離婚調停・裁判はどこの裁判所で行うの?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第5回です。
前回は「離婚による慰謝料の金額 決め方・相場は?」を説明しました。
離婚連載の5回目は、離婚調停・裁判の流れ、手続きについて取り上げます。
当事者の協議で離婚問題が解決すれば良いのですが、やはり離婚するかどうかや離婚の際の条件で合意できず、話し合いが壊れてしまうことがあります。
その場合、問題を解決したいと思えば、離婚調停か離婚裁判を起こすしかありません。
それでは、離婚調停と離婚裁判のどちらを起こすべきでしょうか。
答えは、離婚調停です。一部の例外をのぞいて、離婚裁判を起こすには、先に離婚調停で話し合いをしなければならない、というルールが法律で定められています。
これを、調停前置主義、と読んでいます。
離婚というのは、夫婦間の問題で、財産の精算や今後のやり取りなどの多くの問題がからみますし、子どもがいる場合には、親権や面会の問題もあります。
こういった当事者にとって重要な問題は、裁判所が一刀両断で決定するよりは、当事者ができる限り納得できるように、できるだけ話し合いによる解決を目指しましょう、というのが調停前置主義の目的です。
ですので、もう話し合いの余地なんてない、と思っていても、まずは調停を申し立てる必要があります。
しかし、調停は当事者が出頭することが求められますので、遠隔地で調停を行うことは非常に負担が大きくなります。交通費は自己負担ですし、遠くまで出席する負担も大変です。
しかも、調停は、「相手の自宅住所」を基準として、担当する裁判所が決定されるのです。
たとえば、妻が札幌市内、夫が釧路市内で別居している場合、妻が離婚調停を起こしたいと思えば、相手の住所のある釧路家庭裁判所に調停を起こさなければなりません。
反対に、夫から離婚調停を申し立てるときは、妻の住所がある札幌家庭裁判所に申立てをする必要があります。
そして、その後の調停が行われる度に、相手の住所の裁判所まで毎回出席しなければならないのです。
これは、相手がどれほど遠隔地にいても変わりません。極論すれば、稚内と沖縄でも同じように取り扱われます。
その場合の交通費や労力の負担がどれほど大変か、簡単に想像できると思います。
この問題のために調停を断念するケースも実際にあります。離婚や調停に関わる当事者、弁護士にとって、この問題は切実なものでした。
ところが、平成25年の法改正によって、この問題は大きく改善されることとなりました。
この法改正は、家庭裁判所での調停や審判に関する手続きを、現代的に一新するものと考えてもらえば良いと思いますが、これによって、「電話会議システム」による調停への参加が認められたのです。
これまで、民事裁判では電話会議システムにより、たとえば札幌にいる弁護士が東京の裁判所に出席しなくとも、裁判所内の電話会議システムを利用して、札幌の事務所にいながら、電話により裁判官・相手方弁護士と同時に通話し、裁判を進めることができました。
ところが、家庭裁判所の手続きではこの制度が認められず、当事者は裁判所に出席することとされていたのです。
そのような不公平が現在では改められ、今後は、遠隔地の裁判所で離婚調停をする場合にも、電話による参加が認められることとなり、わざわざ遠隔地の裁判所まで行かなくても良いことになりました。
大事な局面では出席を求められることもあるでしょうが、それでも負担は相当減ることになります。
実際、当事務所で取り扱った離婚調停でも、札幌の当事務所から電話で調停を行い、道内であれば函館や浦河、道外であれば東京や横浜などの遠隔地の裁判所とやり取りを行うなどしています。
交通費や時間などを大幅に節約できますので、相手方が遠くに居住していても、調停を行うことに大きな支障は生じなくなっているのです。
少し長くなりましたので、続きは次回にしたいと思います。
次回は、調停の実際の流れや、離婚裁判・離婚訴訟についてです。
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離婚による慰謝料の金額 決め方・相場は?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第4回です。
前回(慰謝料が発生する離婚、発生しない離婚)にひきつづき、離婚の際の慰謝料問題です。
不貞行為や暴力があって離婚する場合、落ち度がある側は、慰謝料を支払う義務があります。
では、慰謝料はどうやって計算するのでしょうか。
慰謝料は、夫婦ごとや離婚の理由ごとに大きく異なりますが、次のようなポイントで増減されます。
① 支払い側の落ち度、責任の重さ
② 結婚してからの期間、子どもの有無
③ 支払い側の経済力
このうち、①はわかりやすいと思います。不貞行為であれば、その頻度や期間などによって悪質性、責任の重さが変わりますし、暴力の場合は、その頻度、暴力の程度や怪我の大きさによってやはり落ち度、責任が変わってきます。
落ち度、責任が重いほど、慰謝料額も高くなる傾向にあります。
②も、結婚してからの期間が長かったり、未成年の子どもを何人も抱えている方が、離婚による打撃・精神的ショックは大きいといえ、慰謝料額が高額になります。
最後の③は、財産分与との兼ね合いもありますが、相手の経済力が高い方が、離婚の原因を作った制裁としての意味などから、慰謝料が高くなる傾向があるといわれています。
ただ、実際の裁判では、①がこうだからいくら加算、②がこうだからいくら減額、などという内訳は明らかにされず、合計で○○円、という結論の金額しか明確にはなりません。
弁護士が慰謝料の請求を検討する際には、このあたりの事情を詳しくお聞きすることになります。
では、慰謝料は実際にはどれくらいになるでしょうか。
調停などの話し合いの場合には、最終的にはお互いの合意で決めますので、大きなばらつきがありますが、裁判となり、判決となった場合には、おおよその相場があります。
慰謝料が問題となるのは不貞行為のケースが多いですが、経験上、不貞行為が原因で離婚に至った場合、大半の事例で150万円から300万円の間におさまっています。その範囲で、さきほどの①②③の事情などによって上下しているのです。
暴力事案は、離婚の慰謝料自体は、不貞行為と同様かやや低いくらいの金額です。怪我が重大で後遺症が生じるような場合は500万円を超える場合もありますが、それは離婚の慰謝料というよりも、怪我の重さに対する慰謝料が高額となるからです。
実際に相手に請求する際には、さきほどの①②③などの事情を検討して金額を見積もることになります。
慰謝料を請求する場合、高ければ高い方が良いと考える方もいるでしょうが、余り相場から離れた金額を請求すると、相手も支払いや話し合いに応じる気持ちもなくなるでしょうし、裁判所からも不審に思われるでしょう。
相手を納得させたり、裁判所にこちらの言い分を理解してもらうには、慰謝料も適切かつ説得的な金額を計算し、根拠を示す必要があるのです。
当事者が自分で判断するのは非常に難しいため、弁護士に相談し、アドバイスをもらうことが重要です。
前回・今回と慰謝料についてみてきましたが、ひとくちに慰謝料といっても、簡単に決まるわけではないのです。
また、慰謝料が争点になるような事件では、お互いの感情の対立が激しいことが多く、その意味でも解決が容易ではありません。
どういった場合に慰謝料が請求でき、金額はどのように算定されるかを知らなければ、スムーズな解決はできないでしょう。
さて次回は、少しテーマを変えて、離婚調停・裁判は、どこでどのように行うのか、を説明したいと思います。
札幌の自宅に同居していたけど、相手が不倫相手と帯広に移り住んでしまったといった場合、どこの裁判所で行ったらよいのでしょうか。
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慰謝料が発生する離婚、発生しない離婚
札幌の弁護士による離婚解説コラム第3回です。
前回(裁判所が離婚を認めるのはどういう場合?(後))までは、離婚原因をテーマにしました。
離婚特集の3回目は、慰謝料を取り上げます。
離婚といえば慰謝料、慰謝料といえば離婚、というくらい、離婚の際には慰謝料が大きな問題となります。
しかし、当然ですが、離婚をすることになったからといって、慰謝料が必ず発生するわけではありません。
慰謝料が発生する離婚と発生しない離婚があるのです。では、どういう場合に慰謝料が生じるのでしょうか。
慰謝料というのは、離婚に限ったものではなく、「不法行為」を行った者が、被害者に対して支払う義務を負うとされています。
ですので、離婚の際に慰謝料が認められるのは、離婚について、一方に「不法行為」にあたる重大な落ち度、責任がある場合に限られます。
性格の不一致や、お互いの価値観の違いなどによる離婚では、一方にそのような落ち度、責任があるとはいえませんので、離婚を求めた側も慰謝料を請求できず、求められた側も慰謝料を支払う必要はありません。
反対に、慰謝料が発生するもっとも代表的な例は、不貞行為です。
前回までも触れましたが、不貞行為、つまり浮気・不倫は、離婚原因の1つです。相手が不貞行為をした場合には、相手が反対したとしても、裁判でも離婚が認められることになります。
しかも、不貞行為の場合には、あわせて慰謝料の支払義務が発生することになります。
不貞をした側は、離婚を求められたり、慰謝料の支払いを求められたら、基本的には応じなくてはならないのです。
不貞行為以外では、暴力・DVのケースが典型的です。
たとえば、夫が度重なる暴力を振るい、妻が大けがをしてしまい、正常な夫婦生活が維持できず、シェルターなどに避難して、離婚を求める場合があります。
このような場合、暴力が不法行為になることは当然ですが、それによって離婚に追い込まれたという点も不法行為にあたります。
ですので、暴力に対する慰謝料と、離婚に追い込まれたことの慰謝料を請求できるのです(実際にはこれらを区別せず、ひとつの慰謝料として請求します)。
これら以外の理由で離婚をする場合には、慰謝料が認められることは多くありません。
不貞行為や暴力に並ぶほどの落ち度が相手にないと、簡単には認められないのが実情です。
余談ですが、離婚以外の場合でも、何か被害にあったり、不快な思いをした際に「慰謝料を請求したい」という方もご相談に来られます。
しかし、実際には慰謝料が認められるというのは、よほどの精神的苦痛を負ったような場合に限られており、怪我をさせられた場合や離婚の場合以外では、あまり認められていません。
なお、離婚の場合には、慰謝料のほかに財産分与や養育費などの支払いをあわせて求めることもあります。
そういった場合には、調停などの話し合いの際には、慰謝料がいくら、財産分与がいくら、という計算をするよりも、合計でいくら、という形で話し合いをまとめる方がわかりやすいことが多いと思います。
養育費は毎月の支払いとなるので、少し別ですが、財産分与と慰謝料は、離婚の精算としていくら負担するか、という点では似た面があるので、財産分与を多く支払う分、慰謝料を下げる、などといった解決の仕方も目にします。
それでは、慰謝料が発生する場合に、金額はどのように決めるのでしょうか。
慰謝料の相場は、どのくらいでしょうか。
そのあたりは、次回のテーマとしたいと思います。
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裁判所が離婚を認めるのはどういう場合?(後)
札幌の弁護士による離婚解説コラム第2回です。
前回(裁判所が離婚を認めるのはどういう場合?(前))の続きとなります。
前回は、離婚原因として民法では5つが規定されていることと、それぞれの内容について触れてきました。
そして、よく問題となる不貞行為をめぐる事例では、2つの悩ましい問題があり、1つが証明が難しいという点だということを述べました。
もう1つの問題は、「婚姻破綻後」の不貞行為に関するものです。
弁護士が不貞行為に関する離婚裁判を扱ううえで、不貞行為をした側からよく出てくる反論が、「婚姻破綻後」に初めて不貞行為を行った、という主張です。
これは、不貞行為、浮気行為のせいで夫婦関係が破綻したのではなく、その前から事実上離婚状態にあったので、不貞行為が離婚の原因になっているわけではない、という主張です。
このような主張がなされるのは、夫婦の婚姻関係がすでに破綻していた場合には、夫婦間の義務や権利というものも消滅しており、片方が不貞行為を行ったとしても不法行為にならない(慰謝料は払う必要がない)という判例があるからでしょう。
そのためか、不貞行為を行い、慰謝料を要求された側がこの主張をよく行うのです。
しかし、実際の事例では、その不貞行為が離婚原因となっていることが明らかなケースが多く、その前に既に破綻していた、という弁解はほとんど認められません。
すでに夫婦関係が破綻していた、というのは、たとえば別居期間が長期間あり、お互い離婚することにほぼ同意していた場合など、明らかに夫婦関係が維持されていなかったような場合に限られるでしょうから、このような主張が認められるケースは少ないでしょう。
ただ、このような主張が出てくると、それまでの夫婦関係や、不貞行為を行った時期などが争点となることが多く、調停・裁判が長引く傾向にあるのが悩ましいところです。
ここまで4つの離婚原因を見てきましたが、最後の⑤は、「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」があることです。
これは、要するに、①から④には当てはまらないけれども、これらに匹敵するような夫婦関係を継続できないような事情がある場合、をいいます。
弁護士として関わった中では、この⑤に関する争いが大変多く、しかも対応が難しいと感じます。
この「婚姻を継続しがたい重大な事由」というのは、どのような場合であれば良いのか、法律にはこれ以上の説明は何もありません。そのため、事前に離婚が認められるかの見通しをつけるのが困難なのです。
ただ、主な目安としては、暴力・DV、不貞行為に近い行為、相手が犯罪を行って逮捕・服役されるなど、ある程度の重大な落ち度が相手にあることが必要で、さらに、すでに相当期間別居をしていること、が必要とされます。
後者の別居の点ですが、いわゆる家庭内別居などでは、まだ完全に夫婦関係が破綻しているとはいえない、という判断になることが多く、離婚が認められない可能性が高くなります(必ず認められないわけではありませんが、食事を一緒にとったり、日常会話があるような状態では家庭内別居とは認められない傾向にあります)。
また、別居と同時に離婚調停を起こしたような場合も同様です。
相手が離婚に反対しているような場合には、少なくとも数年程度の別居期間は必要と考えて良いでしょう。
前者の相手方の落ち度という点ですが、相手が反対しても一方的に離婚を認めて良いといえるだけの、大きい落ち度がなければなりません。
たとえば、性格の不一致を理由に離婚を求める場合、たとえば相手がだらしないとか、経済感覚が違うとか、生活の時間がずれている、などという場合は、一概にどちらが悪いとはいえないことも多く、また、婚姻関係を一方的に解消できるほど重大な事情があるとはいえないと判断されてしまいます。
相手が浪費を行うとか、家事を放棄する、などという事情も、家計や家事の分担などについても基本的には話し合いで解決すべき事柄だと判断されることが多く、そのことだけで離婚を認めるという判断はなされないでしょう。
そのため、実際には強い暴力が繰り返された場合などの重大な落ち度がある場合でないと、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に当たりづらいといえます。
以上の5つの離婚原因を確認してきましたが、それでは、これらに当たらない場合にはどうしたらいいのでしょうか。
これまでに述べてきたのは、あくまで話し合いで解決できない場合、判決でどう判断されるかという説明です。
ですので、判決で離婚が認められない見込みが高い場合には、話し合いや調停の中で相手と合意するしかありません。
実際にこれまで取り扱ってきた件でも、話し合いや調停で解決している事件の割合の方が高く、判決まで進む件は少ないです。
ただ、判決になった場合の見通しを持っておかなければ、調停の際の条件面の折り合いや、慰謝料を請求するかどうかといった点で正しい判断ができない危険があります。
離婚事件を取り扱っている弁護士であれば、過去の事例や経験から、離婚が認められるかどうか、慰謝料が認められるかどうかといった見通しを立てることができます。
ですので、離婚調停や訴訟を起こす前には、一度、弁護士に見通しについて相談することをおすすめします。
当弁護士事務所でも随時、離婚相談を受け付けていますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
次回は離婚時の慰謝料を取り上げたいと思いますので、ぜひご覧ください。
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裁判所が離婚を認めるのはどういう場合?(前)
札幌の弁護士による離婚解説コラムです。
当弁護士事務所では様々な分野を取り扱っていますが、その中でも多くの方の関心が高い離婚事件について、実際の事件で問題となる点を中心に解説をしていきます。
しばらくの間、連載という形で掲載していきます。
第1回目は、そもそも裁判所が離婚を認めるのは、どういった場合なのか。法律用語ではこれを「離婚原因」といいますが、離婚原因としてどのようなものが認められるのかを見て行きたいと思います。
夫婦のどちらかが離婚を決意した場合、相手も同じ考えであれば、離婚の成立自体に問題はありません。あとは養育費、慰謝料などの条件が問題になるだけです。
しかし、夫婦の片方が離婚を希望しているのに、もう片方は離婚に応じるつもりはない、という場合、簡単には解決しません。
当事者の話し合いで進展しない場合は、離婚調停を行い、裁判所の調停委員が仲介して話し合いを行うことになりますが、そこでも離婚の合意ができなかったり、条件で折り合いがつかないときは、最終的に裁判・訴訟となります。
裁判になった場合は、最終的には裁判官が判決という形で結論を決めます。
離婚が認められる場合には、裁判官は、「原告と被告とを離婚する」という判決を言い渡すことになりますし、認められない場合には、「原告の(離婚の)請求を棄却する」という判決を言い渡します。
このように、どうしても話し合いで解決しないときは、最後は裁判官が離婚を認めるかどうかを判断しますが、裁判官はどういった場合に離婚を認めるのでしょうか。
実は、法律で離婚が認められる場合というのは決められています。
民法770条1項では、次の5つが「離婚原因」であり、それが認められる場合に、離婚の判決ができることとなっています。
①相手が不貞行為をしたとき
②相手から悪意で遺棄されていたとき
③相手の生死が3年以上明らかでないとき
④相手が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
このうち、③や④というのはイメージしやすいと思います。
相手が生死不明だったり、重大な精神病にかかっていた場合には、正常な夫婦生活はもはや維持できませんし、話し合いによって解決することもできませんので、離婚を特に認めています(実際には④の場合に離婚が認められる事例は少ないですが)。
わかりづらいのは②で、「悪意の遺棄」という言葉は耳慣れないでしょうが、要するに、夫婦としての同居、協力などの義務を全く行わない状態のことです。ただ、実際には、単に同居しない場合や、生活費を家庭に入れないというだけでは認められません。
実際に裁判で離婚が認められた事例としては、半身不随の障害がある妻を自宅に置き去りにして別居し、生活費も一切支払わなかった事例など、よほど悪質な場合に限られています。
実際に裁判で②③④が問題になることは多くありません。弁護士として日常経験する事例は、ほぼ全てが①と⑤の離婚原因に関する事例です。
①の「不貞行為」とは、要するに浮気・不倫のことで、端的に、夫婦以外の者と性的関係を持つことです。
そのような不貞行為があった場合には、夫婦関係を裏切る重大な行為ということで、原則として離婚が認められ、相当額の慰謝料も発生します。この不貞行為は、1度切りの関係でもあたりますし、相手から誘惑された場合などでも関係ありません。
そのため、裁判で見られる離婚原因としては、不貞行為に関するものが非常に多いといえます。
しかし、不貞行為については、弁護士からみて、非常に悩ましい問題が2つあります。
1つは、不貞行為の立証が難しいという点です。
不貞行為は、通常、周囲に隠れて行われますし、密室での出来事となりやすいので、間違いなく不貞行為があった、というには、ある程度決定的な証拠が必要です。
相手が認めていれば簡単ですが、認めていない場合には、不倫現場の写真や相手とのメールのやり取りなどの強力な証拠が必要となります。
このような証拠がなく、相手が不倫していると思うけどその確信がない、という程度では、裁判所は離婚を認めません。
実際には、問い詰められるとあっさり不倫を認めることも多いですが、徹底的に否定し続ける場合もあります。
裁判で実際に経験した中では、夫が、別の女性とホテルに入っていく写真がある場合に、「女性が体調が悪くなったから看病していただけだ」という弁解をし続けていた件などもありました(さすがにこの弁解は通らず、離婚が認められました)。
少し長くなりましたので、不貞行為で問題となる点の2つ目と、離婚原因の⑤については、次回に持ち越したいと思います。
「性格の不一致」や「夫が生活費を入れない」、「妻が家事を全くしない」といった場合は、離婚が認められるのか、といった点を取り上げたいと思います。
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【解決事例】 不倫した夫に離婚調停を申し立て、慰謝料や養育費の支払いを受けた事例
【相談内容】
Yさんは、札幌市内に住む30代女性です。ご主人とは5年前に結婚し、3歳の男の子と3人で生活していました。
ご主人は大きい会社に勤め、年収は500万円程度あり、少し前までは家族で仲良く暮らしていました。
ところが、1年ほど前から、夫は家にいる時間が少なくなり、生活費もギリギリの金額しか渡してくれなくなりました。
そのことをYさんが問い詰めても、反対に大声で怒鳴られたりするほどで、夫婦の仲がどんどん悪くなっていきました。
ある日、Yさんがたまたま夫の携帯電話のメールを見てしまったところ、夫が同僚の女性と頻繁に会い、不倫関係にあることがわかってしまいました。
そのことを夫に確かめると、夫は勝手に携帯電話を見たことに激怒し、そのまま家を出て、相手の女性宅に移り住んでしまいました。
生活費もほとんどもらえなくなってしまい、Yさんは困り果て、弁護士を頼って相談に来ました。
Yさんはすでに離婚を決意しており、今後の生活や息子のために夫に経済的な負担をしてほしいという希望をお持ちでした。
【解決内容】
Yさんは生活費もほとんどもらえないとのことでしたので、まずは弁護士から相手に対し、Yさんの希望を伝えるとともに、生活費・養育費を毎月支払ってもらうよう請求をしました。
ところが、夫は弁護士に対して、離婚に応じてもいいが、お金を払うつもりはない、との回答をするのみでした。
そこで、弁護士が話し合いでは解決がつかないと判断し、すぐに札幌家庭裁判所に離婚調停の申し立てをしました。また、離婚成立までの間、収入のある夫は、収入のない妻に対して生活費(婚姻費用といいます)を支払う義務がありますので、その支払いを求める調停もあわせて起こしました。
夫は、お金の支払いには強く抵抗していましたが、緊急性の高い婚姻費用の調停が先に成立し、毎月10万円近い生活費を受け取ることができていました。これは、裁判所が相手を強く説得してくれたためです。
その後、生活費を受け取りながら、離婚調停を続けていましたが、夫は不倫の事実を認めており、調停が不成立となって裁判になった場合には、慰謝料や養育費の支払い義務があることは明らかとなっていました。
そのため、裁判所の説得もあり、最終的に5回目の調停で、夫は慰謝料や財産分与として合計400万円を支払うほか、養育費を息子が20歳になるまで毎月6万円ずつ支払うことで調停成立となりました。
Yさんは、すべてに納得したというわけではありませんでしたが、これで再スタートできると思い、調停成立に同意したのです。
その後、Yさんは長男と実家で平穏に暮らしており、養育費も順調に支払われているとのことです。
【コメント】
離婚トラブルの解決のおおまかな流れは離婚のページをご覧いただきたいと思いますが、離婚をめぐる紛争では、離婚自体が争われることのほか、慰謝料、財産分与や養育費などの金銭面の問題がこじれることが多くあります。
生活の不一致など、一概にどちらが悪いとはいえない場合には慰謝料は請求できないことも多いですが、一方が不倫した場合や暴力が繰り返された場合などは、相当額の慰謝料を支払う義務があります。
慰謝料の金額は、結婚期間や、その原因がどのようなものかによって変動します。
婚姻費用(生活費)や養育費は、お互いの収入によって基準がだいたい決まっていますが、それぞれの生活状況によって左右される部分も多く、簡単には解決しないこともあります。
慰謝料にしても、婚姻費用・養育費にしても、最終的に裁判所が審判・判決で支払いを命じた場合には、相手に強制執行を行うこともできます。特に、夫婦間の場合、相手の職場がわかることが多いため、給料の差し押さえがもっとも強力です。
そのため、相手としても調停・裁判を無視することもできず、裁判所の説得に応じて調停に応じる場合が多いといえます。
今回のケースでも、事前の話し合いでは夫はまったく支払いに応じる意思はありませんでしたが、調停の場では話し合いに応じ、最終的には相当額の金銭を支払うことに同意しました。
離婚トラブルが長引くと、経済的にも精神的にも大きな負担となりますので、必要と感じた際にはすぐに調停を起こすことがかえって早期解決につながるでしょう。
離婚時の養育費や財産分与などにお悩みの方や調停手続きを考えている方は、当弁護士事務所にご相談ください。札幌市内だけでなく、北海道内各地からのご相談・ご依頼を受け付けております。
※事件の特定を避けるため、複数の事案を組み合わせたり、細部を変更するなどしていますが、可能な限り実例をベースにしています。
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