【債権回収】 少額訴訟制度が効果的な場合・無駄な場合
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第9回です。
前回(支払督促制度 ~デメリットに要注意!)は、支払督促制度について取り上げ、その中で、支払督促はデメリットが多く、普通の事業者や会社にとっては、あまり役に立たないことを見てきました。
今回は、支払督促と同様、早く簡単な裁判制度である少額訴訟制度を解説します。
前回も触れましたが、債権回収に関する本やサイトでは、支払督促と少額訴訟は、普通の裁判よりも簡単で素早く解決でき、大変有効であるように説明されていることが多いですね。
しかし、支払督促は前回述べたとおり、あまり役立つ制度ではありません。
では、少額訴訟はどうかというと、支払督促よりは有効な場面もあり、効果的に利用できる可能性はありますが、それでも利用できる場面は限られており、本やサイトで言われるほど便利なものではありません。
では、どういった場合に効果的で、どういった場合に無駄となるのでしょうか。
まず、少額訴訟制度とはどういった制度でしょうか。
普通の裁判と異なる特徴を挙げると理解しやすいと思います。主な特徴は、以下の3点です。
Ⅰ 60万円以下の金銭を請求する場合にしか利用できない
簡単な制度であるかわりに、利用できる金額に制限があります。1度に60万円までしか請求できませんが、たとえば50万円の契約が2つある場合などに、2つに分けて少額訴訟を利用することは可能です。事業者や企業で、裁判を起こすほどの問題であれば、請求額が60万円を超えていることも多く、この制限にひっかかる場合は相当多いでしょう。
Ⅱ 基本的に1度の裁判で解決でき、素早い解決ができる
少額訴訟制度のもっとも重要な特徴です。基本的に、1回の裁判で審理を終え、和解や判決により事件を解決することが予定されています。そのため、第1回目の裁判が終わるまでに必要な資料や証人などをすべて用意する必要があります。
Ⅲ 相手が少額訴訟制度の利用に反対した場合は利用できない
少額訴訟制度によって裁判を起こしても、相手が普通の裁判を希望すれば、必ず普通の裁判になってしまいます。ですので、相手が反対すれば少額訴訟は利用できません。これがこの制度の一番の問題点です。
このように、少額訴訟制度は、60万円以内の金銭請求に限り、相手が反対しなければ、原則1回の裁判でスピーディに解決を図る、という制度になります。
この制度は、特徴やデメリットを押さえたうえで利用すれば、非常に便利な制度といえるでしょう。
では、この制度はどういった場合に効果的に利用できるでしょうか。
それは、お互いが、弁護士を利用せずに裁判を行う場合にもっとも有効といえます。
利用できる金額が60万円以下ですので、基本的には、弁護士に依頼すると費用倒れになる事件が多いでしょう。ですので、利用する側は、弁護士に依頼せず、本人で裁判を起こすことが多いといえます。
また、ある程度資料がそろっており、必要な証人も簡単に集められる事件でなければなりません。
少額訴訟は第1回の裁判でほぼ終了しますので、複雑な事件や、関係者が多すぎる事件では利用できません。
また、第1回目の裁判までに証拠はすべて提出し、必要な証人を裁判のときに連れてくることも必要ですので、そういった準備が難しい事件では利用はしづらいといえます。
お互いが弁護士を利用しない場合、おそらく1回の裁判で早く決着をつけたいと考えるでしょうから、少額訴訟制度に反対する可能性も低いといえます。
ですので、こういったケースでは、少額訴訟が利用でき、それによって早期に解決できるでしょう。
それでは、反対に、少額訴訟制度が利用できない場合、利用しても無駄な場合はどういった場合でしょうか。
先ほどの裏返しで、相手が弁護士を立てるような事案では、まず少額訴訟の利用に異議が述べられるといっていいと思います。
実は、弁護士は一般的に少額訴訟による裁判を望みません。
少額訴訟は、簡易・迅速に解決するかわりに、正確性や慎重さを犠牲にしているといえます。一度の裁判で利用できる証拠のみで判断をしますし、普通の裁判では認められる判決に対する控訴も禁止されています。そのため、適正な解決を求める弁護士は抵抗を感じることもあります。
また、少額訴訟では第1回目の裁判までにすべての準備を行う必要がありますが、弁護士は事件の依頼を受けてから証拠を集めたり、事情を聴いて事件の内容を知りますので、第1回目までにすべての準備を行うのは困難といえます。
事件を直接体験した本人であれば、事前に準備はほとんどいらないかもしれませんが、事件を体験していない弁護士の方が準備に時間がかかるといえるでしょう(そのかわり、効果的な準備を行うのですが)。
ですので、相手が弁護士に依頼することが予想されるような場合は、少額訴訟制度を利用すると無駄に終わる可能性が高いといえます。
少額訴訟は、通常、1回の裁判で審理を行うために、当日までにすべての準備をするよう指示されるほか、裁判も2時間ほどの時間を確保しておく必要があります。
しかし、少額訴訟に異議が出て通常の裁判に移ると、第1回目の裁判は、5分や10分程度で終わります。
せっかくその日に証人などを連れてきても、通常の裁判では最初の裁判で尋問をやることはまずありませんので、その日に尋問は実施されません。
結局、その日のための準備が無駄になってしまうのです。
そういった事情を知らず、少額訴訟に異議が出たことに対し、準備が無駄になったと不満を言う方もいますが、そもそもそういう制度になっていますので、制度に対する理解が足りなかったということだと思います。
ちなみに、60万円以下でも弁護士がつく事件の代表は、交通事故です。
交通事故の場合、相手が任意保険に入っているのであれば、少額訴訟の利用はまったく無駄に終わるでしょう。
訴訟を起こすと、保険会社が弁護士を立てて対応しますので、少額訴訟に対してはすぐに異議が出てきます。
また、交通事故の場合は、お互いに損害が出ていることが普通ですので、相手からも相手の損害について裁判が起こされるケースが多いといえます。
少額訴訟制度では、相手から裁判を起こし返すことが認められていませんので、異議を出して通常の裁判にしてから裁判を起こし返してきます。
弁護士を依頼せず、交通事故賠償の裁判を起こす方はそれなりにおり、少額訴訟制度を利用する方も少なくありませんが、いま述べたような理由で、ほとんどの事件で少額訴訟に異議が出されていると思います。
ですので、交通事故の賠償問題では少額訴訟はあまり役に立たないということになります。
結局、少額訴訟は、60万円以下の請求で、弁護士を依頼せずにとにかく早く解決したい、という場合には便利といえます。
ただし、相手が弁護士を立ててくるような場合や交通事故事件では、あまり意味はないでしょう。
ちなみに、少額訴訟は、1人の人や1つの会社が起こせる回数に制限があり、1年間に10回までしか利用できません。
普通はこの回数を超えることはないでしょうが、一応注意が必要です。
このような制度の特徴やデメリットを押さえたうえで、利用を検討する必要がありますね。
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