【債務整理】 破産をしたら退職しなければならないの?
札幌の弁護士による債務整理解説コラム第9回です。
前回は、破産をしても免除されない債権があることを説明しました(破産をしても返済しなければならない負債とは)。
今回は、話題を少し変えて、破産と仕事の関係について見て行きたいと思います。
「破産をしたら仕事を辞めないとならないのですか」
「破産申し立てをすると、解雇されてしまうのでは」
こういった、破産を行ったことで、仕事や就職に問題がでることを心配されている方は少なくないようです。
仕事がなくなってしまったら生活に困る方がほとんどでしょうから、不安に思うのも当然のことです。
では、実際はどうかといえば、ほとんどの方の場合、「問題ありませんよ」とお答えしています。
破産したことが、仕事や就職に影響することは基本的にないといえます。
ただ、一部、例外的に影響を受ける場合があります。それは、一部の特殊な職業に就いている場合です。
その職業の説明の前に、さきに一般的な場合を見て行きます。
普通の会社員の方や主婦の場合など、大半の場合は、破産が仕事に影響を与えることはまずありません。
理由として、1つは、そもそも破産したことが他人に知られる可能性は相当低いからです。
前に、「破産をすると、家族や職場に迷惑がかかる?」でも触れましたが、破産をしたことは、自分から言い出さなければ、職場にわかることはまずありません。
ですので、破産したことで職場から不利な扱いを受けたり、問題とされたりする可能性はそもそもほとんどないのです。
ただ、そうはいっても、会社に申告したり、なんらかの事情で知られてしまう可能性はあります。
しかし、そのような場合でも、破産したことを理由に不利な処分を受ける心配は不要といえるでしょう。
債務を抱えたり、破産したということは個人的なことがらであり、それがすぐ仕事に悪影響を与えるわけではありません。
また、破産手続きをとった場合、すでにその債務問題は解決したことになりますから、それで不利な扱いを受ける理由はありません。
会社としても特段問題にはしないことが多いですし、解雇などに踏み切っても、それは違法解雇となりますので、通常はそのような対応を取ることはないでしょう。
もちろん、債務の穴埋めのために会社の金品を横領していた場合などには当然解雇の対象となりますが……
ちなみに、よく問題になるのが公務員の場合です。国家公務員でも地方公務員でも、普通の公務員の方は、破産をしても、そのまま仕事を続けることができます。
当事務所でこれまで取り扱ってきた公務員の方々は、特に問題もなく、破産後もそのまま職務を続けています。
なかには上司の指示で破産手続きをとりに来られた方もいたほどです。
(なお、後述していますが、公務員の中でもごく一部の特殊な公務員は破産による制限があります)
ただ、公務員の方の場合には、共済から貸し付けを受けていることが多いように感じます。
その場合、共済は債権者となり、破産の通知をし、返済金の免除をしてもらうことになりますので、その関係で、多少居心地が悪い思いをするかもしれません。
しかし、破産が終わるころには精算も終わりますので、それほど心配される必要はありません。
ここまで、破産手続きをしても仕事には影響がでないことを確認してきました。
ところが、一部の職業は、破産を行ったことで、退職・廃業を余儀なくされることになってしまいます。
数が多いので、すべては挙げられませんが、主なものを以下に掲げます。
- 国家資格に基づく専門職
弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士、不動産鑑定士など - 特殊な公務員(一般の公務員は影響ありません)
人事院、公安委員会、公正取引委員会、教育委員会など - 一部の民間職
警備員、生命保険募集人や保険代理店など(事業者以外の方で問題となるのはこの程度です) - 会社の役員
取締役や監査役など
これらの職業のうち1.2.3.は、破産手続き中の者が職務を行うことが法律で禁止されています。
ですので、破産手続きの開始決定を受けた時点で、退職しなければならないこととされています。
また、弁護士や司法書士などの国家資格に基づいた職務に就いている場合は、破産手続き開始決定と同時に資格を失いますし、2.の特殊な公務員も失職ということになります。
3.の警備員や保険外交員の場合は、自主的に退職しなければ解雇されることになるでしょう。
そうすると、たとえば警備員や保険外交員の方は、破産をしてしまうと今後の生活に困ってしまいます。
ただ、多額の債務を負って、現在のままではどちらにしても通常の生活も遅れないということであれば、一度退職を覚悟し、次の仕事をすぐに探すしかない場合も多いでしょう。
もっとも、どうしても退職を避け、借金も解決するということであれば、個人再生という方法があります。
個人再生は、職業への制限がありませんので、警備員などの場合にも在職したまま行うことができますが、そのかわり、破産よりも条件が厳しいことが多いです(詳しくは別の機会に取り上げます)。
ところで、そのような破産による制限がいつまで続くかという点ですが、実は、免責(債務免除)の決定を受け、免責が確定するまでに限られます。
破産の開始決定を受けてから、免責決定が確定するまでは、通常の事案(破産管財人がつかない事案)では3か月前後、破産管財人がつく事案では半年から1年程度(管財業務の量によって大幅に変わりますが)でしょう。
さきほどの1.2.3.による職業の制限は、その期間のみとなりますので、免責が確定したあとは、問題なく就職することができます。
ただし、実際には会社によっては破産の有無などを厳しくチェックするところもあるようで、そのような場合には就職が難しいと思われます。
さて、残った4.ですが、会社の取締役・監査役などの役員も破産により影響を受けます。
しかし、この制限はほかの制限とは少し異なっています。
会社の役員の場合には、破産開始決定がなされると、その時点で役員の資格を失いますが、すぐにまた役員となることが認められています。
ほかの職業の制限は、免責決定が確定するまで続くのですが、会社役員は、破産開始決定の時点だけの制限とされているのです。
とはいっても、会社の役員は株主総会決議で決定する必要がありますから、破産開始決定によって役員を降りた者を、新たに株主総会で選任しないとなりません。しかし、その手続きは、破産開始決定を受けたすぐ次の日に行っても良いことになります。
(ちなみに、このような制限がある理由は、会社の役員というのは株主が会社の経営を委任した相手ですので、破産などの事情が生じたときは、一度役員からはずし、新たに株主がその者を役員として良いかとチェックする必要があるためでしょう)
破産により現在の仕事やこれから就く職業に影響が出るのは、これまで見てきた程度に限られています。
当事務所でも多数の破産事件を取り扱ってきましたが、特に会社員や公務員の方は、ほとんどがそのまま仕事を続けています(事業者の方や、破産を機に自主退職した方もいましたが、それは別の問題によるものです)。
ですので、仕事への影響を心配して破産をあきらめる必要はありません。
今回のテーマは以上となります。
これまで破産手続きの流れや、免責の手続き、破産をした場合の問題点などを取り上げ、破産手続きについては一通り見てきたように思います。
次回からは自己破産を弁護士に依頼する場合の手続きなどを見て行きたいと思います。
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