【刑事事件】 裁判・公判の流れや注意点を確認しよう
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第3回です。
前回(刑事事件の流れ(後)~起訴から判決まで~)までで、刑事裁判のおおまなか流れを見てきました。
今回は、肝心の裁判(公判)でどのようなことを行うのかを実例をベースに見て行きたいと思います。
1 裁判所への出頭
刑事裁判の第一審は、地方裁判所の場合と簡易裁判所の場合があります。
札幌では、札幌地方裁判所と札幌簡易裁判所の建物が別々になっていますので、注意が必要です。
被告人には裁判所からの公判期日の通知書が届いているはずですので、その日時に指定された法廷に出頭します。
なお、身柄拘束中の被告人は、拘置所から送迎されますので時間や場所を間違う心配はありません。
2 公判の開廷
時間になると、公判が始まります。
法廷には必ず傍聴席があり、事件と関係ある方も関係ない方も、自由に傍聴できます。出入りも自由です。
最近は裁判員裁判などで刑事裁判が関心をひいているためか、札幌地裁でのだいたいの公判には傍聴人が3,4人程度は来ています。
ときどき、学生や職場ごとの集団傍聴が行われることがあり、傍聴席が満席になることもありますが、気にしないでもらうしかありません。
ちなみに、傍聴券が発行されるのはごく一部の著名事件だけで、普通の裁判ではそのようなことはありません。
法廷の中には、検察官と弁護人が、法廷の左右にわかれて、それぞれの席につきます。法廷のイメージは、だいたいテレビドラマやニュースで見かけるとおり、正面に高い壇がもうけられており、そこに裁判官が座ります。
被告人は、弁護人席の前にある長イスにかけるか、裁判官の正面に、傍聴席に背中を向ける形で座る場合の2通りがあります。
ちなみに、最近、裁判員裁判などでは弁護人の隣に着席できるケースも見られるようになってきました。
裁判官は、大半の事件では1人のみです。ただし、重大事件や複雑な事件では裁判官が3人になることもあります。
3 裁判官の入廷
法廷に被告人、弁護人、検察官が集まり、時間になると裁判官が法廷の奥から入廷し、裁判官席に着席します。
そこから公判が始まります。
裁判官が入廷すると傍聴人も含めて全員が起立し、裁判官が着席前に一礼するのにあわせて、全員で一礼します。
ちなみに、これは裁判官や特定の人に礼をしているというよりは、法廷やこれから始まる裁判に向けて、一礼しているという意識が強いと思います。
4 人定質問(本人確認)
法廷が始まると、まず、被告人が法廷中央の証言台前に立つよう指示されます。
そこに立つと、裁判官から、人定質問(じんていしつもん)という手続きが行われます。簡単にいえば、本人確認です。
聞かれるのは、氏名、本籍、住所、生年月日、職業で、聞かれたとおりに答えるだけです。
よく本籍がわからなくて戸惑う方がいますが、覚えてなければ裁判官が「○○でいいですか」と確認してくれます。
ただ、答えられないと緊張してしまう方も多いので、私は、事前に起訴状に記載してある本籍・住所等を確認してもらっています。
5 罪状認否
人定質問が終わると、いわゆる罪状認否が行われます。
まず、検察官が、起訴状に記載された事件の内容を読み上げます。起訴状の記載はシンプルなもので、「被告人は、○月○日、○○区○○のスーパーから、○○を盗んだものである」というような必要最小限の情報だけです。
検察官が起訴状を読み上げた後、裁判官から被告人に対して、黙秘権の説明が行われます。
そして、起訴状に記載された内容に間違っているところはないか、要するに被告人が本当にそれを行ったのかなどを裁判官から質問されます。
間違いがなければ、「間違いありません。そのとおりです」と答えますし、違っていれば、「私はそのようなことはしていません」というように答えます。
その時点で、この事件が犯行を認めている自白事件なのか、犯行を否定している否認事件なのかが確定します。
これが終わると、被告人は元の席に着席するよう指示され、しばらく座って裁判の様子を見ているだけになります。
6 冒頭陳述
罪状認否がおわると、検察官から「冒頭陳述」(ぼうとうちんじゅつ)が行われます。
これは、今回の事件がどういう流れで起きたのか、どういう被害があったのかを具体的に説明するものです。
起訴状朗読では必要最小限の情報しか記載されず、事件の動機や背景などはわかりませんので、この冒頭陳述で内容を明らかにしていきます。
なお、注意が必要なのは、この冒頭陳述は、検察官側から見た事件の説明でしかないということです。つまり、検察官の考えはこうだ、というものです。
ですので、被告人の言い分はこれと違う可能性はありますし、裁判所の考えも異なる可能性もあります。
検察官側の見立てを説明するのが冒頭陳述という手続きです。
これが終わった後、弁護人や被告人が反論をすると思われる方もいるかと思いますが、実は大半の事件では、弁護人や被告人が冒頭陳述を行うことはありません。
複雑な否認事件や裁判員裁判になっている事件では、弁護人も対抗して冒頭陳述を行うことがありますが(裁判員裁判では必ず行います)、それ以外の事件では冒頭陳述を行わないことが普通です。
これは、被告人の犯行を証明する義務は検察官にあり、弁護人や被告人が、積極的に意見を述べたり、無罪を証明する必要がないとされていることと関係しています。
ただ、実際は、通常の自白事件では冒頭陳述を行わなくても裁判官は理解できるだろう、という考えがあるから、あえて弁護人が冒頭陳述まで行っていないのでしょう(なお、検察官は、法律上、必ず冒頭陳述を行う義務があります)。
7 検察官の立証
冒頭陳述は検察官の言い分ですので、それだけでは何も証明されたことになりません。
ですので、冒頭陳述が終わった後、検察官は、事件の内容を立証・証明していきます。
証明といっても、ほとんどは、捜査資料の要約を読み上げるだけで、証人尋問などを行う事件は一部に限られています。
通常の自白事件であれば、その読み上げも5分から10分程度で行われています。
しかし、否認事件であれば、検察官も多数の証人尋問を実施することもあり、その尋問を行うために日を変えて何度も公判を実施することになります。
8 弁護側の立証
検察官の立証が終わると、今度は弁護人・被告人側からの立証が行われます。
自白事件であれば、被告人の刑の重さが問題となりますので、被告人が事件後に深く反省してきたことや、家族が監督していくこと、被害者に弁償し示談が成立していることなどを立証する必要があります。
そのために関係書類を提出するほか、家族や被告人自身の尋問を行うことになります。
家族と被告人が証言台に立つときは、通常、家族から証言を行い、被告人は最後になります。
事前に弁護人と打合せをしてから公判にのぞむことになりますので、証言の際も、何をいっていいか全くわからないということは少ないと思いますが、特に被告人質問は刑事裁判の山場ですので、よく準備し、言いたいことを明確に裁判官に伝える必要があります。
弁護側の証人尋問、被告人質問が終了すると、審理はほぼ終了です。
9 論告・弁論
お互いの立証が終了した後、検察官が、「論告」(ろんこく)を行います。
これは、検察官が審理の内容を踏まえて、どのような判決をすべきかを主張するものです。「○○という証拠があり、○○という事情があるから、被告人を有罪にして、懲役○年の刑を科すべきである」、という内容になります。
冒頭陳述と内容は似通ってくることもありますが、懲役○年にすべき、という「求刑」が行われる点が特徴です。
これに対し、弁護人からは、「弁論」(テレビなどでは「最終弁論」という言い方が多いですね)を行います。これは、検察官の論告に対抗して、弁護人として適切な判決はこうあるべきだという意見を主張する場です。「○○という証拠からすると、被告人の犯行は立証されておらず、無罪だ」「○○という事情があるから、被告人には執行猶予付きの判決で十分である」というのが弁論です。
10 被告人の意見陳述
審理の一番最後には、被告人が再び証言台に立ちます。
裁判官から、「これで審理を終えますが、最後に何か言いたいことはありますか」と質問されます。被告人に、言い残したことや、一番伝えたいことを話す最後のチャンスを与えるためのものです。
ただ、その直前に被告人質問で十分話したいことを話していることも多く、「特に付け加えることはありません」という内容で終わってしまう例もみかけますが、私は、事前に打ち合わせをして、必ず何か話してもらうことにしています。
傍聴席にいる家族への言葉だったり、被害者への謝罪だったり、今後に向けての決意など、内容はさまざまですが、裁判の終わりに際して何も言うことがないというのでは、どうしても物足りない感じがしてしまうからです。
なお、重大事件や否認事件では、意見陳述を何十分も、場合によっては1時間以上することもありますが、自白事件では本当に一言、二言で終えることが通常でしょう。
被告人の陳述が終わると、判決の言い渡し日時を裁判官が指定し、その日は終了します。
11 判決言い渡し
指定された判決公判で、裁判官から、判決の結論と理由が宣告され、第一審は終了となります。
内容に応じ、控訴するかどうかを検討することになりますが、控訴をしないのであれば、そこで刑事裁判は終わりです。
控訴する場合には、控訴の手続きを行い、高等裁判所で第二審が実施されることになります。
以上が、刑事裁判の実際の流れです。
これが通常の自白事件であれば、1時間以内、1回の裁判で実施されることがほとんどでしょう。
裁判員裁判などではもう少し時間をかけますが、流れはほとんど変わりません。
このような、裁判のそれぞれの場面でどのように対応していくかは、弁護士と被告人が十分に打合せをして、しっかりと決めておく必要があります。
次回は、裁判の途中で釈放をしてもらう保釈という手続きを詳しく見て行きたいと思います。
保釈は、非常に誤解されやすい制度ですので、正確な知識を確認していただければと思います。
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