【刑事事件】 刑事事件の流れ(前) ~逮捕から起訴・不起訴まで~
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第1回です。
今回から、犯罪をおかしてしまったり、犯罪の疑いをかけられてしまった場合の捜査や裁判に関する手続き=刑事事件について、実際の経験などをもとにした情報を提供していきたいと思います。
なお、当事務所では刑事事件や少年事件は、主に秋山弁護士が担当しています(もちろん、赤渕弁護士と共同で行うこともあります)。
今回と次回は、刑事事件の基本的な流れについてみてきます。
刑事事件といっても、起訴されて裁判にかけられる前と、その後では、手続きの流れが全く違いますので、起訴前・起訴後の2つに分けて説明していきます。
1 任意捜査
事件が発生すると、警察は捜査を進めていき、容疑者(法律用語では被疑者といいます)を特定していきます。
被疑者が特定できたとしても、必ず逮捕するわけではなく、逮捕をしないまま事情聴取や取調べを行ったり、逮捕するための準備段階として取調べを行ったりしていきます。
このような段階では、警察も、まだ逮捕するだけの証拠がなかったり、逮捕するまでの必要性を感じていないということになります。
ですので、この段階で適切な対応を行えば、逮捕を避けられる事件もあります。
2 逮捕
ある程度の事件になると、被疑者を特定した後、一定の段階で逮捕し、身柄を拘束することになります(最後まで逮捕しない事件もあります)。
警察官が被疑者を逮捕する場合は、裁判所から逮捕状の交付を受けて逮捕を行う「通常逮捕」が主ですが、実務上は「現行犯逮捕」の例も相当多くあります。
現行犯逮捕は、事件の現場で証拠隠滅や逃亡をふせぐためにとりあえず逮捕した、という事件も実際上よく見られ、1,2日で釈放されるケースもあります。
しかし、逮捕状を取得してまで逮捕したような事件では、すぐに釈放されるというケースはあまり目にしません。そのまま身柄拘束を続けて、本格的な取調べを行っていくのが通常だと思います。
逮捕は、通常、警察官が行い、逮捕された被疑者は、警察署の留置場に入れられます。基本的にはその後の取調べも警察署内で警察官により行われますが、そうでない場合もあります。
法律上、逮捕後の身柄拘束は、実は48時間以内に限られています。それ以上の身柄拘束を行うときは、まず検察庁に事件を送致する手続きをとらなければなりません。
3 勾留
検察庁とは、検察官・検事がいる場所のことで、東京地方検察庁(東京地検)などの名前をよくニュースなどで見ると思います。札幌にも、札幌地方検察庁(札幌地検)があります。
警察から検察庁に事件が送致されると、被疑者も検察庁に連れて行かれ、検察官・検事の取り調べを受けることになります。
その取調べの結果、検察官が、身柄拘束を続ける必要があると判断した場合、裁判所に勾留の請求をします。
勾留というのは、要するに逮捕後も身柄拘束を継続するということで、逮捕後に勾留が認められると、起訴・不起訴が決定されるまでに、さらに10日間から20日間の身柄拘束ができることになります。
ですので、逮捕後の検察官の取調べなどの結果、検察官がまだ10日間の身柄拘束を続けるべきと判断したときは、勾留の請求を行います。
検察官が勾留の請求をすると、今度は被疑者は裁判所に連れて行かれ、裁判官と面談をします。
その面談を勾留質問といいますが、裁判官は、事件の内容を認めるか否認するかなどを被疑者に確認します。
そして、事件の資料などを検討し、裁判官が勾留が必要だと認めれば、勾留決定を行い、10日間の身柄拘束を決定します。
反対に、これ以上の身柄拘束は必要ないと判断すれば、勾留請求は却下され、すぐに釈放されることになります。
4 勾留期間の延長
勾留が認められてしまうと、原則として10日間、身柄拘束が続きます。
検察官は、その期間内に被疑者を起訴するかどうかを決定する必要がありますが、関係者が多い場合などは、10日間では時間が足りないという事態も生じます
そのようなとき、さらに10日以内の期間、勾留期間を延長することが認められています。
その場合、最初の勾留の際と同様に、検察官が裁判所に勾留期間の延長を申請し、裁判所が認めるかどうかを判断することになります。
なお、延長は10日以内に限り認められていますので、結局、全部で20日以内に限定されることになります。
5 処分の決定
勾留を行っている場合、勾留期間の最終日までに被疑者の処分を決定します。
処分の種類にはいくつかあり、主なものは以下のとおりです。
・起訴 被疑者を正式裁判にかけ、裁判所に有罪無罪や刑の重さを判断してもらう。
・不起訴 その事件で被疑者に処分・刑罰をくだす必要はないとして、事件を終了させる(おとがめなし)。
・略式命令 罰金刑で済む場合に、簡易な手続きで罰金額を決定して、支払いを命じて釈放させる。罰金さえ納めれば事件は終了。
・処分保留 勾留期間内に処分が決められないため、いったん釈放して捜査を継続し、後日正式に処分を決める。
このうち、不起訴はおとがめなしの判断であり、それで事件が終了となります。処分保留として釈放される場合は、すぐに別件で再逮捕されることもありますが、そうでない場合にはほとんどが不起訴で終わっています。
略式命令は、比較的軽微な事件だけど、不起訴とはできない場合に、勾留期間終了時に罰金の支払いを命じて釈放させるものです。事件自体はそこで終了し、あとは罰金を納付する手続きが残るだけになります。
これらの処分は、どれも勾留期間が終了すると同時に事件もほぼ終了となりますので(処分保留は例外もありますが)、その後に裁判が続くということはありません。
ところが、起訴という処分が下されてしまうと、正式裁判にかけられることになります。
この場合、基本的には判決が出るまで身柄拘束が継続されることになってしまい、釈放されないままとなってしまいます。
また、裁判を受けることになりますので、裁判のための準備も必要となってきます。
そのため、起訴されるか、それ以外の処分になるかによって被疑者が受ける負担は全く違うものになってしまいます。ですので、早期に釈放され、社会復帰をするためには、可能な限り起訴を避けることが必要になってくるのです。
6 スケジュールの参考例
起訴、不起訴までの流れはだいたい把握できたでしょうか。
参考として、逮捕され、20日勾留された後、不起訴で釈放となるような事件のタイムスケジュールは、次のとおりです。
7/1 逮捕
7/3 検察庁で取調べ、勾留請求される
7/4 裁判所で勾留質問、勾留が決定(7/12まで)
7/12 勾留を10日間延長することが決定(7/22まで)
7/22 不起訴の処分を得て、釈放。事件終了。
この間の期間は、取調べを受けたり、現場検証に立ち会ったりしながら進んでいきます。
なお、最初の10日間の勾留の日数があわないと感じるかもしれません。
勾留日数の数え方には特殊なルールがあり、実際には、検察官が勾留請求をした日から、その日を含めて10日以内のみ認められる、という決まりになっています。
ですので、7/3に勾留請求をすれば、その日を含めて10日間、つまり7/12までの勾留が可能となるのです。
実際には上の参考例よりも短い日数ですむ場合もありますが、この参考例のように最大限の日数身柄拘束が続くケースも少なくありません。
これだけの期間を、弁護士の手助けのないまま乗り切ることは、相当厳しいのではないでしょうか。
さて、次回は、起訴されてしまった場合のその後の流れを見て行きたいと思います。
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