【刑事事件】 保釈って何?
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第4回です。
前回(裁判・公判の流れや注意点を確認しよう)では、起訴された場合の裁判の具体的な流れを見てきました。
今回のテーマは、「保釈」という制度です。
ニュースなどで耳にする機会の多い言葉ですが、実際には、誤解されている方が非常に多いといえます。
「お金持ちはお金を出せば出してもらえる」「お金を払って保釈されるなんて、反省していない」と理解してはいないでしょうか。
保釈というのは、意外と奥が深い制度なのです。
逮捕され、身柄拘束されている人が起訴された場合、裁判を受けなければなりません。
起訴されてから判決が出るまでは、早くて1ケ月、通常で2,3カ月以内ですが、少し複雑な事件になると1年を超えることもあります。
前にも見てきましたが、身柄拘束された状態から起訴された場合、判決までの間、ずっと身柄拘束が続いてしまうことになります。
裁判が終わるまで、釈放されることはないのです。
しかし、よく考えてみれば不思議な制度です。
逮捕・起訴された人の中には、一部ではありますが、無罪となる人も含まれています。
そのような人であっても、起訴された場合、そのまま判決までの長期間、留置場・拘置所で身柄拘束されなければなりません。
また、比較的軽微な事件で、執行猶予判決が確実である場合なども、判決が出るまで釈放されないことになります。
しかも、このような判決までの間にかかる時間というのは、裁判官、検察官、弁護人が裁判の準備をするための時間です。
裁判所も検察官も弁護人も、たくさんの事件を抱えているため、裁判を早く進めようとしても、どうしても1ケ月に1回程度のペースでしか進みません。
検察官の準備が遅かったり、裁判所が多忙であったりして裁判が長引いたとしても、被告人はそのまま身柄拘束を受け続けたままになります(実は、お盆や年末年始などを挟むと、休暇などのため裁判が長引きます)。
そのうえ、判決でたとえば懲役3年の刑になった場合、刑期はその判決後から計算します。
その判決までの間に1年間身柄拘束をされていても、その1年分をそのままひいてもらえるわけではありません。
裁判所の判断で、一定の期間分を刑期から差し引いてもらうことは認められていますが、それでも差し引いてもらえない日数は相当なものとなります。
判決が決まるまでの被告人は、留置場や拘置所で、労働などが与えられるわけでもなく、ただ、朝から夜まで部屋に座って時間を過ごすだけです。
本当であれば、起訴された後は釈放して、自宅から裁判に出席させ、実刑判決が確定すれば服役させれば十分ではないでしょうか。
では、どうしてそのような制度でなく、身柄拘束が続けられるかといえば、「証拠隠滅」や「逃亡」を防止し、裁判を適正に行うためなのです。
裁判が始まる前の段階では、自分の刑を軽くしたり、ごまかすために、重要な証拠を隠したり、関係者に口裏合わせを行う者がいないとも限りません。
また、重い刑が予想される場合には、裁判に出席せず、行方をくらましてしまう危険があります。
このような事態を防止するために、裁判が終了するまで釈放しない扱いとされているのです。
これは、反対にいえば、そのような証拠隠滅や逃亡の危険がないのであれば、身柄拘束する必要性はないことになります。
実刑判決後の服役は、事件に対する制裁などの意味合いがありますが、判決確定前の身柄拘束は、無罪が推定された状態ですので、制裁としての意味は薄いでしょう。
そのように、証拠隠滅や逃亡のおそれがない者を釈放し、自宅から裁判に出席することを認める制度が、保釈なのです。
ですので、お金を持っているとか貧しいとかいう事情は関係なく、反省している、していないということとも関係がありません。
単に、裁判を正常に進めるためには身柄拘束を続けるべきか、釈放しても問題ないか、という観点が保釈においては重要なのです。
起訴され、裁判にかけられる人の中には、逮捕をされないまま起訴され、自宅から裁判に出席する人も多くいます。
それに対し、一度逮捕され、そのまま起訴された人は、判決まで釈放が認められないというのは釈然としません。
そのため、特に必要性がない場合には釈放を認め、自宅から裁判に出席させれば十分です。
それが、保釈という制度が認められる理由です。
そうすると、裁判所が保釈を許可したということは、裁判所が、「その人を拘束しておく必要はないし、釈放してもそれほど問題がないだろう」と認めたことになります。
報道などで被告人が保釈請求をしたことや、保釈されたことを非難するような意見を見聞きすることもありますが、これまで見てきたような保釈という制度を正しく理解されていないのだと思います。
保釈しても問題がない事件では、積極的に保釈を求めるのが本来だと考えていますので、私も本人の希望があったり、身柄拘束の必要がないと思った場合には、すぐに保釈請求を行っています。
これまで、保釈された被告人が何か問題を起こした経験もなく、すべてとどこおりなく裁判が終わっています。
保釈を受けた被告人は、一定の条件はつきますが、釈放されて自宅に戻り、もとどおり自由に生活をすることが認められます。
仕事をしたり、外出したりすることも問題なく認められています。
一定の条件を守ることと、裁判に必ず出席しさえすれば、普通どおりに生活して構いません。
その状態が、判決の日まで続くことになります。
ここまで保釈とはなにか、を見てきましたが、少しわかりづらかったかもしれません。
ただ、刑事裁判では、裁判所も弁護人も、保釈の請求をすることは正当な権利だと考えており、保釈請求をしたことで、裁判所が不快に思うとか、反省していないと判断するということは絶対にありません。
そのような理由で保釈をためらう必要はないのです。その点は特に理解していただければと思います。
少し長くなりましたので、どうすれば保釈が認められるのか、については次回にしたいと思います。
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