必ず母親が親権を得る? - 親権者の決め方は
札幌の弁護士による離婚解説コラム第8回です。
前回(弁護士に依頼するタイミングと報酬は?)で予告しましたが、今回からは離婚時の子どもをめぐる問題について見て行きます。
子の問題の入口として、今回は親権者の決定について考えましょう。
夫婦が離婚するときに未成年の子どもがいるときは、必ず親権者を決めなければなりません。
どちらが親権を得るかを決める際の基本的な方法は、お互いの話し合いです。
協議離婚の場合などは、話し合いで親権者を決め、離婚届に親権者を記載します。実際上は、母親が引き取ることが多いと思いますが、もちろん父親が親権者になっても問題ありません。
しかし、離婚調停や離婚裁判に発展する場合、慰謝料などの金銭的な問題だけではなく、親権問題が中心的な問題になるケースも少なくありません。そのような場合、最終的には裁判所がどちらが親権者となるかを審判や判決という形で決定します。
当事者は、その決定に不満があっても、それに従わなければならないのです。
それでは、裁判所はどのような基準で親権者を決めているのでしょうか。
親権が問題となると、相談者、依頼者から、「親権は母親が得ることになりますよね」「父親が親権を希望しても無理ですよね」といったことを言われることが非常に多いです。
確かに、実際の事例では、裁判所も母親を親権者として認めるケースが圧倒的に多いといえます。また、社会の考え方としても、特に子どもが小さいうちは、母親が育てていくという見方が強いように思います。
しかし、必ず母親が親権を得ると決まっているわけではありません。当事務所で扱った事例でも、父親に親権が認められたこともありました。
ですので、母親側としても、ただ母親というだけで親権が得られるわけではありません。父親側としても、親権が絶対に認められないというわけでもありません。
どのような場合に親権が認められやすいかをしっかり理解しておくことが必要です。
親権者を決定する基準を一言でいえば、どちらを親権者とすることが「子どものため」になるかです。
これは、単純に子どもの希望がどちらかによって決めるわけではなく、お互いの生活環境なども重視されます。
よく問題となる点について、簡単に説明していきます。
① 父母の生活状況、監護体制
子どもが引き取られた場合の監護体制(子どもを生育できる体制のことです)は重要な問題となります。その関係で、父母の生活状況が問われていきます。
離婚後、父母がどのような場所に住み、どのように収入を得て生活していくかは、子どもの成育環境に影響を与えます。一般には経済力が豊かな家庭の方が子どもの養育にも支障が少ないといえますので、経済力も基準の1つとなります。
それ以外に、父母以外に子どもの面倒をみてくれる人がいるかも問題です。父母の両親などと同居して子どもを育てやすい環境があれば、親権を得るうえでは有利に働くでしょう。
反対に、父母の労働時間が長く、家にいられる時間が少ないうえ、ほかに子どもの面倒をみてくれる人もいない、という場合には、子どもの成育環境としては不十分と評価される危険があります。
② 子どもの生活状況、子どもの意思
子どもの今の生活状況を確認することも重要です。たとえば、現在就学中で、母の自宅からもともとの小学校に通学している場合で、父に引き取られたら転校しなければならないという事情があれば、子どもの現在の環境を変更させるよりは、母を親権者として現在の生活を維持させる方が子どもの利益になるかもしれません。
また、子どもと父母の関係は非常に重要です。極端な場合ですが、親の一方が日常的に子どもに暴力を振るっている場合、その親が親権者とされる可能性はほぼ無いでしょう。父母の優劣をつけるべきではありませんが、少なくとも子どもが親しみを感じていることが親権者の条件となると思います。
なお、子どもの意思も考慮されるといいますが、ここでいう「子どもの意思」は、子どもが「○○の方がいい」といったかどうかという問題ではありません。子どもも両親のことを考えたり、周囲の目に配慮しますので、父母のどちらと一緒に暮らすかという段階で本音を言うことは難しいのです。
ですので、子どもの意思は、家庭裁判所の調査官や裁判官が子どもの態度、表情や生活状況などから子の本心をくみ取って判断しているのです。
③ 離婚の原因がどちらにあるか
たとえば、母親が不貞行為を行ったことが離婚の原因である場合、親権に影響するでしょうか。
基本的には、それだけで親権を得ることが不利になるわけではありません。離婚の原因がどちらにあるかという点と、子どもの幸せのためにはどちらが親権者になるべきかという点は、別の問題だからです。
しかし、たとえばその母親が不貞行為の相手方と同居して暮らしていこうとする場合は、その不貞行為の相手とも子どもが同居することになりますので、それが親権の判断を左右する可能性はあります。子どもが父親になついており、不貞行為の相手方に拒絶反応を示すような場合は、母親に親権を認めるうえで障害になるでしょう。
親権の判断では、これらのような事情が問題となってきます。
これらを踏まえたうえで、最終的に、子どもの親権者としてどちらが適切であるか、子どものためになるのはどちらかを判断していきます。
ですので、親権を得たいと希望する側は、子どもを引き取った場合の生活環境をあらかじめ整えておいたり、両親などに協力を求めたり、職場の理解を得ておくなどの対応をしておく必要があります。
子どもの親権を得たら考えます、という考えでは、裁判所から本気で子どものことを考えていないと思われてしまう可能性も否定できませんので、注意が必要です。
なお、子どもの親権問題に関連して、「子どもの連れ去り」の問題があります。
親権を得るためには、離婚前から子どもを自分の元で住まわせ、生活環境を整えておいたり、子どもがそこから離れにくくするという既成事実作りを行う方も多く、それ自体は有効な対応であるといえます。
しかし、それを目的として、相手が養育している子どもを勝手に連れてきたり、別居に際して子どもをむりやり引き取っていくという事例も実際にあります。
このような行動は、結局、親として身勝手な行動であり、子どものことを本気で考えていないと判断され、調停や裁判で不利な事情とされることが少なくありません。
特に、他方の親が育てている子どもを一方的に連れ去る行為は、仮に子どもが了解していたとしても、誘拐行為となり、犯罪に問われる危険があります。
実際に、平成17年12月6日に最高裁判所は、夫婦間の離婚トラブル中、母親が自宅で育てていた子どもを父親が一方的に連れ去った事案について、未成年者略取罪(未成年者をむりやり誘拐したという罪)が成立すると判断し、父親を懲役1年・執行猶予4年に処した判決が確定しています。
こういった実力行使は、親権を得る目的で行っていても、結局、不利に働いてしまう可能性が高いことに注意する必要があるでしょう。
実際の事例では、双方が生活状況や監護体制について主張立証をしたり、裁判所の調査官がお互いの生活状況や子どもの意向を調査して、親権者が決められます。
専門家である調査官や裁判所が親権者を決定した場合、その内容に不満があったとしても、子どものためを思って不服を述べないことも少なくありません。
あくまで子どもの今後のためにはどちらが良いかという視点が重要であることを忘れてはならないと思います。
今回は親権について述べてきました。
次回は、夫婦間で非常に関心の高い、子どもの養育費について取り上げたいと思います。
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