【刑事事件】 保釈金はあとで返ってくるの? 金額の相場は?
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第6回です。
前回(保釈を認めてもらう方法・手続きは?)に引き続き、保釈を取り上げます。
今回は、保釈金というものについてです。
保釈金は、保釈手続きをするうえで一番関心の高いところだと思いますが、世間的にはよく誤解されるところでもあります。
その保釈金の意味と、金額の決め方の目安を見て行きたいと思います。
保釈金というのは、よくニュースなどで取り上げられますので、保釈の際に保釈金というお金がいることはみなさんご存知だと思います。
特に、一部の高額所得者の事件などでは、保釈金が何億円、などという報道がされることもあります。
そういう報道から、お金持ちだけ保釈されてずるい、なんていう批判を聞いたこともあります。
しかし、この批判は全く誤解です。むしろ、お金持ちの方が保釈の際には損とさえいえます。
そもそも保釈金とは、なんでしょうか。
これは、前回まででも見てきたとおり、保釈の際に裁判所に納めることが必要なお金です。
保釈の申請を裁判所に行い、裁判所が保釈を認めた場合、必ず保釈金の金額も決定します。
その金額を裁判所に納めた時点で初めて保釈されることになります。ですので、保釈の許可が下りても、お金を納められないと、いつまでも保釈はされません。
では、これは何のために納めるかといえば、それは、一言でいうと、保釈時の約束に違反させないための人質です。
保釈の許可を受ける際には、裁判所から必ず約束事、条件がつきます。たとえば、証拠隠滅をしないとか、逃げ出さないとか、裁判を欠席しないとかいう条件です。
この条件に違反した場合には保釈は取り消されてしまい、再び身柄拘束を受けてしまいますが、それだけではなく、納めた保釈金も没収され、返してもらえなくなってしまうのです。
つまり、違反した場合には保釈金を全部没収するから、没収されたくなければ条件を守るように、という人質のようなものなのです。
反対にいえば、保釈時の条件に違反さえしなければ、保釈金は全額戻ってきます。
これは、有罪判決の場合でも、実刑判決の場合でも同じです。
保釈は、あくまで裁判にきちんと出席させるための人質ですので、裁判が終わるまで約束を守れば、判決内容にかかわらず、全額返してもらえるのです。
つまり、約束を守れば人質を解放してくれる、というイメージでいいと思います。
保釈金は納めたら戻ってこないと誤解している方も少なくありませんが、条件に違反しなければ大丈夫です。
そこで重要となるのが、保釈金の金額です。
せっかく保釈が認められても、保釈金が用意できないばっかりに、保釈がされないまま判決を迎えることもめずらしくありません。
しかも、お金を納めるまでは保釈が認められませんから、のんびり保釈金を集めているうちに判決が来てしまうと、保釈は無効となってしまいます(保釈は判決時までのみ有効です)。
ただ、正確には裁判所が保釈を許可する際に初めて金額が決まりますので、事前に予想して金額を用意しておくしかありません。
では、実際に保釈金の額はどれくらいかといえば、通常の事件では、150万円から300万円の範囲が大半だと思います。
私が経験した事件は札幌地裁ばかりですが、ざっと振り返ってみたところ、ほとんどがこの範囲です。
平均すると200万円程度が目安だと思いますが、最近の経験では150万円程度と300万円程度の二極化になっている印象です。
もちろん、たまたま担当した事件がそういった傾向なだけかもしれませんが…
だいたいの相場、目安はこのとおりですが、どういった事情で上下するかは予想できますか?
基準は、大きくわけて2つあります。
1つは、事件が重大であるかどうかや、前科の有無、見込まれる刑の重さなど、保釈を認めるリスクの高さが影響しています。
たとえば、重大事件で長い実刑判決が確実である場合、保釈を認めると、証拠隠滅や逃亡を図って、刑罰を避ける可能性が一般的には高くなるといえます。
そのような場合は、保釈を認めるとしても保釈金を少し高めに設定し、条件違反をしづらいようにしているのでしょう。
反対に、執行猶予が確実であり、事件も軽微な場合には、保釈金は低めに設定されます。
そういった事件では、150万円を下回る金額で保釈が認められることもあり、私の経験上は、120万円の保釈金で許可を受けたこともあります。
2つ目の基準は、被告人の経済力です。
実際には、収入が低い場合にもあまり保釈金が安くなることはありませんが、収入が高い場合は、保釈金が非常に高額となります。
たとえば、少し前のライブドア事件では、堀江社長の保釈金は3億円と言われました。
最近では、大王製紙の井川会長も3億円という報道に接した記憶があります。
これらの事件では、被告人の資産・収入が高額であったことが大きく影響した結果でしょう。
高額所得者の場合に保釈金が高くなるのは、たとえば5億円の資産がある被告人に、300万円の保釈金を納めさせても、全く人質の効果がないからです。その被告人にとって、没収されると相当な痛みを感じる程度の金額を納めさせるという考慮だと思います。
ですので、同じような事件を起こしても、所得が大きい人の方が、保釈金の金額は高くなります。
覚せい剤事犯で起訴された芸能人の酒井法子氏の場合、保釈金は500万円だったそうですが、一般の覚せい剤事犯(初犯)の場合は、だいたい200万円前後になるでしょう。
もちろん、高額の保釈金を命ずる際には、被告人が納められると思って金額を決めているのでしょうが、同じような事件でもこれだけの差があると釈然としない気持ちもあります。
ちなみに、私が扱った事件での中では、一審での保釈金だけで1000万円を超える金額を納付したことがあります(覚せい剤事犯ではありませんが)。
なお、保釈の許可を受ける場合には、裁判官と金額の折衝をすることもあります。
せっかく保釈の許可をもらっても納付できなければ意味がありませんので、事前に裁判官に、「○○円までなら用意できるのでこの範囲でお願いしたい」という意見を申し入れることもあります。
相場から外れた金額では無理でしょうが、相場にあっており、説得力がある金額であれば、比較的柔軟に対応してもらえるように思います。
保釈金額についてみてきましたが、最後に、保釈金の返還時期について触れておきたいと思います。
保釈は、判決の時点で効力が終わりますので、保釈金も判決時点で返還されることになります。
とはいっても、実際には若干の会計手続きなどがあるので、裁判所ですぐ返してもらえるわけではありませんが、判決後、2,3日から長くて1週間程度で返還してもらえます。
なお、保釈金の納付時に返還時の送金先を届け出ておきますので、その送金口座に振り込まれることになります。細かいところですが、振込手数料がひかれることもなく、納めた金額がそっくり全額返還されます。
今回は、保釈金の意味や金額について少し細かく取り上げてみました。
保釈の際にはやはりお金の扱いが難しく、金額を用意する段取りがうまくいかないばかりに、必要以上に長期間拘束されてしまうという可能性もあります。
ですので、早い段階から弁護士と親族が協議をし、保釈を見据えた準備を整えておくことが不可欠です。
しかし、保釈の許可が確実であっても、100万円以上のお金を用意するあてが全くない、という方も大勢いらっしゃるはずです。
そのような場合でも、実は、保釈金を調達できる方法があるのです。
それについては、次回のテーマとしたいと思います。
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