【離婚】 面会交流の具体的な方法は?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第14回です。
前回(親権のない親が子どもに会う権利はある? ~面会交流とは~)は、養育していない親が子どもと会うという面会交流の概要を説明しました。
今回は、実際に面会交流はどういった方法で行うのか、について見て行きたいと思います。
養育していない親が面会交流を認められた場合、どういった場所でどういう方法で面会交流を行うか、といった点が問題となります。
この「面会交流」という言葉には、実は2つの意味が込められています。
1つは「面会」、つまり親と子どもが会うことです。もう1つは「交流」、つまり面会以外の方法で親子がふれ合うことです。
面会交流は、実際に会うことだけを含んでいる言葉ではありません。
では、実際に、どういった内容の面会交流が認められるのでしょうか。
ある事件で裁判所が実際に認めた面会交流の方法を見てみましょう。
この事件は、父親が子どもの親権を得て、子どもを養育していましたが、それに対して、母親が面会交流を求めたというものでした。
父親は、母親との面会交流を禁止すべきと主張しましたが、裁判所は、次のような内容の面会交流を認めました。
「1 面会回数、日時
(1)回数 毎月1回
(2)日時 第4日曜日の午前11時から同日午後4時の間(時間厳守)
2 子どもの引渡方法
父親は、上記面接開始時に、○○市△△所在の「口口」駐車場において、母親に子どもを引き渡し、母親は、上記面会終了時に、同所において、子どもを父親に引き渡す。
3 子どもに対するプレゼント
父親は、母親が、子どもと面会交流するに際し、誕生日クリスマス、正月のプレゼントを渡すことを認めなければならない。
この場合におけるプレゼントの価格は、子どもの年齢等に照らし、社会通念上相当な限度に留めるものとする。
4 面会日等の変更
当事者は、その協議により、面会実施の日時、子どもの引渡場所、面会の方法など必要な事項を変更することができる。
5 学校行事等への参加
母親は、未成年者らに関する保育園や学校の行事に参加してはならない。
父親は、未成年者らが上記行事に参加した場合において、その状況を撮影したビデオ、写真等があるときは、適宜、母親に提供するものとする。」
面会交流の具体的なやり方は、個々の事案ごとに違いますので、この件は1つの参考と考えて下さい。
この裁判では上の1~5の内容が定められています。
「1 面会回数、日時」では、月に1回、第4日曜日の午前11時から午後4時までの面会を母親に認めています。
そして、「2 子どもの引渡方法」で、実際に面会を行う際の待ち合わせ場所などを具体的に決めています。
「4 面会日等の変更」では、お互いの都合があわないときなどに、話し合いで面会交流の方法を変更できるとされています。
母親と子どもの面会は、この範囲で認められるということです。
それ以外に、「3 子どもに対するプレゼント」では、母親が誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントを子どもに渡してよいとされています。
これは、母親がプレゼントしたいと希望する場合に、父親が邪魔してはならないという意味です。
また、この規定を反対に読むと、これ以外のプレゼントや手紙のやり取りについては、父親が拒否してもよいということになります。
そして、「5 学校行事等への参加」では、入学式、卒業式、運動会などの学校行事へ母親が参加することは禁止していますが、父親が撮った写真やビデオを母親に見せてあげなければならないと定められています。
裁判以外での離婚の場合に、面会交流の方法をここまで厳密に決めることはまずないでしょうが、調停や審判で決定する際には、このような内容を具体的に定めることになります。
この事例では認められていませんが、たとえば、毎月夏休みと冬休みには、母親のもとで1泊2日での外泊を認める、という宿泊付き面会が認められることもあります。
どこまで認められるかはケースバイケースですので、先ほどの事例よりも広く認められることもあれば、狭く制限されることもあります。
このように、面会交流というのは、実際に会う面会だけでなく、電話や手紙でのやり取り、写真や映像を見せてもらうこと、プレゼントを贈ることなど、親と子どもの交流全般に関するものです。
直接会うことは認められない場合でも、手紙やプレゼントは認めるとか、いろいろなバリエーションはありますが、子どもにとってもっとも良い方法を決めていくことになります。
次回は、このような面会交流の方法をどうやって決めるのかを見て行きたいと思います。
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【離婚】 親権のない親が子どもに会う権利はある? ~面会交流とは~
札幌の弁護士による離婚解説コラム第13回です。
前回(一度決めた親権者をあとから変更できる?)まで、親権者の決め方などを見てきました。
今回からは、親権者を決めて離婚したあと、親権者ではない方の親と子どもは会うことができるのか、会わせなければならないのか、といった問題を取り上げます。
同居していない親と子どもとが会ったり、連絡をとりあったりすることを、「面会交流」と呼びます。以前は、これを「面接交渉」と呼んでいました。
面接交渉という言葉はなんとも堅苦しいこともあって、最近は面会交流という言葉が使われることが多くました。
そして、今年の4月の民法改正では、「子との面会及びその他の交流」という表現が採用されましたので、今後は「面会交流」というのが正式な用語といえるでしょう。
さて、この別居の親が子どもと会うという面会交流について、法律ではどう規定されているのでしょうか。
実は、法律では、民法766条で「父母が協議上の離婚をするときは、・・・父又は母と子との面会及びその他の交流・・・について必要な事項は、その協議で定める」としか規定されておらず、具体的な内容は決められていません。
そして、決め方の基準については、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と定められているだけです。
子どもの利益を優先して考慮して、協議で決めてください、ということしか法律には書かれていないのです。
では、この面会交流は、必ず認められるものなのでしょうか。
結論からいうと、面会交流は基本的に認められるべきものです。例外的な場合には認められないこともありますが、多くの事案では、面会の機会は認められるべきといえます。
ただ、離婚トラブルの中では、夫婦間の対立が深まっていることも多く、別居している親には子どもは会わせない、という主張がされることもめずらしくありません。
しかし、そのような主張が調停や審判で行われた場合でも、多くの事案では、裁判所も面会交流を認め、子どもに会わせることを命じています。
では、なぜ面会交流が認められるのでしょうか。
面会交流が争いになる事案では、自分も親だから子どもに会う権利があるとか、浮気をして離婚の原因を作った親には会う権利はないとか、そういった意見が当事者から出ることがあります。
しかし、面会交流というのは、親の権利とは考えられていません。
実は、面会交流というのは、子どもが自分の親と会う権利のことで、親は、子どもの面会交流を行わせる義務を負う、というのが正しい理解なのです。
さきほど見た民法766条では、面会交流は、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と規定されており、子どもための親の義務を定めています。
また、日本も批准する子どもの権利条約9条3項では、「締約国は、・・・児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する」と規定されており、子どもには親と関係や接触を維持する権利があると定めています。
ですので、子どもを養育している親も、別居している親も、子どもが自分の親と触れあえるよう協力する義務があるといえます。
子どもにとっては、離婚をしていたとしても、自分の本当の父親も母親も一人しかいません。
親同士が仲が悪いからといって、子どもと相手親との関係を断たせてしまえば、子どもにとっては両方の親とふれあうという機会が失われてしまい、子どものためになりません。
民法で「子の利益を最も優先して考慮」するというのは、親の利益を優先してはならない、ということを意味しています。
これまで見てきたような理由から、面会交流というのは基本的に認められることになっており、両親が協力して、面会の機会を子どもに与えてあげなければなりません。
しかし、それでも面会交流が認められない場合もあるのは事実です。
たとえば相手親が子どもに暴力を振るっていたなど、面会を認めることが子どもにとって強い悪影響を与える場合、子どもとの面会交流を認めない方が子どもの利益になる、という結論になるでしょう。
このように見てくると、相手親の面会交流が認められるかといった点自体が強く争われるべき事案は、決して多くはありません。
仮に離婚する場合であっても、子どもの問題を考える際には、両親が協力して対応するというスタンスが重要です。
夫婦間の問題を考える際と、子どもの問題を考える際とでは、視点や考え方を変えて対応する必要があるでしょう。
なお、参考までに、法務省が作成している面会交流に関するリーフレットをぜひご覧ください。
面会交流の考え方などが、わかりやすく整理されています。
今回は面会交流とはなにか、を中心に見てきました。
次回からは、面会交流の決め方や具体的は面会方法などを取り上げたいと思います。
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【離婚】 一度決めた親権者をあとから変更できる?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第12回です。
前回(決めた養育費を支払えなくなってしまった場合)は、子どもの養育費をあとから変更する方法を見てきました。
今回は、親権について、あとから変更する方法について取り上げます。
離婚の際に未成年の子どもがいる場合、必ず親権者を決めなければなりません。
親権者の決め方については、「必ず母親が親権を得る? ― 親権者の決め方は」で詳しく取り上げましたが、離婚時の当事者の協議で決めるか、話し合いがつかなければ調停・審判で決定してもらうことになります。
では、そのように親権者を一度決めたけれども、あとから変更したい、という場合はどうしたらいいのでしょうか。
実は、離婚の際に親権者を決めるときとは違い、あとから親権者を変更する場合には、当事者の協議だけでは認められません。
必ず、家庭裁判所で調停・審判という手続きを行わなければならないことになっています。
一度決まった親権者がすぐに変わってしまっては、子どもも周囲の人も混乱しますので、変更するには裁判所の関与が必要ということです。
ですので、あとから親権者を変更するには、裁判所の関与・判断を受け、変更を認めてもらわなければならないのです。
では、どのような場合に変更が認められるのでしょうか。
親権者変更には、大きく2つのパターンがあります。
1つは、親権者は健在だけども、親権者や子どもの生活状況が変わり、親権者を変更したい場合です。もう1つは、これまでの親権者が亡くなってしまうなど、親権者がいなくなってしまった場合です。
1つ目のケースについては、これまでの親権者が引き続き健在ですから、現在の親権者のもとでの生活には問題があることが必要となるでしょう。
親権者の判断基準は、子どもにとって、誰が親権者となるのがもっとも適切なのかという、子どもの利益という視点から検討します。
たとえば、現在の親権者が病気などにより養育困難となった場合や、現在の親権者が子どもに暴力をふるうなど適切な養育をしていない場合には、変更の必要性が高いといえます。
しかし、現在の生活に問題がなければ、あえて親権者を変更して混乱を生じさせるべきではないため、なかなか変更が認められないのが実情でしょう。
もちろん、変更を求める場合には、変更した方が子どものためになる、という主張立証を行う必要がありますので、親権者になりたい方の生活状況や子どもとの関係も重要な考慮要素になります。
2つめの、現在の親権者が亡くなってしまった場合、親権者はどうなるのでしょうか。
たとえば、親権者であった母親が亡くなってしまった場合、自動的に、父親が親権者になるのでしょうか。
実は、現在の親権者が亡くなったとしても、自動的に親権者が移ることはありません。
このような場合であっても、家庭裁判所に親権者変更の申し立てを行わなければならないのです。
そして、裁判の場で、親権者として適切かどうかを判断されることになります。
ちなみに、父母とも亡くなってしまった場合のように、親権者がいない場合には、未成年後見人という立場の監督者を家庭裁判所が選任します。
通常、これは祖父母などの親戚を後見人として、その後の養育や財産管理を行うことになります。
これまで見てきたように、前回の養育費や今回の親権は、どちらも、離婚時に決定するのが本来ですが、あとから変更する制度も用意されています。
ただし、どちらも、離婚後、生活の状況などのお互いの事情が大きく変わったことが必要になります。
特に事情が変わったところはないのに、気持ちが変わったとか、やっぱり変えてほしい、というだけではまず認められません。
そのため、離婚時に慎重に検討することが重要となってくるのです。
子どもに関する問題をしばらく見てきましたが、次回は、子どもと一緒に暮らしていない親と子どもとの面会交流をテーマとする予定です。
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決めた養育費を支払えなくなってしまった場合
札幌の弁護士による離婚解説コラム第11回です。
前回(養育費が支払われない場合の対処法)では、相手が養育費を支払ってくれない場合の解決策について見てきました。
今回は、反対に、養育費を支払う約束をしたのに、支払いができなくなった場合にはどうすべきかを取り上げます。
養育費の取り決め方については前回見てきましたが、調停を行わず、公正証書も作成せずに、お互いで養育費の金額を決めただけの場合をまず考えます。
この場合、養育費を取り決めていれば、夫婦間では支払いの義務や受け取る権利があることになりますので、支払う側も支払う義務を負います。
ただし、この場合には、支払いをできなくなってしまった場合にも、すぐに差し押さえなどの強制執行を受けることはありません。
前回詳しく見たように、差し押さえには、裁判所での合意か公正証書が必要になるからです。
それなら、支払いをそのまま止めてしまっても問題ないかというと、もちろん、そういうわけではありません。
いまは差押えができないとしても、養育費を支払う義務があることは間違いありませんので、そのままでは養育費の滞納分が毎月積み重なっていきます。
そして、後から調停や裁判を起こされた場合、状況によっては、これまでの滞納分を一括で支払うことになりかねません。しかも、その場合には、裁判所での取り決めになりますので、一括で支払えない場合には、差し押さえをされてしまうことになるのです。
ですので、結局、あとから全額の差し押さえを受ける危険がありますので、いますぐに強制執行される危険がないからといって支払いを止めていいわけではありません。
しかし、現実問題として支払いができなくなってしまうことはあります。
たとえば、養育費の取り決め時には仕事をして、相応の収入を得ていたのに、何年かして会社が倒産してしまい、収入がなくなってしまった場合が考えられます。
また、反対に、子どもを引き取った妻が再婚し、世帯の収入が一気に上昇した場合などにも、元のまま養育費を支払い続けるというのは釈然としない場合もあるでしょう。
養育費の支払いは、通常は子どもが成人するまで続きますので、10年や15年続くこともめずらしくありません。
最初に取り決めた金額が、その後、一切変更できないというのはあまりに理不尽な話でしょう。
そこで、このような場合には、養育費の減額を求める調停を起こすことが認められています。
もちろん、養育費の減額を相手に申し入れて、相手がOKしてくれれば何の問題もありませんが、相手が認めてくれない場合には、やはり調停を起こすしかないでしょう。
その調停手続きの中で、今までどおりに養育費を支払えない事情を説明し、減額を求めて行くことになります。
ただ、一度取り決めた養育費ですから、簡単に変更することはできません。
やはり、取り決めた時点から何年も経ち、事情が大きく変わったことが必要になります。少し収入が減ったという程度ではなかなか認められないでしょう。
しかし、現実問題として支払いができなくなってしまったときには、減額を求めるしかありませんので、そのような場合には無断で支払いを止めるのではなく、話し合いや調停という形で解決しなければなりません。
そうでないと、やはり差し押さえなどを受ける危険が残り続けることになります。
なお、今回は養育費を後から減額できる、という観点でお話しましたが、実は、反対に、後から増額を求めることもできます。
考え方や手続きは全く同じで、取り決めた後の事情が変わったことで、より多くの養育費が必要となった場合などに、話し合いか調停を起こして増額を求めることができます。
たとえば、子どもが進学し、学費が相当かかるようになった場合などが典型的でしょう。
このように、一度決めた養育費は、絶対に変わらないものではありません。
双方の生活状況や子どもの状況に応じて、変更することが認められているのです。
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養育費が支払われない場合の対処法
札幌の弁護士による離婚解説コラム第10回です。
前回(養育費を受け取るには?相場はどのくらい?)の最後に予告しましたが、今回は、一度決めた養育費が支払われない場合を見て行きたいと思います。決めた養育費が支払えない場合、は次回に取り上げます。
では、さっそく本題ですが、養育費を取り決めたのに、支払われない場合、どうしたらよいでしょうか。
手紙や電話で催促をするのがもちろんですが、それでも支払いがされないことも、残念ながら何度も経験してきました。
養育費の支払いは期間が非常に長くなるため、途中で支払われなくなってしまうことも少なくないのです。
このような場合の対処法は、離婚が、協議離婚であった場合と、家庭裁判所での 調停離婚・裁判離婚であった場合とで大きく異なります。
まず先に、調停離婚・裁判離婚をし、その際に養育費の取り決めを裁判所で行った場合を見て行きます。
このような場合に相手が養育費の支払いをしなくなったときは、①家庭裁判所の履行勧告と、②強制執行、の2つの方法をとることができます。
①の履行勧告というのは、家庭裁判所の手続きで当事者がした約束について、約束違反があるときに、家庭裁判所が相手に事情などを確認し、約束通り支払いをするよう指示を出してくれるという制度です。
裁判所から、約束を守るようにと指示を受ければ、当事者が直接請求をした場合よりも、相手も支払いを行う可能性が高くなります。実際、履行勧告により支払いが再開されるケースもよく見かけます。
ただ、この履行勧告は、手軽で使いやすいというメリットはありますが、相手がそれに従わなくても何もペナルティはない、という点が弱点です。
履行勧告を行っても効果がない場合、あるいは最初から履行勧告が無駄と思われる場合には、②強制執行を行います。
強制執行というのは、裁判所の許可を得て、相手の財産を一方的に差し押さえてしまい、その財産を売却してお金に換え、そこから支払いを受けるという制度です。
強制執行を行うには、裁判所で当事者が合意した証明書である調停調書・和解調書や、裁判官の判断を示した判決書・審判書が必要です。そこに記載された約束が破られたときに、強制執行が認められます。
ただ、難しいのは、相手のどのような財産を差し押さえるかは、請求する側で決めなければならないのです。しかも、漠然と預金とか給料、というだけではダメで、北洋銀行の札幌西支店にある口座とか、○○株式会社からもらう給料、というふうに、内容を特定しなければなりません。
通常は、離婚前から相手の職場が変わっていなければ、その職場からの給料を差し押さえることが多いですね。残念ながら、相手が退職し、どこに勤めているかがわからないと、この方法は難しいでしょう。
給料以外にも、何か財産的価値があるものがわかれば、それを差し押さえることになります。
この差し押さえでも支払いを受けられないときは、もはや打つ手がなくなってしまいます。
相手に細かく督促を行うなどするしかありませんが、それで応じてもらえなければどうしようもないのが現実です。
養育費の支払いが確実に受けられるような制度があればいいのですが……
ここまでが、裁判所での調停離婚・裁判離婚をした場合です。
では、調停や裁判を起こさずに、協議離婚をし、その際に養育費を決めた場合はどうでしょうか。
実は、この場合、さきほどの履行勧告という手段は使えないのです。履行勧告は、裁判所が関与して取り決めた約束にしか利用できず、協議離婚の場合は対象外なのです。
では、強制執行はどうでしょうか。
この強制執行も、協議離婚の場合には、そのままでは利用できないことが多いのです。
さきほども触れましたが、強制執行には、調停調書や判決書という裁判所が作成した公文書が必要になります。協議離婚では、このような書類はありません。
ですので、基本的に強制執行は認められません。
しかし、だからといって打つ手がないわけではありません。
協議離婚で養育費を決めた場合であっても、あとから裁判所に、養育費の支払いを求める調停や審判を申し立てることが認められているのです。
ですので、このようなときは、養育費支払いの調停を家庭裁判所に申し立て、その中で相手と話し合いをしたり、裁判所に判断を出してもらうことになります。
そのようにして手続きが終了し、調停調書や審判書を裁判所に作成してもらった場合には、それを使って、履行勧告や強制執行を行うことができます。
協議離婚の場合には、トラブルになったときに改めて調停を行わなければならない、という点が不便ですし、時間もかかってしまいますから、なかなか大変な思いをしてしまいます。
そうすると、養育費が払われない可能性があるときは、協議離婚ではなく必ず調停離婚で決めなきゃ、と心配される方もいるでしょう。
しかし、協議離婚の場合にも、将来に備えた手段が1つ用意されています。
それが、公正証書です。
公正証書とは、公証人という特別な資格を持つ公務員が、公的に作成する証明書のことです。
当事者が取り決めた離婚や養育費に関する約束を、公証人の前で確認し、公証人がその約束事を公正証書に記載します。
そうして、公証人が公正証書に約束を記載したときは、この公正証書は、裁判所の調停調書や判決と同じ扱いを受けられる、という仕組みになっています。
ですので、協議離婚の場合には公正証書を作成しておくことで、いざというときに、調停や裁判を起こさずに強制執行を行うことができ、スピーディに解決を図ることができるのです。
そのため、弁護士が交渉して協議離婚する場合には、ほとんどの場合、この公正証書を作成しておきます。
ただし、この公正証書は、強制執行を行うことはできますが、家庭裁判所が関わっていないことにかわりはないので、履行勧告は認められません。
いきなり強制執行をするしかないのです。
普通は事前に請求書や督促を行いますので、大きな違いはないですが、その点が調停離婚・裁判離婚と、公正証書の違いでしょう。
少し複雑だったでしょうか。簡単に内容を整理すると、養育費が支払わない場合の解決方法は、
- 【協議離婚で公正証書なし】
支払いの請求 → 養育費の調停 → 解決 → 履行勧告 → 強制執行 - 【協議離婚で公正証書あり】
支払いの請求 → 強制執行 (履行勧告はできない) - 【調停離婚・裁判離婚】
支払いの請求 → 履行勧告 → 強制執行
という流れです。なお、支払いの請求や履行勧告は、省略することも可能です。
今回は思ったよりも長くなってしまいましたので、養育費を支払えなくなってしまった場合については、次回にまわしたいと思います。
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養育費を受け取るには?相場はどのくらい?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第9回です。
前回は、「必ず母親が親権を得る? - 親権者の決め方は」というテーマで、親権者の決め方を見てきました。
親権が決まり、子どもを育てることになると、今度は他方の親から養育費を受け取れるのかが問題になります。
養育費を受け取る条件や、その金額はどの程度になるのか、を今回は取り上げます。
実は、法律上、養育費という言葉は出てきません。
民法766条で、「子の監護に要する費用の分担」は、子の利益を最も優先して考慮し、夫婦間の協議で定める、という規定があるだけです。
一応、この「子の監護に要する費用」が養育費にあたると考えられるでしょう。
しかし、具体的な金額などについては何も触れられていないため、どのように決めるべきか悩むケースが多いと思います。
基本的には、夫婦間の協議で決めますので、双方の合意が成立すれば、いつからいつまで支払うことにしても、一括でも分割でも、金額もいくらでも構わないことになります。
協議で決める場合の注意事項については次回に取り上げる予定ですが、いずれにしても協議で決まれば問題はありません。
では、協議が整わない場合、あるいは離婚や親権自体に争いがあり、養育費を決めるどころではないという場合にはどうしたらよいのでしょうか。
このような場合、離婚の場合と同様、やはり調停を申し立てることになります。
離婚についても未解決のときは、離婚調停の際にあわせて養育費の請求も行うことができますし、反対に離婚が成立した後、養育費の取り決めができていなかった場合は、子どもが成人するころまではいつでも調停を申し立てることができます。離婚時に決めなかったから請求できない、ということはありません。
調停で合意できなかった場合は、最終的には判決や審判という形で、裁判所の判断が示され、当事者がそれに拘束されることになります。
では、実際に養育費を決定する際、期間や金額はどのようになるのでしょうか。
まず、養育費の支払い期間というのは、離婚が確定した日から始まります。離婚前の時点では、養育費という形での支払いは認められていません。ただし、生活費として婚姻費用というものの支払いが認められることになります。
離婚後、いつまで養育費の支払義務が続くかですが、通常は、20歳になって成人するまでで区切ることになります。20歳になれば親権もなくなりますので、その成人したら養育費の支払いも不要と扱われます。
しかし、実際に協議や調停で決定する際には、少し異なる決め方をすることも少なくありません。
たとえば、子どもが高校を卒業すると同時に就職するような場合、仕事をして収入のある子に対してまで養育費を変わらず支払うべきといえるかは微妙な問題だと思います。反対に、高校卒業後に大学に入学した場合、20歳ではいまだ学生で、学費も相当かかる状況ですから、20歳になったからといって養育費を打ち切るというのも違和感があります。
ですので、たとえば、「大学に進学したときは大学卒業まで、大学に進学しなかったときは20歳まで」などという形で合意することもあります。
実際には、浪人してしまった場合や中退した場合はどうするかで問題になることもありますが、あまり細かいところまで決めておくよりは、そのときに話し合う方が現実的といえる場合もあるでしょう。
※ただし、法改正のため、2022年4月以降は、成人年齢は18歳に変更されます。その後の養育費の支払時期がどうなるかは、今後議論されていくこととなります。
では、肝心の金額はどのように決めるのでしょうか。
基本的な考え方として、養育費は、父母の収入額に応じて決定されます。
通常、父母の収入から子どもの生活費を見積って、その子どもの生活費を父母が収入に応じて分担する、という形で計算します。
そうすると、母が子どもを養育し、父が養育費を支払う場合では、父の収入が大きいほど養育費は高くなり、反対に、母の収入が高いほど受け取る養育費は低くなります。
また、子ども数や年齢、親が自営業者か会社員かなどによっても養育費の額が変動していきます。
ただ、これらの要素をもとに計算をしていくと計算が大変複雑になり、わかりづらくなってしまうため、実際の裁判では、養育費の目安を整理した算定表を使用しています。
この表は、両親の収入、子どもの数、年齢から簡単に養育費の目安が算定できるため、実際の事件でもよく参照されます。
東京家庭裁判所のサイトに算定表が掲載されていますので、興味ある方はこちらをご確認ください。
この算定表は、標準的な家庭を基準として、目安を決めたものですので、どんな場合にもこのとおりに決定されるというわけではありません。
実際には、個々の家庭ごとに経済的な事情が異なります。子どもが学費の高い私立の学校に通う場合などの子どもの生活費が高くなる場合や、住宅ローン、親の介護費など特殊な支出を一方の親がしている場合などは、算定表から増減することもあり得ます。
そのため、この算定表は絶対的なものではありませんが、実務上は、だいたいの事案はこれに沿って協議を進めることになります。
養育費は、調停や裁判ではこのような流れで決めていきますが、非常に長い期間、支払いが続くことになりますので、基本的には当事者が納得して合意しなければ、途中で支払いがされなくなってしまう危険が高まります。
また、当事者で納得して決めたとしても、養育費の支払期間は長く、その間にお互いの生活状況が変わってしまうこともありますので、既に決めた養育費では足りないとか、高すぎるとかいう事態が生じたり、全く払われなくなってしまうということも起きてしまいます。
このように、養育費を決めた後に問題が生じた場合にどうしたらよいか、という問題は、次回に取り扱いたいと思います。
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離婚に役立つ実践的な情報をまとめました
このブログでは、札幌の弁護士が、弁護士としての知識・経験にもとづいて、離婚の際に生じる問題について実践的な情報を提供しています。
離婚問題は、弁護士に依頼しないでご本人で解決する方も多いですが、調停や裁判などに発展した場合には、ご本人のみで対応するのは大変です。特に相手に弁護士がついた場合には、こちらの弁護士を立てる必要が大きいでしょう。
離婚問題は人生の中でももっとも大きな問題の1つですので、あとで後悔しないよう、弁護士に相談して適切なアドバイスを受けることをお勧めしています。当事務所でも離婚問題は数多く扱っていますので、お悩みの方はお気軽にご相談ください。
以下に、これまでに公開した離婚に関する記事の一覧をまとめていますので、興味のありましたらご覧ください。今後も適宜、追加していく予定です。
【法律コラム】
13 親権のない親が子どもに会う権利はある? ~面会交流とは~
21 住宅ローンが残っている場合の財産分与はどうしたらいい?
【解決事例】
1 不倫した夫に離婚調停を申し立て、慰謝料や養育費の支払いを受けた事例
2 夫の暴言を理由として離婚調停を申し立て、離婚が成立した事例
必ず母親が親権を得る? - 親権者の決め方は
札幌の弁護士による離婚解説コラム第8回です。
前回(弁護士に依頼するタイミングと報酬は?)で予告しましたが、今回からは離婚時の子どもをめぐる問題について見て行きます。
子の問題の入口として、今回は親権者の決定について考えましょう。
夫婦が離婚するときに未成年の子どもがいるときは、必ず親権者を決めなければなりません。
どちらが親権を得るかを決める際の基本的な方法は、お互いの話し合いです。
協議離婚の場合などは、話し合いで親権者を決め、離婚届に親権者を記載します。実際上は、母親が引き取ることが多いと思いますが、もちろん父親が親権者になっても問題ありません。
しかし、離婚調停や離婚裁判に発展する場合、慰謝料などの金銭的な問題だけではなく、親権問題が中心的な問題になるケースも少なくありません。そのような場合、最終的には裁判所がどちらが親権者となるかを審判や判決という形で決定します。
当事者は、その決定に不満があっても、それに従わなければならないのです。
それでは、裁判所はどのような基準で親権者を決めているのでしょうか。
親権が問題となると、相談者、依頼者から、「親権は母親が得ることになりますよね」「父親が親権を希望しても無理ですよね」といったことを言われることが非常に多いです。
確かに、実際の事例では、裁判所も母親を親権者として認めるケースが圧倒的に多いといえます。また、社会の考え方としても、特に子どもが小さいうちは、母親が育てていくという見方が強いように思います。
しかし、必ず母親が親権を得ると決まっているわけではありません。当事務所で扱った事例でも、父親に親権が認められたこともありました。
ですので、母親側としても、ただ母親というだけで親権が得られるわけではありません。父親側としても、親権が絶対に認められないというわけでもありません。
どのような場合に親権が認められやすいかをしっかり理解しておくことが必要です。
親権者を決定する基準を一言でいえば、どちらを親権者とすることが「子どものため」になるかです。
これは、単純に子どもの希望がどちらかによって決めるわけではなく、お互いの生活環境なども重視されます。
よく問題となる点について、簡単に説明していきます。
① 父母の生活状況、監護体制
子どもが引き取られた場合の監護体制(子どもを生育できる体制のことです)は重要な問題となります。その関係で、父母の生活状況が問われていきます。
離婚後、父母がどのような場所に住み、どのように収入を得て生活していくかは、子どもの成育環境に影響を与えます。一般には経済力が豊かな家庭の方が子どもの養育にも支障が少ないといえますので、経済力も基準の1つとなります。
それ以外に、父母以外に子どもの面倒をみてくれる人がいるかも問題です。父母の両親などと同居して子どもを育てやすい環境があれば、親権を得るうえでは有利に働くでしょう。
反対に、父母の労働時間が長く、家にいられる時間が少ないうえ、ほかに子どもの面倒をみてくれる人もいない、という場合には、子どもの成育環境としては不十分と評価される危険があります。
② 子どもの生活状況、子どもの意思
子どもの今の生活状況を確認することも重要です。たとえば、現在就学中で、母の自宅からもともとの小学校に通学している場合で、父に引き取られたら転校しなければならないという事情があれば、子どもの現在の環境を変更させるよりは、母を親権者として現在の生活を維持させる方が子どもの利益になるかもしれません。
また、子どもと父母の関係は非常に重要です。極端な場合ですが、親の一方が日常的に子どもに暴力を振るっている場合、その親が親権者とされる可能性はほぼ無いでしょう。父母の優劣をつけるべきではありませんが、少なくとも子どもが親しみを感じていることが親権者の条件となると思います。
なお、子どもの意思も考慮されるといいますが、ここでいう「子どもの意思」は、子どもが「○○の方がいい」といったかどうかという問題ではありません。子どもも両親のことを考えたり、周囲の目に配慮しますので、父母のどちらと一緒に暮らすかという段階で本音を言うことは難しいのです。
ですので、子どもの意思は、家庭裁判所の調査官や裁判官が子どもの態度、表情や生活状況などから子の本心をくみ取って判断しているのです。
③ 離婚の原因がどちらにあるか
たとえば、母親が不貞行為を行ったことが離婚の原因である場合、親権に影響するでしょうか。
基本的には、それだけで親権を得ることが不利になるわけではありません。離婚の原因がどちらにあるかという点と、子どもの幸せのためにはどちらが親権者になるべきかという点は、別の問題だからです。
しかし、たとえばその母親が不貞行為の相手方と同居して暮らしていこうとする場合は、その不貞行為の相手とも子どもが同居することになりますので、それが親権の判断を左右する可能性はあります。子どもが父親になついており、不貞行為の相手方に拒絶反応を示すような場合は、母親に親権を認めるうえで障害になるでしょう。
親権の判断では、これらのような事情が問題となってきます。
これらを踏まえたうえで、最終的に、子どもの親権者としてどちらが適切であるか、子どものためになるのはどちらかを判断していきます。
ですので、親権を得たいと希望する側は、子どもを引き取った場合の生活環境をあらかじめ整えておいたり、両親などに協力を求めたり、職場の理解を得ておくなどの対応をしておく必要があります。
子どもの親権を得たら考えます、という考えでは、裁判所から本気で子どものことを考えていないと思われてしまう可能性も否定できませんので、注意が必要です。
なお、子どもの親権問題に関連して、「子どもの連れ去り」の問題があります。
親権を得るためには、離婚前から子どもを自分の元で住まわせ、生活環境を整えておいたり、子どもがそこから離れにくくするという既成事実作りを行う方も多く、それ自体は有効な対応であるといえます。
しかし、それを目的として、相手が養育している子どもを勝手に連れてきたり、別居に際して子どもをむりやり引き取っていくという事例も実際にあります。
このような行動は、結局、親として身勝手な行動であり、子どものことを本気で考えていないと判断され、調停や裁判で不利な事情とされることが少なくありません。
特に、他方の親が育てている子どもを一方的に連れ去る行為は、仮に子どもが了解していたとしても、誘拐行為となり、犯罪に問われる危険があります。
実際に、平成17年12月6日に最高裁判所は、夫婦間の離婚トラブル中、母親が自宅で育てていた子どもを父親が一方的に連れ去った事案について、未成年者略取罪(未成年者をむりやり誘拐したという罪)が成立すると判断し、父親を懲役1年・執行猶予4年に処した判決が確定しています。
こういった実力行使は、親権を得る目的で行っていても、結局、不利に働いてしまう可能性が高いことに注意する必要があるでしょう。
実際の事例では、双方が生活状況や監護体制について主張立証をしたり、裁判所の調査官がお互いの生活状況や子どもの意向を調査して、親権者が決められます。
専門家である調査官や裁判所が親権者を決定した場合、その内容に不満があったとしても、子どものためを思って不服を述べないことも少なくありません。
あくまで子どもの今後のためにはどちらが良いかという視点が重要であることを忘れてはならないと思います。
今回は親権について述べてきました。
次回は、夫婦間で非常に関心の高い、子どもの養育費について取り上げたいと思います。
札幌の弁護士が離婚を解説 【離婚に関する実践的情報一覧はこちら】
弁護士に依頼するタイミングと報酬は?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第7回です。
前回(離婚調停と離婚裁判の流れを見てみよう)までは離婚についての法律的な問題についてみてきました。
今回は少しテーマを変えて、離婚を弁護士に依頼すべきか、依頼するとしたらそのタイミングはどうすべきか、を見ていきたいと思います。
現在は離婚する夫婦も数多くおり、みなさんの周りでも離婚を経験した方がいるかと思います。
しかし、ほとんどの場合、お互いの話し合いで離婚を合意し、離婚届を提出するという協議離婚で離婚することになります。
離婚すべきかという点や、親権、財産分与などでそれほど意見の対立がない場合は、そのようにスムーズに離婚成立となり、そのような場合に弁護士が表に出ることはまずありません。
ただ、このような場合でも、離婚するにあたって離婚の際の注意点などを弁護士に相談に来られる方は、実は相当いるのです。
そのような場合は、弁護士は相談者にアドバイスをし、今後の行動を助言しますが、正式に依頼を受けて相手と交渉を行うということはなく、相談者の方からは毎回の相談料のみをいただいています。
比較的、お互いの対立の程度が軽い場合には、それで十分だと思います。
しかし、話し合いで解決できず、離婚調停にまで発展すると、ご本人だけで対応していくことはかなり難しくなってきます。
実際のところ、離婚調停は、弁護士に依頼せずにご本人で対応している方も相当います。お互い、弁護士に依頼しないという形がスタンダードとさえいえるかもしれません。
家庭裁判所の調停委員も、そのような状況に慣れていますので、当事者に調停の仕組みを説明してくれますし、必要な情報や資料も整理してくれます。ですので弁護士がいなくても、調停は問題なく進行していき、解決に至ります。
ところが、弁護士に依頼をしないで調停成立した方が、後日、「わけがわからないまま、調停委員に言われたとおりに調停成立させてしまった。自分はそんなつもりじゃなかった。」と嘆いて相談にいらっしゃるということが実際にあるのです。
しかも、それは一人、二人の話ではなく、これまでに何度もそういった相談を経験しています。
この相談者の方々も、調停の手続きは説明を受けてなんとなくは理解しており、離婚調停が成立した際も、調停調書の内容を確認して「それで結構です。」と承諾しているのです。
それなのに、どうしてこういった事態が生じているのでしょうか。
一番の原因は、離婚に関する法律的な知識・経験がないため、専門的知識のある調停委員・裁判所の言葉に反論できず、つい従ってしまうからです。
調停委員にもそれぞれ個性があり、親切に説明してくれる方もいれば、あまり説明が上手でない方もいます。しかし、それでも離婚に関する経験は相当豊富です。
たとえば、知識のない当事者が、経験豊富な調停委員から、「この場合は慰謝料請求は難しいから、解決のためにあきらめた方がいいと思いますよ」「親権は母親が得るのが常識なので、親権を争うよりも面会交流の条件を話し合った方が得でしょう」などと言われたとしましょう。
調停委員の言葉に納得がいかないとしても、「専門家がそういうならしょうがないか」とか「とりあえず調停委員の指示に従って、後からまた考えよう」などと考え、調停委員の提案に反対しづらいのではないでしょうか。
そうして、流されるまま調停が成立してしまうと、もう後からそれをひっくり返したり、話し合いをやり直したりということは認められないのです。調停が成立してしまうと、そこですべて解決済みということになるのです。調停成立には、それほど重要な意味があります。
しかし、人生の中でももっとも重要な出来事の1つである離婚を、そのようなあいまいなまま解決してしまってよいのでしょうか。後になって、やっぱり調停の場でこれを主張しておけばよかった、と後悔するのは、大変残念なことです。
それを避けるためには、調停にのぞむ際には、自身も離婚に関する法律知識を十分に身に着けておく必要があります。
ただ、離婚問題は、夫婦によってさまざまです。市販の本をみても、あなた方夫婦の場合について説明した本はありませんし、財産分与や親権問題となると、少し本を読んだだけではほとんど理解できないほど複雑です。
そのため、適切な知識を得、アドバイスを受けるには、やはり調停に出席する前に弁護士に相談するべきです。
弁護士に依頼し、調停に出席してもらうべきかは、事案によって異なると思います。相談の際のアドバイスだけで十分対応できる事案も少なくありません。
しかし、財産分与が複雑であったり、親権について激しい対立がある場合、離婚原因(不貞行為など)が強く争われる場合などは、調停の段階から弁護士が参加する必要が高いといえます。これらは単なる話し合いでは解決が難しく、法律的な知識を使って、自分の主張が正しいことを証明しなければならないからです。
そのためには、調停委員に対してこちらの言い分を十分に伝え、適切な根拠を示す必要があります。うまく説明できなかったり、適切な根拠があげられないと、調停委員が判断を誤るかもしれません。
ですので、弁護士が依頼者とともに出席して、調停委員を直接説得する必要が高くなります。
また、複雑な事案では、弁護士と協議しながら依頼者自身も知識を深めていく必要がありますので、そういった意味でも弁護士への依頼が効果的となります。
特に、相手が弁護士に依頼している場合には、自身も弁護士を立てて対抗しなければ対応が難しいでしょう。
また、離婚という大変なトラブルを抱えている間、すべてを一人で判断し、対応していくというのは心身ともに大きな負担となります。
そのようなときに、事情を理解し、ともに歩む弁護士がいれば、そのような負担も軽くなることでしょう。
そういう目的で弁護士を依頼する方も多くいらっしゃいます。
なお、調停では解決せず、離婚訴訟にまで進行した場合、もはやご自分で対応できる段階ではありません。
訴訟では、裁判所は手続きを親切に説明してくれるわけではありません。自分の主張を自分で証明しなければ、負けてしまうのです。
訴訟段階でも弁護士に依頼しないままでは、裁判の流れもわからないうちに判決が出て終わってしまう、ということすらあるでしょう。
ここまでを整理すると、まず、調停が始まる段階では、必ず弁護士に相談だけでも行い、知識とアドバイスを受けることが不可欠です。
その際に、内容が複雑であると感じたり、自力での対応が難しいと思った場合には、調停への対応を弁護士に依頼すべきでしょう。
反対に、弁護士のアドバイスを受けて十分だと思えば、特に依頼する必要はありません。調停の進み具合に応じて、また相談に行くなりするだけで足りると思います。
調停が不成立になり、訴訟を行う場合には、必ず弁護士に依頼すべきです。一度訴訟で負けてしまったら、あとからひっくり返すことはできません。不成立が見込まれる場合には、その前の段階で相談だけでもしておくべきでしょう。
さて、それでは、実際に弁護士に依頼する場合、着手金、報酬などの弁護士費用はどれくらいかかるでしょうか。
日本弁護士連合会のアンケートや、法律事務所のウェブサイト等を確認してみると、離婚調停の場合、着手金として20~30万円程度、離婚成立時に成功報酬として20~30万円程度、さらに慰謝料や財産分与の請求があれば、着手金・成功報酬が上乗せ、という基準が多く目につきます。
当事務所では、離婚手続については、基本的に、着手金を15~30万円、報酬金を0~20万円と定めています(いずれも税別)。手続の種類や争点の内容などによって多少の幅を持たせています。
ただし、慰謝料や財産分与としてまとまった金銭を相手から受け取った場合の報酬金は、受領額の10%を基本としています。
なお、着手金が一括で用意できない場合に、一定の条件をクリアすれば、分割払いや「法テラス」による立替援助(融資のようなものです)を受けることもできます。
当事務所では、ご相談のときに、依頼をお受けした場合の弁護士費用の金額をあらかじめお示しし、ご依頼前に契約書を作成して金額を取り決めています。
そのため、弁護士費用の額を確認してからご依頼されるかをご検討いただいていますし、ご依頼の場合には、事前に書面で取り決めた以外の費用を頂戴することはありません。
離婚にお悩みの方にご安心してご相談・ご依頼をいただくことができるよう対応しております。
かなり長文になりましたが、離婚は人生の一大事ですので、不安や後悔を抱えるよりも、弁護士に相談・依頼して安心されてはいかがでしょうか。
さて、次回からは、離婚時の子どもに関する問題を取り上げます。親権、養育費、面会交流など多くの問題がありますので、順番に説明していきたいと思います。
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離婚調停と離婚裁判の流れを見てみよう
札幌の弁護士による離婚解説コラム第6回です。
さて、前回(離婚調停・裁判はどこの裁判所で行うの?)は離婚調停はどこの裁判所に起こすか、を説明しました。
それでは、実際に調停を申し立てた場合、実際はどのような流れで進むでしょうか。
離婚調停は、裁判所では「夫婦関係調整調停」という呼び方をします。離婚をする場合もあれば、離婚をせず、円満に復縁するケースもあるからでしょう。
調停の申立てには、裁判所でもらえる書式に必要事項を記入し、戸籍などの必要資料を添付して、家庭裁判所に書類を提出する必要があります。
調停を申し立てた後は、第1回目の調停の日時が指定され、その日に出席するよう指示されます。
調停は、家庭裁判所の調停室で行います。
裁判所は、事件ごとに裁判官1名と、有識者から選ばれた調停委員2名(男女1名ずつ)の担当者を決定します。ただ、裁判官が調停の場に直接出てくることはあまりなく、ほとんど調停委員2名で調停を実施することになります。
調停の場では、実は相手と直接顔をあわせたり、話し合ったりということはほとんどありません。
調停を開く際は、まずお互いが控え室で待機し、片方だけが調停室に呼ばれます。そこで、調停委員に事情や言い分を説明したり、質問に答えたりします。
それが一段落すると、今度は控え室に戻され、相手だけが調停室に呼ばれます。そして、相手も同じように調停委員と事情確認などをしていきます。
このように、調停の当事者は、調停委員と話をするだけで、相手本人と顔をあわせることはほとんどありません。
第1回目の調停を開始する際や、調停が円満に解決する時などに同席することもありますが、その程度です。
相手本人と顔をあわせませんので、相手に気兼ねなく、思ったことを伝えられるという面もありますし、調停委員という第三者と話をしていくことで気持ちを整理し、冷静に話し合いを進められることもあります。
まわりくどいと思う方もいるかもしれませんが、そもそも当事者同士では解決できない事件が持ち込まれますので、全く違うやり方を試すというのは効果的といえるではないでしょうか。
そのように、お互いが調停室に出たり入ったりし、切りの良いところで1回目の調停が終わります。
次回までに双方に資料の提出や検討事項が指示され、次回の日程を伝えられます。
だいたい、1ヶ月に1回のペースで進みますので、調停と調停の間は空きますが、冷静に物事を考えるにはちょうど良い期間かもしれません。
離婚調停が1回で終わるということはほとんどなく、3回程度で終われば相当スムーズだといえますし、だいたいの事案は5回程度の調停を重ねることが多いといえます。
1回の調停は2~3時間程度かかることが多いですが、そのうち半分程度は相手が調停室に入る時間であり、待ち時間ということになります。
ちなみに、ただ待つのも大変ですので、時間つぶしの本などを持参する方も見かけます。
ある程度事情の確認や話し合いが進み、お互いの折り合いがついたところで、調停成立となります。
調停成立となれば、合意した内容を裁判所が調停調書という公文書に記録します。この合意を破った場合には、すぐに強制執行を行えるという極めて強力な合意ですので、一度合意が成立すれば、それを守ることが強く求められます。
反対に、何度か調停を行っても妥協点が見いだせない場合には、調停は不成立となり、調停手続きが打ち切られてしまいます。
調停では解決できなかった場合は、離婚裁判・離婚訴訟を行うしかありません。
調停が不成立に終わってしまったときは、家庭裁判所に訴状という書類を提出し、訴訟の提起をすることになります。
調停と裁判・訴訟は全く別の手続きで、離婚訴訟では、調停委員はおらず、裁判官1名が担当します。
そして、調停のように話し合いや協議の場というよりは、証拠で自分の主張を立証していき、勝ち負けを決める、という場になります。
そのため、調停の場合に比べて手続きが難しく、弁護士を依頼しないで乗り切るには相当の苦労があります。
ちなみに、調停は、相手の自宅住所近くの裁判所で行わなければならない、ということを前回述べました。ところが、離婚訴訟は自分の住所近くの裁判所で行っても、相手の住所近くの裁判所で行っても、どちらでも良いことになっています。
それなら最初からどちらの住所でも良いとしてくれれば楽だと思いますが、法律でそう区別されているのでどうにもしがたいところです。
離婚裁判、離婚訴訟は、途中で話し合いによって解決することもありますが、そうならない限り、最後には裁判所の判決によって終了します。
判決には強制力がありますので、不満が残ったとしても、お互い、それを受け入れることになります。
ただ、そこまで行くと、調停から判決まではどれほど短くても1年程度はかかりますし、家族間の問題を判決で白黒つけるというのは、どうしてもその後の関係にも影響が出てしまいます。
弁護士としての経験上では、調停・和解で解決する事件の方が多いですし、そのような事件の方が当事者の納得度も高いと感じています。
駆け足になりましたが、おおまかな調停・裁判の流れはこのようなものになります。
次回にもお話したいと思いますが、弁護士としては、調停の前の話し合いから関与するケース、調停段階から関与するケース、裁判段階から関与するケースのどの場合もよく経験します。
ただ、スムーズな解決のためには、早い段階から関与していた方が良いと感じることが多く、裁判段階から依頼を受けた場合には、調停の段階で依頼を受けていればもっと良い形で解決できただろうと思うことも少なくありません。
弁護士に依頼するかは別としても、少なくとも第1回目の調停がはじまるまでには、必ず弁護士に相談することで良い方向に進むと感じています。
さて、次回は少し方向性を変えて、離婚問題を弁護士へ依頼するべきか、を取り上げます。
着手金、報酬なども触れていきたいと思いますので、ぜひご覧ください。
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