【債権回収】 仮差押えの手続きの流れ/仮差押えに必要なもの
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第6回です。
前回(仮差押え・仮処分 ~緊急に相手の財産を凍結する方法)は、仮差押えや仮処分といった民事保全制度について概要を説明しました。
裁判を起こしている余裕のない場合に、臨時に相手の財産を一時凍結し、その間に裁判や強制執行を行っていくというのが仮差押えという制度の意義でした。
今回は、その仮差押え制度を行う具体的な流を取り上げます。
前回と同様、簡単な具体例を挙げます。
依頼者がX社、取引先の相手がY社とします。X社は、Y社に500万円の売掛金を請求していますが、Y社は支払いにまったく応じてくれません。そこで、X社はY社に裁判を起こし、裁判所の判決をもらって、Y社の財産を差し押さえようとしています。
Y社は、Z社から2週間後に商品の販売代金として700万円の支払いを受けることになっています。X社は、これを差し押さえたいと考えていますが、裁判をやっていては、2週間後の支払日にはとても間に合いません。
そこで、このZ社からY社への支払いを凍結させ、Y社の手元に入らないようにして時間を稼ぎ、その間に判決を得て正式な差し押さえを行うことにしました。
この、Z社からの支払いを凍結するのが、前回説明した仮差押えという制度です。
では、実際に仮差押えを行う流れを見ていきます。
仮差押えを行うために最終的に必要になるのは、①裁判所の許可と、②保証金の2つです。
仮差押えを行うには、裁判所に許可をもらい、仮差押えの決定書を受け取る必要があります。
そして、裁判所の許可を得て、仮差押えを実際に行うためには、裁判所が命じる保証金を法務局に預ける(供託する)必要があります。
さきに②保証金の供託を説明します。
通常、正式な裁判を起こし、判決を得たあとに強制執行をする際には、このような保証金は不要です。これは、裁判所の判断が正式に出されており、判決には強い効力があるからです。
しかし、仮差押えの決定書にはそこまでの効力はありません。あくまで臨時に、緊急に審査を行って判断した結果であり、「仮」の差し押さえでしかないからです。そのため、あとから正式な裁判を行った結果、仮差押えを認めた判断は間違いであった、という事態も起こるのです。
そのように、仮差押えがあとから間違いと判断された場合には、債務者であるY社は間違った仮差押えのせいで大きな損害を受けてしまうことになります。そういった場合に備えて、Y社への賠償を確実に行わせるために裁判所は保証金の供託を命じているのです。
ですので、仮差押えがあとから無効とされた場合には、その保証金から相手への賠償を行わなければならないこともあるのです(保証金で足りない場合には、それ以上の賠償も必要です)。
もっとも、実際には仮差し押さえの審査も厳密に行われており、あとからそれが間違いであったと判断されるケースは多くありませんし、経験上、実際に相手へ賠償するケースはほとんど見かけません。
この保証金の金額は、仮差押えの種類や証拠の充実度によって違いますが、仮差押えで凍結する財産額の2,3割程度になることが多いでしょう。
さきほどの500万円を請求する場合の例では、100万円から150万円程度が一応の目安です。
この保証金は、あくまで預けるだけですので、あとから仮差し押さえが無効とならない限り、手続き終了後に全額返還されます。ただし、返還までには数カ月程度かかることもありますので注意が必要です(複雑な事案などでは1年以上かかることもありますが、例外的です)。
このように、仮差押えを行う際には保証金の準備が必要となります。
次に、①裁判所の許可を得る方法です。
仮差し押さえは緊急に相手の財産を一時凍結する制度ですので、本来の裁判に比べると、圧倒的に素早く判断がされます。早ければ、申し立てをした翌日に裁判所の許可が出ることもあるほどです。
そのかわり、そのような素早い判断でも裁判所を説得できるだけの資料が必要になってきます。
仮差押えの判断は、基本的には書面審査のみです。必要な証拠書類がそろっていればスムーズに許可を得ることもできますが、基本的な資料が存在しない場合には、仮差押えは非常に困難です。
たとえば、商品を販売し、その代金を回収したいという場合には、①売買契約書、②納品書(受領書)、③請求書といったものが基本的な資料になります。
このような資料が一切なく、いつ商品を納めたか、いくら支払う約束になっていたのか、などを証明する書類がまったく存在しない場合には、そのままでは裁判所を説得するのはほぼ不可能です。
このような場合、たとえば、相手先に出向いて、確認書や支払確約書などを作成してもらい、代金支払義務を認める書類を作成するなどの工夫が必要になってきます。
そういった工夫でなんとか解決できる場合も多く、早めに相談していただければ、準備を行う時間も確保できることもあります。
しかし、ギリギリの時期に相談にいらっしゃった場合や、そもそも相手と代金額をはっきり取り決めていないような場合などには、仮差押えの実施が不可能となってしまう場合もあります。
仮差押えを行う際には、そういった基本的資料の確認がもっとも重要といえるでしょう。
もっとも、資料さえあればいいというわけではありません。
裁判所を説得し、仮差押えを認めてもらうためには、「申立書」を作成する必要があります。
その申立書では、①どのような法律的根拠に基づいて相手への請求権を持っているのか、②どの証拠からその請求権があることを証明できるのか、③相手方との交渉経過や仮差押えを認めるだけの必要性はどのようなものか、といった点を過不足なく整理しなければなりません。
通常の裁判であれば、口頭で説明を補足したり、あとから資料を提出したりもできますが、仮差押えの場合には、口頭での補足ではなく書面ですべてを説明する必要がありますし、資料の追加などをやっていては間に合わないケースもあります。
そのため、仮差押えや仮処分の申し立ては、弁護士に依頼せずに行うのは極めて困難といえます。
その申立書と証拠となる資料を裁判所に提出し、書類審査の結果、裁判所が申立書の言い分を認めてくれると、仮差押えの許可を得ることができます。あとは前述した保証金を法務局に供託すれば、仮差押えが実行され、財産凍結が行われるのです。
そして、その仮差押えが成功したのを確認したのちに、相手方と改めて交渉を行うか、正式な裁判を起こして相手の財産を実際に回収してくのです。
以上が仮差押えの流れです。
当事務所では、数多くの仮差押え・仮処分を行い、認められてきた経験がありますので、どういった資料が必要か、どういった説明があれば裁判所が認めてくれるのかを熟知しています。
そのため、ご相談を受けた時点で、仮差押えが可能であるかどうか、どういった資料が必要かなどをすぐに判断することができます。
実際の申立書の作成も、必要資料さえそろっていれば数日で行うことも少なくありません。
こういった素早く正確な対応をできる弁護士事務所は決して多くないでしょう。この分野を数多く手掛けてきた当事務所ならではといえるかもしれません。
債権回収、特に仮差押えは時間との戦いです。
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