目は、反対に、ローン残額が住宅の価値を超えており、いわゆるオーバーローン(住宅を売却してもローンが残ってしまう状態)の場合です。
それぞれ、処理の方法が大きく異なりますので、順番に解説していきます。
Ⅰ 住宅の価値 > ローン残額 の場合
たとえば、今、自宅を売却すれば2000万円で売れるのに対し、ローン残額が1200万円であるとします。
この場合、住宅の価値がローン残額を上回っていますから、もし自宅を売却してローンを返済すれば、手元に800万円の現金が残ります。
そうすると、この住宅には、現在800万円分の価値があると考えることができます。
あとは、この住宅が800万円分価値があるとして、原則として2分の1ずつ分配すればいいのです。
分配方法する具体的な方法は、たとえば、住宅を売ってしまうという方法があります。
離婚するとどちらかが自宅を出て行くことになりますので、お互いが自宅を離れ、売却してしまうことは珍しくありません。
この場合、売却してローンを完済し、現金800万円を2人で400万円ずつ受け取れることになります。
では、自宅を手放さず、維持してどちらかが住み続ける場合にはどうなるのでしょうか。
たとえば夫が住み続ける場合を考えると、夫は、800万円の価値がある自宅を1人で利用できることになります。そうすると、普通は所有権の名義も夫1人のものにするでしょう。
しかし、本来はこの自宅の価値は半分ずつ夫婦が取得できますので、夫は、妻に対し、400万円分を支払わなければなりません。
さきほどの自宅を売却する場合と異なるのは、自宅を売却した場合には実際に手元に入る現金を分ければいいのに対し、自宅を維持する場合は、ほかからお金を用意しなければならないという点です。
夫に全くほかにお金がない、という場合にはその金額を受け取ることが難しくなりますので、分割払いをして公正証書を作成するなど、お金を確保する方法を考えなければなりません。
またこの場合、住宅ローンも残り続けることになりますが、もし夫がローンを滞納して自宅が競売にかけられたとしても、結局、売り値の方がローンより高くなりますので、妻に支払いの請求が来る可能性は低いといえます。
これが自宅の価値がローン残額よりも高い場合の処理方法です。
Ⅱ 住宅の価値 < ローン残額 の場合
たとえば、自宅をいま売却すると1000万円で売れるけれども、ローン残額が1500万円あるという場合です。これがオーバーローンという状態です。
この場合、財産分与の判断では、この自宅に経済的価値がないと判断されます。なぜなら、いま売却してもすべて銀行にローンとして代金を持って行かれてしまい、手元には全くお金が残らないからです。つまり、まだ自宅は自分たちの財産になっていない、ということです。
この状態で、自宅を手放す場合を考えてみます。
自宅を売却した場合、売値は1000万円になりますが、ローンが1500万円ありますので、その代金はすべてローン返済にあてられるのが通常です。そうすると、自宅を売ってもまだ500万円のローンが残ります。
このローンをどうするか、という問題は財産分与の問題ではありません。
これは、「負債がある場合の財産分与はどうすればいいの?」で既に取り上げましたが、借金については、財産分与の対象とならず、各自がそのまま責任を負うということになります。
ですので、ローンを組んだ名義人や、保証人は、そのまま責任を負うということです。
この場合、離婚したから半分にしてほしいとか、保証人から外してほしいとかいうことも基本的にはできません。
離婚後はどちらが支払っていくかを協議したり、あるいは、支払えないため破産などの方法で解決するかを検討することになります。
反対に、自宅を維持する場合を考えてみましょう。
夫が自宅に残り、妻が出て行く場合を考えます。この場合も、住宅には価値がないことになりますので、財産分与の対象とはなりません。
そのため、さきほどの場合と同様、夫婦間でお金のやり取りはなく、ローンや保証人もそのまま、ということになります。
ただ、この場合、夫は自分が住む住宅のローンを払うのに対し、妻にはメリットがないまま、ローンの支払義務が残るというのは不公平な感じがします。
そこで、このような場合、前回の「離婚したら夫の債務の保証人から抜けられる?」で取り上げたような、保証人から抜ける方法をとるのが通常でしょう。
もちろん、結果的に保証人から抜けられないケースもありますが、できる限り、この点について協議を行っていくことになります。
以上が、ローンつき住宅がある場合の解決法です。
なお、どちらのケースでも、もともと夫婦が2分の1ずつ共有名義であった自宅を、離婚後もそのままにしておくケースも見かけます。特にオーバーローンとなっている場合に、そのままにしておくことがあるようです。
しかし、共有名義のままにしておくと、いずれこの自宅を売却する際に両方の同意が必要になってしまい、トラブルが生じるおそれがあります。
離婚後もお互いの連絡がついている場合はいいですが、離婚後、一切相手との関わりがなくなってしまったような場合、この共有名義の住宅を売ろうとしても手続きができない、ということが起こりえます。
そのため、いまは困らないからといってそのままにしておくのではなく、不動産の名義はどちらか1人のものにしておくことをお勧めしています。
住宅問題は財産分与の中でも非常に複雑で難しい問題です。
今回取り上げたのは典型的なケースですが、実際には、たとえば夫と妻の父が共有名義になっているとか、土地と建物で名義が違うなど、より複雑な処理が必要な場合もあります。
ローンや登記の仕組みなども理解しないと適切な処理が難しい分野ですので、離婚時の住宅問題でお悩みの方は、弁護士に一度相談された方が頭の整理ができると思いますよ。
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