【債権回収】 仮差押えのメリットとデメリット
札幌の弁護士による債権回収解説コラム第7回です。
前々回(仮差押え・仮処分 ~緊急に相手の財産を凍結する方法)では仮差押え・仮処分の概要とメリットを、
前回(仮差押えの手続きの流れ/仮差押えに必要なもの)では、債権回収時の強力な手段である仮差押えの流れや手続きを、説明してきました。
ただ、仮差押えは少し難しく、理解しづらい面もありますので、今回はそれらのまとめとして、仮差押えのメリットとデメリットを簡単に整理しておきます。
【メリット】
Ⅰ 素早く実行することができ、緊急時に効果を発揮できる
これが仮差押えの本来の効果です。裁判を起こして判決を得るまでには、数カ月程度はかかってしまいます。
しかし、その間に相手の財産がほかの支払いにあてられてしまったり、隠されてしまう危険があります。
それを防ぐために、緊急に相手の財産を凍結し、あとから回収できるように確保しておくことができるのです。
スムーズに進めば1週間程度で実行できますので、緊急事態に絶大な効果を発揮します。
Ⅱ 相手への大きなインパクトを与えることができる
仮差押えは、裁判所の命令によって、相手の財産を強制的に凍結する手続きです。
これまで請求を無視したり、あれこれ理由をつけて支払いを拒んでいた相手は、裁判所の仮差押えを受けたことにより大きな危機感を覚えます。
しかも、相手の財産が実際に凍結されるわけですから、資金繰りなどに対する打撃も大きいものとなります。
そのため、通常の請求や内容証明郵便などに比べても、圧倒的なインパクトを与えることができます。
Ⅲ 相手と有利に交渉でき、回収率を高めることができる
さきほどのⅡとも関連しますが、仮差押えによって、相手への大きなインパクトを与えることができます。
これを受けた相手は、仮差押えによる凍結を解いてもらうために、請求者と必死に交渉しなければならなくなるでしょう。
そのため、相手は仮差押えを取り下げてもらうために、これまでよりもこちらに有利な条件を提示してくることになります。
仮差押えを行った事例では、それを実施した直後に、相手からすぐにまとまった金額を支払うとか、担保を提供するという申し出がなされることも少なくありません。
それに応じて代金の大半を支払ってもらったり、確実な担保を受けることで、早期に債権を回収できる可能性が高まるのです。
【デメリット】
Ⅰ 専門的な知識と経験が必要であり、手続きが難しい
仮差押えは、通常の裁判と比べて手続きが複雑です。書類審査により迅速に判断がなされる、という特性があり、口頭での説明や証人による証明ということは基本的にできません。
必要な資料を素早く用意し、申立書を作成して、請求の法的根拠やそれを証明する証拠を過不足なく説明する必要があります。
必要資料や裁判所が求める情報を把握するには豊富な経験が必要となり、この分野を得意とする弁護士に依頼しなければ、スムーズな仮差押えは難しいといえます。
Ⅱ 保証金を用意する必要がある
仮差押えは、臨時の手続きであるため、あとからその手続きが間違いであったと判明したときに備えて、保証金を法務局に預ける(供託する)必要があります。
保証金の金額は、請求額の2,3割となる事例が多いですが、それを現金で用意し、手続きが終わるまで預けておかなければなりません。
ですので、資金繰りが逼迫しており、保証金が用意できないという場合には利用できないこともあります。
Ⅲ 回収前に相手が倒産してしまうと効果が失われる
仮差押えの最大の問題点が、実際に債権回収する前に相手が破産してしまうと、仮差押えが無効となってしまう点です。
仮差押えは、相手の財産を一時的に凍結するのみで、その時点ではこちらが現金を回収できるわけではありません。
仮差押え後に、相手と交渉して実際に支払いを受けるか、正式裁判を起こして判決を得て、判決に基づいて強制執行を改めて行わなければ現実に回収することはできません。
しかし、仮差押え実施後、実際に支払いを受ける前に、相手が破産や民事再生などの法的整理をしてしまうと、仮差押えが無効となる結果、回収ができなくなってしまうのです。
ですので、仮差押えを行う場合には、相手が破産や民事再生に陥る前に、現実に支払いを受けることを最優先に考える必要があり、それを常に念頭において相手との交渉を行う必要があります。
以上が仮差押えのメリット、デメリットの整理です。
デメリットで指摘したような問題点もありますが、それを差し引いても、仮差押えによって得られる効果は絶大です。
仮差押えを適切に利用することで、これまで回収できなかった債権をうまく回収できたケースを何度も経験してきました。
債権の回収率アップには欠かすことのできない制度といえるでしょう。
当事務所では仮差押えを利用した債権回収を得意としていますので、債権回収でお悩みの方は、ぜひご相談ください。
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