【債権回収】 裁判・訴訟による債権回収のメリット・デメリット
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第10回です。
前回(少額訴訟制度が効果的な場合・無駄な場合)や前々回(支払督促制度 ~デメリットに要注意!)では、簡単で素早い裁判制度についてみてきました。
これらの制度はうまく使えば便利である反面、弱点やデメリットが多く、効果的な場面が限定的であるという点を詳しく取り上げました。
今回は、本来の裁判・訴訟を使っての債権回収について解説していきます。
裁判や訴訟という言葉を知らない方はいないでしょう。裁判の経験がない方でも、おそらく、だいたいのイメージは理解されていると思います。
債権回収に限らず、法的トラブルは最終的に、裁判へと発展することが少なくありません。
ここでは、債権回収の場面において裁判を利用する場合の、メリットとデメリットを簡単に整理していきます。
【メリット】
まずはメリットからです。
Ⅰ 相手に裁判に応じることをほぼ強制でき、トラブルを解決することができる
裁判は、法的トラブルにおいて、もっとも強力で、最終的な手段です。
裁判を提起すれば、相手には裁判所から裁判日時の連絡と呼び出し状が送られます。裁判所からの呼び出し文書というのはかなりのインパクトがあるもので、これを無視できる人は多くありません。
しかも、裁判所からの文書には、裁判を無視して何もアクションを起こさなければ一方的に敗訴してしまう、と注意書きがなされます。裁判には応じなければペナルティが与えられることがあるのです。
そのため、これまで無視したり、誠実な協議に応じてこない相手に対しても、裁判を起こすことで態度を変化させることが強く期待できます。
なお、相手が裁判に応じてこないこともときおりありますが、裁判に応じないような相手・会社は、すでにそれだけの余裕すらないということで、事実上倒産状態と考えてよいでしょう。
そういった相手からの債権回収はほぼ不可能といえ、その場合には思い当たる強制執行を試した時点で、損金処理して終了という形にせざるを得ないでしょうが、それにより一つの区切りとすることができます。
このように、らちがあかない事態を解決する最終的な手段が裁判なのです。
Ⅱ 裁判所が相手に対して支払いを命じることで、回収が強く期待できる
債権回収トラブルのなかには、相手がそれなりの理由をつけて支払いを拒むケースもあります。もちろん相手の言い分にも一理ある場合もありますが、こちらから見れば通らない理屈を盾に支払いを拒んでいるにすぎないことも少なくありません。
そのような場合には相手を説得したところで、支払いに応じることは期待できません。
この場合、訴訟を提起し、裁判所に双方の言い分を聞いたうえで、公正な判断を示してもらうことが効果的です。
裁判所は、裁判の中で、お互いにとって良い解決案を提示してくれたり、相手を説得して支払いに応じさせることもしてくれます。
また、裁判所の仲介による話し合いもまとまらないときには、裁判所が判断を示し、請求側の言い分が正当と認めた場合には、相手に判決という形で支払いを命じてくれることになります。
このように、請求側の言い分が法律的に正当である限り、裁判所が相手に対して支払いを説得したり、命じたりしてくれます。
裁判所の命令には一定の拘束力がありますので、相手が支払いに応じる可能性は高く、非常に効果的といえます。
Ⅲ 判決を取得すれば相手の財産を差し押えることができる
相手が支払いを滞納していても、相手の財産を勝手に奪ったりするわけにはいきません。それでは犯罪になってしまいます。
このような場合、裁判所の協力を得て、裁判所に相手の財産を差し押さえてもらうしかありません。
そのような差し押さえ、強制執行を行うためには、通常、裁判所の判決書が必要となります。
そのため、相手にめぼしい財産があるときには、裁判を起こして判決を得ることで、その財産を差し押さえることができます。
相手方としても、差し押さえは避けたいと考えますので、自分から支払いに応じてくる可能性が高いといえるのです。
差押えの危険があるということが相手に対する強制力として働きますので、裁判を無視することはできないのです。
【デメリット】
次に、デメリットを見ていきます。
Ⅰ 裁判は時間と労力がかかる
裁判には、どうしても時間がかかってしまいます。裁判を起こしてから第1回目の裁判日まで約1ケ月はかかりますし、その後も、毎月1回程度のペースでゆっくり進んでいきます。
そのため、裁判を4,5回も行えば、すぐに半年が経過してしまいます。そんなにのんびり解決を待てない、という方も少なくないでしょう。
また、裁判には書類を作ったり、裁判所に出席したりという労力が必要です。慣れない方には、相当な負担が大きいといえます。
もっとも、相手が責任を認めているような場合には、裁判は1,2回で解決することも少なくありませんし、裁判を起こしただけで相手が支払いに応じてくる、というケースもあります。
また、弁護士に裁判の依頼をすれば、書類作成の大半は弁護士が行いますし、裁判への出席も基本的に必要ありません。
そのため、弁護士に依頼することも含め、事案ごとにどの程度のデメリットがあるかを検討する必要があるでしょう。
Ⅱ 裁判には費用がかかる
裁判を起こすには莫大な費用がかかる、ということがよく言われます。確かに、一定の費用がかかるのは事実であり、裁判を行っても回収がまったくできなければ、その費用がさらに無駄となってしまいます。
そのため、この点も裁判のデメリットといえます。
しかし、誤解が非常に多いところですが、裁判を起こすことに対する費用はそれほどでもありません。裁判を起こすときには、収入印紙を手数料として納める必要がありますが、その金額は相当低額となっており、100万円を請求する裁判で1万円の手数料、500万円の請求で3万円、1000万円の請求でも5万円の手数料がかかるだけです。
そのほか、切手代も必要ですが、普通は1万円もかかりません。
ですので、裁判を起こすための費用は、実はそれほどでもないのです。
では、なぜ裁判にはお金がかかると思われているかといえば、弁護士に依頼する費用がかかるため、そう言われるのだと思います。
確かに弁護士の報酬は決して安くはなく、仮に裁判で勝訴し、債権を回収できたとしても、弁護士費用は相手から回収することは認められていませんので、ある程度の費用が生じてしまいます。
もっとも、仮に債権の回収がまったくできなければ着手金程度しかかかりませんし、うまく回収できれば成功報酬を差し引いても十分な利益が得られることになります。
事案によっては、弁護士に依頼せずに裁判を起こすことも可能で、その場合にはほとんど費用がかからないといえますが、費用をかけてでも弁護士に依頼すべきケースもありますので、慎重にご検討いただく必要があります。
弁護士に依頼すべきかどうかは、「債権回収を弁護士に依頼するメリット・デメリット」もご覧いただければと思います。
債権回収で裁判を利用することの主なメリット、デメリットをご理解いただけたでしょうか。
このような点を検討していただき、裁判を選択するかどうかを決定することになります。
ただ、相手との協議がととのわない場合には、最終的には、請求をあきらめるか、裁判を起こすかしかなく、どうしてもその決断を迫られる時期が来ます。
裁判を起こすべきかお悩みの方や、裁判を起こすと決めたが手続きが不安であるという方は、ご相談のみでも結構ですので、お気軽にご相談ください。
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