【債務整理】 破産が認められない場合とは -免責不許可について
札幌の弁護士による債務整理解説コラム第7回です。
前回(破産すると住宅はどうなる?すぐに出ていかないとならないの?)は、破産した際の住宅の取扱いについて取り上げました。
今回は、破産の申立てをしても、債務の免除が認められない場合についてです。
破産状態であったとしても、必ず破産手続きをとれば債務がなくなるというわけではありません。
債務の免除を受けるには、裁判所から「免責」(支払責任を免除すること)の許可を得なければならないのです。
破産は、債権者の同意もなく、一方的に債務をすべてゼロにしてしまう手続きであり、非常に強力です。
そのため、あまりにも不誠実な理由で借金を作ったり、破産を行おうとする人にまで免責を認めるべきではないと考えられています。
破産法では、そのような不誠実な事情のある一定の場合には、免責を認めないと規定しています。
それでは、どのような場合が免責不許可になるのでしょうか。破産法252条では、11項目の事情が挙げられていますが、主に問題となるものを見て行きます。
① 財産隠し
破産手続きを行う場合には、一定以上の価値のある財産を売却・処分し、代金を債権者への配当にまわさなければなりません。
しかし、中には、債務の免除は受けたいけれども、財産は手元に残したいと考えて、預貯金を親族に口座に移したり、車を隠し持ったりする場合があります。
このような財産隠しは、破産法の基本的なルールに違反し、極めて不誠実といえるため、これが発覚したときは免責を認めないとされています。
② 一部の債権者のみにあえて支払いをすること
破産手続きでは、債務がすべて免除になるかわりに、一部の債務のみの支払いを行うことも認められていません。
一部だけ支払い、それ以外は一切支払いをしなくてよいとすると、債権者にとって不公平となってしまうからです。
たとえば、車を残すためにローンだけ払う場合や、保証人がついた負債だけを支払うということも認められていません。
このようなルール違反は、ほかの債権者への裏切り行為になるため、免責不許可の事情とされています。
③ 浪費、賭博
浪費やギャンブルによって、多額の借金をした場合です。
多少の無駄遣いやギャンブルは問題にはなりませんが、度が過ぎており、正常な生活をおびやかすようなものであれば、免責不許可の事情になります。
たとえば、支払いができないことがわかっていながら、自動車や高級化粧品を買い続ける行為や、借金が返せないのに月に5万円もパチンコにつぎこんだような場合です。
借金の事情事態が不誠実で、破産を認めて救済すべきでないと判断されると、免責不許可となります。
④ 破産することをわかっていながら借金をした場合
破産をして免責が認められれば、負債を返済する必要はなくなります。
これを悪用して、破産直前にカードなどをできるだけ使い、最後に借金をする人も残念ながら見かけます。
しかし、破産をして免除してもらうつもりなのに、借入れを行うことは、立派な詐欺行為になり、逮捕されてもおかしくない行為です。
当然、そのような違法行為をあえて行った者を免責により救済すべきではないため、免責不許可となります。
⑤ 裁判所や破産管財人の調査を拒否したり、嘘をつくこと
裁判所や破産管財人は、破産手続きを適切に行うために、さまざまな調査をします。その中で、破産を申し立てた方に事情を聞く機会もあります。
その際に、嘘をついて財産を隠したり、都合の悪いことをごまかす人や、めんどくさいという理由で一切調査に応じない方もまれにいます。
しかし、自分で破産を希望しておきながら、裁判所の調査にまじめに応じないというのでは、破産免責を認める必要はありません。
そのため、このような場合も免責が認められません。
⑥ 免責から7年以内に新たに破産を申し立てる場合
実は、破産は人生に一度切り、というわけではなく、何度でも破産を認めてもらうことは可能とされています。破産に回数制限はないのです。
しかし、短期間に何度も破産を繰り返されては、債権者も納得できませんし、本人もどうせ破産すれば良いと不誠実な対応をしかねません。
そこで、一度破産をしてから7年以内に限り、破産免責を認めないとされています。
特に、前回の破産時の反省を活かせないで、同じような理由で借金を重ねた場合には、認められない可能性が非常に高くなります。
よく問題となる免責不許可の事情はこのようなものです。
しかし、注意が必要なのは、これらの事情があるからといって、必ず免責が認められないわけではないということです。
これらにあたる場合でも、その程度が軽い場合とか、やむを得ない事情がある場合、またはよく反省している場合などには、裁判所が特別に免責を許可してくれることもあります。
実際上は、免責不許可の事情はあるけれども、さまざまな事情を考慮して免責を認めます、という決定は非常に多く見かけます。
もちろん、これらの事情はない方がスムーズに免責が認められますが、そのような事情があったとしても、適切な対処を行っていけば免責が認められる可能性は決して低くはないのです。
破産の最終的な目標は免責を得ることですので、免責にならなければ、破産を申し立てた意味はほとんどなくなってしまいます。
免責は必ず認められるわけではありませんので、免責不許可の事情がないかを検討し、もしあてはまる場合にはしっかりと対処をすることが必要です。
破産の依頼を受ける場合に、弁護士がもっとも注意する点の1つですね。
今回は免責が全く認められない場合がある、という点を見てきました。
しかし、実は、免責は認められたのに、一部の債務が残ってしまうという場合があるのです。
次回は、そのような免責の対象とならない債務について取り上げます。
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【刑事事件】 保釈って何?
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第4回です。
前回(裁判・公判の流れや注意点を確認しよう)では、起訴された場合の裁判の具体的な流れを見てきました。
今回のテーマは、「保釈」という制度です。
ニュースなどで耳にする機会の多い言葉ですが、実際には、誤解されている方が非常に多いといえます。
「お金持ちはお金を出せば出してもらえる」「お金を払って保釈されるなんて、反省していない」と理解してはいないでしょうか。
保釈というのは、意外と奥が深い制度なのです。
逮捕され、身柄拘束されている人が起訴された場合、裁判を受けなければなりません。
起訴されてから判決が出るまでは、早くて1ケ月、通常で2,3カ月以内ですが、少し複雑な事件になると1年を超えることもあります。
前にも見てきましたが、身柄拘束された状態から起訴された場合、判決までの間、ずっと身柄拘束が続いてしまうことになります。
裁判が終わるまで、釈放されることはないのです。
しかし、よく考えてみれば不思議な制度です。
逮捕・起訴された人の中には、一部ではありますが、無罪となる人も含まれています。
そのような人であっても、起訴された場合、そのまま判決までの長期間、留置場・拘置所で身柄拘束されなければなりません。
また、比較的軽微な事件で、執行猶予判決が確実である場合なども、判決が出るまで釈放されないことになります。
しかも、このような判決までの間にかかる時間というのは、裁判官、検察官、弁護人が裁判の準備をするための時間です。
裁判所も検察官も弁護人も、たくさんの事件を抱えているため、裁判を早く進めようとしても、どうしても1ケ月に1回程度のペースでしか進みません。
検察官の準備が遅かったり、裁判所が多忙であったりして裁判が長引いたとしても、被告人はそのまま身柄拘束を受け続けたままになります(実は、お盆や年末年始などを挟むと、休暇などのため裁判が長引きます)。
そのうえ、判決でたとえば懲役3年の刑になった場合、刑期はその判決後から計算します。
その判決までの間に1年間身柄拘束をされていても、その1年分をそのままひいてもらえるわけではありません。
裁判所の判断で、一定の期間分を刑期から差し引いてもらうことは認められていますが、それでも差し引いてもらえない日数は相当なものとなります。
判決が決まるまでの被告人は、留置場や拘置所で、労働などが与えられるわけでもなく、ただ、朝から夜まで部屋に座って時間を過ごすだけです。
本当であれば、起訴された後は釈放して、自宅から裁判に出席させ、実刑判決が確定すれば服役させれば十分ではないでしょうか。
では、どうしてそのような制度でなく、身柄拘束が続けられるかといえば、「証拠隠滅」や「逃亡」を防止し、裁判を適正に行うためなのです。
裁判が始まる前の段階では、自分の刑を軽くしたり、ごまかすために、重要な証拠を隠したり、関係者に口裏合わせを行う者がいないとも限りません。
また、重い刑が予想される場合には、裁判に出席せず、行方をくらましてしまう危険があります。
このような事態を防止するために、裁判が終了するまで釈放しない扱いとされているのです。
これは、反対にいえば、そのような証拠隠滅や逃亡の危険がないのであれば、身柄拘束する必要性はないことになります。
実刑判決後の服役は、事件に対する制裁などの意味合いがありますが、判決確定前の身柄拘束は、無罪が推定された状態ですので、制裁としての意味は薄いでしょう。
そのように、証拠隠滅や逃亡のおそれがない者を釈放し、自宅から裁判に出席することを認める制度が、保釈なのです。
ですので、お金を持っているとか貧しいとかいう事情は関係なく、反省している、していないということとも関係がありません。
単に、裁判を正常に進めるためには身柄拘束を続けるべきか、釈放しても問題ないか、という観点が保釈においては重要なのです。
起訴され、裁判にかけられる人の中には、逮捕をされないまま起訴され、自宅から裁判に出席する人も多くいます。
それに対し、一度逮捕され、そのまま起訴された人は、判決まで釈放が認められないというのは釈然としません。
そのため、特に必要性がない場合には釈放を認め、自宅から裁判に出席させれば十分です。
それが、保釈という制度が認められる理由です。
そうすると、裁判所が保釈を許可したということは、裁判所が、「その人を拘束しておく必要はないし、釈放してもそれほど問題がないだろう」と認めたことになります。
報道などで被告人が保釈請求をしたことや、保釈されたことを非難するような意見を見聞きすることもありますが、これまで見てきたような保釈という制度を正しく理解されていないのだと思います。
保釈しても問題がない事件では、積極的に保釈を求めるのが本来だと考えていますので、私も本人の希望があったり、身柄拘束の必要がないと思った場合には、すぐに保釈請求を行っています。
これまで、保釈された被告人が何か問題を起こした経験もなく、すべてとどこおりなく裁判が終わっています。
保釈を受けた被告人は、一定の条件はつきますが、釈放されて自宅に戻り、もとどおり自由に生活をすることが認められます。
仕事をしたり、外出したりすることも問題なく認められています。
一定の条件を守ることと、裁判に必ず出席しさえすれば、普通どおりに生活して構いません。
その状態が、判決の日まで続くことになります。
ここまで保釈とはなにか、を見てきましたが、少しわかりづらかったかもしれません。
ただ、刑事裁判では、裁判所も弁護人も、保釈の請求をすることは正当な権利だと考えており、保釈請求をしたことで、裁判所が不快に思うとか、反省していないと判断するということは絶対にありません。
そのような理由で保釈をためらう必要はないのです。その点は特に理解していただければと思います。
少し長くなりましたので、どうすれば保釈が認められるのか、については次回にしたいと思います。
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養育費を受け取るには?相場はどのくらい?
札幌の弁護士による離婚解説コラム第9回です。
前回は、「必ず母親が親権を得る? - 親権者の決め方は」というテーマで、親権者の決め方を見てきました。
親権が決まり、子どもを育てることになると、今度は他方の親から養育費を受け取れるのかが問題になります。
養育費を受け取る条件や、その金額はどの程度になるのか、を今回は取り上げます。
実は、法律上、養育費という言葉は出てきません。
民法766条で、「子の監護に要する費用の分担」は、子の利益を最も優先して考慮し、夫婦間の協議で定める、という規定があるだけです。
一応、この「子の監護に要する費用」が養育費にあたると考えられるでしょう。
しかし、具体的な金額などについては何も触れられていないため、どのように決めるべきか悩むケースが多いと思います。
基本的には、夫婦間の協議で決めますので、双方の合意が成立すれば、いつからいつまで支払うことにしても、一括でも分割でも、金額もいくらでも構わないことになります。
協議で決める場合の注意事項については次回に取り上げる予定ですが、いずれにしても協議で決まれば問題はありません。
では、協議が整わない場合、あるいは離婚や親権自体に争いがあり、養育費を決めるどころではないという場合にはどうしたらよいのでしょうか。
このような場合、離婚の場合と同様、やはり調停を申し立てることになります。
離婚についても未解決のときは、離婚調停の際にあわせて養育費の請求も行うことができますし、反対に離婚が成立した後、養育費の取り決めができていなかった場合は、子どもが成人するころまではいつでも調停を申し立てることができます。離婚時に決めなかったから請求できない、ということはありません。
調停で合意できなかった場合は、最終的には判決や審判という形で、裁判所の判断が示され、当事者がそれに拘束されることになります。
では、実際に養育費を決定する際、期間や金額はどのようになるのでしょうか。
まず、養育費の支払い期間というのは、離婚が確定した日から始まります。離婚前の時点では、養育費という形での支払いは認められていません。ただし、生活費として婚姻費用というものの支払いが認められることになります。
離婚後、いつまで養育費の支払義務が続くかですが、通常は、20歳になって成人するまでで区切ることになります。20歳になれば親権もなくなりますので、その成人したら養育費の支払いも不要と扱われます。
しかし、実際に協議や調停で決定する際には、少し異なる決め方をすることも少なくありません。
たとえば、子どもが高校を卒業すると同時に就職するような場合、仕事をして収入のある子に対してまで養育費を変わらず支払うべきといえるかは微妙な問題だと思います。反対に、高校卒業後に大学に入学した場合、20歳ではいまだ学生で、学費も相当かかる状況ですから、20歳になったからといって養育費を打ち切るというのも違和感があります。
ですので、たとえば、「大学に進学したときは大学卒業まで、大学に進学しなかったときは20歳まで」などという形で合意することもあります。
実際には、浪人してしまった場合や中退した場合はどうするかで問題になることもありますが、あまり細かいところまで決めておくよりは、そのときに話し合う方が現実的といえる場合もあるでしょう。
※ただし、法改正のため、2022年4月以降は、成人年齢は18歳に変更されます。その後の養育費の支払時期がどうなるかは、今後議論されていくこととなります。
では、肝心の金額はどのように決めるのでしょうか。
基本的な考え方として、養育費は、父母の収入額に応じて決定されます。
通常、父母の収入から子どもの生活費を見積って、その子どもの生活費を父母が収入に応じて分担する、という形で計算します。
そうすると、母が子どもを養育し、父が養育費を支払う場合では、父の収入が大きいほど養育費は高くなり、反対に、母の収入が高いほど受け取る養育費は低くなります。
また、子ども数や年齢、親が自営業者か会社員かなどによっても養育費の額が変動していきます。
ただ、これらの要素をもとに計算をしていくと計算が大変複雑になり、わかりづらくなってしまうため、実際の裁判では、養育費の目安を整理した算定表を使用しています。
この表は、両親の収入、子どもの数、年齢から簡単に養育費の目安が算定できるため、実際の事件でもよく参照されます。
東京家庭裁判所のサイトに算定表が掲載されていますので、興味ある方はこちらをご確認ください。
この算定表は、標準的な家庭を基準として、目安を決めたものですので、どんな場合にもこのとおりに決定されるというわけではありません。
実際には、個々の家庭ごとに経済的な事情が異なります。子どもが学費の高い私立の学校に通う場合などの子どもの生活費が高くなる場合や、住宅ローン、親の介護費など特殊な支出を一方の親がしている場合などは、算定表から増減することもあり得ます。
そのため、この算定表は絶対的なものではありませんが、実務上は、だいたいの事案はこれに沿って協議を進めることになります。
養育費は、調停や裁判ではこのような流れで決めていきますが、非常に長い期間、支払いが続くことになりますので、基本的には当事者が納得して合意しなければ、途中で支払いがされなくなってしまう危険が高まります。
また、当事者で納得して決めたとしても、養育費の支払期間は長く、その間にお互いの生活状況が変わってしまうこともありますので、既に決めた養育費では足りないとか、高すぎるとかいう事態が生じたり、全く払われなくなってしまうということも起きてしまいます。
このように、養育費を決めた後に問題が生じた場合にどうしたらよいか、という問題は、次回に取り扱いたいと思います。
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【刑事事件】 裁判・公判の流れや注意点を確認しよう
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第3回です。
前回(刑事事件の流れ(後)~起訴から判決まで~)までで、刑事裁判のおおまなか流れを見てきました。
今回は、肝心の裁判(公判)でどのようなことを行うのかを実例をベースに見て行きたいと思います。
1 裁判所への出頭
刑事裁判の第一審は、地方裁判所の場合と簡易裁判所の場合があります。
札幌では、札幌地方裁判所と札幌簡易裁判所の建物が別々になっていますので、注意が必要です。
被告人には裁判所からの公判期日の通知書が届いているはずですので、その日時に指定された法廷に出頭します。
なお、身柄拘束中の被告人は、拘置所から送迎されますので時間や場所を間違う心配はありません。
2 公判の開廷
時間になると、公判が始まります。
法廷には必ず傍聴席があり、事件と関係ある方も関係ない方も、自由に傍聴できます。出入りも自由です。
最近は裁判員裁判などで刑事裁判が関心をひいているためか、札幌地裁でのだいたいの公判には傍聴人が3,4人程度は来ています。
ときどき、学生や職場ごとの集団傍聴が行われることがあり、傍聴席が満席になることもありますが、気にしないでもらうしかありません。
ちなみに、傍聴券が発行されるのはごく一部の著名事件だけで、普通の裁判ではそのようなことはありません。
法廷の中には、検察官と弁護人が、法廷の左右にわかれて、それぞれの席につきます。法廷のイメージは、だいたいテレビドラマやニュースで見かけるとおり、正面に高い壇がもうけられており、そこに裁判官が座ります。
被告人は、弁護人席の前にある長イスにかけるか、裁判官の正面に、傍聴席に背中を向ける形で座る場合の2通りがあります。
ちなみに、最近、裁判員裁判などでは弁護人の隣に着席できるケースも見られるようになってきました。
裁判官は、大半の事件では1人のみです。ただし、重大事件や複雑な事件では裁判官が3人になることもあります。
3 裁判官の入廷
法廷に被告人、弁護人、検察官が集まり、時間になると裁判官が法廷の奥から入廷し、裁判官席に着席します。
そこから公判が始まります。
裁判官が入廷すると傍聴人も含めて全員が起立し、裁判官が着席前に一礼するのにあわせて、全員で一礼します。
ちなみに、これは裁判官や特定の人に礼をしているというよりは、法廷やこれから始まる裁判に向けて、一礼しているという意識が強いと思います。
4 人定質問(本人確認)
法廷が始まると、まず、被告人が法廷中央の証言台前に立つよう指示されます。
そこに立つと、裁判官から、人定質問(じんていしつもん)という手続きが行われます。簡単にいえば、本人確認です。
聞かれるのは、氏名、本籍、住所、生年月日、職業で、聞かれたとおりに答えるだけです。
よく本籍がわからなくて戸惑う方がいますが、覚えてなければ裁判官が「○○でいいですか」と確認してくれます。
ただ、答えられないと緊張してしまう方も多いので、私は、事前に起訴状に記載してある本籍・住所等を確認してもらっています。
5 罪状認否
人定質問が終わると、いわゆる罪状認否が行われます。
まず、検察官が、起訴状に記載された事件の内容を読み上げます。起訴状の記載はシンプルなもので、「被告人は、○月○日、○○区○○のスーパーから、○○を盗んだものである」というような必要最小限の情報だけです。
検察官が起訴状を読み上げた後、裁判官から被告人に対して、黙秘権の説明が行われます。
そして、起訴状に記載された内容に間違っているところはないか、要するに被告人が本当にそれを行ったのかなどを裁判官から質問されます。
間違いがなければ、「間違いありません。そのとおりです」と答えますし、違っていれば、「私はそのようなことはしていません」というように答えます。
その時点で、この事件が犯行を認めている自白事件なのか、犯行を否定している否認事件なのかが確定します。
これが終わると、被告人は元の席に着席するよう指示され、しばらく座って裁判の様子を見ているだけになります。
6 冒頭陳述
罪状認否がおわると、検察官から「冒頭陳述」(ぼうとうちんじゅつ)が行われます。
これは、今回の事件がどういう流れで起きたのか、どういう被害があったのかを具体的に説明するものです。
起訴状朗読では必要最小限の情報しか記載されず、事件の動機や背景などはわかりませんので、この冒頭陳述で内容を明らかにしていきます。
なお、注意が必要なのは、この冒頭陳述は、検察官側から見た事件の説明でしかないということです。つまり、検察官の考えはこうだ、というものです。
ですので、被告人の言い分はこれと違う可能性はありますし、裁判所の考えも異なる可能性もあります。
検察官側の見立てを説明するのが冒頭陳述という手続きです。
これが終わった後、弁護人や被告人が反論をすると思われる方もいるかと思いますが、実は大半の事件では、弁護人や被告人が冒頭陳述を行うことはありません。
複雑な否認事件や裁判員裁判になっている事件では、弁護人も対抗して冒頭陳述を行うことがありますが(裁判員裁判では必ず行います)、それ以外の事件では冒頭陳述を行わないことが普通です。
これは、被告人の犯行を証明する義務は検察官にあり、弁護人や被告人が、積極的に意見を述べたり、無罪を証明する必要がないとされていることと関係しています。
ただ、実際は、通常の自白事件では冒頭陳述を行わなくても裁判官は理解できるだろう、という考えがあるから、あえて弁護人が冒頭陳述まで行っていないのでしょう(なお、検察官は、法律上、必ず冒頭陳述を行う義務があります)。
7 検察官の立証
冒頭陳述は検察官の言い分ですので、それだけでは何も証明されたことになりません。
ですので、冒頭陳述が終わった後、検察官は、事件の内容を立証・証明していきます。
証明といっても、ほとんどは、捜査資料の要約を読み上げるだけで、証人尋問などを行う事件は一部に限られています。
通常の自白事件であれば、その読み上げも5分から10分程度で行われています。
しかし、否認事件であれば、検察官も多数の証人尋問を実施することもあり、その尋問を行うために日を変えて何度も公判を実施することになります。
8 弁護側の立証
検察官の立証が終わると、今度は弁護人・被告人側からの立証が行われます。
自白事件であれば、被告人の刑の重さが問題となりますので、被告人が事件後に深く反省してきたことや、家族が監督していくこと、被害者に弁償し示談が成立していることなどを立証する必要があります。
そのために関係書類を提出するほか、家族や被告人自身の尋問を行うことになります。
家族と被告人が証言台に立つときは、通常、家族から証言を行い、被告人は最後になります。
事前に弁護人と打合せをしてから公判にのぞむことになりますので、証言の際も、何をいっていいか全くわからないということは少ないと思いますが、特に被告人質問は刑事裁判の山場ですので、よく準備し、言いたいことを明確に裁判官に伝える必要があります。
弁護側の証人尋問、被告人質問が終了すると、審理はほぼ終了です。
9 論告・弁論
お互いの立証が終了した後、検察官が、「論告」(ろんこく)を行います。
これは、検察官が審理の内容を踏まえて、どのような判決をすべきかを主張するものです。「○○という証拠があり、○○という事情があるから、被告人を有罪にして、懲役○年の刑を科すべきである」、という内容になります。
冒頭陳述と内容は似通ってくることもありますが、懲役○年にすべき、という「求刑」が行われる点が特徴です。
これに対し、弁護人からは、「弁論」(テレビなどでは「最終弁論」という言い方が多いですね)を行います。これは、検察官の論告に対抗して、弁護人として適切な判決はこうあるべきだという意見を主張する場です。「○○という証拠からすると、被告人の犯行は立証されておらず、無罪だ」「○○という事情があるから、被告人には執行猶予付きの判決で十分である」というのが弁論です。
10 被告人の意見陳述
審理の一番最後には、被告人が再び証言台に立ちます。
裁判官から、「これで審理を終えますが、最後に何か言いたいことはありますか」と質問されます。被告人に、言い残したことや、一番伝えたいことを話す最後のチャンスを与えるためのものです。
ただ、その直前に被告人質問で十分話したいことを話していることも多く、「特に付け加えることはありません」という内容で終わってしまう例もみかけますが、私は、事前に打ち合わせをして、必ず何か話してもらうことにしています。
傍聴席にいる家族への言葉だったり、被害者への謝罪だったり、今後に向けての決意など、内容はさまざまですが、裁判の終わりに際して何も言うことがないというのでは、どうしても物足りない感じがしてしまうからです。
なお、重大事件や否認事件では、意見陳述を何十分も、場合によっては1時間以上することもありますが、自白事件では本当に一言、二言で終えることが通常でしょう。
被告人の陳述が終わると、判決の言い渡し日時を裁判官が指定し、その日は終了します。
11 判決言い渡し
指定された判決公判で、裁判官から、判決の結論と理由が宣告され、第一審は終了となります。
内容に応じ、控訴するかどうかを検討することになりますが、控訴をしないのであれば、そこで刑事裁判は終わりです。
控訴する場合には、控訴の手続きを行い、高等裁判所で第二審が実施されることになります。
以上が、刑事裁判の実際の流れです。
これが通常の自白事件であれば、1時間以内、1回の裁判で実施されることがほとんどでしょう。
裁判員裁判などではもう少し時間をかけますが、流れはほとんど変わりません。
このような、裁判のそれぞれの場面でどのように対応していくかは、弁護士と被告人が十分に打合せをして、しっかりと決めておく必要があります。
次回は、裁判の途中で釈放をしてもらう保釈という手続きを詳しく見て行きたいと思います。
保釈は、非常に誤解されやすい制度ですので、正確な知識を確認していただければと思います。
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【債務整理】 破産すると住宅はどうなる?すぐに出ていかないとならないの?
札幌の弁護士による債務整理解説コラム第6回です。
前回は「破産をすると、家族や職場に迷惑がかかる?」という問題を見てきましたが、今回は、住宅ローンがある場合の破産についてです。
住宅ローンは、債務整理を検討するうえでもっとも重要な問題となります。
ご相談に来る方も、やはり自宅がどうなるかといった点に関心が高い場合が多く、住宅をなんとか残したいと希望される方は非常に多いといえます。
そこで、破産をする場合の住宅がどうなるか、出ていかなければならないかという点を取り上げていきます。
まず、結論からいえば、破産を行う場合には住宅を手放すしかありません。住宅を維持したまま、破産を行うことは認められないのです。
これには、2つの理由があります。
1つは、これまでも見てきたように、破産を行う場合、財産を処分しなければならないからです。一定以上の価値のある財産は、売却するなどしてお金に替え、債権者に分配しなければなりません。
不動産は、売却したときの金額よりも、住宅ローンの残額が少ない場合、その差額が資産とみなされます。たとえば、売却すれば2000万円、住宅ローンが現在1500万円残っている不動産は、差額の500万円分の価値があるとみなされますので、これを売却して500万円を債権者に分配するのです。
ですので、住宅ローンをある程度返済し、ローン残額が少ない場合は、処分しなければならないのです。
では、住宅ローンの残額が多く、売却してもローンが残ってしまう場合はどうでしょうか。たとえば、住宅を売却しても1000万円にしかならないのに、ローンが1300万円残っている場合です。
この場合、この住宅を売却してもすべてローンにあてられますので、実際には価値のない財産とみなされます。
ですので、これを売却して売却代金を分配することはできません。
ところが、この場合もやはり住宅を残すことはできないのです。
その理由が、破産を行う場合には、一部の債権者への返済を続けることが許されない、というものです。
破産は、すべての債務を一気に免除してもらうという非常に強力な制度ですが、そのかわり、すべての債権者を平等に扱う必要があります。ですので、一部の債務のみを返済することは禁止されています。
そのため、住宅ローンのみを返済してくことも認められないのです。
ローンが返済できない以上、住宅は競売にかけられることになり、結局、追い出されてしまうのです。
この2つの理由で住宅を手放さなければなりませんが、この2つのどちらにあたるかで、実際の処理は少し変わってきます。
住宅を売却しても代金が残り、債権者へ分配する場合は、住宅の売却や債権者への分配を破産手続きの中で行う必要があります。そのため、裁判所は破産管財人を選任し、時間と費用をかけて破産手続きを行います。
この場合は、住宅も早めに処分することが求められますので、比較的早い段階で自宅からの退去をしなければならないといえます。
そして、その売却が終わるまで破産手続きも続いていくことになります。
これと異なり、住宅を売却してもローンが残ってしまう場合は、この住宅は破産手続きの中では取り扱われることはありません。住宅が財産とはみなされないため、これだけで管財人が選任されることもなく、住宅が売却できなくても破産手続きは先に終了することもあります。
ですので、このような住宅があっても破産手続きが複雑化したり、長期化したりすることはありません。
また、破産手続きとは無関係に進むため、それほど急いで住宅を売却しなくてもよい場合もあり、退去まではある程度、時間の余裕があることが多いといえます。
このように、住宅ローンと破産手続きの関係は少し複雑ですが、どちらにしても退去を求められることになります。
この場合、いつごろまでに退去しなければならないのでしょうか。
実は、住宅を処分する方法は2通りあります。1つは任意売却といい、不動産業者などに買い手を探してもらい、買い手と契約して売却する方法です。
もう1つは、競売といい、住宅ローンの抵当権者が裁判所の許可を得て、裁判所での競売により買い手が決定される方法です。
任意売却での処分を行う場合は、新しい買い手に売却するころまでに退去すればよく、ある程度、柔軟に対応してもらえる場合もあります。
これに対し、競売は、裁判所がスケジュールを厳格に定めていきますので、決められた期日までに退去しなければ、強制的に追い出されてしまうこともあります。
また、任意売却を目指していても、なかなか買い手がつかないなどの事情があれば、いずれは競売にかけられてしまいます。
このように競売となった場合、競売の申し立てから、おおむね半年程度で手続きが終了しますので、それまでに退去を終える必要があります。
その期間内に、新しい引っ越し先を決めて、荷物なども運び出さなければならないということです。
なお、どうしても住宅は残したい、という方もいると思います。
その場合は、破産以外の方法で債務整理を行うしかありません。
任意整理や個人再生手続きを行えば、住宅を残すことができる可能性があります。
しかし、どちらの場合も、十分な返済余力がなければなりませんので、それも難しければやはり破産手続きを行い、住宅を処分するしかありません。
結局、破産手続きをした場合には住宅を手放すことにはなりますが、そのための手続きはこのように複雑です。
また、破産以外の手続きをとり、住宅を残す場合にも、いろいろな条件と手続きが必要となってきます。
ですので、住宅ローンの支払いができなくなった場合には、少しでも早い段階で弁護士などの専門家に相談した方が良いでしょう。
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【刑事事件】 刑事事件の流れ(後) ~起訴から判決まで~
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第2回です。
前回(刑事事件の流れ(前) ~逮捕から起訴・不起訴まで~)の続きとなります。
前回は、逮捕されてからのタイムスケジュールや、不起訴や略式命令の場合にはそこで事件が終了となること、起訴された場合には正式裁判を受けることなどを見てきました。
今回は、起訴されてしまった場合の手続きについてです。
起訴され、正式な裁判にかけられる場合にも、身柄拘束されている場合と、されていない場合とがあります。
以下では、逮捕・勾留されている場合を主に扱っていきます。
逮捕・勾留されていない場合にも、流れはほとんど同じです。
1 起訴
起訴するか、不起訴にするかの判断は、検察官が行います。
検察官が起訴を決定した場合、「起訴状」という書類を裁判所に提出し、被疑者本人にも起訴状が届くことになります。
起訴された時点で、「被疑者」という呼び名は変わり、「被告人」という呼び方をすることになります。
ニュースなどでは「被告」という言い方をすることが多いですが、実際の刑事裁判では必ず「被告人」と呼びます。
起訴後は、裁判所が裁判の日時を決め、その連絡が来ますので、その日時に裁判所で刑事裁判を受けることになります。欠席は許されません。
2 保釈
起訴された時点で身柄拘束されていない場合は、通常はそのまま自宅で生活していくことができます。
しかし、反対に、起訴された時点で逮捕・勾留されていたときは、起訴後もそのまま勾留され続けることになります。
それがいつまで続くかといえば、実は判決までそのまま拘束されてしまうのです。
札幌の場合、起訴されるまでは警察署の留置場で寝泊まりすることになりますが、起訴後、一定の時間が経過した段階で、拘置所(札幌の場合は、男性は札幌拘置支所、女性は札幌刑務支所。どちらも東区の東苗穂にあります)に移動させられます。
そこで、判決の日まで寝泊まりしなければなりません。この時点では取調べも終わってますので、裁判までの間、ただそこで過ごすだけとなります。
それでは、判決の前に釈放してもらうことは絶対にできないのでしょうか。
実は、釈放を認めてもらう方法が用意されています。それが、保釈という制度です。
ニュース等でご存じの方も多いでしょうが、保釈というのは、起訴された後、保釈金(正確には、保釈保証金といいますが)というお金を裁判所に預けることで、判決までの間、釈放を認めてもらうという制度です。
この保釈が認められ、保釈金を納めれば、身柄拘束から解放されるのです。
しかし、保釈は必ず認められるわけではありません。保釈を認めるには一定の条件があります。
保釈制度については、また後日、詳しく説明する予定ですので、ここではこの程度にしておきます。
3 公判
刑事裁判では、裁判所で裁判を行うことを「公判」と呼びます。「初公判」という言葉を聞いたことがあると思いますが、弁護士や裁判所はあまり初公判という言い方はせず、第1回公判、ということが普通だと思います。
ちなみに、民事裁判では「第1回弁論」という言い方をしており、「公判」という言葉は使いません。
第1回公判、つまり1回目の裁判は、通常、起訴から約1か月後に行われます。
公判には、被告人が出席するのは当然ですが、そのほかに、裁判官、弁護人(ベンゴニン。刑事裁判では、弁護士を弁護人と呼びます)と検察官も出席します。
そこで、裁判となっている事件について、審理を進めることになります。
実際にどのようなことを行っていくかは、また別の機会に取り上げたいと思います。
ところで、刑事裁判は、だいたい何回くらい公判を行うと思いますか?
ニュースでは、よく第5回公判とか第10回公判という話を聞きますし、1年も2年も公判が続いているような印象もあると思います。
ところが、実際の刑事裁判は、ほとんどの事件が、なんと1回目でほぼ終了しています。
第1回公判で審理がすべて終了し、その次の公判で判決を言い渡して事件が終結、というのがむしろスタンダードといえます。
ちょっと手続きが長引いても、2,3回で終結という事件が大半でしょう。そうすると、起訴から2,3か月以内には、判決が決まっていることになります。
しかも、第1回公判は、だいたい1時間以内で終了します。判決の言い渡しは5分もかかりませんので、多くの事件は、裁判全体で1時間もしないで終わっています。
ですので、裁判というのは意外とあっさり終わってしまうのです。
しかし、逆にいえば、その1時間で言いたいことをすべて裁判所に伝えなければなりませんので、それだけ事前の準備や、公判の場での活動が重要になってくるのです。
4 判決
審理がすべて終了すると、判決を言い渡す公判を開きます。
そこで、裁判官が被告人にどういう刑罰を決めるかという「判決」を言い渡します。
判決の際には、結論とその理由を述べます。
結論というのは、要するに有罪か無罪か、有罪のときはどのような刑を与えるか、というものです。
たとえば、「被告人を懲役3年に処する」というようなものです。
そして、その判決の理由として、「前科がある。内容が悪質である。反省の態度が見られない。」などの事情を説明していきます。
有罪判決には、大きく、実刑判決と執行猶予判決があります。
執行猶予判決について説明すると長くなりますので、これも別の機会に取り上げます。
執行猶予判決になればその直後に釈放されますが、実刑判決では、そのまま身柄拘束が続き、釈放してもらえません。
5 控訴・上告
判決の結論に不満がある場合には、高等裁判所に控訴することができます。
通常、刑事裁判は簡易裁判所か地方裁判所で行います(大半は地方裁判所です)。
しかし、その判決が間違っているとか、重すぎるという場合には、高等裁判所でもう一度判断しなおしてもらうことができるのです。
本当は無実なのに有罪判決を受けたとか、執行猶予をつけるべきなのに実刑判決だった、などの理由で控訴を行うことがあります。
控訴を行い、高等裁判所での判決にも不満がある場合には、最高裁判所に上告をすることもできます。
しかし、実際には上告できる場合は非常に限定されており、上告が認められることはほとんどありません。
控訴や上告をしないか、上告がしりぞけられた場合には、その判決が確定し、争うことはできなくなります。
6 刑の執行
有罪判決が確定した場合には、裁判所が命じた刑の執行を受けなければなりません。
罰金刑であれば、罰金額を納付しなければなりませんし、懲役の実刑判決であれば刑務所に服役をします。
また、裁判に関する費用の支払いを命じられることもあります。
刑の執行を終えた段階で、刑事手続きは終了といえるでしょう。
前回・今回で見てきたように、捜査開始・逮捕時から、判決を受けた後の刑の執行まで、さまざまな手続きが行われます。
要点のみにしぼって簡単に述べてきましたが、それでもかなり複雑な手続きだと思われたのではないでしょうか。
しかし、裁判が1回目で終了する場合は、逮捕から判決までの期間は、2か月程度にすぎません。
実際には、この手続きに沿ったなかで、多くの弁護活動を行っていかなければならず、時間的にも労力的にも相当大変なものとなります。
ですので、逮捕前や逮捕直後から、弁護士と相談しながら迅速に対応をしていかなければ、どんどん取り返しがつかない状況になってしまうのです。
刑事事件、刑事裁判の全体像をざっと見てきましたので、次回は、裁判ではどのようなことが行われるか、実際のケースをもとに体験したいと思います。
札幌の弁護士が刑事事件を解説 【刑事事件に関する情報一覧はこちら】
【刑事事件】 刑事事件の流れ(前) ~逮捕から起訴・不起訴まで~
札幌の弁護士による刑事事件解説コラム第1回です。
今回から、犯罪をおかしてしまったり、犯罪の疑いをかけられてしまった場合の捜査や裁判に関する手続き=刑事事件について、実際の経験などをもとにした情報を提供していきたいと思います。
なお、当事務所では刑事事件や少年事件は、主に秋山弁護士が担当しています(もちろん、赤渕弁護士と共同で行うこともあります)。
今回と次回は、刑事事件の基本的な流れについてみてきます。
刑事事件といっても、起訴されて裁判にかけられる前と、その後では、手続きの流れが全く違いますので、起訴前・起訴後の2つに分けて説明していきます。
1 任意捜査
事件が発生すると、警察は捜査を進めていき、容疑者(法律用語では被疑者といいます)を特定していきます。
被疑者が特定できたとしても、必ず逮捕するわけではなく、逮捕をしないまま事情聴取や取調べを行ったり、逮捕するための準備段階として取調べを行ったりしていきます。
このような段階では、警察も、まだ逮捕するだけの証拠がなかったり、逮捕するまでの必要性を感じていないということになります。
ですので、この段階で適切な対応を行えば、逮捕を避けられる事件もあります。
2 逮捕
ある程度の事件になると、被疑者を特定した後、一定の段階で逮捕し、身柄を拘束することになります(最後まで逮捕しない事件もあります)。
警察官が被疑者を逮捕する場合は、裁判所から逮捕状の交付を受けて逮捕を行う「通常逮捕」が主ですが、実務上は「現行犯逮捕」の例も相当多くあります。
現行犯逮捕は、事件の現場で証拠隠滅や逃亡をふせぐためにとりあえず逮捕した、という事件も実際上よく見られ、1,2日で釈放されるケースもあります。
しかし、逮捕状を取得してまで逮捕したような事件では、すぐに釈放されるというケースはあまり目にしません。そのまま身柄拘束を続けて、本格的な取調べを行っていくのが通常だと思います。
逮捕は、通常、警察官が行い、逮捕された被疑者は、警察署の留置場に入れられます。基本的にはその後の取調べも警察署内で警察官により行われますが、そうでない場合もあります。
法律上、逮捕後の身柄拘束は、実は48時間以内に限られています。それ以上の身柄拘束を行うときは、まず検察庁に事件を送致する手続きをとらなければなりません。
3 勾留
検察庁とは、検察官・検事がいる場所のことで、東京地方検察庁(東京地検)などの名前をよくニュースなどで見ると思います。札幌にも、札幌地方検察庁(札幌地検)があります。
警察から検察庁に事件が送致されると、被疑者も検察庁に連れて行かれ、検察官・検事の取り調べを受けることになります。
その取調べの結果、検察官が、身柄拘束を続ける必要があると判断した場合、裁判所に勾留の請求をします。
勾留というのは、要するに逮捕後も身柄拘束を継続するということで、逮捕後に勾留が認められると、起訴・不起訴が決定されるまでに、さらに10日間から20日間の身柄拘束ができることになります。
ですので、逮捕後の検察官の取調べなどの結果、検察官がまだ10日間の身柄拘束を続けるべきと判断したときは、勾留の請求を行います。
検察官が勾留の請求をすると、今度は被疑者は裁判所に連れて行かれ、裁判官と面談をします。
その面談を勾留質問といいますが、裁判官は、事件の内容を認めるか否認するかなどを被疑者に確認します。
そして、事件の資料などを検討し、裁判官が勾留が必要だと認めれば、勾留決定を行い、10日間の身柄拘束を決定します。
反対に、これ以上の身柄拘束は必要ないと判断すれば、勾留請求は却下され、すぐに釈放されることになります。
4 勾留期間の延長
勾留が認められてしまうと、原則として10日間、身柄拘束が続きます。
検察官は、その期間内に被疑者を起訴するかどうかを決定する必要がありますが、関係者が多い場合などは、10日間では時間が足りないという事態も生じます
そのようなとき、さらに10日以内の期間、勾留期間を延長することが認められています。
その場合、最初の勾留の際と同様に、検察官が裁判所に勾留期間の延長を申請し、裁判所が認めるかどうかを判断することになります。
なお、延長は10日以内に限り認められていますので、結局、全部で20日以内に限定されることになります。
5 処分の決定
勾留を行っている場合、勾留期間の最終日までに被疑者の処分を決定します。
処分の種類にはいくつかあり、主なものは以下のとおりです。
・起訴 被疑者を正式裁判にかけ、裁判所に有罪無罪や刑の重さを判断してもらう。
・不起訴 その事件で被疑者に処分・刑罰をくだす必要はないとして、事件を終了させる(おとがめなし)。
・略式命令 罰金刑で済む場合に、簡易な手続きで罰金額を決定して、支払いを命じて釈放させる。罰金さえ納めれば事件は終了。
・処分保留 勾留期間内に処分が決められないため、いったん釈放して捜査を継続し、後日正式に処分を決める。
このうち、不起訴はおとがめなしの判断であり、それで事件が終了となります。処分保留として釈放される場合は、すぐに別件で再逮捕されることもありますが、そうでない場合にはほとんどが不起訴で終わっています。
略式命令は、比較的軽微な事件だけど、不起訴とはできない場合に、勾留期間終了時に罰金の支払いを命じて釈放させるものです。事件自体はそこで終了し、あとは罰金を納付する手続きが残るだけになります。
これらの処分は、どれも勾留期間が終了すると同時に事件もほぼ終了となりますので(処分保留は例外もありますが)、その後に裁判が続くということはありません。
ところが、起訴という処分が下されてしまうと、正式裁判にかけられることになります。
この場合、基本的には判決が出るまで身柄拘束が継続されることになってしまい、釈放されないままとなってしまいます。
また、裁判を受けることになりますので、裁判のための準備も必要となってきます。
そのため、起訴されるか、それ以外の処分になるかによって被疑者が受ける負担は全く違うものになってしまいます。ですので、早期に釈放され、社会復帰をするためには、可能な限り起訴を避けることが必要になってくるのです。
6 スケジュールの参考例
起訴、不起訴までの流れはだいたい把握できたでしょうか。
参考として、逮捕され、20日勾留された後、不起訴で釈放となるような事件のタイムスケジュールは、次のとおりです。
7/1 逮捕
7/3 検察庁で取調べ、勾留請求される
7/4 裁判所で勾留質問、勾留が決定(7/12まで)
7/12 勾留を10日間延長することが決定(7/22まで)
7/22 不起訴の処分を得て、釈放。事件終了。
この間の期間は、取調べを受けたり、現場検証に立ち会ったりしながら進んでいきます。
なお、最初の10日間の勾留の日数があわないと感じるかもしれません。
勾留日数の数え方には特殊なルールがあり、実際には、検察官が勾留請求をした日から、その日を含めて10日以内のみ認められる、という決まりになっています。
ですので、7/3に勾留請求をすれば、その日を含めて10日間、つまり7/12までの勾留が可能となるのです。
実際には上の参考例よりも短い日数ですむ場合もありますが、この参考例のように最大限の日数身柄拘束が続くケースも少なくありません。
これだけの期間を、弁護士の手助けのないまま乗り切ることは、相当厳しいのではないでしょうか。
さて、次回は、起訴されてしまった場合のその後の流れを見て行きたいと思います。
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必ず母親が親権を得る? - 親権者の決め方は
札幌の弁護士による離婚解説コラム第8回です。
前回(弁護士に依頼するタイミングと報酬は?)で予告しましたが、今回からは離婚時の子どもをめぐる問題について見て行きます。
子の問題の入口として、今回は親権者の決定について考えましょう。
夫婦が離婚するときに未成年の子どもがいるときは、必ず親権者を決めなければなりません。
どちらが親権を得るかを決める際の基本的な方法は、お互いの話し合いです。
協議離婚の場合などは、話し合いで親権者を決め、離婚届に親権者を記載します。実際上は、母親が引き取ることが多いと思いますが、もちろん父親が親権者になっても問題ありません。
しかし、離婚調停や離婚裁判に発展する場合、慰謝料などの金銭的な問題だけではなく、親権問題が中心的な問題になるケースも少なくありません。そのような場合、最終的には裁判所がどちらが親権者となるかを審判や判決という形で決定します。
当事者は、その決定に不満があっても、それに従わなければならないのです。
それでは、裁判所はどのような基準で親権者を決めているのでしょうか。
親権が問題となると、相談者、依頼者から、「親権は母親が得ることになりますよね」「父親が親権を希望しても無理ですよね」といったことを言われることが非常に多いです。
確かに、実際の事例では、裁判所も母親を親権者として認めるケースが圧倒的に多いといえます。また、社会の考え方としても、特に子どもが小さいうちは、母親が育てていくという見方が強いように思います。
しかし、必ず母親が親権を得ると決まっているわけではありません。当事務所で扱った事例でも、父親に親権が認められたこともありました。
ですので、母親側としても、ただ母親というだけで親権が得られるわけではありません。父親側としても、親権が絶対に認められないというわけでもありません。
どのような場合に親権が認められやすいかをしっかり理解しておくことが必要です。
親権者を決定する基準を一言でいえば、どちらを親権者とすることが「子どものため」になるかです。
これは、単純に子どもの希望がどちらかによって決めるわけではなく、お互いの生活環境なども重視されます。
よく問題となる点について、簡単に説明していきます。
① 父母の生活状況、監護体制
子どもが引き取られた場合の監護体制(子どもを生育できる体制のことです)は重要な問題となります。その関係で、父母の生活状況が問われていきます。
離婚後、父母がどのような場所に住み、どのように収入を得て生活していくかは、子どもの成育環境に影響を与えます。一般には経済力が豊かな家庭の方が子どもの養育にも支障が少ないといえますので、経済力も基準の1つとなります。
それ以外に、父母以外に子どもの面倒をみてくれる人がいるかも問題です。父母の両親などと同居して子どもを育てやすい環境があれば、親権を得るうえでは有利に働くでしょう。
反対に、父母の労働時間が長く、家にいられる時間が少ないうえ、ほかに子どもの面倒をみてくれる人もいない、という場合には、子どもの成育環境としては不十分と評価される危険があります。
② 子どもの生活状況、子どもの意思
子どもの今の生活状況を確認することも重要です。たとえば、現在就学中で、母の自宅からもともとの小学校に通学している場合で、父に引き取られたら転校しなければならないという事情があれば、子どもの現在の環境を変更させるよりは、母を親権者として現在の生活を維持させる方が子どもの利益になるかもしれません。
また、子どもと父母の関係は非常に重要です。極端な場合ですが、親の一方が日常的に子どもに暴力を振るっている場合、その親が親権者とされる可能性はほぼ無いでしょう。父母の優劣をつけるべきではありませんが、少なくとも子どもが親しみを感じていることが親権者の条件となると思います。
なお、子どもの意思も考慮されるといいますが、ここでいう「子どもの意思」は、子どもが「○○の方がいい」といったかどうかという問題ではありません。子どもも両親のことを考えたり、周囲の目に配慮しますので、父母のどちらと一緒に暮らすかという段階で本音を言うことは難しいのです。
ですので、子どもの意思は、家庭裁判所の調査官や裁判官が子どもの態度、表情や生活状況などから子の本心をくみ取って判断しているのです。
③ 離婚の原因がどちらにあるか
たとえば、母親が不貞行為を行ったことが離婚の原因である場合、親権に影響するでしょうか。
基本的には、それだけで親権を得ることが不利になるわけではありません。離婚の原因がどちらにあるかという点と、子どもの幸せのためにはどちらが親権者になるべきかという点は、別の問題だからです。
しかし、たとえばその母親が不貞行為の相手方と同居して暮らしていこうとする場合は、その不貞行為の相手とも子どもが同居することになりますので、それが親権の判断を左右する可能性はあります。子どもが父親になついており、不貞行為の相手方に拒絶反応を示すような場合は、母親に親権を認めるうえで障害になるでしょう。
親権の判断では、これらのような事情が問題となってきます。
これらを踏まえたうえで、最終的に、子どもの親権者としてどちらが適切であるか、子どものためになるのはどちらかを判断していきます。
ですので、親権を得たいと希望する側は、子どもを引き取った場合の生活環境をあらかじめ整えておいたり、両親などに協力を求めたり、職場の理解を得ておくなどの対応をしておく必要があります。
子どもの親権を得たら考えます、という考えでは、裁判所から本気で子どものことを考えていないと思われてしまう可能性も否定できませんので、注意が必要です。
なお、子どもの親権問題に関連して、「子どもの連れ去り」の問題があります。
親権を得るためには、離婚前から子どもを自分の元で住まわせ、生活環境を整えておいたり、子どもがそこから離れにくくするという既成事実作りを行う方も多く、それ自体は有効な対応であるといえます。
しかし、それを目的として、相手が養育している子どもを勝手に連れてきたり、別居に際して子どもをむりやり引き取っていくという事例も実際にあります。
このような行動は、結局、親として身勝手な行動であり、子どものことを本気で考えていないと判断され、調停や裁判で不利な事情とされることが少なくありません。
特に、他方の親が育てている子どもを一方的に連れ去る行為は、仮に子どもが了解していたとしても、誘拐行為となり、犯罪に問われる危険があります。
実際に、平成17年12月6日に最高裁判所は、夫婦間の離婚トラブル中、母親が自宅で育てていた子どもを父親が一方的に連れ去った事案について、未成年者略取罪(未成年者をむりやり誘拐したという罪)が成立すると判断し、父親を懲役1年・執行猶予4年に処した判決が確定しています。
こういった実力行使は、親権を得る目的で行っていても、結局、不利に働いてしまう可能性が高いことに注意する必要があるでしょう。
実際の事例では、双方が生活状況や監護体制について主張立証をしたり、裁判所の調査官がお互いの生活状況や子どもの意向を調査して、親権者が決められます。
専門家である調査官や裁判所が親権者を決定した場合、その内容に不満があったとしても、子どものためを思って不服を述べないことも少なくありません。
あくまで子どもの今後のためにはどちらが良いかという視点が重要であることを忘れてはならないと思います。
今回は親権について述べてきました。
次回は、夫婦間で非常に関心の高い、子どもの養育費について取り上げたいと思います。
札幌の弁護士が離婚を解説 【離婚に関する実践的情報一覧はこちら】
【債務整理】 破産をすると、家族や職場に迷惑がかかる?
札幌の弁護士による債務整理解説コラム第5回です。
前回(破産の実際の流れを体験しよう!)までで、破産手続きのおおまかな流れをご理解いただけたかと思います。
今回からは、破産手続きを行ううえで問題となる点、弁護士がよく質問を受ける点について取り上げていきたいと思います。
債務整理のご相談を受ける際にかなりの方が不安に思う点として、破産をしたことで、家族や職場などに迷惑がかかるのでないか、というものがあります。
なかには、自分が破産をすると奥さんも破産しないとならないとか、自分が破産する前に離婚しておかないと妻に迷惑がかかる、という心配をお持ちの方もいます。
ごくまれにですが、破産を決意したのでまず離婚してきました、という相談者の方もいらっしゃいます。
このような心配はよくわかりますが、実際にはほとんどの場合、不要な心配なのです。
借金を抱え、支払いができなくなったとき、借りた本人には債権者から当然請求が来ます。
そのときに、本人が払えないなら家族が払わなければならない、家族の財産を処分してでも返済しないとならない、と思っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、これは大きな誤解です。
借金は、あくまで借りた本人のものであり、家族であっても、何も契約をしていない人が責任を負うことはないのです。
ですので、ご主人や奥さんが個人的に作った多額の借金があったとしても、家族が支払う義務はありませんし、債権者は家族に請求することすらできないことになっているのです。
もちろん、家族の問題ですので、奥さんやご主人が代わりに払ってあげるということは問題ありませんが、自分から払う義務はありません。
これと同じように、たとえばご主人が破産状態となり、破産手続きをすることになっても、家族には何も影響がありません。
家族が借金を肩代わりすることもありませんし、家族も一緒に破産したことになるわけでもありません。
借金を払う義務があるのも、破産をするのも、基本的にはご本人だけの問題なのです。
奥さんや子どもに影響が出るということもないのです。
実際には家族に内緒のまま破産を申し立てすることもちらほらありますが、それで問題となることもありません。
それでも職場とか、親族とか、子どもの学校とかに破産したことが知られて、肩身の狭い思いをするのではないか、と思う方もいるでしょう。
けれども、このような心配もほとんど不要です。
破産したことは、「官報」という役所の新聞のようなものに記載されてしまいますが、この官報を見ている人はほとんどいません。それどころか、官報というものの存在も知らず、どこに行けば買えるかもわからない人が大半だと思います。
これまで弁護士として多くの方の破産手続きを行ってきましたが、官報を見られて周りの人に破産を知られた、という人に会ったことは一度もありません。
それ以外に、戸籍や新聞に載ることもありませんし、選挙権などに影響が出ることもありません。
自分から言わなければ、職場も、親戚も、子どもの学校も、破産に気づく可能性はほぼゼロといってよいでしょう。
(ただし、警備員など一定の特殊な職業は、破産者が就けないことになっており、そのような職にある場合には退職せざるを得ません。この点は次回以降にまた触れます)
もちろん、自分で事業をされている方や、会社を経営されている方は、会社が倒産となれば取引先や家族も知るでしょうから、その場合には周りに隠すことは難しいでしょう。
しかし、普通の会社員や主婦の方は、周囲に知られる心配も、家族に迷惑をかける心配もほとんどありません。
もっとも、このような方でも、絶対に周囲に迷惑をかけないわけではないのです。実は周囲に影響が出てしまう場合がいくつかあります。
1つは、家族などが自分の借金の保証人になっている場合です。住宅ローンや銀行からの借り入れの際など、保証人を立てていることがあります。
このような場合、借りた本人が破産しても、保証人の責任は消えません。
本人が払えなくなってしまった以上、保証人には残りの負債を払う義務があるのです。そうすると、その保証人には本人が破産したことによって、大きな負担が生じることになります(なお、たとえばその後離婚をしたりしても、その義務は変わりません)。
しかも、破産する方が、この保証人がついている債務だけ支払う、ということは禁止されています。破産手続きでは、すべての債務を免除してもらえる代わりに、一部だけ支払うことも禁止されているからです。一部だけ払ってしまえば、払ってもらえない債権者にとって不公平となるのがその理由です。
そのため、保証人としては、自分で支払いをしていくか、保証人自身も破産などの手続きをするしかなくなってしまうのです。
また、自分以外の人が責任を負う場合としては、相続の場合があります。
借金を抱えた方が亡くなってしまった場合、実は借金も相続の対象となります。
この場合には自分自身が借金をしていなくても、借金を抱えていた家族の負債を引き継ぐことになり、返済の義務が発生してしまいます。
もっとも、この場合は、死亡時から3か月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きを行えば、負債も引き継がずにすみます。
本人以外が義務を負う場合というのは、このような場合にほとんど限られています。
もちろん、本人が破産をしたことで、ブラックリストにのってしまい、家族のためにローンを組んだり、他人の保証人になれなかったりするなどの支障は生じてしまいます。
しかし、破産をしなくとも、約束通りの支払いができなくなればやはりブラックリストになりますので、これは破産だけのデメリットでもありません。
今回みてきたように、破産をすることで家族や職場など、周囲に迷惑をかけることはほとんどありません。
むしろ、債務を精算し、正常な生活を取り戻すことで、家族も安心し、仕事にも専念できるのではないのでしょうか。
こういう場合は周りに迷惑とならないか、こういう点は問題でないか、など、不安な点がありましたら債務整理の経験豊富な弁護士へ相談ください。
今回のように、意外と悩むような問題ではないかもしれませんよ。
次回は、破産の際の住宅問題について見て行きます。
「破産すると住宅はどうなる?すぐに出ていかないとならないの?」へ
札幌の弁護士が債務整理を解説 【債務整理に関する実践的情報一覧はこちら】
【債務整理】 破産の実際の流れを体験しよう!
札幌の弁護士による債務整理解説コラム第4回です。
前回(破産手続きの流れを見てみよう)、破産手続きの概要を見ましたので、今回、実際の例をもとに、破産手続きを一通り体験していきたいと思います。
~弁護士への相談、依頼~
破産手続きの第一歩は、まず弁護士への相談、依頼から始まります。
依頼者「生活に困り、300万円も借金してしまいました。今の給料では、毎月2万円くらいを返すのが精いっぱいなんですが…」
弁護士「そうすると、返済していくのは難しいですね。破産手続きを検討せざるを得ないでしょう」
依頼者「破産手続きというのはどういった手続きなんですか」
弁護士「破産というのは、・・・・・・(説明中)・・・・・・というものです」
依頼者「そうすると、私の場合はやっぱり破産しかないようですね。では、破産手続きをお願いできますか」
弁護士「わかりました」
実際にはもっと時間をかけてやり取りすることになりますが、おおむね、こういった形で、まずは弁護士が相談を受け、状況に応じ、破産手続きによる解決を選択することになります。
~破産申し立ての準備~
破産手続きをとると決めた後、破産申し立てに必要な準備を行っていきます。
弁護士「まず、破産手続きを行うことを、債権者(貸し手)に弁護士から書面で通知しますね。通知を行うと、債権者はご本人に支払いの請求や連絡をしてはいけないことになっていますので、今後は請求が来ることはなくなります。支払いもしなくて結構です」
依頼者「支払いもしないくて大丈夫なんですか。助かります」
弁護士「また、あわせて、債権者に請求額の詳細や請求内容についても問い合わせます。その返答が来るまで、1,2か月かかりますので、少し待つ必要がありますね」
依頼者「わかりました」
弁護士「その期間がありますので、1か月後にもう一度打ち合わせをしたいと思います。その際に、破産申し立てに必要な資料をお持ちいただけますか」
依頼者「どういった資料が必要になりますか」
弁護士「必要資料としては、人によって違いますが、あなたの場合には次のようなものが必要です。まず、一緒に住んでいる家族分の戸籍、住民票は必ず必要です。ご住所は札幌でしたね。そうすると、札幌地方裁判所に破産の申し立てをすることになりますね。
次に、今の収入・支出の状態を報告するために、あなたや家族が得ている収入に関する資料が必要になります。具体的には、給与明細、前年度の源泉徴収票、各種手当・年金の受給証などですね。どれもコピーで構いませんが、あなたの分だけでなく、同居の家族の分もお持ちください」
依頼者「わかりました。妻も仕事をしていますので、2人分の給与明細と源泉徴収票を用意します。そのほかはありますか」
弁護士「現在保有している資産に関する資料も必要です。同居家族分の預金通帳のコピーを提出しないとなりませんね。いまお金の入出金や引き落としなどがある通帳がすべて必要になってきます。お子さん名義の通帳があれば、それも用意していただけますか」
依頼者「通帳ですね。銀行や郵便局がありますので、家族分用意しないとならないんですね」
弁護士「そうです。お願いします。それから、家族で契約している生命保険、医療保険、自動車保険などの保険がありませんか。保険がある場合、契約内容がわかる保険証券と、解約した場合に返還される金額がわかる書類を出す必要があります」
依頼者「私と妻は生命保険、医療保険をかけていて、私の車には自動車保険をかけています。ただ、どれも掛け捨ての保険だったはずですが」
弁護士「それでしたら、掛け捨てだとわかる書類があると助かりますね。どちらにしても保険証券は必要です」
依頼者「あの、破産をすると保険は解約しないとならないんでしょうか。知り合いに頼まれて入っているので、解約はしづらいのですが」
弁護士「解約しても戻ってくるお金がないのなら、解約する必要はありませんよ。ただ、保険料が少し高いので、安くしてもらえると今後の生活が少し楽になると思いますけど、保険自体は残しても問題ありません」
依頼者「そうですか、安心しました」
弁護士「あとは、自動車があるということですので、車検証のコピーが必要です。車の年式はわかりますか」
依頼者「12,3年乗っている古い車です。車も処分しないとならないでしょうか」
弁護士「10年以上経過しているなら、大丈夫かもしれません。価値がだいたい20万円以内であれば残すこともできますので、一応、ディーラーなどで買い取ってもらう場合の査定を受けていただいた方がいいですね」
依頼者「わかりました。すぐにみてもらいます」
弁護士「あなたの場合ですと、必要資料はそのくらいだと思います。1か月後の打ち合わせ時にご持参ください」
依頼者「わかりました。用意する際にわからないことがあったら、お電話してもよいでしょうか」
弁護士「もちろんです。いつでもご連絡ください」
~1か月後の打ち合わせ~
依頼者「指示された資料を用意してきました」
弁護士「ありがとうございます。一通りそろっていますね。では、これをもとに少し確認させてください。まず・・・(打ち合わせ中)・・・」
弁護士「あと、借金が増えてしまった事情も前回お聞きしましたが、この通帳によると・・・(打ち合わせ中)・・・」
弁護士「そういう事情でしたら、負債を抱えてしまったのはやむを得ないといえるでしょう。特に破産手続きに支障が出るところはないようですね。では、これから準備をして、1か月後をめどに裁判所に申し立てをしたいと思います」
依頼者「そうですか、ありがとうございます。今は支払いの請求も来ていないですが、やっぱり早めに解決したいですね」
弁護士「少しお時間をいただきますが、早めに準備を進めておきます。また足りない点があったらご連絡しますね」
~破産申し立て~
弁護士が必要な資料を整理し、必要事項を記入した破産免責申立書を作成して、札幌地方裁判所へ提出しました。
弁護士「お電話で失礼します。本日、準備が整いましたので、裁判所に破産の申し立てを行いました」
依頼者「そうですか、ありがとうございます。このあとはどうなるんでしたか」
弁護士「裁判所が書類を審査し、不足しているところがあれば問い合わせが来ることになります。今回の内容を考えると、書面審査で終わると思いますので、裁判所に出席する必要はないと思います」
依頼者「そうなんですね。では、しばらく待っていればよいということですか」
弁護士「そうなります。おそらく、1,2週間程度で連絡が来ると思いますので、動きがあればご連絡します」
~破産手続き開始決定~
申し立てから2週間ほど経過した日、札幌地裁から破産手続き開始決定が出たとの連絡がきました。
弁護士から依頼者へそのことをご連絡します。
弁護士「いまお時間よろしいですか。裁判所から、破産を認めるという決定書が届きました。破産管財人などをつけないで、書面審査だけで破産を認めてもらえたようです」
依頼者「破産が認められたんですね。安心しました。どうもありがとうございます。これで手続きはすべて終了なんですか」
弁護士「いえ、これから約2か月ほど、裁判所が債権者から意見を聴取するという手続きがあるんです。たとえば債権者からお金をだまし取っていた場合など、債務の免除を認めるべきでない事情がないかを確認するんです。ただ、実際には債権者が意見を述べることはほとんどないですし、今回の場合は特に問題になることはないと思いますから、ただ待っているだけになりますね」
依頼者「その間に特に何もなければ、それで終わりになるんですか」
弁護士「そうです。そうすると、裁判所が免責、つまり債務の免除を認める決定を出してくれますので、それで破産はすべて終了になります」
依頼者「わかりました。では、もうしばらく待っていますので、よろしくお願いします」
~免責決定、破産手続きの終了~
約2か月後、債権者から意見が出されることもなく、免責決定がなされました。
弁護士「無事に免責が認められましたので、これで負債はすべて免除されたことになります。破産手続きもすべて終了となります」
依頼者「本当にありがとうございました。借金が膨れ上がったときはどうしようかと本当に悩みましたが、弁護士さんにお願いしてよかったです。これからは借金なんてしないようにしていきます」
弁護士「いまはブラックリストにのってしまっているので、しばらくローンや借金はできないと思いますが、それが過ぎても慎重にされた方がいいですね。この数カ月の生活をそのまま維持されれば大丈夫だと思いますので、いらない心配かもしれませんが」
依頼者「いえ、気をつけます。このたびは本当にありがとうございました」
弁護士「また何かお困りの際は、お気軽にご連絡ください。こちらこそありがとうございました」
スムーズに進む場合の破産手続きの流れは、以上のようなものです。イメージをつかんでいただけましたでしょうか。
実際には、もう少し細かい説明ややり取りがありますし、お電話などでもう少し多く連絡をとることもありますが、流れとしてはそれほど変わりません。
ただ、前回説明したような、破産管財人が任命されるような事案では大きく異なる部分もありますが、大半の方は、今回見たような流れで進んでいくことになります。
実際の事例を見ていただいて、意外と簡単な手続きだと思われたのではないでしょうか。債務整理の経験がある弁護士が、適切に準備を行えば、破産手続きはそれほど大変な手続きではないのです。
しかし、申し立ての準備がずさんであったり、不十分であると、裁判所からの問い合わせが増えたり、破産管財人が選任されたりしてしまい、大変複雑なものとなってしまいますので注意が必要でしょう。
次回からは、破産手続きを進めるうえで問題となる点を順番に見ていきたいと思います。
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