養育費を受け取るには?相場はどのくらい?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第9回です。
前回は、「必ず母親が親権を得る? - 親権者の決め方は」というテーマで、親権者の決め方を見てきました。
親権が決まり、子どもを育てることになると、今度は他方の親から養育費を受け取れるのかが問題になります。
養育費を受け取る条件や、その金額はどの程度になるのか、を今回は取り上げます。
実は、法律上、養育費という言葉は出てきません。
民法766条で、「子の監護に要する費用の分担」は、子の利益を最も優先して考慮し、夫婦間の協議で定める、という規定があるだけです。
一応、この「子の監護に要する費用」が養育費にあたると考えられるでしょう。
しかし、具体的な金額などについては何も触れられていないため、どのように決めるべきか悩むケースが多いと思います。
基本的には、夫婦間の協議で決めますので、双方の合意が成立すれば、いつからいつまで支払うことにしても、一括でも分割でも、金額もいくらでも構わないことになります。
協議で決める場合の注意事項については次回に取り上げる予定ですが、いずれにしても協議で決まれば問題はありません。
では、協議が整わない場合、あるいは離婚や親権自体に争いがあり、養育費を決めるどころではないという場合にはどうしたらよいのでしょうか。
このような場合、離婚の場合と同様、やはり調停を申し立てることになります。
離婚についても未解決のときは、離婚調停の際にあわせて養育費の請求も行うことができますし、反対に離婚が成立した後、養育費の取り決めができていなかった場合は、子どもが成人するころまではいつでも調停を申し立てることができます。離婚時に決めなかったから請求できない、ということはありません。
調停で合意できなかった場合は、最終的には判決や審判という形で、裁判所の判断が示され、当事者がそれに拘束されることになります。
では、実際に養育費を決定する際、期間や金額はどのようになるのでしょうか。
まず、養育費の支払い期間というのは、離婚が確定した日から始まります。離婚前の時点では、養育費という形での支払いは認められていません。ただし、生活費として婚姻費用というものの支払いが認められることになります。
離婚後、いつまで養育費の支払義務が続くかですが、通常は、20歳になって成人するまでで区切ることになります。20歳になれば親権もなくなりますので、その成人したら養育費の支払いも不要と扱われます。
しかし、実際に協議や調停で決定する際には、少し異なる決め方をすることも少なくありません。
たとえば、子どもが高校を卒業すると同時に就職するような場合、仕事をして収入のある子に対してまで養育費を変わらず支払うべきといえるかは微妙な問題だと思います。反対に、高校卒業後に大学に入学した場合、20歳ではいまだ学生で、学費も相当かかる状況ですから、20歳になったからといって養育費を打ち切るというのも違和感があります。
ですので、たとえば、「大学に進学したときは大学卒業まで、大学に進学しなかったときは20歳まで」などという形で合意することもあります。
実際には、浪人してしまった場合や中退した場合はどうするかで問題になることもありますが、あまり細かいところまで決めておくよりは、そのときに話し合う方が現実的といえる場合もあるでしょう。
※ただし、法改正のため、2022年4月以降は、成人年齢は18歳に変更されます。その後の養育費の支払時期がどうなるかは、今後議論されていくこととなります。
では、肝心の金額はどのように決めるのでしょうか。
基本的な考え方として、養育費は、父母の収入額に応じて決定されます。
通常、父母の収入から子どもの生活費を見積って、その子どもの生活費を父母が収入に応じて分担する、という形で計算します。
そうすると、母が子どもを養育し、父が養育費を支払う場合では、父の収入が大きいほど養育費は高くなり、反対に、母の収入が高いほど受け取る養育費は低くなります。
また、子ども数や年齢、親が自営業者か会社員かなどによっても養育費の額が変動していきます。
ただ、これらの要素をもとに計算をしていくと計算が大変複雑になり、わかりづらくなってしまうため、実際の裁判では、養育費の目安を整理した算定表を使用しています。
この表は、両親の収入、子どもの数、年齢から簡単に養育費の目安が算定できるため、実際の事件でもよく参照されます。
東京家庭裁判所のサイトに算定表が掲載されていますので、興味ある方はこちらをご確認ください。
この算定表は、標準的な家庭を基準として、目安を決めたものですので、どんな場合にもこのとおりに決定されるというわけではありません。
実際には、個々の家庭ごとに経済的な事情が異なります。子どもが学費の高い私立の学校に通う場合などの子どもの生活費が高くなる場合や、住宅ローン、親の介護費など特殊な支出を一方の親がしている場合などは、算定表から増減することもあり得ます。
そのため、この算定表は絶対的なものではありませんが、実務上は、だいたいの事案はこれに沿って協議を進めることになります。
養育費は、調停や裁判ではこのような流れで決めていきますが、非常に長い期間、支払いが続くことになりますので、基本的には当事者が納得して合意しなければ、途中で支払いがされなくなってしまう危険が高まります。
また、当事者で納得して決めたとしても、養育費の支払期間は長く、その間にお互いの生活状況が変わってしまうこともありますので、既に決めた養育費では足りないとか、高すぎるとかいう事態が生じたり、全く払われなくなってしまうということも起きてしまいます。
このように、養育費を決めた後に問題が生じた場合にどうしたらよいか、という問題は、次回に取り扱いたいと思います。
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