【刑事事件】 保釈の際に守らなければならない条件とは
前回は、保釈金を立て替えてくれる制度を取り上げました。
保釈については、今回で一応終わりの予定ですが、最後に、保釈の際に守る条件について触れておきます。
保釈が認められる場合には、必ず、保釈の際に守らなければならない条件を裁判所から指示されます。
その条件は、事件によって多少変わることがありますが、だいたい、次のようなものです。
- 保釈請求の際に届け出た住所に住むこと。引っ越す場合には事前に許可を得ること。
- 海外旅行や、3日以上の旅行に行く際には事前に裁判所の許可を得ること。
- 裁判所から呼び出された日時に、必ず出席すること。
- 証拠隠滅や逃亡行為と疑われるような行動を行わないこと。
- 共犯者がいる事件では、共犯者と一切連絡をとらないこと。
これを見て、いかがでしょうか。
簡単な条件だと思ったのではないでしょうか。
実際、保釈の際の条件は、普通に生活していれば違反することはまずありません。
ただ、共犯者がいる事件では、共犯者と連絡をとらないという点に注意が必要です。
共犯者が親しい友人などの場合、事件に関することとは無関係でも、連絡をとりあうことが禁止されますので、注意しないとうっかり違反するおそれがあります。
そして、保釈中はこれらの条件に違反しなければ、まったく自由に生活してよいということです。
仕事をしたり、遊びにいったりというのも自由ですし、1泊2日の旅行は許可なくでき、長い旅行も裁判所の許可を受けておけば問題ありません。
裁判の準備のために弁護士事務所に来てもらったり、裁判に必ず出席することさえ守れば、生活はもとどおり行うことができます。
ですので、保釈が認められると認められないとでは、まったく負担が違ってしまうのです。
では、保釈の条件を破った場合はどうなるのでしょうか。
これには、重大なペナルティがあります。
1つは、保釈の取り消しです。条件違反により、保釈はなかったことになり、再び身柄拘束されてしまいます。
それから、保釈金の没収です。保釈の際に裁判所に納めた保釈金が、没収されてしまい、もう戻ってこなくなります。
前回紹介した保釈金立替業者を利用していた場合には、申込をしてくれた家族が全額の返済義務を負わされることになります。
そして、違反の直接のペナルティではありませんが、裁判所との約束を破ってしまった以上、裁判で言い渡される刑が重くなる危険があります。
このように、保釈の条件に違反したときには、重い制裁がありますので、絶対に条件を守るように心掛けなければなりません。
実際は、保釈の条件に違反して保釈金が取り消される人はごく一部にすぎませんから、大半の方は守っていますが、一部であっても違反する人もいますので、注意は必要です。
これまで、刑事事件の流れや保釈について詳しく取り上げてきました。
次回からは、刑事事件における弁護士の役割について説明したいと思います。
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【債務整理】 借金問題を弁護士に頼むタイミングと報酬は?
札幌の弁護士による債務整理解説コラムです。今回で第10回目となりました。
これからも借金問題でお悩みの方のために、情報提供を続けていきますので、よろしくお願いいたします。
前回(破産をしたら退職しなければならないの?)まで、破産の手続きや注意点について説明してきました。
では、破産や債務整理を行う場合には、実際にどうしたらいいのでしょうか。
破産申し立ては、弁護士がいなくとも自分で行うことは不可能ではありません。
しかし、実際に弁護士に依頼せずに手続きを行おうとすると、準備も非常に大変で、時間も労力も必要です。
また、申し立ての準備が不十分であると、裁判所が調査のために破産管財人を選任する可能性が高くなり、そのために20万円以上の費用を納めなければならなくなります。
そのような負担を軽減するため、破産手続きをする場合には弁護士に依頼すべきでしょう。
しかも、弁護士に依頼した場合には、非常に大きなメリットがあります。
それは、弁護士から債権者(貸し手)に対し、弁護士が破産準備を行うことを手紙で通知すると、それ以降、直接ご本人に対して連絡や請求をすることが禁止されるのです。そのうえ、弁護士が依頼を受けた時点で返済をストップしても問題ありませんので、弁護士に依頼をした段階でもう返済を続ける必要はなくなるのです。
ですので、債権者からの請求をとめたい場合や、次の支払いがどうしてもできそうにない場合には、弁護士から債権者に手紙を出せば、請求を受けなくてすむことになります。
もちろん、弁護士は、借金問題を解決するために依頼を受けますので、ただ請求をとめてくれ、という依頼をお受けすることはできません。
ただ、破産手続きや個人再生、あるいは任意整理などで借金問題を解決したい場合、方針が決まっていない状態でも、依頼を受けて請求をストップすることはできます。
そのため、借金問題で困っている場合には、すぐに弁護士に相談すべきです。
借金が増えて返済が行き詰ってくると、親族から多少でもお金を借りたり、身の回りのものを売ったり、さらにはヤミ金に手を出したりして、目先の返済資金を手に入れようとする方がいます。
しかし、そこまでして多少の金額をかき集めても、それでは利息分の支払いくらいしかできません。借金を返済し切ることは難しいでしょう。
目先の支払いだけでなく、この先、借金全額を返していけるあてがない、と思った時点で、すぐに根本的な解決を検討する必要があります。
時間が経つほど、利息がふくらんで借入額は増えていきますし、返済も難しくなっていきます。
解決するには、早ければ早い方がいいのです。
毎月の返済ができなくなったときや、このままいけばあと数か月で行き詰ってしまう、と思ったとき、まずは弁護士に相談だけでもしてみてください。
かならず良い解決策が見つかりますよ。
でも、そうはいっても、弁護士に依頼するとお金がいくらかかるかわからない、と心配される方もいるでしょう。
当事務所の場合、弁護士報酬は弁護士費用のページに掲載しています。
基本的な事案では、
- 任意整理の場合 1社3万1500円
- 自己破産の場合 26万2500円
- 個人再生の場合 31万5000円
となっています。なお、自己破産と個人再生では、裁判所に納める手数料として1万円あまりが別途必要です。
ただ、借金返済に行き詰っている状態で、弁護士費用をすぐには用意できない方も多いでしょう。
そのような場合、半年程度の分割払いでも対応しています。
弁護士に依頼した時点で、債権者への返済はすべてストップしますので、これまで返済にまわしていた分だけ余裕ができるでしょう。
そこから、分割で弁護士費用を用意いただくことが多いですね。
また、失業などが原因で、分割でも用意が難しい方もいらっしゃるでしょう。
そのような場合には、法テラスという機関の弁護士費用の援助制度を利用できる場合があります。
利用には条件がありますが、条件をクリアすると、弁護士費用の立替を受けることができ、あとから毎月3000円~10000円ずつの返済をしていけば良いことになります(返済は無利息です)。
当事務所では、このように、弁護士費用の用意が難しい方にも柔軟な対応をしておりますので、弁護士費用の心配はされずにまずご相談ください。
債務整理の相談料は無料ですし、ご相談のみで終了しても結構です。
ご相談の際には、解決方法と、依頼をお受けした場合の弁護士費用の金額もご説明していますので、お気軽にお越しください。
ご相談の流れのページで、個人再生の場合の相談から依頼までの実例を掲載していますので、あわせてご確認ください。
なお、当事務所では札幌市内の方はもちろん、札幌市外の方のご相談・ご依頼にも応じています。
ご相談は札幌市中央区にある当事務所にお越しいただく必要がありますが、それでもよろしければお気軽にご相談ください。
ご相談はお電話かメールフォームによるご予約が必要ですので、詳しくはお問い合わせのページをご覧ください。
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【刑事事件】 保釈金を立て替えてくれる制度
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第7回です。
前回は、「保釈金はあとで返ってくるの? 金額の相場は?」ということで、保釈金の額などに触れました。
前回も説明したとおり、保釈金額は、最低でも150万円程度は覚悟する必要があります。
しかも、納めた時点で釈放となりますので、少しずつ積み立てたり、分割で納めるということもできません。
では、お金がない場合にはどうしたらいいのでしょうか。
そのためによく利用するのが、保釈金立替業者と呼ばれる機関です。
その名前のとおり、保釈金を立て替えてくれます。
立て替えるというのは、要するに、貸してくれるという理解でいいと思います。つまり、保釈金専門の金融業者だというのがわかりやすいでしょう。
これを利用すれば、必要な保釈金額をすぐに貸してくれます。
何社か同業者がいるようですが、私が利用したことがあるのは、「日本保釈支援協会」という機関です。
詳細はそちらのサイトを見ていただければと思いますが、要点を挙げると、次のとおりです。
- 立て替える金額は500万円まで
- 立替は2か月単位。2か月を超えた場合には、2か月更新
- 2か月ごとに、立替額50万円につき、1万2500円の手数料がかかる
たとえば、傷害事件で保釈の許可を得て、200万円の保釈金の支払いを命じられたとします。
その場合、保釈から2か月以内に判決が出るのであれば、2か月分の手数料として、5万円が必要となります。
300万円の保釈金であれば、7万5000円です。
仮に、判決まで2か月を超えてしまうと、2か月ごとに同額の手数料がかかる仕組みです。
(ただし、延長後、1か月以内に判決が出たときは、半額返還されるようです)
この日本保釈支援協会を利用することで、手元にすぐお金が用意できない場合にも、保釈金を納めることができます。
これを利用するメリットは、銀行などからの融資と比べて、審査が緩やかであり、高額の立て替えも比較的認められやすいことと、申込み後、数日で立替金を受け取れることです。
銀行で300万円の融資を受けるとなるとなかなか大変でしょうが、保釈金立替業者の場合には、事件の内容や逃亡の危険、つまり保釈金が没収される可能性も考慮しますので、そのような危険が少ない事件であれば、ゆるやかに審査が通りやすいといえるでしょう。
なお、この日本保釈支援協会は東京にありますが、やり取りは電話と書面のみです。
しかも、書面は、FAXで代用したり、速達でやり取りしますので、札幌から手続きをしてもほとんど支障ありません。
(札幌にも他の保釈金立替業者があるようですが、特に不都合もないので、私自身は利用したことはありません)
反対に、この制度にもデメリットがあります。
よく、保釈金立替業者を使って保釈金を用意したいと希望する被告人がいますが、制度のデメリットを知らないで希望している方がいます。
しかし、この制度を使うために条件をよく知っておく必要があります。
この制度のデメリット、使いづらい点は、
- 必ず本人以外の家族が申込みをしなければならないこと
- 保釈金が没収された場合には、その申込みをした家族が保釈金を返済する義務を負うこと
- 手数料がやや高く、2か月以上保釈が続き事件では負担が大きいこと
が挙げられます。
特に1つ目の点、つまり、この制度の申込みは、本人自身ではできないという点に注意する必要があります。
この制度は、本人のために、周りの人が保釈金を借りてあげる、というものなのです。
ですので、本人がいくら保釈を望んでこの機関の立替を受けようとしても、申し込んでくれる人がいなければどうしようもできません。
しかも、本人が逃亡したりして保釈金を没収された場合には、その申込人が全額の返済義務を負います。
また、申し込んだ以上、手数料の支払義務もあります。保釈に協力したら、思ったより裁判が長引き、2か月ごとに何万円も支払わなければならない、という危険もあります。しかも、この手数料は返ってきません。
ただ、それでも保釈に協力してくれるという人がいる場合には、この制度は非常に便利です。
これまで何度か利用したことがありますが、いずれも立替を受けることができ、事件終了後も問題なく返還しています。
最近、日本弁護士連合会が、保釈金の支払いできない人のために援助する制度を構築しようとしているようですが、現時点ではまだ形も見えません。
ですので、少なくとも現在は、保釈金が用意できない方は保釈金立替業者を利用することを検討することになりますね。
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決めた養育費を支払えなくなってしまった場合
札幌の弁護士による離婚解説コラム第11回です。
前回(養育費が支払われない場合の対処法)では、相手が養育費を支払ってくれない場合の解決策について見てきました。
今回は、反対に、養育費を支払う約束をしたのに、支払いができなくなった場合にはどうすべきかを取り上げます。
養育費の取り決め方については前回見てきましたが、調停を行わず、公正証書も作成せずに、お互いで養育費の金額を決めただけの場合をまず考えます。
この場合、養育費を取り決めていれば、夫婦間では支払いの義務や受け取る権利があることになりますので、支払う側も支払う義務を負います。
ただし、この場合には、支払いをできなくなってしまった場合にも、すぐに差し押さえなどの強制執行を受けることはありません。
前回詳しく見たように、差し押さえには、裁判所での合意か公正証書が必要になるからです。
それなら、支払いをそのまま止めてしまっても問題ないかというと、もちろん、そういうわけではありません。
いまは差押えができないとしても、養育費を支払う義務があることは間違いありませんので、そのままでは養育費の滞納分が毎月積み重なっていきます。
そして、後から調停や裁判を起こされた場合、状況によっては、これまでの滞納分を一括で支払うことになりかねません。しかも、その場合には、裁判所での取り決めになりますので、一括で支払えない場合には、差し押さえをされてしまうことになるのです。
ですので、結局、あとから全額の差し押さえを受ける危険がありますので、いますぐに強制執行される危険がないからといって支払いを止めていいわけではありません。
しかし、現実問題として支払いができなくなってしまうことはあります。
たとえば、養育費の取り決め時には仕事をして、相応の収入を得ていたのに、何年かして会社が倒産してしまい、収入がなくなってしまった場合が考えられます。
また、反対に、子どもを引き取った妻が再婚し、世帯の収入が一気に上昇した場合などにも、元のまま養育費を支払い続けるというのは釈然としない場合もあるでしょう。
養育費の支払いは、通常は子どもが成人するまで続きますので、10年や15年続くこともめずらしくありません。
最初に取り決めた金額が、その後、一切変更できないというのはあまりに理不尽な話でしょう。
そこで、このような場合には、養育費の減額を求める調停を起こすことが認められています。
もちろん、養育費の減額を相手に申し入れて、相手がOKしてくれれば何の問題もありませんが、相手が認めてくれない場合には、やはり調停を起こすしかないでしょう。
その調停手続きの中で、今までどおりに養育費を支払えない事情を説明し、減額を求めて行くことになります。
ただ、一度取り決めた養育費ですから、簡単に変更することはできません。
やはり、取り決めた時点から何年も経ち、事情が大きく変わったことが必要になります。少し収入が減ったという程度ではなかなか認められないでしょう。
しかし、現実問題として支払いができなくなってしまったときには、減額を求めるしかありませんので、そのような場合には無断で支払いを止めるのではなく、話し合いや調停という形で解決しなければなりません。
そうでないと、やはり差し押さえなどを受ける危険が残り続けることになります。
なお、今回は養育費を後から減額できる、という観点でお話しましたが、実は、反対に、後から増額を求めることもできます。
考え方や手続きは全く同じで、取り決めた後の事情が変わったことで、より多くの養育費が必要となった場合などに、話し合いか調停を起こして増額を求めることができます。
たとえば、子どもが進学し、学費が相当かかるようになった場合などが典型的でしょう。
このように、一度決めた養育費は、絶対に変わらないものではありません。
双方の生活状況や子どもの状況に応じて、変更することが認められているのです。
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【刑事事件】 保釈金はあとで返ってくるの? 金額の相場は?
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第6回です。
前回(保釈を認めてもらう方法・手続きは?)に引き続き、保釈を取り上げます。
今回は、保釈金というものについてです。
保釈金は、保釈手続きをするうえで一番関心の高いところだと思いますが、世間的にはよく誤解されるところでもあります。
その保釈金の意味と、金額の決め方の目安を見て行きたいと思います。
保釈金というのは、よくニュースなどで取り上げられますので、保釈の際に保釈金というお金がいることはみなさんご存知だと思います。
特に、一部の高額所得者の事件などでは、保釈金が何億円、などという報道がされることもあります。
そういう報道から、お金持ちだけ保釈されてずるい、なんていう批判を聞いたこともあります。
しかし、この批判は全く誤解です。むしろ、お金持ちの方が保釈の際には損とさえいえます。
そもそも保釈金とは、なんでしょうか。
これは、前回まででも見てきたとおり、保釈の際に裁判所に納めることが必要なお金です。
保釈の申請を裁判所に行い、裁判所が保釈を認めた場合、必ず保釈金の金額も決定します。
その金額を裁判所に納めた時点で初めて保釈されることになります。ですので、保釈の許可が下りても、お金を納められないと、いつまでも保釈はされません。
では、これは何のために納めるかといえば、それは、一言でいうと、保釈時の約束に違反させないための人質です。
保釈の許可を受ける際には、裁判所から必ず約束事、条件がつきます。たとえば、証拠隠滅をしないとか、逃げ出さないとか、裁判を欠席しないとかいう条件です。
この条件に違反した場合には保釈は取り消されてしまい、再び身柄拘束を受けてしまいますが、それだけではなく、納めた保釈金も没収され、返してもらえなくなってしまうのです。
つまり、違反した場合には保釈金を全部没収するから、没収されたくなければ条件を守るように、という人質のようなものなのです。
反対にいえば、保釈時の条件に違反さえしなければ、保釈金は全額戻ってきます。
これは、有罪判決の場合でも、実刑判決の場合でも同じです。
保釈は、あくまで裁判にきちんと出席させるための人質ですので、裁判が終わるまで約束を守れば、判決内容にかかわらず、全額返してもらえるのです。
つまり、約束を守れば人質を解放してくれる、というイメージでいいと思います。
保釈金は納めたら戻ってこないと誤解している方も少なくありませんが、条件に違反しなければ大丈夫です。
そこで重要となるのが、保釈金の金額です。
せっかく保釈が認められても、保釈金が用意できないばっかりに、保釈がされないまま判決を迎えることもめずらしくありません。
しかも、お金を納めるまでは保釈が認められませんから、のんびり保釈金を集めているうちに判決が来てしまうと、保釈は無効となってしまいます(保釈は判決時までのみ有効です)。
ただ、正確には裁判所が保釈を許可する際に初めて金額が決まりますので、事前に予想して金額を用意しておくしかありません。
では、実際に保釈金の額はどれくらいかといえば、通常の事件では、150万円から300万円の範囲が大半だと思います。
私が経験した事件は札幌地裁ばかりですが、ざっと振り返ってみたところ、ほとんどがこの範囲です。
平均すると200万円程度が目安だと思いますが、最近の経験では150万円程度と300万円程度の二極化になっている印象です。
もちろん、たまたま担当した事件がそういった傾向なだけかもしれませんが…
だいたいの相場、目安はこのとおりですが、どういった事情で上下するかは予想できますか?
基準は、大きくわけて2つあります。
1つは、事件が重大であるかどうかや、前科の有無、見込まれる刑の重さなど、保釈を認めるリスクの高さが影響しています。
たとえば、重大事件で長い実刑判決が確実である場合、保釈を認めると、証拠隠滅や逃亡を図って、刑罰を避ける可能性が一般的には高くなるといえます。
そのような場合は、保釈を認めるとしても保釈金を少し高めに設定し、条件違反をしづらいようにしているのでしょう。
反対に、執行猶予が確実であり、事件も軽微な場合には、保釈金は低めに設定されます。
そういった事件では、150万円を下回る金額で保釈が認められることもあり、私の経験上は、120万円の保釈金で許可を受けたこともあります。
2つ目の基準は、被告人の経済力です。
実際には、収入が低い場合にもあまり保釈金が安くなることはありませんが、収入が高い場合は、保釈金が非常に高額となります。
たとえば、少し前のライブドア事件では、堀江社長の保釈金は3億円と言われました。
最近では、大王製紙の井川会長も3億円という報道に接した記憶があります。
これらの事件では、被告人の資産・収入が高額であったことが大きく影響した結果でしょう。
高額所得者の場合に保釈金が高くなるのは、たとえば5億円の資産がある被告人に、300万円の保釈金を納めさせても、全く人質の効果がないからです。その被告人にとって、没収されると相当な痛みを感じる程度の金額を納めさせるという考慮だと思います。
ですので、同じような事件を起こしても、所得が大きい人の方が、保釈金の金額は高くなります。
覚せい剤事犯で起訴された芸能人の酒井法子氏の場合、保釈金は500万円だったそうですが、一般の覚せい剤事犯(初犯)の場合は、だいたい200万円前後になるでしょう。
もちろん、高額の保釈金を命ずる際には、被告人が納められると思って金額を決めているのでしょうが、同じような事件でもこれだけの差があると釈然としない気持ちもあります。
ちなみに、私が扱った事件での中では、一審での保釈金だけで1000万円を超える金額を納付したことがあります(覚せい剤事犯ではありませんが)。
なお、保釈の許可を受ける場合には、裁判官と金額の折衝をすることもあります。
せっかく保釈の許可をもらっても納付できなければ意味がありませんので、事前に裁判官に、「○○円までなら用意できるのでこの範囲でお願いしたい」という意見を申し入れることもあります。
相場から外れた金額では無理でしょうが、相場にあっており、説得力がある金額であれば、比較的柔軟に対応してもらえるように思います。
保釈金額についてみてきましたが、最後に、保釈金の返還時期について触れておきたいと思います。
保釈は、判決の時点で効力が終わりますので、保釈金も判決時点で返還されることになります。
とはいっても、実際には若干の会計手続きなどがあるので、裁判所ですぐ返してもらえるわけではありませんが、判決後、2,3日から長くて1週間程度で返還してもらえます。
なお、保釈金の納付時に返還時の送金先を届け出ておきますので、その送金口座に振り込まれることになります。細かいところですが、振込手数料がひかれることもなく、納めた金額がそっくり全額返還されます。
今回は、保釈金の意味や金額について少し細かく取り上げてみました。
保釈の際にはやはりお金の扱いが難しく、金額を用意する段取りがうまくいかないばかりに、必要以上に長期間拘束されてしまうという可能性もあります。
ですので、早い段階から弁護士と親族が協議をし、保釈を見据えた準備を整えておくことが不可欠です。
しかし、保釈の許可が確実であっても、100万円以上のお金を用意するあてが全くない、という方も大勢いらっしゃるはずです。
そのような場合でも、実は、保釈金を調達できる方法があるのです。
それについては、次回のテーマとしたいと思います。
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【債務整理】 破産をしたら退職しなければならないの?
札幌の弁護士による債務整理解説コラム第9回です。
前回は、破産をしても免除されない債権があることを説明しました(破産をしても返済しなければならない負債とは)。
今回は、話題を少し変えて、破産と仕事の関係について見て行きたいと思います。
「破産をしたら仕事を辞めないとならないのですか」
「破産申し立てをすると、解雇されてしまうのでは」
こういった、破産を行ったことで、仕事や就職に問題がでることを心配されている方は少なくないようです。
仕事がなくなってしまったら生活に困る方がほとんどでしょうから、不安に思うのも当然のことです。
では、実際はどうかといえば、ほとんどの方の場合、「問題ありませんよ」とお答えしています。
破産したことが、仕事や就職に影響することは基本的にないといえます。
ただ、一部、例外的に影響を受ける場合があります。それは、一部の特殊な職業に就いている場合です。
その職業の説明の前に、さきに一般的な場合を見て行きます。
普通の会社員の方や主婦の場合など、大半の場合は、破産が仕事に影響を与えることはまずありません。
理由として、1つは、そもそも破産したことが他人に知られる可能性は相当低いからです。
前に、「破産をすると、家族や職場に迷惑がかかる?」でも触れましたが、破産をしたことは、自分から言い出さなければ、職場にわかることはまずありません。
ですので、破産したことで職場から不利な扱いを受けたり、問題とされたりする可能性はそもそもほとんどないのです。
ただ、そうはいっても、会社に申告したり、なんらかの事情で知られてしまう可能性はあります。
しかし、そのような場合でも、破産したことを理由に不利な処分を受ける心配は不要といえるでしょう。
債務を抱えたり、破産したということは個人的なことがらであり、それがすぐ仕事に悪影響を与えるわけではありません。
また、破産手続きをとった場合、すでにその債務問題は解決したことになりますから、それで不利な扱いを受ける理由はありません。
会社としても特段問題にはしないことが多いですし、解雇などに踏み切っても、それは違法解雇となりますので、通常はそのような対応を取ることはないでしょう。
もちろん、債務の穴埋めのために会社の金品を横領していた場合などには当然解雇の対象となりますが……
ちなみに、よく問題になるのが公務員の場合です。国家公務員でも地方公務員でも、普通の公務員の方は、破産をしても、そのまま仕事を続けることができます。
当事務所でこれまで取り扱ってきた公務員の方々は、特に問題もなく、破産後もそのまま職務を続けています。
なかには上司の指示で破産手続きをとりに来られた方もいたほどです。
(なお、後述していますが、公務員の中でもごく一部の特殊な公務員は破産による制限があります)
ただ、公務員の方の場合には、共済から貸し付けを受けていることが多いように感じます。
その場合、共済は債権者となり、破産の通知をし、返済金の免除をしてもらうことになりますので、その関係で、多少居心地が悪い思いをするかもしれません。
しかし、破産が終わるころには精算も終わりますので、それほど心配される必要はありません。
ここまで、破産手続きをしても仕事には影響がでないことを確認してきました。
ところが、一部の職業は、破産を行ったことで、退職・廃業を余儀なくされることになってしまいます。
数が多いので、すべては挙げられませんが、主なものを以下に掲げます。
- 国家資格に基づく専門職
弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士、不動産鑑定士など - 特殊な公務員(一般の公務員は影響ありません)
人事院、公安委員会、公正取引委員会、教育委員会など - 一部の民間職
警備員、生命保険募集人や保険代理店など(事業者以外の方で問題となるのはこの程度です) - 会社の役員
取締役や監査役など
これらの職業のうち1.2.3.は、破産手続き中の者が職務を行うことが法律で禁止されています。
ですので、破産手続きの開始決定を受けた時点で、退職しなければならないこととされています。
また、弁護士や司法書士などの国家資格に基づいた職務に就いている場合は、破産手続き開始決定と同時に資格を失いますし、2.の特殊な公務員も失職ということになります。
3.の警備員や保険外交員の場合は、自主的に退職しなければ解雇されることになるでしょう。
そうすると、たとえば警備員や保険外交員の方は、破産をしてしまうと今後の生活に困ってしまいます。
ただ、多額の債務を負って、現在のままではどちらにしても通常の生活も遅れないということであれば、一度退職を覚悟し、次の仕事をすぐに探すしかない場合も多いでしょう。
もっとも、どうしても退職を避け、借金も解決するということであれば、個人再生という方法があります。
個人再生は、職業への制限がありませんので、警備員などの場合にも在職したまま行うことができますが、そのかわり、破産よりも条件が厳しいことが多いです(詳しくは別の機会に取り上げます)。
ところで、そのような破産による制限がいつまで続くかという点ですが、実は、免責(債務免除)の決定を受け、免責が確定するまでに限られます。
破産の開始決定を受けてから、免責決定が確定するまでは、通常の事案(破産管財人がつかない事案)では3か月前後、破産管財人がつく事案では半年から1年程度(管財業務の量によって大幅に変わりますが)でしょう。
さきほどの1.2.3.による職業の制限は、その期間のみとなりますので、免責が確定したあとは、問題なく就職することができます。
ただし、実際には会社によっては破産の有無などを厳しくチェックするところもあるようで、そのような場合には就職が難しいと思われます。
さて、残った4.ですが、会社の取締役・監査役などの役員も破産により影響を受けます。
しかし、この制限はほかの制限とは少し異なっています。
会社の役員の場合には、破産開始決定がなされると、その時点で役員の資格を失いますが、すぐにまた役員となることが認められています。
ほかの職業の制限は、免責決定が確定するまで続くのですが、会社役員は、破産開始決定の時点だけの制限とされているのです。
とはいっても、会社の役員は株主総会決議で決定する必要がありますから、破産開始決定によって役員を降りた者を、新たに株主総会で選任しないとなりません。しかし、その手続きは、破産開始決定を受けたすぐ次の日に行っても良いことになります。
(ちなみに、このような制限がある理由は、会社の役員というのは株主が会社の経営を委任した相手ですので、破産などの事情が生じたときは、一度役員からはずし、新たに株主がその者を役員として良いかとチェックする必要があるためでしょう)
破産により現在の仕事やこれから就く職業に影響が出るのは、これまで見てきた程度に限られています。
当事務所でも多数の破産事件を取り扱ってきましたが、特に会社員や公務員の方は、ほとんどがそのまま仕事を続けています(事業者の方や、破産を機に自主退職した方もいましたが、それは別の問題によるものです)。
ですので、仕事への影響を心配して破産をあきらめる必要はありません。
今回のテーマは以上となります。
これまで破産手続きの流れや、免責の手続き、破産をした場合の問題点などを取り上げ、破産手続きについては一通り見てきたように思います。
次回からは自己破産を弁護士に依頼する場合の手続きなどを見て行きたいと思います。
札幌の弁護士が債務整理を解説 【債務整理に関する実践的情報一覧はこちら】
当事務所は、お盆期間もご相談を受け付けています
8月に入り、暑い日が続いています。お盆も近づき、そろそろ旅行やお墓詣りに行く方もいらっしゃるかと思います。
札幌の法律事務所も、お盆時期には事務所を休みにするところが多いと思います。
ちなみに、裁判所にも夏期休廷期間という夏休みのようなものがあり、札幌地裁でも、月の終わりから8月の中すぎまで、一部をのぞいて裁判は開かれません。
そのため、この時期は弁護士にとっても時間的に余裕がとりやすい時期といえます。
もっとも、当事務所は、8月中も暦通りに営業しています。
弁護士や職員は、交代でお休みをいただく予定ですが、平日は毎日、弁護士1名と職員1名は出勤し、業務を行っています。
特に、普段は忙しくてお盆時期しか時間の取れない方や、急なトラブルで至急弁護士に相談をしたい方のご相談も受け付けておりますので、お電話かメールフォームからお問い合わせください。
節電の影響もあり、例年より暑さが厳しいような印象を受けますが、みなさんも体調には気をつけてくださいね。
【債務整理】 破産をしても返済しなければならない負債とは
札幌の弁護士による債務整理解説コラム第8回です。
前回(破産が認められない場合とは -免責不許可について)は、破産をしても債務の免除がされない場合を見てきました。
今回は、破産をして債務免除(免責)が認められても、免除されない負債について説明します。
破産を行って、免責が認められた場合、基本的にすべての債務が免除となり、一切返済する義務がないということをこれまで説明してきました。
しかし、特別に、破産を行っても免除されないもの、つまり、破産をしても返済をしなければならないものもあるのです。
このような、破産をしても返済義務が残る請求権を、非免責債権と呼んでいます。
非免責債権は、破産法253条に規定されており、以下のようなものがこれにあたります。
① 税金の支払い
滞納している税金や、今後請求が来る税金は、破産をしても免除されません。
免除されない税金には、所得税、住民税、固定資産税などのほか、健康保険や国民年金なども含まれます。
破産をしてもこれらの支払いは行わないとずっと義務が残ります。ただ、収入が少ない場合は、納税相談をすれば分割払いや一部免除が認められることもありますので、放置し続けないことが重要です。
② 悪意があって行った不法行為による損害賠償義務
悪質な違法行為で他人に損害を与えた場合、これを破産したからといって免除を認めては、あまりにも不公平となります。
そのため、悪質な場合に限り、破産をしても免除を認めないとしています。
③ 故意があるか、重大な過失によって、他人を死傷させた場合の損害賠償義務
たとえば、飲酒運転のために人をはねて怪我させたり死亡させたりしてしまった場合、その賠償義務は、破産をしても免除されません。
破産法では、被害者を保護するため、故意がある場合(わざと怪我させた場合)や重大な不注意によって他人を死傷させた場合には、破産をしても賠償をさせることとしています。
さきほどの②との違いが少しわかりづらいですが、たとえば、交通事故で他人を怪我させてしまった場合、普通は悪意があって事故を起こすのではなく、うっかり不注意によるものです。このような場合には②の「悪意がある」とはいえません。
他人に怪我をさせたり、死亡させてしまった場合に限って、被害者が賠償を受けられるように、悪意ある場合だけでなく、重大な不注意がある事故の場合などにも債務免除を認めないこととしているのです。
④ 婚姻費用(結婚中の生活費)や子どもの養育費
結婚中の生活費や子どもの養育費は、相手の生活を保障するためにも強く支払いが求められるため、特別に、破産による免除を認めないこととされています。
離婚の際の慰謝料はここでは保障されませんので、相手が破産した場合には免除の可能性があります(暴力や不倫の慰謝料は、②や③で保護される場合があります)。
⑤ 破産手続きの際に隠していた負債
破産手続きの場合には、一方的に債務免除を認めてもらう制度であるため、債権者(貸し手)には大きな影響を与えます。
そのため、債権者を必ず平等に扱い、一部だけを支払ったりすることは認められないとされています。
ところが、たとえば、自動車を残すためにローンを隠したり、クレジットカードを残すために1枚だけ隠していたりということがあります。
このように債務を隠していたまま破産を行った場合には、あとからやはり支払いができなくなったとしても、破産での免除が認められませんので、支払いを続けなければならなくなります。
破産手続きのルールに違反した以上、不利益を受けてもやむを得ないためです。
⑥ 罰金の支払い義務
事件を起こし、罰金の支払いを命じられた場合などは、破産をしても免除はされません。
ここに挙げたような負債は、破産を行っても免除が認められませんので、相手から支払いを請求された場合には、支払いを行わなければなりません。
ただ、税金や罰金以外の場合は、破産を行えば、実際には引き続き請求が来る例は多くありません。
免責が認められなくとも、破産申し立てを行うような状態では、支払いをするだけの財産がないことになりますので、相手もあきらめることが多いでしょう。
また、免除されない債務であることは、請求者側で証明しなければなりませんが、②や③の立証は実はそれほど簡単ではないからです。
ただし、免除されない以上、消滅時効が成立しない限り、一生負債が残ることになりますので、何年も請求され続ける可能性もあります。
いずれにしても、このような非免責債権があるかどうかは破産手続き上重要な問題ですので、早い段階で弁護士に説明する必要があるでしょう。
前回と今回は、免責がされない場合や免責がされない債務についてみてきました。
次回は、破産をした場合に退職をしなければならないのかという問題を取り上げます。
この点はよく依頼者の方から質問を受ける点で、関心が高いようですので、少し詳しく説明したいと思います。
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養育費が支払われない場合の対処法
札幌の弁護士による離婚解説コラム第10回です。
前回(養育費を受け取るには?相場はどのくらい?)の最後に予告しましたが、今回は、一度決めた養育費が支払われない場合を見て行きたいと思います。決めた養育費が支払えない場合、は次回に取り上げます。
では、さっそく本題ですが、養育費を取り決めたのに、支払われない場合、どうしたらよいでしょうか。
手紙や電話で催促をするのがもちろんですが、それでも支払いがされないことも、残念ながら何度も経験してきました。
養育費の支払いは期間が非常に長くなるため、途中で支払われなくなってしまうことも少なくないのです。
このような場合の対処法は、離婚が、協議離婚であった場合と、家庭裁判所での 調停離婚・裁判離婚であった場合とで大きく異なります。
まず先に、調停離婚・裁判離婚をし、その際に養育費の取り決めを裁判所で行った場合を見て行きます。
このような場合に相手が養育費の支払いをしなくなったときは、①家庭裁判所の履行勧告と、②強制執行、の2つの方法をとることができます。
①の履行勧告というのは、家庭裁判所の手続きで当事者がした約束について、約束違反があるときに、家庭裁判所が相手に事情などを確認し、約束通り支払いをするよう指示を出してくれるという制度です。
裁判所から、約束を守るようにと指示を受ければ、当事者が直接請求をした場合よりも、相手も支払いを行う可能性が高くなります。実際、履行勧告により支払いが再開されるケースもよく見かけます。
ただ、この履行勧告は、手軽で使いやすいというメリットはありますが、相手がそれに従わなくても何もペナルティはない、という点が弱点です。
履行勧告を行っても効果がない場合、あるいは最初から履行勧告が無駄と思われる場合には、②強制執行を行います。
強制執行というのは、裁判所の許可を得て、相手の財産を一方的に差し押さえてしまい、その財産を売却してお金に換え、そこから支払いを受けるという制度です。
強制執行を行うには、裁判所で当事者が合意した証明書である調停調書・和解調書や、裁判官の判断を示した判決書・審判書が必要です。そこに記載された約束が破られたときに、強制執行が認められます。
ただ、難しいのは、相手のどのような財産を差し押さえるかは、請求する側で決めなければならないのです。しかも、漠然と預金とか給料、というだけではダメで、北洋銀行の札幌西支店にある口座とか、○○株式会社からもらう給料、というふうに、内容を特定しなければなりません。
通常は、離婚前から相手の職場が変わっていなければ、その職場からの給料を差し押さえることが多いですね。残念ながら、相手が退職し、どこに勤めているかがわからないと、この方法は難しいでしょう。
給料以外にも、何か財産的価値があるものがわかれば、それを差し押さえることになります。
この差し押さえでも支払いを受けられないときは、もはや打つ手がなくなってしまいます。
相手に細かく督促を行うなどするしかありませんが、それで応じてもらえなければどうしようもないのが現実です。
養育費の支払いが確実に受けられるような制度があればいいのですが……
ここまでが、裁判所での調停離婚・裁判離婚をした場合です。
では、調停や裁判を起こさずに、協議離婚をし、その際に養育費を決めた場合はどうでしょうか。
実は、この場合、さきほどの履行勧告という手段は使えないのです。履行勧告は、裁判所が関与して取り決めた約束にしか利用できず、協議離婚の場合は対象外なのです。
では、強制執行はどうでしょうか。
この強制執行も、協議離婚の場合には、そのままでは利用できないことが多いのです。
さきほども触れましたが、強制執行には、調停調書や判決書という裁判所が作成した公文書が必要になります。協議離婚では、このような書類はありません。
ですので、基本的に強制執行は認められません。
しかし、だからといって打つ手がないわけではありません。
協議離婚で養育費を決めた場合であっても、あとから裁判所に、養育費の支払いを求める調停や審判を申し立てることが認められているのです。
ですので、このようなときは、養育費支払いの調停を家庭裁判所に申し立て、その中で相手と話し合いをしたり、裁判所に判断を出してもらうことになります。
そのようにして手続きが終了し、調停調書や審判書を裁判所に作成してもらった場合には、それを使って、履行勧告や強制執行を行うことができます。
協議離婚の場合には、トラブルになったときに改めて調停を行わなければならない、という点が不便ですし、時間もかかってしまいますから、なかなか大変な思いをしてしまいます。
そうすると、養育費が払われない可能性があるときは、協議離婚ではなく必ず調停離婚で決めなきゃ、と心配される方もいるでしょう。
しかし、協議離婚の場合にも、将来に備えた手段が1つ用意されています。
それが、公正証書です。
公正証書とは、公証人という特別な資格を持つ公務員が、公的に作成する証明書のことです。
当事者が取り決めた離婚や養育費に関する約束を、公証人の前で確認し、公証人がその約束事を公正証書に記載します。
そうして、公証人が公正証書に約束を記載したときは、この公正証書は、裁判所の調停調書や判決と同じ扱いを受けられる、という仕組みになっています。
ですので、協議離婚の場合には公正証書を作成しておくことで、いざというときに、調停や裁判を起こさずに強制執行を行うことができ、スピーディに解決を図ることができるのです。
そのため、弁護士が交渉して協議離婚する場合には、ほとんどの場合、この公正証書を作成しておきます。
ただし、この公正証書は、強制執行を行うことはできますが、家庭裁判所が関わっていないことにかわりはないので、履行勧告は認められません。
いきなり強制執行をするしかないのです。
普通は事前に請求書や督促を行いますので、大きな違いはないですが、その点が調停離婚・裁判離婚と、公正証書の違いでしょう。
少し複雑だったでしょうか。簡単に内容を整理すると、養育費が支払わない場合の解決方法は、
- 【協議離婚で公正証書なし】
支払いの請求 → 養育費の調停 → 解決 → 履行勧告 → 強制執行 - 【協議離婚で公正証書あり】
支払いの請求 → 強制執行 (履行勧告はできない) - 【調停離婚・裁判離婚】
支払いの請求 → 履行勧告 → 強制執行
という流れです。なお、支払いの請求や履行勧告は、省略することも可能です。
今回は思ったよりも長くなってしまいましたので、養育費を支払えなくなってしまった場合については、次回にまわしたいと思います。
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【刑事事件】 保釈を認めてもらう方法・手続きは?
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第5回です。
前回(保釈って何?)にひきつづいて、今回は保釈を認めてもらうための方法、保釈の手続きについてみていきます。
保釈の手続き自体は、非常にシンプルです。
ポイントを示すと、以下の3つだけです。
- 起訴されたあと、判決が出るまでの間に、
- 裁判所に保釈請求書を提出し、
- 保釈の許可が出たら保釈金を裁判所に納める
保釈を求める手続きとしては、この程度です。
ここで保釈のためのハードルは、2つです。
1つは、裁判所に保釈を許可してもらうこと。もう1つは、保釈金を用意することです。
保釈の許可を受けるためには細かい条件がいくつがありますが、前回もみたとおり、主に問題となるのは、保釈を認めた場合に「証拠隠滅」と「逃亡」の危険がないかという点です。
ですので、弁護士が保釈の請求をする場合、証拠隠滅の危険も逃亡のおそれもないことを可能な限り主張立証し、裁判官を説得するのです。
では、それをどうやって説得するかという点ですが、それは個々の事件ごとにポイントが異なりますので、一概にはいえません。
ただ、保釈を求める場合にはまず行うことが1つあります。
それは、身元引受人を立てるということです。
保釈の申請をする際に、家族などの身元引受人に協力してもらい、裁判所にあてて、「保釈された場合には、私が責任を持って監督します」というような書面を作成してもらうのです。
これを行うことで、被告人には一応心配して協力してくれる人がおり、被告人もそれを簡単には裏切らないだろうと考えるなど、裁判所が保釈を認める事情の1つになります。
そして、たいていは、保釈金を用意してもらう人に、そのまま身元引受人をお願いしています。保釈金を出すほど被告人と関係が深い方であれば、まさに身元引受人として適任といえるでしょう。
では、身元引受人になったものの、被告人が保釈後に問題を起こしてしまった場合、身元引受人も何か責任を負うのでしょうか。
実は、そのような心配はいらないのです。身元引受人は、裁判所との約束のようなものではありますが、これに違反をしても何かペナルティがある、ということはありません。
ですので、身元引受人になったからといって、何か責任を負ったり、損害の賠償を求められたりということもありません。
ただ、当然、裁判所との約束ではありますので、できるだけ守ることが求められるでしょう。
なお、身元引受人がいないと保釈がまったく認められないかというと、そういうわけでもありません。
いた方が望ましいとはいえますが、いなくても保釈が認められることはいくらでもあります。
ですので、身元引受人になる方がいなくとも、保釈をあきらめる必要はありません。
ともかく、保釈の際には、身元引受書などの資料があればそれも添付して、裁判所に保釈の申請書を提出します。
申請書の作成は、保釈の請求に慣れている弁護士であれば、正直、1~2時間もあれば十分です(もちろん、事件の内容を把握していればですが)。
申請書を作成したら、資料とともに裁判所に提出します。
裁判所は保釈の申請書を受け取ったあと、必ず、担当検察官に保釈についての意見を聞きます。
検察官は、保釈には強く反対するとか、保釈をしてもかまわないとか、事件ごとに意見を出します。
その検察官の意見が裁判所に出たあと、裁判官が保釈の判断を行います。
札幌地裁で保釈の申請を行う場合、検察官の意見が出てくるのがだいたい申請の翌日になります。
しかも、土日は基本的に手続きが動きませんので、たとえば金曜日に保釈の申請をすると、判断が出るのが月曜日になることが通常です。
地域によってはその日のうちに判断が出るところもあるようですが、私の経験上、札幌ではたいてい翌日ですね。
これまで何件も保釈請求をしていますが、当日中に判断が出た経験はなかったように思います。
そうして裁判所の判断が出ることになりますが、裁判所の判断は、「許可」か「却下」の2パターンです。
「許可」の場合は、同時に、保釈金の金額と、保釈時に守るべき条件が指定されます。
その条件を守らないと、保釈金が没収され、保釈が取り消しとなってしまうのですが、その条件については次回以降に取り上げたいと思います。
保釈が許可されればあとは保釈金を納めるだけですが、反対に、保釈が「却下」されてしまうこともあります。
却下の場合は、保釈が認められなかったことになりますので、これに対して異議申し立てを行うかを検討することになります。
異議申し立てをしても保釈が認められなかった場合や、異議申し立てを見送った場合、もう保釈が認められないかというと、そうとは限りません。
保釈請求は、判決が出るまではいつでも、何度でも、することができるのです。
一般に、裁判の審理が進み、証拠や証人が取り調べられていくにつれて、証拠隠滅の危険は減っていきます。一度裁判所に提出された証拠をあとから隠滅することは難しいからです。
ですので、起訴された直後に保釈が認められなかったとしても、裁判を何度か重ねた段階で改めて保釈請求をすれば、今度は認められることもあります。
私の経験上では、保釈請求が4回却下され、5回目でやっと認められたケースもありました。
とはいえ、保釈が却下されたあと、すぐにまた申請をしてもまったく意味はありません。
あらたに保釈請求をするには、新しい資料が入手できた場合や、裁判がある程度進展し、状況が多少なりとも変化したといえることが必要です。
そういった事情もないのに保釈請求を繰り返しても、裁判所はまともに取り合わないでしょう。
さきほど述べた5回目で保釈が認められた件は、最初の保釈申請から最後の保釈申請までは、1年以上が経過していました。
保釈が許可され、保釈金を納付すれば、その直後に釈放され、自宅に帰ることができます。
自宅に帰ったあとは、保釈時の条件さえ守れば、あとはどのように生活をしても問題ありません。
仕事をしても良いですし、条件を守れば、旅行などにも行けます。
ただ、裁判には必ず出席する必要があり、判決が出た時点で、保釈も終わりになります。
判決が無罪や執行猶予判決ならそのまま自宅に帰ることができますが、実刑判決であれば、その場で身柄拘束されてしまうことになります。
以上が、保釈の手続きの流れです。
保釈制度には複雑なところもあり、誤解も多い制度です。ただ、やはり身柄拘束された被告人にとっては、特に強い関心があるところだと思います。
次回以降も、引き続き、保釈をテーマとしていきたいと思います。
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