養育費が支払われない場合の対処法
札幌の弁護士による離婚解説コラム第10回です。
前回(養育費を受け取るには?相場はどのくらい?)の最後に予告しましたが、今回は、一度決めた養育費が支払われない場合を見て行きたいと思います。決めた養育費が支払えない場合、は次回に取り上げます。
では、さっそく本題ですが、養育費を取り決めたのに、支払われない場合、どうしたらよいでしょうか。
手紙や電話で催促をするのがもちろんですが、それでも支払いがされないことも、残念ながら何度も経験してきました。
養育費の支払いは期間が非常に長くなるため、途中で支払われなくなってしまうことも少なくないのです。
このような場合の対処法は、離婚が、協議離婚であった場合と、家庭裁判所での 調停離婚・裁判離婚であった場合とで大きく異なります。
まず先に、調停離婚・裁判離婚をし、その際に養育費の取り決めを裁判所で行った場合を見て行きます。
このような場合に相手が養育費の支払いをしなくなったときは、①家庭裁判所の履行勧告と、②強制執行、の2つの方法をとることができます。
①の履行勧告というのは、家庭裁判所の手続きで当事者がした約束について、約束違反があるときに、家庭裁判所が相手に事情などを確認し、約束通り支払いをするよう指示を出してくれるという制度です。
裁判所から、約束を守るようにと指示を受ければ、当事者が直接請求をした場合よりも、相手も支払いを行う可能性が高くなります。実際、履行勧告により支払いが再開されるケースもよく見かけます。
ただ、この履行勧告は、手軽で使いやすいというメリットはありますが、相手がそれに従わなくても何もペナルティはない、という点が弱点です。
履行勧告を行っても効果がない場合、あるいは最初から履行勧告が無駄と思われる場合には、②強制執行を行います。
強制執行というのは、裁判所の許可を得て、相手の財産を一方的に差し押さえてしまい、その財産を売却してお金に換え、そこから支払いを受けるという制度です。
強制執行を行うには、裁判所で当事者が合意した証明書である調停調書・和解調書や、裁判官の判断を示した判決書・審判書が必要です。そこに記載された約束が破られたときに、強制執行が認められます。
ただ、難しいのは、相手のどのような財産を差し押さえるかは、請求する側で決めなければならないのです。しかも、漠然と預金とか給料、というだけではダメで、北洋銀行の札幌西支店にある口座とか、○○株式会社からもらう給料、というふうに、内容を特定しなければなりません。
通常は、離婚前から相手の職場が変わっていなければ、その職場からの給料を差し押さえることが多いですね。残念ながら、相手が退職し、どこに勤めているかがわからないと、この方法は難しいでしょう。
給料以外にも、何か財産的価値があるものがわかれば、それを差し押さえることになります。
この差し押さえでも支払いを受けられないときは、もはや打つ手がなくなってしまいます。
相手に細かく督促を行うなどするしかありませんが、それで応じてもらえなければどうしようもないのが現実です。
養育費の支払いが確実に受けられるような制度があればいいのですが……
ここまでが、裁判所での調停離婚・裁判離婚をした場合です。
では、調停や裁判を起こさずに、協議離婚をし、その際に養育費を決めた場合はどうでしょうか。
実は、この場合、さきほどの履行勧告という手段は使えないのです。履行勧告は、裁判所が関与して取り決めた約束にしか利用できず、協議離婚の場合は対象外なのです。
では、強制執行はどうでしょうか。
この強制執行も、協議離婚の場合には、そのままでは利用できないことが多いのです。
さきほども触れましたが、強制執行には、調停調書や判決書という裁判所が作成した公文書が必要になります。協議離婚では、このような書類はありません。
ですので、基本的に強制執行は認められません。
しかし、だからといって打つ手がないわけではありません。
協議離婚で養育費を決めた場合であっても、あとから裁判所に、養育費の支払いを求める調停や審判を申し立てることが認められているのです。
ですので、このようなときは、養育費支払いの調停を家庭裁判所に申し立て、その中で相手と話し合いをしたり、裁判所に判断を出してもらうことになります。
そのようにして手続きが終了し、調停調書や審判書を裁判所に作成してもらった場合には、それを使って、履行勧告や強制執行を行うことができます。
協議離婚の場合には、トラブルになったときに改めて調停を行わなければならない、という点が不便ですし、時間もかかってしまいますから、なかなか大変な思いをしてしまいます。
そうすると、養育費が払われない可能性があるときは、協議離婚ではなく必ず調停離婚で決めなきゃ、と心配される方もいるでしょう。
しかし、協議離婚の場合にも、将来に備えた手段が1つ用意されています。
それが、公正証書です。
公正証書とは、公証人という特別な資格を持つ公務員が、公的に作成する証明書のことです。
当事者が取り決めた離婚や養育費に関する約束を、公証人の前で確認し、公証人がその約束事を公正証書に記載します。
そうして、公証人が公正証書に約束を記載したときは、この公正証書は、裁判所の調停調書や判決と同じ扱いを受けられる、という仕組みになっています。
ですので、協議離婚の場合には公正証書を作成しておくことで、いざというときに、調停や裁判を起こさずに強制執行を行うことができ、スピーディに解決を図ることができるのです。
そのため、弁護士が交渉して協議離婚する場合には、ほとんどの場合、この公正証書を作成しておきます。
ただし、この公正証書は、強制執行を行うことはできますが、家庭裁判所が関わっていないことにかわりはないので、履行勧告は認められません。
いきなり強制執行をするしかないのです。
普通は事前に請求書や督促を行いますので、大きな違いはないですが、その点が調停離婚・裁判離婚と、公正証書の違いでしょう。
少し複雑だったでしょうか。簡単に内容を整理すると、養育費が支払わない場合の解決方法は、
- 【協議離婚で公正証書なし】
支払いの請求 → 養育費の調停 → 解決 → 履行勧告 → 強制執行 - 【協議離婚で公正証書あり】
支払いの請求 → 強制執行 (履行勧告はできない) - 【調停離婚・裁判離婚】
支払いの請求 → 履行勧告 → 強制執行
という流れです。なお、支払いの請求や履行勧告は、省略することも可能です。
今回は思ったよりも長くなってしまいましたので、養育費を支払えなくなってしまった場合については、次回にまわしたいと思います。
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