【債権回収】 強制執行・差し押さえをするには ~その効果と必要なもの
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第11回です。
前回(裁判・訴訟による債権回収のメリット・デメリット)は、債権回収の場面で裁判を利用することのメリットとデメリットを取り上げました。
今回から、弁護士による債権回収のもっとも強力な手段である「強制執行/差し押さえ」について説明したいと思います。
強制執行や差し押さえという言葉は聞いたことがあると思います。
この強制執行、差し押さえは、債権回収の場面で非常に強力な制度です。債権回収にかかわらず、訴訟・裁判というものに重みが置かれているのは、この強制執行の制度があるからです。
今回は、その強制執行・差し押さえの概要と、それを実施するために必要なものについて説明します。
差し押さえにはいろいろな種類がありますが、それについては次回以降に取り上げます。
なお、強制執行と差し押さえは、基本的に同じ意味と考えてかまいません。このコラムでは、以後は差し押さえという言葉を使っていきます。
【差し押さえってなに?】
差し押さえとはどういう手続きをいうのでしょうか。
簡単にいえば、相手から強制的に財産を取り上げ、債権回収を行ってしまう手続き、ということになります。
具体例を見てみましょう。
あなたの会社が、100万円の売掛金を支払わない取引先に対して裁判を起こし、請求がすべて認められました。
しかし、相手は判決を無視し、支払いを行おうとしません。
あなたは、その取引先が、売れば200万円程度にはなる自動車をいつも事務所の駐車場に停めていることを知っています。
なんとかこの自動車から100万円を回収したいと考えました。どのような対応をしたらいいでしょうか。
裁判所が権利を認めたのだから、相手の事務所に押し掛け、この自動車を勝手に持っていけばいいだろう、という方もいるかもしれません。
しかし、これでは泥棒と同じです。実行すれば、窃盗犯として逮捕されてしまうでしょう。
裁判所が債権の存在を認めたとしても、このようなむりやりに金品を奪い取るような行為は違法です。債権を回収するどころか、相手から損害賠償請求をされてしまうだけです。
それではどうするかというと、自分で勝手に相手の財産を奪うのではなく、裁判所に取り上げてもらえばいいのです。
つまり、裁判所の許可を得て、裁判所の主導のもとに相手の財産を取り上げ、そこから債権を回収する。これが差し押さえという手続きです。
さきほどの例の場合は、裁判所に自動車を競売手続きにかけてもらい、他者に買い取ってもらいます。その代金の中から、100万円を優先的に受け取ればいいのです。
このように、差し押さえは、自分で勝手に行うのではなく、裁判所の許可を受けて、裁判所に手続きを進めてもらう必要があるのです。
【差し押さえに必要なものは?】
差し押さえを行えば、支払いを拒む相手からも、強制的に財産を取り上げ、支払いを受けることができます。
このように非常に強力な制度ですが、いつでも効果を発揮するわけではありません。使える場面、使うための条件があるのです。
差し押さえに必要なものは、大きく次の3つに分けられます。
- 権利を証明する公的文書(判決、和解調書、公正証書など)
- 差し押さえの対象となる財産の情報
- 裁判所の許可
順番に見ていきます。
1 権利を証明する公的文書(判決、和解調書、公正証書など)
差し押さえは非常に強力な制度です。そのため、これを利用するためには、差し押さえを行おうとする者が、間違いなくその権利を持っていることを証明する必要があります。
差し押さえをしてから、あれは間違いだった、ではすまないからですね。
ではどうやってそれを証明するかといえば、法律で、その証明書の種類が決められていますので、それを用意することになります。
代表的なものは、裁判所による判決書です。裁判の結果、裁判所が判決という形で、請求権があることを証明してくれます。その請求が認められた判決書があればよいのです。
また、同じように、裁判所で作成した和解調書・調停調書も利用できます。裁判や調停の中で、裁判所の仲介により、当事者が和解をして裁判を終わりにすることがあります。
その際に、裁判所が、和解の内容を取りまとめた和解調書・調停調書を作成します。これも判決書と同じ効力があります。
もう1つよく利用されるのが、公正証書という書類です。
これだけは裁判所を利用せずに作成できます。そのかわり、公証役場というところで、公証人という専門家の前で、当事者が合意して作成しなければなりません。
公正証書については別の機会に説明したいと思います。
これらの公的文書を利用して権利を証明することが、差し押さえの第1条件となります。
2 差し押さえの対象となる財産の情報
差し押さえは裁判所の許可を得て、裁判所の主導により行うと説明しました。
しかし、相手がどこにどのような財産を持っているかについては、裁判所は一切調査してくれません。すべて自分たちで調べるしかありません。
さきほどの例では、相手の事務所に高価な自動車があることが判明しましたので、これを差し押さえることにしました。
差し押さえを行う場合には、このように、「どこにある」「どの財産を」差し押さえてほしいのかを裁判所に説明しなければならないのです。
なんでもいいから差し押さえてほしい、では通用しません。
ですので、判決などを得て相手への債権があることが認められていたとしても、相手の財産が何も見つけられなければ、差し押さえを行うことはできないのです。
倒産しかかっている会社などを相手にする際には、そもそも財産が存在していなかったり、どこに財産があるかわからないため、差し押さえが不可能となるケースも少なくありません。
このような財産の情報は日ごろの取引の中で収集しておくことが必須といえます。
取引先がもし代金を支払わない場合、何を差し押さえたらいいかを把握していますか?見当もつかないのであれば、いざというときに一切回収できないかもしれませんよ。
どういった財産が差し押さえの対象となり、どのような情報が必要であるかは、次回から具体的に見ていきます。
3 裁判所の許可
いま見てきたような2つの条件をクリアした場合、それをもとに裁判所に差し押さえの申請を行います。
その際には、「このような判決書に基づいて」「相手の持っているこの財産をこのように差し押さえたい」という申し立てを行います。
差し押さえの申し立てには、必要な情報や添付すべき資料、手数料などを踏まえた細かい手続きが必要ですが、差し押さえの種類によって手続きや必要資料も異なりますので、専門知識のない方が自分で行うのは難しいでしょう。
また、どのような差し押さえの手続きを利用するかなどについては専門的な判断も必要になります。
【まとめ】
以上が、差し押さえという手続きと、差し押さえに必要なものの説明です。
差し押さえは債権回収の最後の手段ではありますが、そもそも債権回収を行う際には、常に差し押さえのことを念頭において手続きを進める必要があります。
たとえば、交渉の段階から、差し押さえのために必要な資料を集めておいたり、差し押さえに必要な情報を引き出しておくなどです。
そういった工夫により、最終的に差し押さえを行った場合の成功率が大きく左右されることになります。
当事務所ではさまざまな種類の差し押さえを数多く手掛けてきました。差し押さえを検討されている方は、遠慮なくご相談ください。
次回は、差し押さえの種類ごとの手続きについてみていきます。
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