【債権回収】 不動産競売手続き① ~土地・建物を差し押さえるには
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第13回です。
前回(債権差し押さえ ~売掛金や預金を押さえるには)は、差し押さえの種類の1つである債権差し押さえについて説明しました。
今回は、差し押さえの中でもよく知られている不動産の差し押さえがテーマです。
【不動産の差し押さえとは】
不動産というのは、土地や建物のことを指しますが、このような土地、家屋、マンションなどを取り上げて、債権回収を行うのが不動産の差し押さえです。
不動産の差し押さえは、その不動産に抵当権(担保)がついているかどうかで手続きが大きく異なります。
今回は、抵当権がない場合の手続きについてみていきます。
ところで、不動産差し押さえによってどのように債権回収するのでしょうか。
その土地や建物を債権者が自分のものにしてしまう、というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、そうではありません。
基本的には、相手の土地・建物を強制的に売却してしまい、その売却代金から債権を回収することになります。
その売却のために行うのが、「不動産競売」という手続きになります。
「競売」という言葉のイメージはご存じだと思いますが、要するに、購入希望者たちが自分が希望する購入金額を申し出て、その中で一番高い金額を申し出た方が実際に購入できる、という制度です。
事前にほかの購入希望者が申し出た金額は秘匿されていますので、結果が発表されるまでは誰が購入できるのか、購入金額はいくらであるのかは誰にもわからないことになります。
不動産競売は、相手の土地・建物をそのような競売にかけてしまい、購入者が支払った代金から債権の回収を行うのです。
【不動産競売の流れ】
そのような不動産競売手続きの流れを簡単に見ていきます。次の図をご覧ください。
主な流れとしてはこのとおりです。簡単に各項目を説明します。
①債権者が競売申し立て
まず、不動産から自分の債権を回収した債権者が、裁判所に不動産競売の申し立てを行います。
この際、判決書や裁判所で作成した和解所などの公的書類が必要になるのは他の差し押さえと同様です(「強制執行・差し押さえをするには ~その効果と必要なもの」をご参照ください)。
そのほか、その不動産に関する登録事項証明書や固定資産税評価証明書、地図などが必要となります。
また、一定の手数料がかかります。
②裁判所の競売開始決定
債権者の申立書や添付書類を確認し、裁判所が問題がないと認めれば、不動産競売を開始するとの決定を行います。
この時点で、その不動産の登記には差し押さえの登記がなされ、勝手な処分・売却等が禁止されます。
③現況調査・価格評価
競売開始決定のあと、裁判所の指示で、執行官がその不動産の現在の状態や権利関係を調査したり、不動産鑑定士が不動産の評価を行ったりします。
そのようにして行われた調査の結果は、書類にまとめられ、誰でも自由に閲覧することができます。
④入札・売却手続き
裁判所の調査が終わると、その不動産の最低売却価格などが決定され、競売手続きに移ります。
競売手続きでは、入札期間(購入希望者が購入希望額を申し出る期間)などを裁判所が決定し、公告します。
購入希望者は、裁判所に期間内に金額を届け出ます。
その後、各自の届け出金額を確認する日(開札期日)に各自の申出額が確認され、もっとも高い金額を申し出た方が購入者に決定します。
⑤購入者が代金納付
購入者に決定された方は、指定の期限内に代金を納付します。なお、代金は現金一括払いとなります。
代金納付により、その不動産は購入者の所有となります。
⑥配当手続き・配当金受領
代金が納付されると、その代金の分配手続きに移ります。
配当手続きでは、その債務者に債権を有する債権者が指定の期間内に、自己の有する債権額を届け出ます。
まず、競売にかかった費用や抵当権付債権、税金などが優先的に代金を受け取ります。
そこから残った部分を、他の債権者で、債権額に応じて分配します。
そこまで手続きが進んで、債権が無事に回収できたことになります。
以上が不動産差し押さえによる債権回収の流れになります。
この手続きの要所要所で状況を確認したり、書類を提出するなどの手続きが出てきますので、慣れてない方がご自分で行うには煩雑な部分も多いかと思います。
なお、ケースによってまちまちですが、競売の申し立てから配当金を受領するまでは、1年前後は見込んでおいた方がいいでしょう。
不動産競売は、時間もかかりますし、手続きもやや複雑になっています。
それでも、不動産は比較的発見が簡単であることや、まとまった金額で売却できることもあるため、不動産競売は事案によっては非常に効果を発揮します。
ですので、取引相手の所有している不動産情報を日ごろから確認しておき、いざというときには、それに対する仮差押えや競売手続きを直ちに実行することが効果的です。
なお、不動産の差し押さえには大きな留意点があります。それは、その不動産に売却価格以上の抵当権が設定されていた場合、差し押さえは無意味になってしまうということです。
差し押さえた不動産の売却後、抵当権者などが優先的に代金を受領しますが、その時点で余りがでなければ、抵当権を持っていない他の債権者には1円の配当もありません。
ですので、不動産の差し押さえを行う際には、その不動産に抵当権が設定されているかどうか、されている場合にはどの程度の金額であるのかが非常に重要となります。
それらの情報は、その不動産の登記からおおむね把握することはできますが、やはり普段から情報収集をしておくことが重要といえるでしょう。
次回は、その抵当権がある場合の不動産差し押さえについて説明します。
札幌の弁護士が債権回収を解説 【債権回収に関する実践的情報一覧はこちら】